SAP Innovation Day for Finance and Spend Management報告 -Algomatic社 基調講演

時代はDXからAXへ ~ AIエージェントで劇的に変容する企業の業務プロセス

2025年5月27日、財務・支出管理の変革にフォーカスを当てたSAPのプライベートイベント「SAP Innovation Day for Finance and Spend Management」を東京で催しました。当イベントの基調講演には、生成AI技術を使ったエージェントの開発・提供で注目を集めるAlgomatic社の代表取締役CEO、大野 峻典氏が登場しました。本講演のエッセンスを紹介します。

 

AIエージェントが加速するAIトランスフォーメーション(AX)

Algomaticは、大規模言語モデル(LLM)などの生成AI技術を使ったサービスの開発・提供を主業として展開するAIスタートアップです。設立は2023年4月。設立から間もない企業ですが、営業担当者に代わって商談の機会(アポイントメント)を獲得する営業AIエージェント「アポドリ」をはじめ、人材のスカウト業務や採用業務に特化したAIエージェント「リクルタAI」シリーズなどを世に送り出し、話題を集めています。

今回のイベントで基調講演の演壇に立った同社のCEO 大野 峻典氏は「2025年はAIエージェント元年」としたうえで、この技術によってAIによるビジネス変革、つまりは「AIトランスフォーメーション(AX)」が本格的に始まっていると指摘します。同氏はAIエージェントが、ビジネス、ないしは業務にもたらすインパクトについてこう述べます。

株式会社Algomatic 代表取締役CEO大野 峻典氏

「GhatGPTに代表されるこれまでの生成AIツールは、ユーザーが質問すると答えるアシスタント、ないしは『新入社員』のようなシステムでした。それに対してAIエージェントは、ユーザーが実現したい目標を伝えると、自身の判断で必要な情報を分析して適切なツールを選び、ときにはユーザーに質問を返しながら、最終的な成果を届ける『中堅社員』のような存在です。このAIエージェントによって、デジタル技術による変革は、AXという新しい局面を迎えているといえます」

 

 

 

図:従来型の生成AIツールとAIエージェントとの違い

資料:Algomatic

こうしたAIエージェントと従来型の生成AIツールとの違いをわかりやすくするために、大野氏は、ユーザーが「出張先での会食に適したレストランを予約したい」ケースを挙げます。

この場合、従来の生成AIツールはユーザーの質問(プロンプト)に応じて「出張先エリアにおける会食向けのレストラン」の情報を提示することに終始します。それに対してAIエージェントでは、ユーザーに対し「そのレストランに何人でいくのか」「予算はいくらか」「好みの料理は何か」といった質問を投じ、そのうえで各種の予約サイトから条件に合致したレストランを探し当てて空き状況を確認し、最適な選択肢を提示します。そして最終的には実際の予約手続きまでを代行するのです。

 

この例を踏まえながら、大野氏は「従来型の生成AIツールとAIエージェントとの働きの違いは、AIの価値が『情報の提供』から『成果の実現』へと転換されたことを意味します。言い換えれば、すでに時代は、何らかの成果を得るために『AIを使う』時代から『AIに(成果の実現を)託す』時代へと突入しているのです」との説明を加えます。

 

DXからAXへのパラダイムシフトがもたらすもの

大野氏によれば、AIエージェントには核となる3つの能力があるといいます。それは以下の3つです。

①自律的な計画立案能力:例えば「四半期のレポートを作成せよ」という指示に対し、必要なデータの特定、分析手法の選択、グラフ作成方法の判断を自動で実行する。

②ITツールの活用能力:人間が電卓やスマートドンを使うように、AIエージェントはWeb検索やデータベースアクセス、基幹システム連携などを実現するツールを自在に操作することができる。

③自己修正能力:一度の検索で目的の情報が得られなかった場合、検索の方法を自動で修正し、再実行する。試行錯誤を通じて最適解を見つけ出す。

では、これらの能力をもったAIエージェントによってもたらされるAXは、これまでのDXと本質的に何が異なるのでしょうか。

この疑問に答えるべく、大野氏はセールスにおけるターゲティングメールの配信プロセス(=メール営業のプロセス)が、AIエージェントによりどう変わるかというテーマを例に解説しました。

まず、メール営業のプロセスは、ターゲットとなる「①潜在顧客(企業)リストの作成」に始まり、「②企業のリサーチ」「③メール(アプローチ)文の作成「④メールの送信」「⑤返信への対応」といった作業から成ります。

従来型のデジタル技術では、これらの作業のうち「①企業リストの作成」や「④メールの送信」といった作業は自動化できても、他の作業はすべて人間が行うのが通常でした。それに対してAIエージェントは、上述した「①」~「⑤」の全プロセスを「End-to-End(E2E)」で担うことができると大野氏は訴えます(下図参照)。

