(本記事は、12月23日に本社で掲載されたものです)

道路、橋梁、水道: ハンブルク市のインフラ整備は大変複雑です。必要な現場工事と交通量のバランスをどのように取っているのでしょうか。

ハンブルク市にはヨーロッパのどの都市よりも多くの橋があります。ドイツ第 2 の都市ハンブルクにとって、2,500 もの橋梁をはじめ、歩行者用トンネル、閘門、洪水防止堤、堤防などの構造物を維持管理するのは大変複雑な作業です。

ハンブルク市の交通インフラの大部分を維持運営する道路橋水路局 (LSBG) は、このような公共事業のライフサイクル全体を責任をもって管理しています。

LSBG の計画・管理部門責任者であるエルディンク・カラブグデイ (Erdinc Karabugday) 氏は次のように述べています。「私たちは、ハンブルク市内のほとんどの道路や橋梁の維持管理だけでなく、洪水防止や水質汚染防止においても重要な役割を担っています。当局ネットワークと連携して、ハンブルクを維持に必要なすべてを建設し、保全しています」

そして、この任務を安全かつ効率的に遂行するためのひとつの構成要素に、SAP テクノロジーがあります。

 交通の流れを妨げないことが最優先 

 ハンブルクをはじめとする大都市の人々の生活において、移動手段となるインフラは重要な役割を担っています。特に橋は、都市の交通網における重要な分岐点となるため、常に大きな負荷がかかります。橋梁の状態を把握し、メンテナンスの必要性チェック、修理・建替えの計画を立てることは、都市部で人々の移動を維持するために極めて重要です。

カラブグデイ氏はこの課題を次のように述べています。「私たちの目標は長期的であるため、現状に基づいてのみ計画を立てるわけにはいきません。経済的側面だけでなく、社会的、生態学的な影響も考慮した戦略的視点に立つためには包括的なデータが必要です。そして、このニーズをサポートしてくれるのが SAP ソリューションなのです」

橋梁のような構造物の損傷具合を手作業で入力するのは、以前は非常にコストと時間がかかり、データ入力と分析が局内の職員と外部企業の両方によって行われていたため、複雑なプロセスが、より複雑なものになるという状況に陥っていました。

インフラのデジタル化

ハンブルク市内の改修工事の滞りを減らし、持続可能な長期的ソリューションを構築するため、LSBG は SAP と協力して標準化されたデータプラットフォームを開発しました。その目標には、SAP HANA® Cloud 上のさまざまなソースのデータを統合し、各構造物の位置や状態などのデータを同時に使えるようにすることも含まれていました。結果、抽出されたデータが道路や橋梁のデジタルモデルに反映され、これを意思決定の指針に活用したり、メンテナンスや予算計画にあたり正確な予測に使用したりできるようになりました。

SAP ドイツのカスタマーアドバイザリー・パブリックセクターのアーキテクトアドバイザーであるウルリケ・ブレヒト (Ulrike Brecht) は次のように説明しています。「このプロジェクトは、当初は橋梁の保守管理を目的としていました。従業員は現場で必要な保守作業や点検を行い、構造物の状態を文書化し、必要なメンテナンスが適切な時期に実施されるようにします」

道路や橋梁のデータ、地理データやモニタリングデータなど、構造物に関する利用可能なデータはすべて SAP HANA Cloud で統合されます。例えば、特定の道路区間で再舗装が必要になる時期を予測するのに、これらの情報を構造物の老朽化モデルと組み合わせて利用することができます。

こうしたデータ主導の予測によって、インフラ予算計画は新たな強固な基盤の上に立ち、交通の流れや都市住民の生活への影響を最小限に抑えるために、保守・改修の優先順位を明確にすることが可能になりました。

未来型都市プラットフォーム

世界中の都市は、住民の生活の質を守り、維持する上で、大きな課題に直面しています。ハイデルベルク大学で助手を務めるフィリップ・シュルツ博士 (Dr. Philipp Schulz) は、デジタル都市開発に関する博士論文を執筆しました。現在は、インナーシティの活性化、公共スペースの再設計、市民参加といったテーマで都市や地域社会に助言しています。

シュルツ博士が、仕事で関わった都市や町で見つけたトレンドのひとつに、都市ダッシュボードの開発があります。このダッシュボードには、大気汚染状態、天気予報、人の動きなど、都市内で収集されたすべてのデータが重要なパラメーターとして表示されます。

シュルツ博士にとって、長期的なデジタル戦略は、現代都市計画の柱のひとつです。

「私から見れば “スマートシティ” という言葉はもう時代遅れだと思います。今は “プラットフォームアーバニズム” と呼んでいます。これは、さまざまなプレーヤーとその情報をひとつのプラットフォームに集めるアプローチです」とシュルツ博士は語ります。プラットフォームアーバニズムとは、アプリやウェブサイトが、都市の人々の生活、仕事、対話のあり方を変えていく様を示すものであり、個々の地域をデジタル化し、それを徐々に広げ、統合していくという見方をします。

ハンブルク市は今、正しい方向に進んでいます。「ハンブルク市の目標は、標準化されたデータプラットフォームによるインフラの完全な保守管理を行うことです」とブレヒトは言及します。

ハンブルク市は現在、このプロジェクトの成果を、公立公園や市庁舎の保守管理など、他の分野にも拡大していこうとしています。