私たちはSAP Ariba導入後のお客様のツールの定着・展開・活用促進を支援する活動をしております。日々の顧客支援活動から、皆さまにご参考いただけそうなことを発信していきたいと思います。 今回のテーマは「戦わずして勝つための調達購買戦略」です。

はじめに

前回のブログではカテゴリーマネージャーの役割と重要性についてお話ししました。今回はその続編です。調達購買組織における戦略のお話を通じてもう少し具体的にカテゴリーマネージャーの役割を説明します。

戦略は戦術とどう違う?

戦略に似た言葉で戦術というのがあります。この2つの違いをプロスポーツを例にとって説明します。 例えば野球です。今日の試合に勝つための作戦を戦術と言います。先発投手やバッターの打順を決める、この打者に対して次はどのような球を投げるかなどです。

一方、球団の目標は優勝することと、ファンを球場に集めることですよね。そのために、シーズン前に何をするべきかを考えて前もって計画することが戦略なのです。具体的に言うと、昨シーズンのデータ分析、監督・コーチ陣の顔ぶれの見直しや選手の補強、トレーニング計画などなど、やることは多岐にわたるようです。最近ではSNSの活用で選手とファンの距離を縮める方法の研究なども盛んだと聞きます。つまり、今後1年間を有利に戦うための準備が戦略です。

わかりました。では調達購買に置き換えるとどうなりますか?

それでは置き換えてみましょう。ここでは「勝ち」の定義を、必要な商材を調達購買組織が厳選した適切なサプライヤーから適正価格で、簡単に購入できて、エンドユーザーは本来業務に専念できるという状態だとしましょう。さらに、購買不正や癒着などの発生確率を下げることができればコンプライアンス上も好ましい状況です。

では、どのようにそれを実現していくのかを見ていきましょう。この状況を作る準備をするのが調達購買における戦略的な部分です。 SAP Aribaでは「調達」と「購買」を明確に分けています。調達は下の図の左側のサイクルで戦略的な活動をする部分です。支出データの分析から始まり、サプライヤー発掘、ソーシング、契約に至るプロセスを指します。ソーシングというのはどこのサプライヤーから調達するかを決めるための比較検討および決定を言います。ここは調達のプロであるカテゴリーマネージャーが行う領域になります。一方、購買は右のサイクルを指します。実際にモノやサービスを必要とするエンドユーザーが購買申請・発注をし、受領して支払いが行われるまでのプロセスを指します。

購買サイクルと調達サイクルの循環
購買サイクルと調達サイクルの循環

データドリブン経営の潮流

日本企業の調達購買では直接材の分野は進んでいますが、間接材の分野はまだ勘と経験に頼っている部分が多いと言えます。早くからデータドリブン経営を取り入れたのは欧米の企業です。データドリブン経営は今までマーケティング、ファイナンス、製品開発の分野で様々なパラダイムシフトを起こしてきました。それが今は調達購買の分野にも入って来ています。

SAP Aribaはそのような欧米の先進的な調達購買のデータドリブンプロセスを支える設計になっています。日本では欧米のトレンドが数年後に入ってくる傾向がありますので、日本企業の中でも先進的なトレンドを取り込んでいる企業はこの分野には興味津々なのではないでしょうか?

ではどこにそのデータがあるのでしょうか?実は調達購買に関するデータはたくさんあります。皆さんお気づきでしょうか?上の図の購買サイクルと調達サイクルはつながっており、大きな循環をしています。購買サイクルの発注~支払いデータは、調達サイクルの支出分析のインプットになっています。それらのデータはサプライヤー、品目、数量、発注日、発注者(部署)、支払い金額など単純なデータですが、カテゴリーマネージャーが分析に使えば宝の山になります。 2つ・3つのデータを組み合わせただけでいろいろなことがわかります。

具体的に見ていきましょう。ある商材の年間発注総額はいくらなのか。その供給元のサプライヤーは何社に分散しているのか。最低単価・最高単価の開きはいくらなのか。一回の発注個数はいくつか?(集約発注・分散発注)。商材の仕様は統一されているのか、などです。また必要に応じて発注者にサプライヤーの評価をアンケートやインタビューで聞き取ることもできます。