図:メール営業の効率化における従来型のDXとAIエージェントを使ったAXとの近い

資料:Algomatic

 

ビジネスの現場で成果を上げ始めるAIエージェント

Algomaticでは、上述したAIエージェントによるドラスティックなビジネス(プロセス)変革を加速させるために、先に触れたアポドリやリクルタAIシリーズを製品化して提供しています。アポドリにターゲット企業のリストを渡すだけで、当該企業のリサーチ(情報収集)からキーパーソンの特定、個別提案を行うメールの文の作成とメール配信、さらには、適切なチャネルを通じたターゲット顧客とのコミュニケーションを自動化できます。

この自動化によってユーザー企業は、ターゲット顧客との商談の場を設定するためにかけてきた人的な労力を引き下げ、より少ない人数でより多くの潜在顧客にアプローチすることが可能になります。

また、リクルタAIシリーズでは、求⼈募集から内定後のオンボーディングまで、採⽤にかかわるプロセスをAIエージェント が支援します。

さらに、大野氏によれば、AIエージェントは、多様な業界での活用が進みつつあるといいます。例えば、小売業では、社内のデータやシステムと連携しながら、店長業務を遂行するAIエージェントの例があるといいます(下図参照)。

 

図:小売業におけるAIエージェントの活用例:店長AIエージェント

資料:Algomatic

 

この店長AIエージェントは、在庫状況や売上げのトレンドを分析しながら、最適な発注量を自動で判断することができます。

また大野氏によれば、飲食業では完全自律型の接客用AIエージェントの実証実験が行われ、店舗当たり年間400万円の人件費削減が見込まれているといいます。加えて、製造業では、現場作業の評価・指示書の作成を効率化・合理化するAIエージェントの例があるようです。このエージェントは、熟練職人の暗黙知を動画解析によって可視化し、それを現場で働く各人の動作と比較しながら、改善点などを自動的にフィードバックする仕組みです(下図参照)。

図:製造業におけるAIエージェントの活用例:動画解析AIエージェントによる現場作業の評価と作業指示の作成

資料:Algomatic

 

AX成功への3つの鍵

もっとも、大野氏はAIエージェントを導入しさえすれば、大きな成果が手にできるわけではないと指摘します。そのうえで同氏は、AIエージェントによるAXを成功へとつなげるうえでは「①現場業務への深い理解」「②トップダウンとボトムアップの両輪によるAXの推進」「③データ基盤の整備」の3点が鍵を握るといいます。

このうち「①現場業務への深い理解」について、同氏は以下のような説明を加えます。

「AIエージェントによる業務変革の取り組みでよくあるつまづきポイントは、現場業務への理解が浅いDXの推進チームだけで物事を進めてしまい、AIエージェントを適用した業務プロセスがビジネスの現場では受け入れがたいものになってしまうことです。また、既存の業務プロセスの一部にAIエージェントを組み込むだけでAXの取り組みを完了させてしまい、大きな効果が得られないこともよくあります。こうした事態を避けるには、DXの推進チームとビジネス現場のエキスパートが業務変革においてともにコミットし、AIエージェントの利用を前提に業務プロセスを再設計することが必須です(下図参照)」

図:AIエージェントの活用を前提にした業務プロセス設計のイメージ

資料:Algomatic

また大野氏は、「②トップダウンとボトムアップの両輪によるAXの推進」について「経営レベルでのAI戦略の策定とそれを推進する体制(下図参照)の確立が不可欠で、そのうえで、現場での成功体験をクイックに創出しながら、業務の効率化・自動化を図っていくことが重要となります」と指摘します。

図:AX推進体制の例

資料:Algomatic

さらに、3つ目の鍵である「③データ基盤の整備」について、大野氏は「AIエージェントが成果を上げるには、その業務を遂行するのに必要なデータがそろっていることが前提条件となります。ゆえに、AIエージェントに使わせるデータを整理したうえで、社内の基幹システムなど、必要なデータソースへのアクセス権限をAIに持たせ、かつ、AIエージェントのセキュリティをしっかり確保することが不可欠です」と説明します。

以上のように、AX成功の鍵について説明を終えた大野氏は、AIエージェントの可能性と、それによる変革の意義をこうまとめ、イベントの来場者に訴えかけています。

「AIエージェントは、単なるITツールではなく、企業の労働力を大きく押し上げる『デジタルの従業員』です。それが引き起こす変化にいち早く適応できるかどうか、AIエージェントを使いこなせるかどうかで、企業の競争力に相当の開きが出るはずです。いまこそAIエージェントによるAXの取り組みを本格化させるときではないでしょうか」

(/了)

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