(本記事は、2月5日に本社で掲載されたものです)

大手自動車メーカーの フォルクスワーゲン(Volkswagen)は、電気自動車 (EV) への移行を推進しています。ドイツのウォルフスブルクに拠点を置く同社は、この移行を成功させるにはバッテリーバリューチェーンの垂直統合が不可欠であると考え、この課題解決に取り組むために、2022 年にバッテリー会社 PowerCo社を設立しました。

「PowerCoは、フォルクスワーゲングループ向けに最高品質のバッテリーセルを開発し、大量生産します」と、PowerCo社の CIO であるアンドレアス・エックル (Andreas Eckle) 氏は、ハノーバー・メッセ見本市のライブセッションで述べています。同氏は「ギガファクトリーはすべて、標準化された工場設計に基づき建設されます。」と説明しました。つまり、すべての拠点でそのプロセス、設備、ワークフローが同じになるということです。

How Tech Standards Help Drive Growth for PowerCo

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ゼロからつくりあげる 3 つのギガファクトリー

「ハノーファからわずか約 70 キロのところにあるドイツのザルツギッターで最初のの建設が今、急ピッチで行われています。この工場は、PowerCo の全ギガファクトリーのブループリントになります」と、エックル氏は述べています。ドイツでのセル生産は 2025 年に開始され、その後すぐにスペインのバレンシアとカナダのセント・トーマス島と続きます。将来的には、ザルツギッター工場は年間生産能力は最大40 GWhに達し、これは電気自動車約 50 万台分の電力量に相当します。欧州と北米の 3 つのギガファクトリーを合わせると、その総生産量は最大 200 GWhに達します。

エックル氏は、バッテリーセルの生産はフォルクスワーゲンにとってまったく新しい事業であると指摘しています。「それはもはや自動車製造ではなく、化学です。私たちは採掘からセルの完成、リサイクルまでを一貫して行います」と述べています。同時に、セルの生産はサステナビリティにとって非常に重要なテーマであるため、PowerCo 社はサプライチェーン全体が フォルクスワーゲンのサステナビリティ基準を遵守していることを確認しなければなりません。同社のスコープには、廃棄された自動車用バッテリーの再利用や、バッテリーに含まれる貴重な原材料のリサイクルを軸とした新しいビジネスモデルも含まれます。

このバッテリーセルメーカーはゼロからのスタートでした。24 カ月前には、工場を建設するだけでなく、社員も採用しなければなりませんでした。現在では、研究開発からオペレーション業務まで、さまざまな部門で約 1,500 名の従業員がおり、彼らがこのスタートアップ企業を支える基盤となっています。IT 環境についても同様で、まず環境を整える必要がありました。

スタンダードが導入を加速

エックル氏は「電気自動車用として満たすべき要求は非常に高く、適切なスタンダードな基準が整わなければ実現しないだろうと考えています」と述べています。同氏とともに登壇した SAP のグローバル・バッテリー・ベストプラクティス・リードであるステファン・フェスター (Stephan Fester) は「スタンダードがなければ、この規模の工場を短期間で立ち上げることは決してできません」と同意し、2022 年に SAP と PowerCo 社がどのように連携して、わずか 2 日で最初のフェーズのプロジェクト範囲を定義したかを説明しました。

2023 年、プロジェクトチームは SAP S/4HANA® Cloud システムを導入し、3つの稼動を実現しました。チームは、スタートアップ企業にとって通常すぐに必要となるプロセスから着手しました。「最初の取り組みは、会計管理や支出、人材の募集、雇用、管理でした」とフェスターは述べています。さらに、プロジェクトパートナーがPowerCo 社の稼動開始のために計画された盛大なオープニングセレモニーのことを知ったのは 3 月か 4 月頃だったと語ります。

その厳しい期限を念頭に置き、 SAP SuccessFactors® ソリューションによって、採用、オンボーディング、およびワークフォース管理のための Accelerated Deployment サービスから取り掛かりました。「通常は 12 週間かかる作業です」とフェスターは振り返ります。「SAP チームは少なくとも 8 週間はかかると伝えたが、PowerCo 社からわずか 5 週間でやり遂げてほしいと求められたのです」これは、スタンダードが実装をいかに加速できるかを示す良い事例であると彼は説明しました。さらに同チームは、材料会計、財務決算、およびベンダー請求書管理も導入しました。

「成功するために重要だったもうひとつの要因は、私たちSAPが理解した要件に基づいてコンセプトをまとめたことです。その後 PowerCo 社がレビューを実施し、これを確認しました」とフェスターは語ります。「PowerCo社 に要望を尋ねたわけではありません。当時、明確になってはいなかったのです。SAP 側で事業内容を理解し、私たちの経験に基づいてデザインと実装を行いました」

事業計画と IT 計画の同期

2023 年 6 月、プロジェクトチームは物流管理の最初のバージョンを完成させました。フェスターはそのコンセプトを次のように説明しました。「私たちは工場の設置計画と IT 計画を同期させました。最初のトラックが工場に到着する日が決まっていれば、そのトラックと資材の取り扱いを管理するための能力はその前に整っている必要があるのです」

倉庫内作業、バッチ管理、リターナブル輸送容器管理など、強化されたロジスティクスが 11 月に実装されました。2024 年初頭には、統合事業計画が稼動し、さらに多くのロジスティクスプロセスが実装されました。次のフェーズはすでに計画されており、製品ライフサイクル管理やその他のシステムの導入が準備されています。

6 カ月以内のフル稼動

「私たちは、6 か月以内にクラウド ERP システムをフル稼動させることができました」とフェスターは述べています。PowerCo 社 CIO のエックル氏は、このタイムラインがうまくいったのは、重要な欠陥が迅速かつ効果的にタスクフォースモードで解決されたおかげだと付け加えました。SAP S/4HANA 導入プロジェクトの成功は、2024 年に PowerCo 社が 「SAP Quality Award」を受賞したことでも明らかです。「私たちはここまでの道のりを誇りに思っています」とエックル氏は締めくくりました。「しかし、この道のりはまだまだ続きます。ザルツギッター工場の開設は最初の大きなマイルストーンであり、そのあと、さらに 2 つの開設が控えているのです」

PowerCo 社は、今後の事業展開に向けて、現在、万全の体制を整えています。現在のクラウド ERP システムは、セル生産の中心的な基盤として機能しています。また、バッテリーセルのリサイクルやエネルギー貯蔵システム事業といった今後のビジネスモデルもサポートしていきます。