SAP Japan プレスルーム

良質な住宅を手頃な価格で提供可能にしたカテラ

SAPとの関わりが最初に公開されたのは2017/5に米国フロリダ州オーランドにて開催されたSAP最大の年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW」。その後、2018/1にソフトバンク・ビジョン・ファンドから約900億もの投資を獲得し、時価総額が3200憶円(30億ドル)を超えたとの報道もあり、更に注目が集まっている企業でもある。執筆のキッカケは、何となくIT化が難しいイメージを持つ建設業において、テクノロジーを武器に急成長している同社の取組みに興味を持ったことからだった。

14.9カ月→4カ月

この数字は、前者が業界平均の多世帯型住宅の建設期間に対し、後者はカテラ社の建設期間だ。「工期を短縮して価格を下げる」というのは分かり易い話だが、これを建設業の世界でどのように実現しているのか?は非常に興味を引く所だ。この辺りから、同社の取組みを掘り下げて行きたいと思う。

カテラ社とは?

カテラ社は、2015年にマイケル・マークス氏が立ち上げ、爆発的な成長をしている全く新しいゼネラルコンストラクター(以下ゼネコン)である。通常のゼネコンと大きく異なるのは、自社を「IT企業」とも名乗っている点だろう。彼らの2017年の売上は、(ブッキングベースで)13億ドル(約1,500憶円)に達しており、創業して2年足らずで全米のゼネコンTOP20に入るという米国らしいパワープレイをしている企業でもある。

創業者のマークス氏は、”より良い家を、より短い期間で建て、より手頃な値段で買えるようにしたい”と繰り返している。この背景として、彼らがビジネスを展開している米国では、1億3,600万の住宅が購入または賃貸可能であるにもかかわらず、740万世帯は住宅を手頃な価格で利用することが出来ていないとという事実があります。特に低所得者層に至っては、71%の世帯で所得の50%以上を住宅にあてているのが実態です。つまり、「740万世帯にいかにして良質な住宅を手頃な価格で提供できるのか?」と言う点が大きな改革テーマでもあり、ビジネスチャンスでもあったのだと言えます。

カテラ社の特徴 通常、顧客側の窓口は相談に行った元請けの1社かもしれませんが、実際には元請けの提携先である多くの企業が関わり、建築費が必然的に膨らんでいくことは容易に想像出来ます。カテラ社は、この点を問題提起し、”全ての工程をひとつのプラットフォームで管理し、自社内で一元管理してしまおうそうすることで、手数料や相互間連絡などの無駄が省かれ、これまでより安く、より短い期間で建築物を建てられるのではないか”というコンセプトを元に創業しています。

こうした背景から、同社は社内に、設計士、インテリアデザイナー、土木工学の専門家、サプライチェーン(供給連鎖管理)の専門家などを抱え、設計から施工まで一気通貫して行える体制と仕組みを確立しています。 マークス氏は、この一気通貫したサービスについて、「皆さんは、建築構造デザイン、内装デザイン、土木、供給、製造、そして建設の工程をそれぞれ独立した別のものだと思っています。でも、私たちはこれ全てひっくるめてひとつのサービス”だと考えています。」と言います。

ただ、ひとつの工事においても、元請け、下請け、孫請けといった上下関係に加え、電気、壁、、など業種別に約20業種の専門業者が水平関係に関わる建設業界の分業体制をどのように一元化するのでしょうか?

マークス氏はこれに対し、”だから私たちは、ほとんどの工程をオートメーション化(自動化)しています。アメリカには、11万もの地方自治体があり、構造が信じられないくらい複雑です。しかし、自動化によって、私たちはアメリカ全土の全ての建築物のデータをすぐに取り出すことができ、それと同時にその地区の規制を知ることができます。

また、供給についてですが、ハイテク業界などの他業界では、ずっと以前からグローバルなサプライチェーンマネジメントが行われています。ただ、建設業界でそれがされてこなかっただけなのです。なので私たちは、ハイテク業界でなされているのと同じことを建設業界でするだけです。”と答えています。

この背景には、アメリカの建設関連会社は、これまで売上の1%以下しかテクノロジーへの投資を行っておらず、他の業界と比べても、最低レベルの投資率だと言います。こうした投資への消極的姿勢が、生産性の低下と、それに伴う建設費・住宅価格の高騰を招いてしまったという、彼らの課題認識の中にが明確にあったと言えます。

また、この結果を表しているデータがあります。以下はマッキンゼー・アンド・カンパニーが2015年に出したレポートの一部で、線グラフはそれぞれ1994年以降の製造業と建設業の労働者一人当たりの生産性を示しています。オレンジで示された製造業の生産性が上がり続けているのに対し、青で記された建設業の生産性は低下しているのがわかります。

McKinsey&Company:https://www.mckinsey.com/industries/capital-projects-and-infrastructure/our-insights/the-construction-productivity-imperative

こうして、米国発の垂直統合型建設サービス会社として、カテラは建設業界に参入したのです。

SAPとの関わり

カテラのビジネスモデルにおいて重要なのは「プロジェクト管理」で、労働力と資材調達の調整が限られている中では、このマネジメント能力によって時間とコストに大きく跳ね返ってくるからです。この能力を高めるには、設計から施工までのビジネスプロセス全体の可視性を高め、プロジェクト推進上のリスクや改善機会を見つけ出し、関連する全てのビジネスユーザーに通知・改善を促す事が出来る必要があります。 自社をIT企業とも名乗る「建設サービス会社」のカテラ社は、どのようなチャレンジがあったのでしょうか?CIOのグレイス氏のインタビューを通じて、その内容を掘り下げてみたいと思います。

Grace Liu, CIO, Katerra

Source: SAP

SAPとの関わりが始まるにあたり、以下の要件がありました。

これらに対する解決策は、

建設サービスのワンストップショップを実現するための、完全に統合されたビジネスモデルの確立

潜在的なプロジェクトのリスクと改善機会を特定するために必要なデータドリブンでのインサイトの獲得

継続的な進化・スケールを維持できるITアーキテクチャーの確立

最後に

今回のカテラ社の取組みを通じて、”企業内に存在する真の問題を見つけ出し、その解決策をシンプルに考える”ことの重要性を強く感じました。皆さまはいかがでしたでしょうか?

また、「下敷き」という意味では、SAPが業界別にテクノロジーの進化が既存プロセスにどのような改善をもたらすのかをまとめています。個別業務の生産性向上に着眼されがちなIT施策を、プロセス全体としてどのような価値をもたらすのか?を棚卸しする意味でも利用価値はあるのではないでしょうか?

Source: SAP

このブログを通じて、そのことに共感いただける読者がいらっしゃれば幸いです。今後もスジの良いトピックを発信し続けようと思いますのでよろしくお願いします。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、カテラ社のレビューを受けたものではありません。

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