SAP Japan プレスルーム

KPIから「パーパス」へ―企業内社会起業を牽引するSAPジャパンの21世紀型ビジネスモデル―

The rice crop is ready for harvesting at a field in Badin, Sindh. The laborers deputed for the harvesting activity will get in return a bag against 12 bags each they prepare.

貧困や環境問題などの社会課題を解決する「社会起業(ソーシャルイノベーション)」が注目されています。各企業においても、ビジネスの継続性を含む新たな社会起業実現の動きが台頭してきました。自身の業務を抱えながら、企業内でいかに社会課題解決に携わることができるか。
今回は2021年6月24日にVenture’s Cafe Tokyoで行われた『組織(人)から始める 最強のソーシャルイノベーションの起こし方 〜企業内社会起業家になる方法〜』の詳細をお伝えします。

登壇者:
太田 智(インテリジェントスペンド事業本部 バリューアドバイザリー ディレクター | ソーシャルリクルーティングプラットフォーム プロジェクトリーダー)
吉元 宣裕(SAP イノベーションフィールド福島 所長)

司会:
藤田 勝利(Venture Café Tokyo 戦略ディレクター | 桃山学院大学経営学部ビジネスデザイン学科 特任教授 | PROJECT INITIATIVE 株式会社 代表取締)

左から、吉元宣裕、太田智、藤田勝利氏

 

1.社会課題に対するSAP内での変化

企業が社会課題解決に取り組む必要性

司会:お二方はSAPジャパンの中で社会起業に取り組んでらっしゃいますが、会社の捉え方について、変化を感じることはありますか?

太田:SAPジャパンでは、会社のビジョンの実現や存在意義を進める仕組みがなされるようになってきました。
現在私は、本業以外に社内で社会起業活動を約10名のメンバーと進めていますが、全員が上司の承認のもと副業/プロボノとして参加しており、社会活動が最終的には組織に返ってくるという意識の浸透を実感しています。

吉元:私は20年近くSAPにいて営業をしていた期間も長いのですが、営業時代はKPIにかなり縛られて仕事をしていました。しかし、KPIだけのマネジメントではモチベーションも維持しづらく、従業員も定着しませんでした。
そこで今、SAPでは、個人の能力や目標と、会社の目的と、社会の目的を合致させていく取り組みを、会社として真剣に取り組んでいます。SAPではこれを、「パーパス」と呼んでいます。

社会課題解決に向く若者の意識と共に働く際の姿勢

司会:若い方は、より社会課題への意識が高いと言われていますが、実際のところいかがでしょうか?

吉元:インターンとしてSAPで働いている大学生が、福島でのソーシャルイノベーションに強く関心を示してくれています。自ら手伝いを申し出て、毎週ニュースレターを書いてくれています。彼らの新鮮な目で見た情報には、新しい気づきが多く、大変好評です。

太田:一緒に活動する若手に言われ、とても嬉しく印象的だった言葉があります。「会社員として働き始めた際に一旦は社会活動を諦めていたが、企業内で社会活動ができるようになり、自分の仕事と社会との繋がりという掛け算が見えてきた」と。
若い人の意識は社会課題の解決に向いているので、彼らの可能性を狭めずにどれだけ活躍の場を提供し、やる気を引き出していくのか。そこが肝だと感じています。

2.SAPでの社会起業の仕組み

「One Billion Lives」を通した社内社会起業を実現

司会:経営の視点から見た際に、まず取り組める社会起業のための仕組みづくりは何でしょう?

太田:One Billion Lives(1BL)は「世界をよりよくし、人々の生活を向上させる」というSAPのグローバルビジョンに基づいた、社内社会起業グローバルプロジェクトです。2020年度は世界中から約250のアイデアの中で、アジア地域において日本で初めて私の案がこの選考を通過しました。現在、一般社団法人グラミン日本と提携し、日本に約2,000万人いると言われる生活困窮者への経済的自立支援を行っています。
私の案は、ソーシャルリクルーティングプラットフォームを構築し、困窮者の経済的自立支援を促進するということです。
このプラットフォームは、SAPジャパンがSAP Fieldglassというソリューションを活用して開発した、就労を希望する生活困窮者やその支援団体と、企業をつなぐシステムです。仕事の紹介だけでなく、「スキルアップ=教育の機会」も提供する点や、このプラットフォーム上に情報が蓄積され長期的な支援が可能な点が、既存の人材紹介ビジネスとは大きく異なります。

