SAPジャパンは2023年、中期変革プログラム「Japan2026」を始動。2026年のゴールであるNo.1クラウドカンパニーを目指す上で欠かせない3つの成功「Customer Success(顧客)」「People Success(人)」 「Society Success(社会)」と、SAPジャパンの「Growth(成長)」という計4カテゴリーを設け、カテゴリーごとのメンバーのボトムアップでの変革を推進している。
今回は「Society Success」。「ものづくり大国から価値づくり大国へ」という大きなテーマのもと、中小企業のデジタル化や地域社会との連携を通じて、日本の社会課題解決に取り組む姿を伺った。
<取材対象者>
外 美由紀 リージョナルディレクター, カスタマーリニューアルセンタージャパン
松原 寛樹 ビジネストランスフォーメーション&アーキテクチャ本部 シニアコンサルタント
浅井 一磨 インダストリーアドバイザー事業本部 シニアインダストリーアドバイザー
―― Society Successチームが始動した背景と目指すビジョンについて教えてください。
松原: 私たち「Society Success」の大きなテーマは「ものづくり大国から価値づくり大国へ」。かつては技術や技能の蓄積、技術開発力などで栄えたものづくり大国・日本ですが、製造業の人手不足や技術力の低下などが指摘される現在において、“価値づくり大国”となるべくパラダイムシフトが欠かせません。
この理念のもと、2つのフォーカスチーム(FT)を設置しています。私がリーダーを担当するFT1は「中小企業のデジタル化を通じて、日本を変える~わが社でもSAP~」をテーマに掲げています。
外: 「Society Success」は「Japan2026」の前身となる「Japan2023」でもサステナビリティチームがあり、盛んな活動をしていました。そこから継続・発展させていることもひとつの特徴といえるでしょう。
浅井: 私はFT2のリードを担当しています。FT2は「ルールと社会を変えて、日本を変える~わが町でもSAP~」とテーマを設定しています。SAPにはパーパスである“Help the world run better and improve people’s life~世界をより良く、人々の暮らしを豊かにする~」を実現する文化があり、グローバルで社会課題に取り組んでいます。
外さんがおっしゃっていた様に日本でもJapan 2023の活動を含め、社会課題解決に積極的に取り組んでおり、加古川市でのコロナ渦の給付金申請支援、沖縄県でのワクチン接種管理、浜松市での健康データ可視化、日本財団・神奈川県とのウクライナ避難民支援など行ってきました。私は担当業務である中央官庁や地方自治体へのThought Leadershipを行う上で、こうした社会課題解決活動を一過性のイベントではなく、継続的な取り組みとして定着させたいという思いを持って活動に参画しています。SAPのDNAを次の世代にも引き継いでいきたいと考えています。
―― 各チームの概要について詳しく教えてください。
松原: FT1チームが「中小企業のデジタル化を通じて、日本を変える~わが社でもSAP~」を掲げた背景には、日本の社会課題解決には中堅・中小企業のデジタル化推進が欠かせない、という思いが重要な要素となっています。全企業の約90%以上を占める中堅・中小企業のデジタル化により、大企業との連携が容易になり、バリューチェーン/サプライチェーンの迅速化やサステナビリティ活動の加速が期待できます。
具体的には、DX・GXの意義や、デジタル経営・データドリブン経営の基本を広く知ってもらうための土壌づくり活動を行っています。
外: 中堅・中小企業へのアプローチは単独では難易度が高いため、企業間連携やステークホルダーとの協力を重視しています。国、自治体、大学、特殊団体、パートナー企業など、様々な機関と連携しながら「面」としての支援体制を構築したいと考えています。まずは土壌づくりとして、DXやデジタル経営、サステナビリティ活動の基本を知ってもらう取り組みを進めています。
浅井: FT2は「ルールと社会を変えて、日本を変える~わが町でもSAP~」をテーマに、より長期的な視点で社会課題解決に取り組んでいます。2024年は「デジタル人材」「環境」「市民サービス」「社内参加促進」の4つを重点テーマとして設定しました。課題先進国である日本を「価値づくり大国」として再定義するために、SAPのパーパスの実現に向けて、デジタルの力とSAPの価値を通じて社会課題を解決することを目指しています。
――JAPAN2026が始動してからこれまでの具体的な実績について教えてください。まずFT1チームからお願いします。
松原: 2024年は大きく3つの成果がありました。まず、中堅・中小企業をサポートする“伴走者”の育成です。具体的には、SAPのS/4HANAをベースとしたビジネスゲームERPsimのサステナビリティ版を活用してビジネスシミュレーションゲームを活用したイベントを大阪で2回開催し、中堅中小企業や大学関係者に参加いただきました。参加者からは、「スピーディーな意思決定の重要性」や「チームでのコミュニケーションの大切さ」といった感想が寄せられ、私たちが狙っていた以上の効果も見られました。特に印象的だったのは、1回目の参加者が「これは良いので広めたい」とシェアしてくれたことです。2回目は大阪大学の教授にも協力いただき、より多くの参加者を集めることができました。実際に体験してみることで、SAPやDX/GX、データドリブン経営といった言葉のハードルが下がり、興味を持っていただけたのは大きな成果だと感じています。
