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高機能材料メーカーの日東電工株式会社(以下、Nitto )では、SAP Aribaのソリューションを活用し、間接材調達・購買業務の改革を世界規模で推進しています。本稿では、その取り組みを、改革を主導する調達本部の業務管理部長、上原佳子氏によるSAP NOWでのご講演Webを基にご紹介します。

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Ariba Networkで世界6,000のサプライヤから調達・購買

創立100余年の歴史を有するNittoは、高機能材料の製造・販売を中心に年間7,410億円(2020年3月期/連結)を売り上げるメーカーです。国内20社/海外72社のグループ会社を擁し、海外売上比率が80%近くに上る文字通りのグローバルカンパニーです。

そうした同社では、間接材調達・購買業務の改革と標準化、ガバナンス強化を目指し2017年6月からSAP AribaのシステムとB2Bネットワーク、Ariba Networkを導入し、現在は、間接材の見積書取得から注文書の発行、検収、さらには請求登録に至る一連の業務を全てSAP Aribaのソリューションを使って行っています(図1)。

図1:NittoにおけるAriba Networkの活用イメージ
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また、2020年9月時点で、日本を含む世界21拠点にSAP Aribaのソリューションを展開し、Ariba Networkに登録されている同社の取引先(以下、サプライヤ)数は6,000に上っています。さらに、SAP Aribaを使う同社の拠点は25拠点に拡大される予定です。

調達本部 業務管理部長の上原佳子氏によれば、SAP Aribaの世界展開により、各国の拠点における調達・購買担当者のマインドセットに大きな変化が見られているといいます。

「SAP Aribaの導入で、各国の拠点の調達・購買担当者の間で、間接材調達・購買に関するルールをしっかりと守ろうとする意識がかなり高まっています。調達・購買の担当者が国内外に広く散在していると、意識の統制がとりにくいのが通常です。しかも、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響で、当社の調達・購買担当者の多くが在宅勤務を余儀なくされました。それでも、調達・購買のルールがしっかりと守られていると安心していられたのは、SAP Aribaのおかげです」(上原氏)

 

大目標を掲げたものの……

同社では、SAP Aribaソリューションの導入・活用に当たり、3つの大目標を掲げたといいます。それは、「調達業務のハイバリュー化」「支出の可視化」、そして「サプライヤの集約化」の3つです。

上原氏らは当初、これらの目標を、それほど高い目標であるとは感じていなかったといいます。ところが、SAP Aribaソリューションの活用を始動させ、目標を追いかけ始めると、掲げた目標の高さに気づかされたといいます。

「なぜ、目標の達成が難しかったのかと言えば、私たちが何もできていなかったからです。例えば、『調達業務のハイバリュー化』と言っても、当時の私たちには、調達業務がどうあるべきか、あるいは、バイヤーはどうあるべきかの明確な定義がありませんでした。『支出データの可視化』にしても、SAP Aribaのおかげで数多くのデータは取得できるようになったものの、それらの活用方法──つまりは、どんなデータを可視化すればよいのかが分からない状態でした。『サプライヤの集約化』にしても、当社には間接材のサプライヤに関する選定基準がなく、どのように集約化を進めるべきかが分からなかったのです」(上原氏)。

SAP Aribaの機能を使い高次の目標達成に向けた土台づくりへ

上述したような状況を打開すべく、Nittoがとった手段は、いきなり高次の目標を追い求めるのではなく、それを達成するための土台づくりを進めることでした。その土台形成を中間地点の目標として定め、長期的な目標として上述した3点の達成を目指したのです。

まず、「調達業務のハイバリュー化」の達成に向けては、バイヤーとしてのKPIを定め、それに基づく業務の改革と標準化を図るという中間目標を定めました。また、「支出の可視化」に向けては、商品分類による支出分析に力を注ぎ、残る「サプライヤの集約化」に向けては、サプライヤ管理の徹底を図ることで、集約化につなげようと考えました。

このうち、バイヤーのKPIの明確化については、SAP Aribaの調達・購買の変革手法「SAP Ariba 12 Keys」などを活用しながら、自社の弱い部分、足りていない部分を明確にし、KPIの策定を進めたといいます。

「例えば、SAP Ariba 12 Keysの考え方を取り入れたことで、当社における間接材調達・購買についてはガバナンスとリーダーシップの部分が弱いということが改めて明確になりました。実際、当社のようなメーカーは、事業部門の声が強く、部門横断の機能を提供する調達・購買の組織がリーダーシップを発揮するのはなかなか困難です。そうした弱点が改めて明確になったことで、バイヤーとしてのKPIをどう定めるべきかがクリアーになったと思います」(上原氏)。

定量的・定性的な支出分析でサプライヤ選択を適正化

「支出の可視化」に向けた支出の分析も、SAP Aribaの機能を用いて行われました。

例えば、SAP Aribaの支出分析機能を使い、工場の付帯部品の支出を分析したところ、支出総額の80%が、20%のサプライヤへの支出で占められていることが判明したといいます。

