SAP Japan プレスルーム

10億人が”エネルギー貧困”から抜け出すために~Bboxxの挑戦~

Grinning Indian girl standing near thatched hut

2020年のSAPPHIRE NOWで、この年新たなSAP SEのCEOになったChristian Kleinが、キーノートセッションで、「サスティナブルエンタープライズ:続可能な企業」というコンセプトを打ち出した。Christianの、「若い世代に、どのような地球を残せるのかを決めるのも我々です。私が何より望むのは、娘のエマと3才の息子マックスが健康的な環境で育ち、彼らに重荷を背負わせないことです。幸運にも、舵取りは我々に任されています。」という言葉への大きな共感。4児の父親である私にも、Christian同様、自分たちの子供の世代により良い環境、持続可能な地球を残していきたいという強い想いがある。しかしそれはあくまでも個人的な想いと捉えていたし、仕事の中で直接的にその想いを生かせるとは考えていなかった自分の先入観に気づいた驚きもあった。

SAPPHIRE NOW 2020 キーノートセッション
SAPPHIRE NOW 2020 キーノートセッションより

SAP Innovation Awardsには、“Social Catalyst”という受賞カテゴリーがあり、SAPソリューションの活用を通じて、社会、環境、あるいは経済に対してポジティブな影響がある取り組みを表彰する。ちなみに、SAPのコーポレート・ビジョンである「世界をより良くし、人々の生活を向上させる」が受賞クライテリアに織り込まれた唯一のカテゴリーだ。今年のSocial CatalystにBboxxが選ばれたことを知ったとき、SAP(と私)が想い描くひとつの姿になっていると感じた。今回の受賞をもっと日本の方々に知っていただくことは、微力な私だとしても世界をより良くすることに繋がり、しかも今できることではないか。すぐに先輩たちのブログ執筆活動に参加することにした。

社会的課題解決は、想いだけでは続かない。長期的に取り組む必要があり、そのためにこそ持続可能なビジネスモデルが不可欠である。そのビジネスモデルを構築することで、規模を拡大でき、恩恵を受ける人々がさらに増えていく。

Bboxxは、アフリカにおいてエネルギー貧困問題を本気で解決したいという純粋な想いから、まさに持続可能なビジネスモデルを構築し、最新テクノロジーを活用して短期間でアフリカの国々に展開することで、人々の生活を向上させた。

木製調理燃料による健康被害と森林破壊

現在、全世界では、約7.7億人が炭や薪といった木製調理燃料に依存し、電気エネルギーにアクセスできずに暮らしている。しかもそのうちの約5.9億人がアフリカに住んでいる。さらに全世界では、約8.4億人が信頼性の低い送電網にしか接続できていない。

国際エネルギー機関IEAによると、電気エネルギーにアクセスできないために、約40億人以上の人々が清潔な調理設備を利用できず、固形バイオマス、灯油、または石炭といった汚染の懸念のある危険な燃料に依存している。その料理の煙による家庭内の大気汚染によって、特に女性と子供が影響を受け、年間約400万人の早期死亡を引き起こしている。

特に、サハラ以南のアフリカは今世紀における人口増加地域のひとつであり、結果として電気エネルギーにアクセスできない人数が大幅に増加し続けている。炭や薪の使用は、人々の健康・生活に影響を与えるだけでなく、温室効果ガスや黒い煤を大量に排出し、森林破壊の原因となり、世界銀行によると、その環境コストは年間約2.4兆ドル以上と算出されている。

エネルギー貧困に挑む次世代ユーティリティ企業

Bboxxは、エネルギー貧困という世界的な問題を解決するために、2010年に設立された次世代ユーティリティ企業だ。本社は英国にあり、コンゴ民主共和国、ケニア、ルワンダ、トーゴを含む 9 つのオフィスに 900 人以上のスタッフを擁し、製造拠点を中国に置いている。

ビジネスは、発展途上国における分散型太陽光発電システムの製造、流通、資金提供だ。同社は展開先での販売流通サービスパートナと戦略的パートナーシップを締結し、IoTテクノロジーを使用した包括的な管理プラットフォームBboxx Pulse® を構築することで、ビジネス規模を拡大している。Bboxx Pulseは、分散型太陽光発電のリモート監視だけでなく、顧客管理、請求支払管理、ビジネスKPI管理、工事の進捗管理まで、幅広い業務をカバーしているプラットフォームだ。

