2014年7月、SAPの支出管理ソリューションにフォーカスを当てたプライベートイベント「SAP Spend Connect Innovation Day 2024」が東京で催され、本社のキーパーソンが講演を行いました。そのエッセンスを報告します。

 

SAPの強さは支出管理を巡る課題への理解にあり

今回の「SAP Spend Connect Innovation Day 2024」では、SAP本社のスペンドマネジメント チーフ レベニュー オフィサー、Jeff Collier (ジェフ・コリアー)がオープニングのセッションに登場。日本のお客様に向けて、SAPの支出管理ソリューションがAIによってどのように進化しているかを紹介しました。

SAP Jeff Collier

 

 

SAP
スペンドマネジメント
チーフ レベニュー オフィサー
Jeff Collier (ジェフ・コリアー)

 

SAPの支出管理ソリューションは現在、直接材・間接材支出と支出のプロセスを可視化、管理する「SAP Ariba」をはじめ、旅費・交通費などの経費精算を自動化・効率化する「SAP Concur」、外部人材やプロフェッショナルサービスなどへの支出を管理する「SAP Fieldglass」、そして2022年に買収した運転資金管理のプラットフォーム「SAP Taulia」などのアプリケーションから構成されています。

「これらのアプリケーションによって、多種多様なタイプの支出の可視化と管理が実現できる点がSAPの大きな強みです」と、コリア―は指摘します。

これらの支出管理アプリケーションはすべてSAPのERPSAP S/4HANA」や他社のシステムと連携するほか、SAPのB2Bネットワーク「SAP Business Network」を通じて、バイヤーとサプライヤーとのマッチング、取引などが効率化できます。これによって、サプライヤー管理からソーシング、交渉、購買、供給、請求、支払いといった業務をエンドツーエンドで自動化・効率化することを可能としています。

また、SAPの支出管理ソリューションでは、テクノロジーの土台としてビジネスアナリティクスやAI、アプリケーション開発、自動化、インテグレーションの機能を 統一された環境にまとめた「SAP Business Technology Platform」と、生成AI技術を使ったコパイロット プラットフォーム「SAP Business AI with Joule」も提供されています。(図1)。

図1:SAPが提供する支出管理ソリューションの全体像

SAPが提供する支出管理ソリューションの全体像

さらにコリア―は、SAPの支出管理ソリューションの重要なポイントとして企業の課題に対する深い理解を挙げます。

「当社のソリューションがお客様さら支持されている大きな要因は、サプライヤー管理や支出管理、あるいはサプライチェーン管理を巡るお客様の課題を深く理解し、その課題を解決するソリューションを提供できている点です。例えば、世界で最も勢いのあるプロセッサのプロバイダー、NVIDIA社は、当社のソリューションを使ってサプライチェーン管理、支出管理の仕組みを構築し、それによってビジネスの成長を支えています。実のところ、彼らが抱えていた悩みも、日本の多くのお客様と同様で、多数のサプライヤーをどう管理して支出を最適化するか、サプライチェーンの不確実性が高まる中でサプライネットワークの冗長化をどう図るかといったものです。そうした悩みを解決する術(すべ)としてSAPの技術やSAP Business Networkを選び、大きな成果を上げています」


AIで進化する支出管理のソリューション

先に触れたとおり、今日におけるSAPの支出管理ソリューションにはAIが取り込まれており、AIがソリューションの進化を支える中心的な技術になっています。

「例えば、SAP Concurは現在、きわめて多くの日本のお客様に利用され、日本はSAP Concurにとって米国に次ぐ大きな市場になっています。2023年1年間で、日本ではSAP Concur上で10万件以上の出張予約が処理され、2,500万件を超える経費処理が行われています。そんなSAP Concurでは現在、SAPの生成AIであるJouleを通じて、会社の規定に沿った出張予約をチャットベースで行える機能が実現されています(図2)」

図2:「SAP Concur」によるAIチャットベースの出張予約イメージ

SAP Concur

SAP ではAI技術を使った支出管理のダッシュボード「SAP Spend Control Tower」もローンチしています(図3)。
図3:「SAP Spend Control Tower」の全体イメージ

SAP Spend Control Tower

「SAP Spend Control Towerは、SAP AribaやSAP Fieldglass、SAP ConcurといったSAPアプリケーションやサードパーティのシステムからデータを取り出し、あらゆるカテゴリーのあらゆる支出を可視化(チャート化)して管理するための仕組みです。ポイントは、サプライチェーンにおけるCO2排出量を示す『Scope3(スコープ3)』のデータも可視化できる点です。これを収集して可視化するの相当の手間を要する仕事ですが、我々はAIを使ってそれを自動化することに成功しています」(コリア―)

SAP Aribaの新しいアプリケーションとしてAI技術を使った「SAP Ariba Category Management」(図4)もローンチされています。
図4:「SAP Ariba Category Management」の全体イメージ
SAP Ariba Category Management

