前回はつぶやき3について取り上げました。
本記事では”つぶやき4”をお話ししたいと思います。
- つぶやき1 日本製造業と自分の会社を見つめ直す
- つぶやき2 製造DXについての悩み
- つぶやき3 製造DXへの取り組みの視点
- つぶやき4 メーカーから離れて見えてくること
つぶやき4 メーカーから離れて見えてくること
「製造DXを推進する」立場から、「ソリューションを提供するベンダー」の立場に変わって何が見えて来たでしょうか。国内のメーカーが苦労している、悩んでいる課題は、ほぼ共通であると感じています。
実際の課題解決は、容易ではないことを肌身で理解しつつ、世界の苛烈な市場競争に日本が勝ち残って頂きたくブログの“まとめ”を書いています。
- 組織の壁にトンネルを通す手段を考える
20年以上前になりますが、海外駐在をしていると日本の組織のグローバル視点の弱さが良く見えました。「組織全体の業務効率を俯瞰的にみた活動になっていない」という意味です。会社組織に限ったことではないのですが、”組織“の壁と言うのは思った以上に大きなものです。会社の経営方針、成長、また時代の変化に応じて組織変更は繰り返しますが、組織の壁の課題は永遠です。
“設計開発”と“製造”と言う2つの機能間連携を見ても、両者の業務プロセスに精通しているマネジメントは社内に少なく、その共通課題の解決に容易に踏み込めないのが実態です。不思議なものでメーカーを離れると、機能間の業務プロセスを線でつなぐことの効率性、必要性を俯瞰的に見ることが出来ます。
日常の業務を回し、発生するトラブルの解決に翻弄され、時間を忙殺されるのが上位のマネジメント層の実態です。だからこそ第三者的に見れる経営コンサルタントやソリューションベンダーが必要になるのかもしれません。
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- 情報の”断絶“があることをTOP経営層が認識する
その企業に歴史があればあるほど、情報の断絶が大きいかもしれません。紙による仕事のやり方、そしてその文化があり、機能ごとにシステムを構築し更新することが当たり前、実際にその方法しか以前はなかったので当然と言えば当然です。
規模が大きい会社はこれを一気に変えることは、人的リソースも投資規模からしても現実的に困難です。前述しましたが、組織縦割りの役割責任が益々強くなっている昨今の企業は、TOP経営者による組織の壁をブレイクスルーする改革への決断が不可欠です。
途中の“つぶやき”でも記載しましたが、中間層だけでなく、経営層がもっと製造現場、開発現場、営業現場に出てルーチン作業の情報の“断絶”から来る非効率さを見て欲しいです。そして最先端のITソリューションが存在することを認識してもらいたいのです。筆者もグローバル責任者の立場を長くしていましたが、海外の特に欧米アジアの上位マネジメント層と日本の方々とのITソリューションに関する知識の差を歴然と感じています。
- End to Endでのデジタルスレッドの世界が必要になっています
サプライチェーン、エンジニアリングチェーン、だけでなく、企業全体の理想の業務プロセス、世界のベストプラクティスを追求する世界観は、一組織にいるとなかなか知ることが出来ませんでした。
ひとつの新製品を市場にニーズから設計、開発をし生産、修理の体制を構築する。そして市場の需要から生産をし、出荷をして、保守サービスをする。また、製品の不具合から顧客の苦情を受けることもあるでしょう。この一連のライフサイクルは、デジタルの情報でつながるデジタルスレッドにしていく必要性を感じます。特に顧客の安全性に関係する業界では、一つの苦情情報から、設計変更、設計部品表、製造部品表、製造手順、修理部品表の変更、その変更に至る一連のドキュメントがトレース出来ることが法規制的にも要求されます。
- AIエージェントの活用
最後になりますが、偉そうに言う筆者もメーカーを離れてから勉強できたことが数多くありました。ECM領域、SCM領域において世の中にはこれだけ多くの業務改革が出来るソリューションツールがあることを知らなかったのです。
特にAIの世界は、指数関数的に飛躍が激しいです。ビジネスの世界ではAIエージェントをいかに有効に活用するかによって大きな差が出てしまうでしょう。製造プロセスの領域に限っても、工程データのモニタリングをして異常検知をする、予測による未然防止のアラームを出すことは得意分野です。遠隔で稼働情報をモニタリングすることが技術的に出来ても、その次のアクションに結び付けられなかった経験を持っています。適切なAIツールを使うことはその解決策にもなると考えます。
このような技術をもっと経営層に知ってもらう努力をITベンダーもしていく必要がありますね。
進化・成長させるべき競争領域はどこなのか、ITソリューションで世界の標準作業に合わせて業務効率化を図るのがどこなのかを是非早く見極めてください。
今回は“つぶやき”4「メーカから離れてみえてくること」 についてつぶやいてみました。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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筆者:SAPジャパン株式会社
チーフエグゼクティブアドバイザー 江口和孝
1984年に某医療機器メーカーに入社、長年、製造・修理・調達業務に従事
2017年から執行役員(製造修理担当)としてグローバル製造機能をリードする中で製造DXの施策を推進する