(本記事は、51日に本社で掲載されたものです) 

AI エージェントが自らコードを書き、レガシーアプリケーションを SAP クラウド上で動くよう再構築する―そんな時代が、すぐそこまで来ています。SAP  ABAP プラットフォーム責任者であるソーニャ・リエナール (Sonja Liénard) が、同社を象徴するプログラミング言語「ABAP」と、そのプラットフォームの未来を語ります。 

リエナールは情報科学およびビジネス情報学の専門家であり、2012 年に SAP に入社しました。現在はシニアバイスプレジデント兼 ABAP プラットフォーム責任者として、ABAP および ABAP プラットフォームに関連する全領域を統括しています。また、ABAP AI 部門の責任者も兼務しており、この分野における最新の開発とイノベーションをグローバルに牽引しています。  

本インタビューでは、ABAPの現状、開発におけるAIの役割、エージェンティックAIがレガシーアプリケーションにもたらす変革、そして今後の展望について掘り下げます。  

Q:そもそも ABAP とはどのようなものなのでしょうか。名前は聞いたことがあっても、その実態は詳しく知らないという方に向けて説明をお願いします。あわせて、エンタープライズソフトウェアにおける ABAP の重要性についても教えてください。 

 AABAP は、SAP において非常に長い歴史を持つ言語です。SAP 初にして唯一の独自プログラミング言語であり、2023 年に 40 周年を迎えました。変化の激しいソフトウェアの世界において、これほど長く使われ続けているのは非常に珍しいことです。  

ABAP  Java  C++ などの他のプログラミング言語と一線を画しているのは、大企業が日々活用するビジネスアプリケーションの構築・最適化に特化して設計されている点です。中でも、抽象度のレベルが高い点が大きな特徴で、開発者は細かな処理を意識することなく、ビジネスソフトウェアを容易に記述・拡張できます。また、セキュリティの概念(仕組み)や権限チェック、品質管理といった機能が言語に標準で組み込まれているため、開発の複雑さを抑えることができます。その結果、開発者はビジネスロジック、すなわち「プログラムに何をさせるか」に集中できるのです。  

年月を経て、ABAPは企業のソフトウェア導入形態の変化に対応する形で進化してきました。最新のバージョンは「ABAP Cloud」であり、言語仕様を制限することで、SAPが「クリーンコア」と呼ぶ概念に基づいた開発を支援するよう設計されています。これは当社のクラウド製品を運用するうえで不可欠なものです。なお、まだクラウド環境に移行していない企業でも、ABAP Cloud を活用することで、自社のオンプレミスシステムや SAP S/4HANA® Cloud Private Edition 上のコードを、将来さらに標準的なクラウド環境へ移行した際にもそのまま実行できるように備えることができます。  

さらに ABAP は、単なるプログラミング言語にとどまらず、プラットフォームとしての側面も備えています。ABAP プラットフォームは、SAP® ERP Central Component (SAP ECC) といった従来システムからオンプレミスソリューション、さらには SAP S/4HANA Cloud Private Edition  SAP S/4HANA® Cloud Public Edition に至るまで、SAP のコアソリューション全体を支える基盤となっています。  

QABAP は今後も SAP のお客様にとって重要な役割を果たし続けるのでしょうか?  

Aはい。プログラミング言語とプラットフォームの両面において、ABAP の重要性は依然として高いと言えます。もちろん、長年にわたる継続的な改良によって、言語としての姿は 40 年前とは大きく異なります。しかし、今もなお SAP のコア ERP ソリューションやその拡張機能を支えるバックボーンであることに変わりはありません。現在、世界には約 500 万人の登録 ABAP 開発者が存在し、そのうち約 200 万人がアクティブに開発に携わっています。  

ABAP Cloud と当社の ABAP AI 専門チームの取り組みによって、ABAP はビジネスソリューション向けの現代的な開発言語へと進化しました。これほど広範な領域をカバーできるプログラミング言語は、他にあまり例がありません。ABAP は世界中で利用されており、世界の上位 100 社のほぼすべてが SAP S/4HANA のお客様です。そして、その基盤には常に ABAP プラットフォームが機能しています。  

QAI によって、今後の ABAP 開発はどのように変わっていくのでしょうか? 

 AABAP プラットフォームの責任者として、それは私が最も関心を抱いている問いの 1 つです。AI はテクノロジー市場に大きな変革をもたらしました。これは当然、SAP の開発者向けポートフォリオや、私たちがソリューションをカスタマイズ・拡張する方法にも影響を与えています。そのため、私たちは AI を活用した効率化ツールの開発に投資してきました。例えば、その場ですぐにコードを解説してくれるチャットアシスタントや、開発者がタイピングしている最中にコードの候補を生成する「ゴーストテキスト」機能などがあります。  

今後数年のうちに、AI エージェントはコードの生成――それも大企業が求める規模に対応した形での生成――が可能になり、さらにはソリューション全体を構築できるようになるでしょう。次世代の AI は、単にプログラマーを支援するだけでなく、現在彼らが担っている定型業務の多くを代行するようになると、私たちは考えています。  

SAP にとって極めて重要な問いは、「それぞれのシステムの特性を支えているビジネスロジックを損なうことなく、いかに AI を活用してレガシーコードをモダンなコードへと変換できるか」という点です。多くのお客様がいまだに SAP ECC ベースのシステムを含む旧来のソリューションを運用されています。そのため、クラウドへの移行を簡素化し加速させるための、明確な移行戦略と適切なツールを提供していく必要があります。  

だからこそ私たちは現在、利用しているシステムのバージョンに関わらず、すべてのお客様に対応できるサービスの開発を進めています。その狙いは、全てのSAP が持つ ABAP AI の機能を 1 つのオファリングに集約し、開発者の効率性向上とカスタムコード移行の両方を支援することです。最終的には、このサービスを AI エージェントが自律的に主導する「エージェンティック AI」として提供することを目指しています。  

Q:エージェンティック AI とはどのようなものですか?  

