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なぜ今日本でS&OPを取り組むべきか、S&OP導入の勘所は?

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なぜ今日本でS&OPを取り組むべきなのか

ご存じの通り、コロナの供給問題、地政学リスクにより、様々なサプライチェーンの課題が大きく高まっている。また、国内市場は成熟し、企業活動はよりグローバル化している。このように供給網がますます複雑化し、需要は多様化・グローバル化する中、それを支えてきた国内労働力の不足は更に加速していく。そういった状況の中、「買いたい時にいつでも安く買える。業務はとにかく欲しい数を持ってくればよい。優秀な現場に任せて良いものを作れば売上成長してあとは上手くいく」といった、かつての日本の成長期の常識は完全に過去のものとなっている。

そんな中、日本の製造業で今後重要となる課題の1つはS&OP (Sales & Operation Planning)である。欧米では30年ぐらい実践されてきたが、まだまだ日本では普及していない。マッキンゼー黒川道彦パートナーも日本企業の取り組むべきDX課題に関する2023年の記事の中で、日本企業のDX改革は部門単位の改革に留まっており、今後全社的に注力すべき領域の中でトップライン成長に寄与する取り組みの一つとして、S&OPを取り上げている。

日本企業のDXの現在地と今後注力すべき領域 (出典:マッキンゼー)

また、ガートナーで5段階のS&OP成熟度というものがある。1はS&OP無し、あるいは始めたばかりで、部門間連携はバラバラ。5は完全に成熟しており、社内連携だけではなく、サプライヤーから顧客まで、上流から下流まで連携して価値創造。3は、その中間の社内連携がある程度進んだ段階である。私の肌感覚では、日本企業の9割以上が1~3の間ではないかと思われる。逆に、日本企業はまだまだ伸びしろがあり、この領域に大きな機会があると言える。

S&OPとは?

S&OPはトップダウンかつボトムアップの部門横断プロセスであり、中長期で売上・利益・キャッシュフローのベストバランスを実現する統合意思決定プロセスである。短期の欠品、過剰在庫削減にも貢献するが、注力しているのは3か月から18か月先の中長期の計画であり、数量だけでなく金額も議論し、各部門が合意された同じ数字、ワンナンバーで動くのを特徴としている。基本ステップは製品会議、需要会議、供給会議、需給統合会議、幹部会議の5ステップであり、基本毎月決まったリズムで、準備・確認・議論・意思決定・振り返りを行うPDCAサイクルである。もしS&OPがない場合は、売上・利益・キャッシュフロー・オペレーション労力、いずれかにひずみが生じるだろう。S&OPがなくて困る典型的な例は利益成長なく、欠品、過剰在庫が大きく発生、といったケースである。

S&OP導入の勘所

S&OPを導入するにあたって大事なのは、重要な順に、1.組織文化 2. プロセス 3. システムの3つである。この順番が重要である。これは私が20年前に需要予測を学びに参加したアメリカのセミナーでテネシー大学の教授が言った言葉であり、その後20年間、私がS&OPを導入し実践した経験の中でもそうであったし、今後もこの本質は基本変わらないと思っている。

  1. 組織文化
    S&OPはトップダウンかつボトムアップの部門横断プロセスであるので、それを支える組織文化が一番の必要条件であり、ここが日本でS&OPの普及が進まない一番の課題と思われる。まず、トップのS&OPに対するコミットメントが必要になる。S&OPが重要な変革の一つとトップが信じ、取り組みに全面サポートしてくれること。結果が出るまで時間もリソースもかかるが、辛抱強く支持してくれることである。また、日本企業でサプライチェーン部門がある会社が比較的少ないが、S&OPを主幹として取り組む組織は生産部門、物流部門、営業部門の一部ではなく、独立したサプライチェーン部門もしくはS&OP部門として、直接トップにレポートする部門が望ましい。特定部門に偏らず、経営トップ視線で、売上・利益・キャッシュの最適化を目指すからだ。また、部門横断的にコラボレーションする文化が重要である。S&OPは一歩間違えると、犯人捜しでひたすら他部門を責める会議の連続になるからだ。そうなると、空中分解してしまう。困難があっても人を責めるのではなく、ポジティブに認めるところは認め、課題に上下左右を超えてみんなで取り組む姿勢を育むオープンな企業文化が重要。最後にピータードラッカーの”What’s gets measured gets done”、「測定できたことだけが達成される」という言葉はS&OPでも大いに当てはまる。私も著名な日本企業の方に在庫が会社の数値目標に含まれていない、サプライチェーンは数字の世界ではないと言われ、大変驚いたことがある。まずは目標達成のために数値目標化し測定していくこと、その上で複数部門にわたって数値目標の共通化を図ることが大事だ。在庫目標は複数部門にまたがって目標化されることは多いが、S&OP成功の鍵となる需要予測精度もサプライチェーンだけでなく、販売計画に大きく寄与する営業・マーケティング部門の共通目標になれば、成功の確度は大きく高まる。
  2. プロセス
    組織文化が整った上で、S&OPはプロセスなので、プロセス・リズムを整えていくことになる。S&OPは5ステップの意思決定プロセスを月次サイクルで回し、標準的リズムで行う。想定、決定事項、積み残し課題を記録として残し、振り返りを行い改善していくPDCAサイクルをひたすら愚直に実行していくことが重要である。標準の型があるからこそ、有事にも柔軟に対応できる。もちろん直近のサプライチェーンの課題を全て直接解決できるわけではないが、共通目標に向かって部門間コミュニケーションを図って解決する土壌ができているので、各部門で知恵を出し、解決できないものはトップの決裁を仰ぎつつ取り組んでいくことができるので、S&OPがない企業よりも素早く対応できる。
  3. システム
    システムは部門横断意思決定プロセスを支えることが重要である。営業、マーケティング、財務、製造等の視点が異なる様々な部門と議論合意を得るために、各プロセスで様々な粒度で素早く情報流通、意思決定を支えなければならない。すなわち、事業別、製品カテゴリ別、拠点別、数量・金額別といった切り口で素早くわかる必要がある。今日様々なソリューションがあるが、システムの中で一番強調したいのはマスターガバナンスの重要性である。ビジネスの変化に対して堅牢かつ柔軟なマスターガバナンス、これが全ての根幹になる。数多くの現場で重宝されているExcelは経営視点での可視化に限界があり、分析検討よりも集計チェックに工数を割いていたり、属人的であるため長期の運用が継続できないといった問題がある。また、素早い意思決定が求められる緊急時、社外も含めたS&OPプロセスの高度化の際も、Excelによる人海戦術は必ず限界を迎える。

おわりに

S&OPプロセス構築は時間がかかるが、多くの日本企業にとって意味ある取り組みであると信じている。私の泥臭く執念深くプロセス改善に取り組み成果を上げた経験や、SAPの様々な領域の専門家の知見がお役に立てるのではと思っています。SAPのデータベースから他社比較による現状把握といった変革のためのご支援も可能です。ご関心のある方はお気軽にお問い合わせください。

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【参考文献】

執筆:井上健語 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司. “【独自】マッキンゼーに聞く「DXの成功レシピ」とは? 日本企業が取り組むべき4つの重点領域”. ビジネス+IT. 2023-05-25.https://www.sbbit.jp/article/cont1/109940, (参照 2023-09-02)  .
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