2つ目としては、FT2と共同で、デジタルイノベーション人材育成のための教育機関との連携強化のためにUniversity Allianceのイベントを企画実行しました。
3つ目はサステナビリティ活動の促進です。社外では武蔵川大学との連携イベントや農林中金さんを招いた勉強会を実施し、社内ではラジオ番組形式のコンテンツ「サステナわいがやラジオ局」を立ち上げました。
外: 「サステナわいがやラジオ局」については少し補足させていただくと、従来のイベント形式の活動では、既に興味を持っている人しか参加しないという課題がありました。そこで発想を転換し、「参加者を待つのではなく、こちらから届けよう」という考えで、昼休みの20分程度を使ったラジオ番組形式のコンテンツを始めました。3人のパーソナリティが楽しくサステナビリティについて語り合うスタイルで、社内に幅広く情報を届けることができています。
―― 次に、FT2チームの2024年の成果をお聞かせください。
浅井:SAPジャパンにとって、2024年の最も大きな社会課題解決の活動としては、2024年1月1日に発生した能登半島地震支援活動でした。地震発生後、避難所の統合可視化アプリケーションを社内の有志4名のみで、わずか3日間でBTPによりで開発、石川県に提供し、1月末までに避難所情報の統合を完了させました。たこれにより、能登半島では400か所の指定避難所以外にも1400以上発生した自主避難所の情報を整理することができ、どれくらいの避難民が存在し、どこに物資や生活支援を行えばよいのかを市町が把握することができるようになりました。難しているのか情報が散在する状況でした。この活動はグローバルでも評価され、2024年のアジアプレジデントアワードをSAPジャパンが受賞する一因となりました。社会課題解決におけるSAPの価値を示す象徴的な事例となっています。
その他、デジタル人材育成や環境保全、市民サービス向上など、33件の活動(CSR活動を含めると64件)を実施し、延べ1,148名に対してデジタルスキルのワークショップなどを提供しました。CSR活動も含めると約23,000人に対して貢献することができました。
社内参加という面でも、FT1の活動を含めて延べ2,000名もの社員の方に活動に参加いただきました。
――SAPJAPANの社員数約1,800名の規模を考えると、ほぼ全社員が何らかの形で活動に関わった計算になりますね。
浅井: そうですね。企業間や産学との連携も盛んで、デジタル人材育成では、(株)リクルートさんをはじめ7社のパートナーと協力して「SAP人材育成」イベントを9月に開催しました。また、SAP女子の活動として、MAIA様とともに、地域の女性で就労や育児などの制約がある方々にSAPのスキルを身につけていただき、働く単価を上げるための就労活動を全国20の自治体と連携して進めています。
また、教育機関向けでは、大学から小学校まで幅広く、AIやデザインシンキングのワークショップ、ERPやキャリアについての講義などを50校、約3,000名に対して実施しました。東京大学、大阪大学、関西学院大学、APU(立命館アジア太平洋大学)、加古川東高校、大阪ビジネスフロンティア高校など、様々な学校での活動をCSRチームと連携しながら活動しています。
環境分野では、コーヒー豆かすを肥料にして植物を育てるオフィスコンポスト活動や、家庭菜園プロジェクトなどを社内クラブとして運営。また、愛媛県様と協賛で、社内で約100名を集めて愛媛の名産を味わいながら、愛媛県のDX活動やデジタル女子の取り組みを紹介する「みきゃんナイト」も開催しました。その他、石川県で被災地視察、飯塚市嘉穂劇場復興ワークショップ、住友ベークライド様とのイベントなど様々な活動を実施し、多くの社員の方に参加いただいております。
―― Society Successカテゴリの活動は顕著な成果を上げていますが、その推進力についてどう捉えていますか。
松原: テーマが、日本の社会課題解決という国家的な使命であることが大きいと思います。社会的な使命感を持って活動できる点が、参加のモチベーションにつながっています。また、地域連携や「サステナワイガヤラジオ局」のように、楽しみながら取り組める活動が多いことも参加しやすさの要因ではないでしょうか。
浅井: SAPのパーパス自体が「世界の人々をより良くする」というものなので、もともと社会貢献活動への意識は高いと思います。社内にはプロボノ活動など様々なボランティア活動がありますが、それらの活動と横連携しながら、より多くの方々と連携することが、少しずつですが、スタートしています。まだ社内への呼びかけや認知度が十分でないはないですが、社会に貢献したいという思いを持つ社員が多いことは確かです。
外: もともとあった土台をJapan2026で改めてつなぎ合わせた部分も大きいですね。また、身近なところから参加できる門戸の広さも重要です。例えば現在、「我が家でペットボトル買わないぞチャレンジ」という企画を進めており、最もペットボトル購入を減らせた人にエコバッグをプレゼントする予定です。大がかりな活動だけでなく、ちょっとしたことから参加できる受け皿を用意することで、より多くの人の思考が広がるようにしています。
――本業の傍らでの活動ですが、困難なことや工夫している点はありますか?