中期変革プログラム / SAPイノベーションフィールド福島

吉元:私と太田はSAPジャパンの中期変革プログラムで「社会」カテゴリをリードしています。社員が社会課題にもっと関心を持ったり、自分の仕事と社会の接点を見出したりできる仕組みづくりをまさに今、取り組んでいます。変革プログラムの中に、「社会」というキーワードが入っていることも、大きな意味があります。他のカテゴリ(顧客、製品・サービス、人、認知)と並列に扱われることで、活動状況の共有、結果に責任を持ち、しっかりと進めることができています。
また、私は日本で一番のスマートシティである福島県会津若松市で、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいます。

SAPジャパンは、ここで3つの領域で活動を行っています。

3.社会活動には不可欠な継続性

司会:今お二人がなさっている活動は、コストはかかっても10年後のバリューと考えるととても大きいと予想します。経営層に対してどのように伝えていますか?

吉元:社会課題の解決を売り上げやKPIにどう結びつけていくかは、私自身、非常に悩みました。この取り組みをどう会社の価値として捉えていけばいいのか。
自分なりに考えて出した解は、社会活動がマーケットにインパクトを与え、結果的にはマーケットからの回収ができ得るということ。売り上げや利益だけでなく、社会活動における価値を伝えていくことが、本当の意味での会社の価値につながる。今は、21世紀型の経営モデルはここにあると納得し、ストーリーを思い描きながら会社と対話しています。

プロジェクト成功へ向け、活動内容の発信を続けること

太田:日本人の謙虚さと相反する部分がありますが、プロジェクトを推し進めるためには、多少無理をしてでも発信し続けることが重要です。上層部は今回の活動にすごく前向きですが、それが即現場につながる訳ではないので。例えば、「社長が応援しているプロジェクト」と周囲に分かってもらえれば、支援をしてもらいやすくなります。

一時的なイベントではなく、当人達の力の底上げこそが社会課題を解決

吉元:現在、福島で行っている中小企業向けの仕組みは、10年先にようやく黒字が見込めるビジネスです。都会の大手企業が一時的に支援しても、本当の意味で都市間の格差はなくなりません。地元の人たちの力を底上げしつつ、すぐに収益を上げるのは簡単なことではないです。

4.社会課題について個人としてのあり方

「何がしたいか」の想いを明確にし、行動に移せば説得力が増す

司会:とはいえ、お二人は役職が高くて権限もお持ちでしょう。経営視点ではなく、現場から活動を起こすための助言はありますか?

太田:自分自身が何をしたいか、想いを明確にして行動に移すことです。例えば、NPOに入ってボランティアをすることで、手触り感のある社会課題を認識できますよね。そこでの手応えが、後々活動をする上で説得力を増していくので、重要なスタートポイントになります。
「役職が高い」と言われましたが、自分の影響力では足りなくて、今回のプロジェクトも上を巻き込んで初めて動き出すことができました。一番上という場合を除けば上下関係なく、難しさはみんな同じではないでしょうか。
あとは経営視点で自社を見るトレーニングをすることです。経営視点で自社を見られると、自社のバリューと社会課題を掛け合わせた時にどんなユニークネスを出していけるのかが見えてきます。それを発信すれば、仲間がうまれ活動に拍車をかけられます。
日々の仕事と社会との接点は、ともすると見出しにくいですが、自分がしている仕事も、大きな視点で見たら必ず社会と繋がっています。

5.最後に

吉元:社会に対して一社でできることは少なく、社会課題はみんなで取り組むべき課題です。
会社としても新しいビジネスを作りたい流れがありますよね。デジタルを使って新しい仕事に繋げることが、実現しやすい時代になってきています。今日お話する機会をいただきましたが、我々は別に社会起業をすでに成功させている訳でもなくて、道半ばでいろんなことをやっています。現場を見に行くことを凄く大切にして、皆さんと一緒に社会起業に取り組んでいきたいです。

司会:今日のお二方のお話から、企業内社会起業について、本格的に潮目が変わり大きなうねりになっていくことを確信しています。一緒にやりたいという方には、是非、直接連絡をしていただき、ここから色々な対話の輪が広がってほしいと願います。

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