(本記事は、6月26日に本社で掲載されたものです)
デンマークの卸売企業 Lemvigh-Müller は、調達プロセスの中でも特に時間を要するサプライヤーの注文確認業務を自動化するため、人工知能 (AI) を導入しました。このソリューションは、明確に定義されたタスクを担う複数の AI エージェントで構成されており、SAP® Business AI上に構築された単一の自動化ワークフローとして統合されています。その結果、処理の迅速化、データ品質の向上、そして顧客への納入情報の精度向上を実現しています。
サプライヤーが PDF ファイルで注文確認を送信する際、価格、数量、納入日などにわずかな不一致があるだけでも、調達プロセスにおいて多大な手作業が発生する可能性があります。鉄鋼、配管、暖房、電気製品の分野におけるデンマーク最大級の卸売企業である Lemvigh-Müller にとって、これは長年にわたり多くの時間とリソースを消費してきた課題でした。
同社は、これまでの自動化プロジェクトがしばしば行き詰まっていた課題をついに克服しました。SAPテクノロジーを基盤とし、NTT DATA Business Solutionsとの緊密な協業によって開発・導入された、複数の専門AIエージェントから成る新しいソリューションにより、サプライヤーから送付されるPDF形式の注文確認書を自動で読み取り、内容を解釈・照合・処理し、SAPシステムと直接連携して処理できるようになりました。
Lemvigh-Müller の IT ディレクターであるフレデリク・アーケルンド(Frederik Aakerlund)氏は次のように述べています。「当社はこれまで、RPA や従来の自動化アプローチの両方を試してきましたが、期待した効果は得られませんでした。今回の大きな違いは、タスクを複数の独立した AI エージェントに分割し、それぞれがプロセスの特定の部分を担う点にあります。これにより、従来は手作業で確認していた業務を、現在ではそれらが連携して処理しています」
発案から 10 週間で AI エージェントを本稼動
このプロジェクトは、Lemvigh-Müller のマーケットおよび調達部門に所属する AI に精通したプロジェクトマネージャー、ジェス・フレデリクセン(Jess Frederiksen)氏からの1通のメールをきっかけに始まりました。ChatGPT を用いた実験で、注文確認と購買発注の照合に成功したことを受け、これを完全に統合されたシステムソリューションへと発展させられるかどうかを検討するため、IT ディレクターに提案しました。
初期の検証から本稼働まで、プロジェクト全体はわずか10週間で完了しました。Lemvigh-Müller によると、この短い導入期間は、ソリューションの具体的なビジネス価値を迅速に実証し、社内の支持を獲得するうえで重要な要因となりました。
「これは長期プロジェクトではありませんでした。わずか10週間で、アイデアの段階から AI エージェントの本稼働に至り、すでに調達担当者に対して測定可能な価値を提供しています」とアーケルンド氏は述べています。
Lemvigh-Müller は、将来的に、このソリューションによってフルタイム換算で3〜4人分に相当するリソースを創出できると見込んでいます。これらのリソースは、最も複雑で例外対応が必要な注文への対応を含む、より付加価値の高い業務へと再配置される予定です。
アーケルンド氏はさらに次のように述べています。「目的は人員削減ではなく、専門性をより効果的に活用することにあります。AI エージェントが定型業務を担うことで、調達担当者は自身の経験が真に求められるケースに集中できるようになります」
10万件を超える注文確認を自動化
Lemvigh-Müller は毎年、2,000社を超えるサプライヤーに対して約175,000件の購買注文を送信しています。このうち一部は EDI を介して構造化された形で処理されていますが、サプライヤーから受領する注文確認の約60%は、依然として非構造化文書として受領されています。
連携された AI エージェントの導入により、同社は遅延、数量変更、価格差異を自動的に特定できるようになり、それに対して大幅に迅速に対応できるようになりました。
Lemvigh-Müller の SAP ERP 責任者であるクラウス・ハイネマン(Klaus Heinemann)氏は、プロジェクトチームとともに本開発を主導し、次のように述べています。「これまでは、注文確認が手作業で処理されていた際には、変更が組織全体に反映されるまでに数時間、場合によっては数日を要していました。現在では、AI エージェントがほぼ即時にデータを更新するため、お客様は納入状況について、はるかに正確な情報を大幅に早く把握できるようになっています。さらに、最終請求書の発行前に価格差異を特定できるようになったことで、当社およびサプライヤー双方にとって時間の削減につながっています」

複数の AI エージェントを単一のワークフローで連携
このソリューションは、プロセス内でそれぞれ明確に定義された役割を担う、連携する3つの AI エージェントを中心に構成されています。1つ目のエージェントは受信したメールと添付ファイルを処理し、2つ目は PDF 文書からデータを抽出して構造化します。3つ目は、抽出された情報を SAP の購買発注と照合し、一致しているか、または差異があるかを判断します。
その結果、サプライヤーの複雑で非構造化されたデータを、調達担当者が長い PDF ファイルを開いて手作業で確認することなく、統合された自動ワークフローで処理できるようになりました。
「このソリューションの強みは、エージェント間の連携にあります。各エージェントは高度に専門化されていますが、プロセス全体が最初から最後までシームレスに流れるように連携する形で設計されています」と、ハイネマン氏は説明しています。
Lemvigh-Müller における3つのAIエージェントの連携
