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川崎重工業が進める航空機製造の変革プロジェクト「Smart-K」の今|事業成長戦略としてのサプライチェーン改革 イベントレポートpart1

COVID‑19がもたらしたような社会情勢の変化が産業界に大きな影響を及ぼす現在、特に製造業界の企業には生産体制の強化やプロセスの標準化だけでなく、これらを支えるグローバル・サプライチェーンの変革が求められるようになっています。 2022年10月21日に日本の製造業界の経営層をはじめ、サプライチェーンに携わる管理職の方々をお招きして開催されたSupply Chain Transformation 2022「事業成長戦略としてのサプライチェーン改革」では、川崎重工業株式会社が注力するエンジアリングチェーンとサプライチェーンの標準化・可視化に向けた「Smart-K」プロジェクトの事例講演のほか、SAP SEとSAPジャパンのエキスパートを交えたサプライチェーン変革についてのディスカッションが行われました。 本ブログでは、川崎重工業株式会社の事例講演についてお伝えします。


サプライチェーンの最前線を標準化・可視化し、エンジニアリングチェーンを支援する DX「Smart-K」

川崎重工業株式会社 航空宇宙システムカンパニー 航空宇宙ディビジョン 新規事業推進部
兼 生産総括部 生産企画部 副部長(生産システム・サプライチェーン担当)酒井 亨氏

厳格なQMSが求められる航空機製造の現状と課題

待望の来場型イベントとして開催されたSupply Chain Transformation 2022では、サブタイトルとして「生産性向上を実現する、ものづくり企業のDX推進と、国内外の先進事例から考察する改革の進め方」というテーマが掲げられました。このテーマにおいて、今まさに国内でも最先端の取り組みを推進しているのが、船舶、鉄道車両、航空機、モーターサイクル、ガスタービンなどの製造で知られる川崎重工業株式会社です。事例講演で登壇した同社 航空宇宙システムカンパニーの酒井亨氏は、現在大きな力を注いでいる航空機製造の変革プロジェクト「Smart-K」についての講演を行いました。 数え切れないほどの部品や複雑な加工法を必要とする多品種・少量生産の航空機製造は、人手に頼る工程も多い労働集約型の産業です。さらに空中を飛行する航空機という特性から、非常に厳格な品質要求があり、製造工程においてもすべての指示と記録を保存する高度なQMS(Quality Management System)が求められます。

 
そこでは、設計から製造作業に至るすべての工程の厳密なトレーサビリティが求められることは言うまでもありません。航空機製造は、設計、図面、BOM(部品構成表)、作業指示といった各工程の連携によって成り立っていますが、川崎重工業では過去においてこれらの工程がすべて紙の書類で管理されており、「飛行機は紙で飛ぶ」と例えられるほど、現場は大量の紙であふれかえっていたといいます。 さらに同社では、製造工程の標準化をベースとした「カイゼン」を繰り返しており、ここでも変更管理に関する紙の書類が大量に発生していました。 こうした状況からの脱却を目指す「Smart-K」プロジェクトがスタートしたのは2018年です。酒井氏は「問題の根本は紙であり、紙を前提とした行動を変容させる手段はデジタル化しかありませんでした」と当時を振り返ります。まさに「Smart-K」は、航空機製造で要求されるQMS、トレーサビリティをより強固にし、データを共通言語として生産性を向上するデータドリブンな環境の再構築を目指すプロジェクトでした。

製造現場の人とデータをつなぐデジタルプラットフォーム 「Smart-K」

「Smart-K」は、これまで紙でつないできたエンジニアリングチェーンとサプライチェーンをデジタルで統合するプラットフォームです。設計要求を正確かつ迅速に製造現場に伝えること、厳格な変更管理とその影響を可視化し、変更管理とカイゼンを両立すること。そしてデータドリブンに向けて、個々のアクティビティを集約してデータ化することが主なテーマでした。

 
プロジェクトの初期段階では、まず作業手順に含まれる構成品の指定、作業指示、記録項目などをすべてデータ化。その中でマスターデータ、指示の仕方の標準化、技能や技術の形式知化が進み、それがデータを可視化するための土台となっていきました。さらにE-BOM(設計情報)とM-BOM・作業手順(製造情報)がつながることで、設計変更による影響が製造現場の最前線まで可視化されるようになりました。

 
「これらを明確な方針に基づいて全工場に展開することは、容易なことではありませんでした」と酒井氏が振り返る通り、プロジェクトの推進には綿密な準備と強い意志が必要だったといいます。

標準化・形式知化・可視化、さらなる価値創造に向けて

「Smart-K」が目指す標準化によって、これまでバラつきのあった業務品質は高いレベルで統一されるようになり、また標準化された工程から集約されるデータをもとに、さらなるカイゼンを進めるなど「サプライチェーンの中に眠っていた宝が可視化されていく」と酒井氏は成果を語ります。 「新たな価値は、何もないところからは生まれません。私たち製造業にとって、これまで築き上げてきたサプライチェーンに埋もれているデータこそが、新たな価値の源泉です。また、価値ある技術を事業としてスケールアウトするためには、標準化・形式知化・可視化が不可欠です。Smart-Kは、まさにそれを目指すための取り組みです」 すべての製造工程をデータでつなぐことで、エンジニアリングチェーンとサプライチェーン、また管理者、経営者が、同じ一次情報を異なる視点で見る「垂直のコラボレーション」が可能になります。さらに「データという共通言語があれば、サプライチェーンを通じて広くつながる水平のコラボレーションも生まれるはずです」と、酒井氏はビジネスの加速と新たな価値創造に向けた今後の期待を語り、セッションを終えました。

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