Bboxx社 ユーティリティプラットフォーム全体像

出典 Bboox News June 25, 2021 2 million people. 2 million storiesより筆者加筆

Bboxxは、手頃な価格で信頼性が高い、クリーンなユーティリティの提供を通じて、発展途上国の人々をデジタルエコノミーに招き入れ、新しい市場を創出し、オフグリッドコミュニティ(電力会社に頼らずとも電力を自給自足している地域)や信頼性が高い送配電網が整備されていない地域で生活している人々の経済発展を可能にしている。

同社は27の市場で製品とサービスを提供することで、200 万人以上の人々の生活に影響を与え、かつての課題を克服し改善している。しかも国連の持続可能な開発目標 (SDG)17部門 のうち、 11部門に直接貢献している(ちなみにSAPは8部門)。2019 年、Bboxx はUAEが主催する持続可能な革新的ソリューションに取り組む中小企業、NPO向けの Zayed Sustainability Prize のエネルギー部門を受賞している。同社が世界中の人々の生活に有意義な変化をもたらしていることの証のひとつだ。

Bboxxの持続可能なビジネスモデルを支えるSAP

Bboxxは、設立当時からエネルギーの貧困を解決するという目標を達成するために、いかにしてビジネスをグローバルに迅速に展開するかを検討していた。彼らのスピード感は野心的で、5年以内に10カ国から23カ国に拡大するというもの。迅速な展開と定着化には、グローバルレベルでの一貫性ある業務プロセスのベストプラクティスと自動化が必要なのは言うまでもない。具体的な要件は、財務会計、サプライチェーン、在庫管理の最適化、自社のIoTプラットフォームであるBboxx Pulseとの連携。この先のビジネス規模の拡大に対応可能なクラウドベースのプラットフォームであることも重要な要件だった。

同社のグローバルビジネス展開を支援し、十分な柔軟性と革新性を備えた戦略的グローバルパートナーとしてSAPが採用された。

SAPが採用された理由:

  1. テクノロジーの優位性
    SAPが提供する「Grow by SAP」という超成長企業向け専用プログラム、SAPソリューションSAP Business ByDesign-サプライチェーンおよび財務のクラウドプラットフォーム業務に適合
  2. コーポレート・ビジョンの一致
    両社がともに「世界をより良くする」を掲げる。SAPのコーポレート・ビジョンは前述の通り。Bboxx社のコーポレート・ビジョンは「エネルギーへのアクセスを通じて、人々の生活を変革し、可能性を解き放つ」

「私たちは発展途上国の電力へのアクセスを加速させたいと考えています。 私たちの目標はスケールが大きいため、SAP のような柔軟性と革新性を備え、私たちと一緒にその道のりを進んでいきたいという戦略的グローバルパートナーを持つことが不可欠です。」
Anthony Osijo, Group CFO, Bboxx Limited

プロジェクト概要

SAP Business ByDesign, 財務、サプライチェーンソリューションは、業務プロセスの広範な自動化と、SAP Business ByDesignに組み込まれたベストプラクティスの使用により、大幅な業務効率化を実現。財務およびサプライチェーン向けのクラウドベースのシングルインスタンスにより、Bboxx はグローバルで標準化された業務プロセスを実現し、展開国の法定帳票のニーズにも対応することが可能になった。

展開スケジュールとスコープ:

フェーズ 3 では、SAP Business ByDesignとBboxx Pulseを統合した。統合後のアーキテクチャは非常にシンプルである。

Bboxx社 ITアーキテクチャ

出典:SAP Innovation Award 2022 Bboxx Pitch Deckより筆者加筆

導入効果(2021年1月末時点)

ビジネス及び社会への効果:

特に農村部での具体的効果:

ITにおける効果:

人への効果:

Bboxxの今後

Bboxx のさらなる目標は、新しい領域(市場)への拡大である。世界中の約10億人以上の人々が信頼できるエネルギーにアクセスできない現状があり、Bboxxはそのギャップを埋める努力を続けている。SAPは、戦略的グローバルパートナーとしてBboxxと共に、発展途上国の電力アクセスを加速し、人々の生活の変革を引き続き支援していく。

次世代に持続可能な世界を残すことを実際に手掛けているBboxxの取り組みを、深く調べる機会を得たことで、私が手掛けている実際の活動をより推進するにあたって、とても大きな刺激になった。

読んでくださった方に、少しでも興味を持っていただけることを心から願う。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、Bboxxのレビューを受けたものではありません。

モバイルバージョンを終了