Lemvigh-Müller のソリューションは、3つの専門特化型 AI エージェントを中心に構成されており、それぞれが調達プロセスの中で明確に定義されたタスクを担います。これらが連携することで、単一のエンド・ツー・エンドで自動化されたワークフローを形成しています。
- 電子メールエージェントが、サプライヤーからの受信メールを受領して仕分けします。このエージェントは、関連する注文確認と添付文書を特定し、プロセスの次のステップへと振り分けます。
- データ抽出エージェントが、価格、数量、納入日などの主要な情報を PDF 文書から抽出し、SAP の購買発注と直接比較できるようにデータを構造化します。
- 照合エージェントが、抽出されたデータを SAP の既存の購買発注と比較し、一致しているか、または差異があるかを判定します。一致した場合はプロセスが自動的に継続され、差異がある場合は後続対応のためにフラグが付与されます。
プロジェクトを進める中で、マスターデータの品質の重要性も次第に明確になりました。
「Incoterms(国際貿易条件)をはじめとする各種マスターデータにおいて、改善すべき点が明らかになりました。これは本プロジェクトにとどまらず、当社のより広範な AI 活用においても重要な学びとなりました」と、ハイネマン氏は述べています。
顧客体験やエラー率、クレーム件数への影響を完全に測定するには時期尚早であるものの、サプライヤーからの注文確認をより迅速かつ正確に処理することで、将来的には予期せぬ事態が減少し、配送の透明性が大幅に向上すると期待されています。社内では、このソリューションに対して従業員の間で高い関心が寄せられています。
「調達担当者たちは、最も煩雑な定型業務から解放される価値を明確に認識しています。これにより、テクノロジーが日々の業務をどのように最適に支援できるかについて、建設的な対話が生まれています」とハイネマン氏とも述べています。

明確なビジネス成果につながる Business AI
Lemvigh-Müller によると、今回の投資は比較的短期間で投資対効果(ROI)を回収できると見込まれています。
「投資対効果については、年単位ではなく数四半期単位で見込んでいます。そのため、ソリューションを迅速に本稼働させ、明確で測定可能なインパクトをもたらす業務プロセスに焦点を当てることが不可欠でした」とアーケルンド氏は述べています。
SAP にとって本プロジェクトは、人工知能が単なる切り離された実験にとどまるのではなく、コア業務プロセスに直接組み込まれることで価値を発揮することを示す具体的な事例となっています。
SAP 北欧およびバルト諸国担当 AI 責任者であるデビッド・ポントピダン(David Pontoppidan)は次のように述べています。「多くの企業は、AI エージェントを主に自動化の観点から捉えています。しかし Lemvigh-Müller が示しているのは、真の課題であり、同時に重要な機会でもあるのが、それらの連携にあるという点です。このソリューションの堅牢性を支えているのは、役割の異なる 3 つの特化型エージェントをコアプロセス内で直接連携させている点にあります。実際、複数のエージェントを活用する取り組みの多くは、個々のエージェントの能力の限界ではなく、連携不足を原因として失敗しています。Lemvigh-Müller は、データ、ビジネスルール、ガバナンスの枠組みがすでに確立されている SAP ランドスケープにこのソリューションを組み込むことで、成功を収めています」
同氏はさらに次のように述べています。「イノベーションに企業の規模は関係ありません。Lemvigh-Müller が示しているのは、意思決定のスピードとテクノロジーに対する実践的なアプローチを備えたデンマーク企業が、いまだに計画段階にある多くのグローバル大企業よりも、より迅速に対応できるという点です。発案から本稼働まで10週間というのは一般的とは言えませんが、そうあるべきなのかもしれません」
運用性と拡張性を考慮した設計
このソリューションは、NTT DATA Business Solutions との緊密な連携のもとで導入されました。同社は、ソリューションの本稼働に向けた整備を担うとともに、Lemvigh-Müller の SAP ランドスケープへの完全統合を担当しました。
NTT DATA Business Solutions の SAP UX マネージャーであるクリスチャン・ダール(Kristian Dahl)氏は、次のように述べています。「業務の責任を複数の AI エージェントに分散させることで、Lemvigh-Müller は透明性や統制を損なうことなく、複雑なプロセスの自動化を実現しました。これにより、パイロットから本稼働への迅速かつ確実な移行が可能となり、新たな要件が生じた際にも容易に拡張できる、より堅牢なソリューションが実現しています」
ダール氏によると、このモジュール化されたエージェントベースのアーキテクチャは、概念実証から本稼働運用への移行を効率的に進めるうえで重要な要因となっています。
より広範な AI エージェント戦略への第一歩
このソリューションは、当初は一部のサプライヤーの受信トレイおよび特定の業務領域を対象に導入されました。しかし Lemvigh-Müller は、同様のエージェントベースのアプローチを他の管理業務プロセスにも適用できる大きな可能性をすでに見出しています。
「これは、当社が本稼働に移行した初めての AI エージェントソリューションです。この経験により、請求書処理や受注管理を含む他の領域でも同様のアプローチを検討できるという自信を得ています」と、アーケルンド氏は述べています。
エレン・ヴィグ・ネラウセン(Ellen Vig Nelausen)は、SAP の Nordic Integrated Communications Expert です。