無視できない、エンドユーザーの工数

ここからは架空の企業の架空のカテゴリーマネージャーが行ったデータを使った戦略的ソーシングのシナリオを見ていきましょう。 カテゴリーマネージャーは支出データから、ある特定の商材は全社で合計すると大量に発注されているにも関わらず、各事業所のエンドユーザーが年間を通じてバラバラに個別発注していることを突き止めました。 相見積もりに費やされるエンドユーザーの工数が無視できないレベルであることがデータからわかります。

例えば、この商材は1年間に1,000人が発注していました。しかも平均すると一人当たり1年間に4回発注しています。この商材はカタログ化されていないので、発注の都度、相見積もりを取る必要があります。社内ルールでは相見積もりは3社以上から取らなければなりません。発注者は同等のものを販売しているサプライヤーを3社探して問い合わせをし、それぞれに見積もり依頼を出し、返事を貰うまでに何度かメッセージのやり取りをしたり、営業マンの訪問を受けたりして、入手した見積書を比較検討しなければなりません。そして交渉の後に1社に発注をします。この作業に何日かかかりますが、合計時間は平均すると4時間ほどです。この商材は工場や研究所のエンジニアが主に使うものです。優秀なエンジニアの給与・福利厚生費用を時給換算すると約5,000円/hになります。これらの数字を計算すると全社で年間に約8,000万円のコストがかかっていることがわかりました。

1,000人/年×4回/人/年×4時間/回×5,000円/h=8,000万円

エンジニアが本来の業務から創出する価値は給与の数倍になることもありますので、これは馬鹿にならない機会損失であることがわかります。1名のエンジニアからすると大した作業ではないですが、全社レベルでのインパクトは、全社の支出データを分析するカテゴリーマネージャーがいなければ誰も気にしていなかった事でしょう。また、これだけでなく他の商材でも同じことが行われていれば同様のコストが掛かっていると思われます。

戦略的ソーシングの実施

そこでこのカテゴリーマネージャーはこの商材をカタログ化してワンクリックで購入できるようにしようと考えて戦略的ソーシングプロセスを開始します。

この商材を提供できて、しかも全国をカバーするサプライヤーを5社ピックアップしました。この中には今までこの商材を提供していたサプライヤーも入っていますし、今回初めて声をかけたサプライヤーもいます。商材や競合状況によってリバースオークションが有効な場合とRFPが有効な場合がありますが、カテゴリーマネージャーはSAP AribaのStrategic Sourcingがサポートするソーシング方式の中から今回はリバースオークションをすることにしました。

オークションが適しているもの
適切なソーシングイベントを選ぶと効果が大きくなります

 
価格を競り下げていくリバースオークションは短時間で結果がわかりますし、適している商材では大きな費用削減効果が期待できます。既存のサプライヤーは今までのビジネスを無くしたくありませんし、しかもサプライヤーを集約するという方針であると聞いているので、選定されれば発注量は数倍に跳ね上がることが予想されます。ここは是非とも勝たなくてはなりません。また新規に参入するサプライヤーは多少無理をしてでも新規ビジネスを取りたいと思っています。カテゴリーマネージャーのシナリオ通り、参加サプライヤーの競争心は非常に高くなっています。

ソーシングの成果

年間の発注実績はここ数年変わっていないので、この発注実績数を発注予定数にして単価を競わせることにしました。その結果、既存のサプライヤーの1つが最安値を出しました。単価は今までバラバラに発注していた価格の平均から20%下げることができました。その商材をSAP Aribaのカタログに載せることで、今まで4時間かかっていた購入手続きを5分に短縮することができました。この商材はカタログ外から購入する事を禁止していますので、カテゴリーマネージャーが契約したサプライヤーに間違いなく発注が集約されますし、購買不正が入り込む隙間もありません。

発注都度の相見積もりは費用削減効果が低い

このように既存のサプライヤーが最安値を出すことはよくあります。新規参入意欲よりも既存のビジネスを失いたくないというモチベーションの方が高いということだと思います。この事実からわかるように一般的には発注都度の相見積もりは手間がかかる割に費用削減効果はあまり高くないと言われています。

まとめ

ニッチな商材でカタログ化に適さないものは確かに存在します。ですから都度見積もりはなくなりませんが、全支出の過半数という場合は支出分析から見直してみる価値があると思われます。 良い戦略(戦略的ソーシング)をすることで相見積もりの手間を掛けずに適正価格でコンプライアンスに準じた購買ができますので皆さんも挑戦してみてはいかがでしょうか?