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”Action in seven areas can boost sector productivity by 50-60%”

(7つの領域での取り組みにより、建設コアプロセスの生産性を50〜60%改善できる)

  • Reshape regulation(規制の改革)
  • Rewire contracts(契約形態の見直し)
  • Rethink design(設計の再創造)
  • Improve onsite execution(現場作業の改善)
  • Infuse technology and innovation(テクノロジーとイノベーションの登用)
  • Reskill workers(労働者のリスキル)
  • Improve procurement and supply chain(調達とサプライチェーンの改善)
Source: Dodge Data and Analytics, ENR(2016). “How satisfied, really satisfied, are Owners?”

「労働生産性」を変革アジェンダに持つ建設業界では、個々領域の変革と同時に、ビジネスプロセスの全体を最適化させることも問われている。そのため、この変革は組織やビジネスプロセス横断で実行する必要があることは言うまでもない。ただ、好景気が続く中では、どうしても近未来的な施策が優先され、(必要性は理解していても)時間の掛かることは後回しになる傾向にあるのでは無いだろうか。

現在の状況を勘案すると、フルデジタル化された世界を前提に変革の必要性を議論する前に、テクノロジーの進化が従来の制約条件を解決できるなど検討アプローチの再考を考えていた時に出会ったのが、カナダ大手建設企業であるエーコン社(AECON Group)のケーススタディだった。

Source: SAP

注目したのは、例外なく前述の課題を持っていたエーコン社がチャレンジした「(プロジェクト管理における)リアルタイム・インサイト」だった。

注目した理由は、事業も地域特性があり、組織・プロセスもサイロ化が進む業界において、実行プロジェクトをリアルタイムで管理すること自体、想像できなかったからだ。彼らのチャレンジには、彼らの成長戦略が色濃く関係していたこともあり、その背景の解説から始めることにする。

About AECON Group

  • トロントのCNタワーの建設やオンタリオ州の原子力発電所建設、ブリティッシュ・コロンビア州のサイトCダムの建設プロジェクトなど、カナダの重要なインフラ整備プロジェクトに参画してきた企業で、2018年のENR’s 2018 Top 250 Global Contractors で124位にランクインしている
  • 設立は1877年なので140年以上の歴史を持ち、エネルギープラント事業とインフラ事業の2つの柱を軸に、新規ビジネス(マイニングビジネスやコンセッション型ビジネス)への展開も積極的に図っている。特に、コンセッション型ビジネスは、2018年実績だと全体売上の9%だが直近(2019年Q2)では14%までに伸長させている。これは、スクラップ&ビルド型とも言える既存事業の強みを活かしながら、オペレーション&メンテナンス機能をM&A戦略等で補強しながら、長期に渡る顧客エンゲージメント能力を獲得している。
  • また、”グローバルな専門知識を備えたエネルギープラントおよびインフラ事業の開発リーダーとして、カナダ国内No1企業になること”を目標に掲げ4つのプライオリティを宣言している。
  1. Taking care of our people:エーコン社のコアバリューは「人」であり、積極的なキャリア開発、パフォーマンスを維持できる体制を確立する
  2. Improving project efficiency and maximizing profitability:そのためには、複雑化するプロジェクトを理解し、収益の最大化とリスクの最小化を管理できる必要がある
  3. Investing in tomorrow’s growth:これらによる事業ポートフォリオの確立により、自社の持つ専門性を活かし自律かつ積極的にサービスビジネスできる能力を得る
  4. Balancing agility and process:これらを確実に実行するために、規模を問わず全てのプロジェクトでの効率を追求する(現場とのバランス)

このプライオリティから、プロジェクト型ビジネスモデルを持つ彼らにとって「全体の労働生産性を改善し、高効率かつ高品質なプロジェクト管理の実現」にフォーカスを当てた理由が読み取れる。

Aecon’s Challenges:エーコン社のチャレンジ

エーコン社は、エネルギーインフラ事業、インフラ事業、マイニング事業、コンセッション事業のそれぞれが相乗効果を出すことで全体の事業ポートフォリオを形成している。それが故に、各事業が独自の事業戦略とプライオリティを持ち、独自の成長を遂げてきた。また、専門性の違いから、事業毎に異なるビジネスプロセスルールだけでなく、使用するツール(見積、スケジューリング)基幹システムまでもが独自の進化を遂げてしまった。つまり、相乗効果を出そうにも、ビジネスプロセスやルール、それを支えるITシステムが大きな制約となり、4つプライオリティを阻害する要因になっていた。ITシステムに関して言うと、事業や地域ごと8つもの基幹システムが稼働している状態だった。

Aecon’s SAP Journey:SAPとの変革ストーリー

この様な状況で、彼らがまず始めたのは「変革ビジョンの策定」だった。と言っても、これだけの違いがありながらひとつのビジョンにまとめることは誰が考えても難しい。そこでエーコン社とSAPは「Vision Workshop」を8つのスタンダートを対象に、関係するステークホルダーを集めひとつずつ実施していくことにした。このワークショップでは、自分たちが置かれている状況、ありたい姿、それらを阻害している要素抽出などから構成され、それぞれが持つ既存プロセス上の課題を理解していった。ワークショップを進めていくと、共通する部分の可視化が進むことで、自分たちだけの特殊性と思い込んでいた部分が明らかになっていった。この結果からわかるように、事業横断で共通する要素を見つけるような取り組みをしてこなかっただけで、元々は「自分たちだけが特殊」だと思い込んでいたことが分かったと言う。