これは、AIによる支援のもと、カテゴリー戦略の策定から遂行、モニタリングまでをデジタル化・合理化して、調達・購買におけるカテゴリー管理を効率的にすばやく行えるようにする製品です。さらに、SAP FieldglassもAIによってインテリジェント化され「ワーカーのさまざまなデータを比較して可視化したり、生成AIの機能を使って多彩なステートメントを自動的に生成したりすることが可能になっています」(コリア―)。


ユニファイドディレクトリでSAP Business Networkの情報がよりシームレスに

もう1つ、SAPの支出管理ソリューションの中で大幅な機能強化が図れているものがあります。それは、バイヤーのシステムとバイヤーと膨大な数のトレーディングパートナー(サプライヤー)とを繋ぐSAP Business Network(図5)です。

図5:「SAP Business Network」の機能イメージ
SAP Business Network
今回のSAP Spend Connect Innovation Day 2024では、その強化の概要を示すために、SAP本社でSAP Business NetworkのChief Product Officer&Executive Vice Presidentを務めるJoern Keller(ヨーン・ケラー)が演壇に上りました。

SAP Joern Keller

 

 

SAP
Chief Product Officer&Executive Vice President
SAP Business Network
Joern Keller(ヨーン・ケラー)

 

ケラーはまず、SAP Business Networkの近況について紹介。本ネットワークが190カ国で数百万の企業ユーザーに利用され、本ネットワークを介した2023年の取引総額が前年比14%増の5兆3,000億ドルに達したことを明らかにしました。

そのネットワークでは次世代版の中核を成す仕組みとして、世界統一ディレクトリの「グローバルユニファイドディレクトリ」の開発が進めています。これは、多様な産業と地域に跨って使用できるディレクトリで、バイヤーに対してサプライヤーの多様な情報を一元的に提供するとともに、SAP Business Networkに対するオンボーディングプロセスのシンプル化も実現しています(図6)。

図6:「SAP Business Network」における「グローバルユニファイドディレクトリ」のイメージ

SAP Business Networ における グローバルユニファイドディレクトリ

ケラーは講演の中で、グローバルユニファイドディレクトリを備えたSAP Business Networkのデモを展開。グローバルユニファイドディレクトリによって強化されたSAP Business Networkの「トレーディングパートナーポータル」(以下、パートナーポータル)の機能を披露しました。このポータルを活用することでバイヤーは、材料の供給元から運送会社に至るまで、さまざまなサプライヤーを簡単に検索することができます(図7)。

図7:SAP Business Networkのパートナーポータルの例

SAP Business Networkのパートナーポータル

本ポータルでの検索を通じてサプライヤーとの過去の取引関係やプロファイルを参照することが可能になります(図8)。

図8:パートナーポータルにおけるサプライヤープロファイルの表示例

サプライヤープロファイルの表示例

ちなみにサプライヤーは、このプロファイルの表示画面を通じて自社の機能やサステナビリティ要件への適合性などを訴求することもできます(図9)。

図9:パートナーポータルを通じてサプライヤーは自社の機能とサステナビリティ要件への適合性をアピールできる

自社の機能とサステナビリティ要件

さらに、バイヤーは、サプライヤーの「組織の構造」「出荷状況・配送状況のトレーサビリティの確保/未確保」「材料の出荷通知」といった情報も併せて確認することができます。

一方、パートナーポータルにおけるサプライヤー向けの仕組みでは「カスタマーリレーションシップ」の画面を通じて、特定のバイヤーから照会がきていることを確認できます(図10)。

図10:パートナーポータルの「カスタマーリレーションシップ」画面

カスタマーリレーションシップ画面

 

このとき、サプライヤーは、材料のトレーサビリティに関するデータを当該のサプライヤーに開示したり、出荷通知を作成・送信することができます(図11)。

図11:パートナーポータルにおける「出荷通知」の作成画面

パートナーポータルにおける「出荷通知」の作成画面

 

さらにサプライヤーは、出荷単位(出荷のバッチ単位)でサステナビリティデータ(CO2排出量に関するデータ)を作成してアップロードし、サプライヤーに知らせることができます(図12)。

図12:トレーディングパートナーポータルでの「サステナビリティデータ」の作成

パートナーポータルでの「サステナビリティデータ」の作成パートナーポータルでの「サステナビリティデータ」の作成

こうした一連のプロセスを通じて、バイヤーはパートナーポータルの「グローバルトラック&トレース」の機能を使いながら、発注した材料・サービスの出荷状態をとらえたり、それらのCO2排出量を出荷単位で詳細にとらえたりすることが可能になります(図13)。

図13:「グローバルトラック&トレース」による出荷状況とCO2排出量の確認画面

出荷状況とCO2排出量の確認画面

 

「CO2排出量については、今後、出荷レベルではなく製品単位でもそれができるようにします。これにより、バイヤーはより完璧なかたちでサプライチェーンのCO2排出量がとらえられるようになるはずです。このように単一のポータルを通じてサプライヤーの情報や発注・出荷の状況、さらにはCO2排出量までをとらえられることは、調達・購買を担当する皆さんにとってきわめて素晴らしい体験になるはずです。

しかも、AIによる自動化が行われいるので、細かい作業をする必要はありません。
日本の皆さまにも、SAP Business Networkのご使用をお勧めしたいと考えます」(ケラー)

(/了)

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