この可視化は、調達・購買組織がサプライヤを選定する際の参考として有用なものです。ただし、数値だけでは、サプライヤに対する社内の評価がどうなのかはつかめません。

そこで、上原氏らは、支出分析で割り出した付帯部品の有力サプライヤ(=自社からの支払い額の多いサプライヤ)を数十社選び、これらのサプライヤに対する評価を聞く社内アンケートを、SAP Aribaのサプライヤサーベイ機能を使いながら、付帯部品の要求元を対象に行いました。

「結果として、商品価格といった定量的な数値データだけではなく、要求元の定性的な評価を併せて加味したサプライヤの選択──つまりは要求元の要件を満たすことのできるサプライヤの選択が可能になりました」と、上原氏は言います。

ただし、こうした成果を上げる一方で、次の課題も見つかったといいます(図2)。

図2:支出分析で手にした成果と新たに見つかった課題
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「例えば、商品分類の選択を間違えると、意味のない支出分析になりますし、必要項目の入力ルールに則ったデータ入力が徹底されていないと分析が難しくなります。例えば、工場が依頼する保守業務についても、付帯部品のときと同じ要領で支出分析を行い、同様の成果を得たのですが、工場によって保守業務の依頼の仕方がバラバラで、保守サービス料金の基準をどう設定すべきかが明確にならないという問題に突き当たりました。こうした課題はガバナンスの強化によって解決するしか方法はなく、それに取り組んでいます」(上原氏)。

ちなみに、上記の支出分析に当たり、同社では、SAP Aribaも積極的に活用したといいます。

「同じ種類の間接材でも用途が異なり、1つ1つにさまざまな定義があり、その定義を明確にするツールとして、商品分類コードを活用しています。このコードは、要求元が、何を目的に、どんな商品を、どれだけ買いたいのかを判断するうえで非常に役立つツールです。また私たちは、商品分類コードを使いながら、商品を分類するだけではなく、それぞれの購買ルールも決めています。この施策はサプライヤの集約化にもつながると考えています」(上原氏)。

その「サプライヤの集約化」に向けては、前述したとおり、同社は、サプライヤ管理の取り組みに力を注いできました、

その取り組みの1つは、SAP Aribaのサプライヤ取引基本契約管理の機能を使い、基本契約の締結状況と契約満了期間の管理を徹底したことです。これにより、基本契約を結んでいない、あるいは、契約満了のサプライヤとは取引しないという制度の確立と運用が可能になり、サプライヤとの安全でより強固な関係が構築できたと、上原氏は説明します。

「当社の海外の拠点では、間接材のサプライヤと取引基本契約を結ぶ文化が定着していなかったので、それが制度化できたことは、グローバルでのサプライヤ取引の安全性を確保するという意味でも大きかったと思います。ただし、そもそもサプライヤの採用・改廃を、何を基準に、どう行うかのルールや運用手法が確立されたわけではありませんので、今後はその辺りの課題解決を図りたいと考えています」

また、上原氏らは、SAP Aribaのコラボレーション機能や予算管理機能を応用して、バイヤー評価の基準を明確化することにも取り組んだ。

この取り組みによる成果の一つは、コラボレーション機能とパブリックレポートを活用し、価格競合率評価が行えるようになったことだと、上原氏は指摘します。これはすなわち、間接材調達・購買の際に、必ず2社以上のサプライヤを競合させ、最もQCD (品質・コスト・納期)の要件を満たせるところを選定しているかどうかの評価が行えるようになったということです。

また、併せて予算管理機能を応用した発注管理にも乗り出しました。

「従来、当社では間接材に関する予算管理ができていなかったのですが、SAP Aribaの機能を使って年間の予算管理をしっかりと行い、予算がなければ、発注は行えないというルールを定めて、ルールへの順守を徹底するようにしています。会社の業績は、今回のコロナ禍のような有事によって、想定外の変動を示す場合があります。ですから、間接材についても年間・毎月の予算管理をしっかりと行うことが必要で、それができるようになった意義は決して小さくないと考えています」(上原氏)。

以上のように、同社は当初掲げた目標である「調達業務のハイバリュー化」「支出の可視化」、そして「サプライヤの集約化」の3点の達成に向けて、さまざまな施策を展開し、着実な成果を挙げつつあります。そのプロセスは、SAP Aribaを使って、課題を抽出し、解決を図り、また新たな課題を見つけて、解決を図ることの繰り返しであると、上原氏は明かします。

また、この繰り返しこそが、SAP AribaのようなITシステムを最大限に活かすうえで最も重要なことであり、「今後も、SAP Aribaを使い、課題の解決と新たな課題の発見という自己改善のサイクルを回しながら、間接材調達・購買業務のガバナンス強化と標準化を推し進めていくつもりです」との意向を示し、上原氏は話を締めくくりました。

<了>