浅井: 課題は大きく2つあります。1つは本業が非常に忙しい中で、活動時間を確保することの難しさです。2024年は「少しでもいいから参加して」と門戸を広げる方向で取り組みました。設営や片付けだけの協力も含め、様々な形で参加してもらうようにしています。
もう1つは活動が属人化してしまう傾向がある点です。2025年以降、特にFT2は持続可能なチーム作り、継続できる活動形態を確立することが課題だと感じています。
環境活動のリードをしているチームメンバーからは、「イベントをきっかけにERPやコンカーの商談につながったと担当営業から連絡があった」という報告がありました。また、契約交渉時にSAPの環境活動について聞かれ、Society Successの取り組みが役立ったという声も聞いています。
私自身は公共業界担当として、地方自治体の首長や政治家の方々とお話しする機会が多いのですが、自治体のデジタル化はもちろん、も市民や国民への課題解決に関してお話すると共感や目線を合わせることができます。Society Successの活動は、日本の将来や課題解決にSAPが寄与していることを示し、参加した方々がそうした視点を養う上で役立っており、コミュニケーションに役立っているように感じています。
松原: 私も同感です。例えばERPsimビジネスゲームイベントの場合、社内にインストラクターができる人材は点在していますが、組織化されておらず可視化もされていません。「Japan2026」の期間中に、俗人的ではなく組織化して自主的に動ける形にしていきたいと考えています。
個人的には、「SAPを通じて日本の社会課題をどのように解決できるのか?」という視点や、「日頃接していない方々と議論したい」と考えたことがSociety Successへの参加のきっかけとなったのですが、実際これまでのキャリアにはない経験ができ、自分自身の成長につながっています。
外: 私の場合、本業とはかなり異なる活動なので直接的に役立つことは少ないかもしれません。しかし、組織に属しながら自分自身のキャリアをストレッチしたいと考える時、こうした活動でのパーパスと自分の成長意欲が重なる部分があります。それが次のチャレンジに向けた前向きな取り組みになっているという実感はありま
―― 2025年、2026年に向けての展望をお聞かせください。
松原: FT1では、ERPsimビジネスゲームを活用した活動を全国へ展開していきたいと考えています。また、パートナー企業やIT企業、自治体などを巻き込みながら、点での活動を面へと発展させていくことを目指しています。
外: 私は引き続き、サステナビリティに関心を持つ人を増やす活動を中心に進めていきます。例えば、同じ製品でもCO2排出量が少ない方が値段が高い場合、日本ではどうしても安い方を選ぶ傾向があります。そうした意識を少しずつ変え、環境に配慮した選択をする人を増やしていきたいと思います。そのためにどのようなイベントや活動が効果的か、常に考えながらチャレンジを続けていきます。
浅井: FT2では3つの重点領域で活動を展開する予定です。まず「デジタル人材育成」では、次世代リーダーの育成プログラムを開発し、SAPの社員が大学で教える機会も創出したいと考えています。社員のセカンドキャリアとして教授や講師となるための経験を積む場にもなり、知識を次世代に継承する流れを作りたいと考えています。
「環境」では、コンポスト(生ごみ堆肥化)やコーヒー豆粕の再利用活動を、三井不動産や三菱地所と連携して大手町エリア全体に広げるプランを検討しています。
さらに「地産地消活動」として、「SAP女子」と呼ばれる地域の女性たちが地域企業のDX支援を、自治体のサポートを得ながら実現する地域創生の活動をコンカーチームとも連携しながら、さらに全国に展開していきたいと考えています。福島県会津若松市や長野県佐久市で始まったこの取り組みを、全国各地に広げていく予定です。
―― Society Successの各プロジェクトをもとに、SAPがイニシアティブを主導しながら産官学民連携をリードしていくーー。そんな期待が持てますね。
浅井: はい、そうなれば理想的ですね。
松原: 「中堅・中小企業のデジタル化で日本を変える」という目標の達成はまだまだこれから。様々なステークホルダーを巻き込みながら、2026年に向けて着実に近づいていきたいと考えています。