Aエージェンティック AI とは、いわゆる「エージェント」を用いて機能する AI のことです。それぞれのエージェントは特定の専門能力を持っており、エージェント同士が互いに連携し、成果をやり取りすることで、非常に複雑なタスクを共同で解決することができます。エージェントがどのように連携するかは、ユースケースの複雑さに応じて変化します。  

多くの手法では、「オーケストレーター」と呼ばれるリーダー役のエージェントが、他のエージェントを管理して特定のタスクを完了させます。オーケストレーターは、個々のエージェントをあらかじめ決められた順序で呼び出す必要はありません。むしろその最大の強みは、状況に応じた動的なネットワークの中で、エージェント同士を適切に組み合わせる点にあります。  

つまり、もはや、人間の開発者の効率を高めるだけにとどまらないということです。エージェントが十分な能力を備えれば、アプリケーション全体を構築し、開発者のタスクの一部を自ら担えるようになります。私たちのケースで言えば、エージェンティックAI はコード変換という非常に複雑なタスクをサポートし、そのスピードを劇的に加速させ、複雑さを軽減することができます。  

このアプローチは、タスクの異なる局面に特化した複数のエージェントによって成り立っています。例えば、カスタムコードの解説に特化したエージェント、コードの変更を担うエージェント、変換プロジェクトの工数を算出するエージェント、といった具合です。これらのエージェントが連携したときに、エージェンティック AI の真価が発揮されるのです。  

AI は、開発者の役割を根本から変えていくでしょう。開発者は今後も指揮を執り続けるものの、その焦点はコーディングそのものからビジネスロジックへとさらに移っていきます。AI システムが生成したコードが、正確かつ安全であるか、そして解決しようとしている課題に即しているかをチェックすることが、開発者の主な仕事になります。しかし、どのように解決するかという思考の主導権は、あくまでも人間が握り続けます。何が重要かを判断し、優れたプロンプトを通じて AI に指示を出すのは、これからも開発者の役割です。AI の領域は極めてダイナミックであり、驚異的なスピードで進化しています。強力なソリューションはすでに手に入る段階にあり、これは決して遠い未来の話ではありません。変化はすでに現実のものとなっています。  

Q:お客様はエージェンティックAI からどのようなメリットを得られるのでしょうか?  

AエージェンティックAI は、レガシーアプリケーションやカスタム拡張機能を、SAP のクラウドソリューション、つまり最新の ERP バージョンへと変革するうえで大きな価値をもたらします。2026  2 月、当社は既存のカスタムコード管理アプリに AI 機能を搭載しました。これにより、コードの動作を理解し、将来にわたって活用し続けるためにどのような変更が必要かを、開発者が容易に把握できるようになりました。さらに、AI はコードをどのように拡張できるかについての推奨も提示します。将来的には、これらすべてをエージェントによって補完していく予定です。ただし、品質とセキュリティにおいて一切の妥協は許されないため、これには一定の時間を要します。 

 また、ABAP プラットフォームを可能な限り使いやすくするために、開発者エクスペリエンスへの投資も行っています。この取り組みにおいても、長年の開発で蓄積された複雑さを軽減するうえで、エージェンティックAI が重要な役割を果たします。   

Q:セキュリティについて心配する必要はありますか?  

Aいいえ、その心配はありません。私たちはリリースの前に十分な時間をかけ、品質、そして何よりもセキュリティにおいて高い基準を満たしているかを慎重に確認しています。ご安心ください。AI が勝手に判断して、十分なチェックを経ることなくソリューションを生成したり統合したりすることはありません。あらゆる段階において人間が管理を行い、コードが適切な標準に準拠しているかを確認する最終的な判断は、常に人間が下します。  

Q:現在の状況と今後の展望を教えてください。  

A開発者の生産性を高めるための ABAP AI ツールは 2025  2 月から提供を開始しており、現在は ABAP 開発におけるエージェンティックAI の開発を進めています。もっとも、まだ初期段階であり、エージェンティック AI が実際の業務で真価を発揮できるかはこれから証明していく必要があります。しかし、これは市場を根底から変えるものになると、私は確信しています。  

ロードマップの一環として、2026  1 月上旬、独自にトレーニングを行った特化型AI モデル SAP-ABAP-1 を生成 AI ハブ上でリリースしました。このモデルは、ABAP のプログラムコードを解説することに特化して設計されています。  

次は、すべての ABAP AI ツールを、独立したサイドバイサイド(side-by-side)型サービスとして提供する計画です。その後のフェーズでは、それらのツールに組み込まれているユースケースをエージェントへと移行させていく予定です。  

さらに、クラウドベースの ABAP 開発を他の開発環境 (IDE) へも広げており、特に Visual Studio Code 向けの ABAP 開発ツールに注力しています。これにより、エージェント主導の開発を推し進める中で、VS Code などの環境が持つ既存の AI ツールも最大限に取り入れていく計画です。