2022年10月21日に日本の製造業界の経営層をはじめ、サプライチェーンに携わる管理職の方々をお招きして開催されたSupply Chain Transformation 2022「事業成長戦略としてのサプライチェーン改革」。 本ブログでは、サプライチェーン改革プロジェクトの進め方についてディスカッションしたパネル講演の内容についてお伝えします。
パネルディスカッション~事業成長戦略としてのサプライチェーン改革プロジェクトの進め方~
事業の成長戦略に欠かせないサプライチェーン改革
Supply Chain Transformation 2022の最後のセッションでは、川崎重工業株式の酒井亨氏、SAP SEのドミニク・メッツガーに加えて、日本の製造業界における数々の変革プロジェクトを支援してきたSAPジャパンの坂田健司が参加して、サプライチェーン改革プロジェクトの進め方についてのパネルディスカッションが行われました。 最初のテーマとなったのは、サプライチェーン変革と事業の成長戦略との関連性です。これについて問われた酒井氏は、「Smart-K」プロジェクトにおける自身の経験を踏まえ、「私たちのプロジェクトは現場の課題、困りごとから出発しています。しかし、航空機製造におけるQMSの確保は事業の根幹であり、経営層も『このままではいけない』という強い危機感を持っていたことから、常に同じ方向を向かって進むことができたという経緯があります」と答えました。 これに対して、SAP SEのメッツガーは「酒井さんが危機感と言われたのと似ていますが、サプライチェーン改革はもはや事業の成長戦略に欠かせない重要な経営課題の1つとなっています。かつてはコストセンターと揶揄されたサプライチェーンは、Amazonの出現によって突然、企業の競争力を左右する差別化要因となりました。サプライチェーン改革の重要なポイントとしては、カスタマーエクセレンスで競合優位性を築くこと、クオリティーエクセレンスでプロダクトの質を高めること、そして顧客のニーズに合わせたカスタマイズ対応という3つの点を挙げることができます」と、サプライチェーン改革が事業戦略に与えるインパクトについてあらためて強調しました。 続いて、2つめのテーマとなった変革プロジェクトの目的を組織全体に浸透させる工夫、コツについては、酒井氏はコミュニケーションの重要性を挙げ、次のように話しました。 「私たちのプロジェクトでは、経営層、ユーザーの代表、そして現場のユーザーそれぞれにコミュニケーションの場を設けて、進捗報告や説明、意見交換などを継続的に行いました。それでも社内からの反対意見、抵抗は当然のように出てきます。この中でプロジェクトを前に進めるためには、プロジェクトチームに『何が起きても前に進む』という強い信念、ビジョンが必要だと思います」 これに対してSAPジャパンの坂田は、製造業界の実態を踏まえながら「経営層の方針とプロジェクトの目的の整合がとれていたとしても、現場における実効性の欠如によって成果が得られないことが散見されます。また、プロジェクトが長期化する中で歴代の担当者間で当初の目的がきちんと引き継がれず、経営層の方針が成果に反映されないこともあります。こうしたことを考えると、大きなプロジェクトであってもいくつもの小さなサブプロジェクトに分割して、短期間で繰り返し完成させていくことが、1つの解決策になるのではないか思います」とプロジェクト推進のコツを明かしました。 これを補足する形で、メッツガーは「プロジェクトを成功に導くためには、チェンジマネジメントも重要です。私が知っているBMWの改革事例では、サイロ化したシステムや開発・製造・物流の壁を破るために、プロセスの変革を担うエキスパートを欧州の各拠点から集めてワークショップを開き、その人たちをプロジェクトの牽引役としました。やはり、『人』はプロジェクトを成功させるための重要な要素だということです」と話し、酒井氏も「私もミドル層にかけ合って、現場のトップ人材をプロジェクトに参加してもらうことに尽力しました。こちらの熱意を理解してもらえれば、協力してくれる人は必ず出てくるものです」と同様の見解を示しました。
変革で求められる経営層のデジタルリテラシー
3つめのテーマとなったのは、変革を推進するにあたって、経営層にはどのようなデジタルリテラシーが求められるかです。これについて酒井氏からは、「経営者のデジタルリテラシーが何たるかはいろいろな議論があるとは思いますが、私の立場から言えば、経営層に必要なのは、自らがデジタルを活用して何かをするということではなく、正しい判断を下すためにはデジタルの活用が不可欠であることを理解し、そこへの投資を躊躇しないことだと思います」という見解が示されました。 メッツガーも酒井氏と同様に「すでにデジタルリーダーシップという考え方が出てきていて、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)という役職を設ける企業が増えています。その役割はビジネスの変革においてデジタルが大きな意味を持つことを理解して、経営と現場の橋渡しをすることです。つまりデジタルリテラシーとは、オープンマインドで技術を積極的に理解していく姿勢だと思います」と話しました。 また、坂田からは製造業界におけるデジタルリテラシーの現状について、次のように説明がありました。 「製造業界においても、多くの経営層がデジタルの重要性を理解するようになっていますが、ミドル層はさらに高い感度でデジタルがもたらす価値を認識しています。ある企業では、ミドル層向けにデータ活用専門のヘルプデスクを設け、こんなデータ分析ができないかといった相談に応じてレクチャーしたり、一緒に手を動かしてデータモデルを作ったりしています。これらは非常に実践的で面白い取り組みです」
さらに重要となるサプライチェーン改革の実践に向けて
最後に、今まさにサプライチェーン改革プロジェクトで奮闘している方々へメッセージを求められたパネリストは、それぞれが次のように話しました。 まず、メッツガーは現在の世界的な情勢を踏まえて、「今日のグローバル・サプライチェーンでは多くの混乱が起きており、リスクが高まっています。しかし、リスクはチャンスに変えることができます。サイロ化した組織を見直し、レジリエンスを高め、ビジネスプロセスを変革する大きなチャンスです。日本企業はサプライチェーンの運用にかけて世界でもトップレベルだと思っています。私もSAPの独自の知見を日本のやり方と融合しながら、変革のお手伝いをしていきたいと考えています」と、日本企業に向けてエールを送りました。 同様に坂田も、「SAPはまだまだERPのイメージが強いことから、SAPのシステム導入においては何でもベストプラクティスに合わせて標準化するものだと思われている方が多いかもしれません。しかし、デジタルサプライチェーンの領域においては、まだ『これが定番の導入方法』というものは確立されておらず、お客様の状況にあわせた標準化の取捨選択が必要だと認識しています。私たちSAPはこうした領域で多くのお客様を支援していることをご理解いただき、皆様のサプライチェーン改革に伴走していきたいと思います」と来場者に呼びかけました。 また酒井氏は、「実践面で私が大事だと思うのは、何でも自分たちだけでやろうとせず、社内の関係者、また外部のパートナーとのコラボレーションを高めていくことです。幅広い対話を通じて、どのようにして強い製造業を作り上げていくかを、皆で考える姿こそが望ましいと思います」と話し、多くの来場者の共感を呼びました。 Supply Chain Transformation 2022では、セッション終了後も多くの来場者、またSAP関係者のネットワーキングが開催され、さまざまな意見交換が行われました。今回のセミナーで明らかになった知見は、ニューノーマルな世界で広範なビジネス課題に取り組む企業にとって、新たな成長を目指すきっかけとなるはずです。
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