この結果から、ひとつのスタンダードモデルを創り、段階的にロールアウトしていくことで、事業・地域特性を加味したモデルに進化させていった。

対象とした業務スコープは、建設コアプロセス(見積からオペレーション)/会計/人事と広範囲に渡っている。プロジェクト期間だけをみると、約33ヶ月(約3年弱)と時間が掛かったイメージを持つだろうが、準備から定着化、活用まで戦略的に時間を掛けて進めたと言った方が正しいだろう

  • プロジェクト準備(約3か月)
  • 導入:パイロット導入(約11か月)
  • 導入:事業展開(約5か月、約3か月)
  • 定着化と活用(約1年)

また、当初予算内かつ期間内で、当初スコープよりも大幅に提供機能を拡充できた結果を見ても、このケースから学びは大きいと思う。

実現スコープと実現効果

会計(Finance)

  • 業務プロセスの改善と業務機能の集約化によるFTE削減、レポーティング能力の改善

オペレーション(Operations)

  • プロジェクト管理機能のリアルタイム統合によるリスク管理能力の向上
  • 各種リスク要素のフォーキャスト管理の実現(インサイト能力のインテリジェント化)

 調達(Procurement)

  •  資材、設備の支出分析による戦略的コスト削減を促進

 運転資金(Working capital)

  • 現場生産性管理の所要時間短縮

 

(プロジェクト実行における)リアルタイム・インサイトの実現

冒頭で述べたように、彼らは乱立したシステムを統合しただけはない。4つのプライオリティに貢献できてこそ、このプロジェクトのゴールは果たせるのだ。

従業員の稼働を最大化させるためには、ふたつ目のプライオリティ(複雑化するプロジェクトを理解し、収益の最大化とリスクの最小化を管理できる必要がある)に「リアルタイム・インサイト」という狙いが見えてくる。彼らが実現したのは、見積、スケジューリング、生産までコアプロセスの状況で収集し、フォーキャストアルゴリズムを用いてリスク要素を数値化し、プロジェクトにおけるリスクインパクトを共有する仕組み。

「リアルタイム」にこだわったのは、プロジェクト工程上多発する変更管理や現場の稼働状況など、プロジェクトリスクに与える変動要素があまりにも多いためである。これらが「リアルタイムで管理できないと、それらを収集・集計する業務が確実に発生する」ということでもあった。管理のための間接・付帯業務を徹底的に排除する意味でも、そこにこだわる必要があったのだ。また、「プロジェクト現場には相当数のマニュアル業務が存在していたため、管理側も現場も納得するような業務プロセスの変革が必要だった」と振り返る。その一例としてあげていた「タイムシート管理」が、非常にわかりやすいので紹介しておこう。

例:タイムシート管理(手作業)

従来は手作業での報告だったため現場からは改善要望が出ていた。その一方で、管理側も報告された内容をシステムに登録する必要があり、こちらからも改善要望が出ていた。

そこで、モバイルアプリを提供し、バックエンドプロセスと統合することで双方の課題を解決したというシンプルな話

ただ、このシンプルな話にでも、準備から定着化、活用のサイクルを導入していることからも、双方の意見を丁寧に聞いた上で、ステークホルダーを巻き込んだ合意形成をし、その後の自発的な改善を促すアプローチからは本当に学ぶことが多い。

 

 まとめ

今回のケースでは、「ステークホルダーからの共感を得るアプローチ」であろう。「総論賛成、各論反対」の風潮が蔓延する中、各事業の持つ課題を起点に共通する「総論」を創り、その障壁を明らかにしながら共通見解を創り出した。その上に、(彼らの言う)「独自要素」を付け足していったのだから、過去の成功体験からの憶測で必要性を語っても論破されてしまうのだろう。いずれにしても、必要な要素をモジュール化し、それらを組み合わせてプロセスを構成するアプローチ、建設プロセスに通じるモノがあり理解し易かったのかも知れない。

また、段階的なリリースにより 早期に効果を体感させたり、自社内の変革実行に対するリスクを反映し、あらかじめ定着化、活用フェーズを設けたりと、各所に工夫も見られる。これらのプロジェクト設計ができたのも、彼らの持つ「リスクマネジメント力」の賜物なのかも知れないとも感じた。

どうしても目先の課題にフォーカスしがちだが、ありたい姿(ビジョン)を定め、それを阻害する問題の本質を捉えながら共感を得て進めるアプローチは、多くの日本企業でも有効なアプローチではないだろうか。また、彼らのように、現場に対してもこのアプローチを浸透させることで、皆が問題の本質を捉えるようになると同時に、手段論が先立つことも無くなるだろう。

最後に、今回の内容は、Industry webinarとして2019/6月に開催された内容である。このセッション(約45分)では、より具体的な内容に触れているので、興味を持った方は視聴して下さい。

Enhance Project Delivery with Real-Time Insights for Key Decision Makers

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、エーコン社のレビューを受けたものではありません。