調達活動を推進する上で、取引先(購買先)の管理は重要な要素です。
一般的な取引先の管理は、取引先の財務状況や反社会的組織とのつながりがないかなど、取引先自身が事業を継続していく上で健全か否かを確認することが主になります。これは、自社の事業継続性を担保するための活動です。
しかし、大手企業ともなれば取引先が数千におよぶこともあり、取引先を管理するだけでも非常に沢山の労力がかかります。また取引先を自社だけで評価することは難しいため、外部の専門業者に委託していることも多く、自社で収集した情報と外部から収集した情報の整理も大変です。
VUCA(不確実性、不安定性、複雑性、曖昧性)と呼ばれて久しいですが、現在では戦争や災害などによりサプライチェーンが頻繁に分断される事態が増加しています。これにより、取引先の経営環境が急速に変動する可能性が高まっています。さらに、グローバル化の進展に伴い、海外企業からの仕入れが増加していることを考慮すると、取引先管理の高度化と効率化がますます重要となるでしょう。
では、日本企業におけるこの取引先管理の実態はどのようになっているでしょうか?私自身が大手企業の調達担当の方々と会話をさせていただいている中では、このような声が聞こえてきます。
- 「自社の購買担当が個別にExcelなどで属人的に管理している」
- 「共有フォルダーに情報は入れているが、あまり更新されていない」
- 「さまざまな部署で管理しており一元的に見る仕組みはない。また、各事業で同じ取引先の調査をしており無駄が生じていることがある」
一方、回答も調達側でリードしている方からの声としても
- 「顧客から似たような質問表が届いており、ほぼ毎日1件以上は依頼がきており、それを回答するだけの人員が必要になっている」
これらの声をまとめると
- 取引先情報の管理の一元化ができていない
- 情報鮮度が担保できていない
- その結果、自社がどの程度取引先を管理できているのかを把握するのが難しい
という課題があることが理解できます。
大手企業であってもこのような管理レベルにとどまっているのは、基本的に取引先企業はつぶれないという前提で管理をしてきた結果ではないでしょうか。逆に考えると、このような管理でも今までは大きな問題があった訳ではなく、管理方法を見直す機会が無かったと言えるでしょう。
それではこれからの取引先管理は、どのように考えていくべきでしょうか。
2018年1月のニューヨークタイムスによると、世界最大級の資産運用会社ブラックロックの会長兼CEOであるラリー・フィンクが「持続的に繁栄するためにも、すべての企業は財務的業績を上げるだけではなく、どのように社会にプラスの貢献をするのかを示さなければいけない。」(*1)という発言をしており、2022年の段階で約30兆ドルのお金がESG投資に費やされています。
日本でも、昨今SDGsやESG投資という言葉を耳にすることも増えてきており、日本の経営者も社会的な意義が企業活動を進めていく上でさらに重要になってきているという認識が増しています。
これらの動向に対して、調達部門はどのように貢献できるのでしょうか。
一つの方法は、”サステナブル調達”を促進することです。サステナブル調達とは、サプライチェーン上で社会的配慮を行うことにより持続可能な調達を目指す活動です。
消費財業界においては以前から、原材料のパームオイルやコーヒー豆などに関して農家まで追跡するといったサステナブル調達を行っている企業もありました。これは、原材料の上流工程も含めて児童労働などの違法活動が行われていないかを確認するためです。また、企業によっては取引先がどれくらい環境に配慮をしているかなども評価しながら取引先を選定し、また調達先への継続的な教育を行ってきています。こうした活動をCSR活動の一部と位置付けている企業もあります。
これらの活動は、企業ブランドの向上や、前述の機関投資家の期待にも応えることになり、ひいては企業が掲げるミッションの達成につながっていくことが多いのです。
しかしながら、企業が考えるべき取引は原材料だけでいいのでしょうか?
企業が支払うお金には、原材料以外にも多岐にわたります。例えば、マーケティング費用、IT費用、物流費用、設備費用などはどうでしょう?これらの支出も決して少ない金額ではありません。しかしこうしたサービスを提供する取引先が財務的に安全かどうかは評価されていても、社会的な配慮が十分にされている企業なのかどうかの評価は、これまであまり実施されてこなかったのではないでしょうか。
今までのような企業の健全性の評価は引き続き重要ですが、これからは社会的配慮の有無についても積極的に評価していく必要があります。既存の取引先がこれらの基準に該当しているかを判断するだけではなく、今後新規に業者を選定するソーシングプロセスの過程で、サステナブル調達に資するかどうかということを選定基準に加える、もしくはソーシングへの参加条件として設けることを検討していくべきです。結果、貴社のサステナブル調達が促進され、企業価値の上昇につながっていくでしょう。
サステナブル調達を促進するための重要な要諦は?
これからサステナブル調達を促進するためには、下記の4点に留意することが重要となってきます。
- サステナブル調達を加味した調達の全社方針の策定
- サステナブル調達を可能にする調達プロセスの確立
- 取引先の評価管理・(必要に応じた)改善指示
- 取引先の継続的なモニタリング
これらの活動を支援するため、私たちSAP® Ariba®は、グローバルでEcoVadis社(以降、EcoVadis)とパートナー関係を結び、国内外でこの課題に対して積極的に取り組んでいます。
EcoVadisはサステナブル調達専門の格付け評価機関です。CSR(社会的配慮)のプロフェッショナルを1,700名以上抱え、フランス本社をはじめ世界45か国をサポートしています。東京にも2019年1月よりオフィスを構え、日本企業に向けてのサービスを展開してきました。
EcoVadisでは、取引先に対して質問票への回答をもとめるだけではなく、書類や証明書などの提出を促すことで客観的に企業を分析する能力を持っています。評価項目は全部で21の分野に分かれており、大きくは「環境」「労働と人権」「倫理(コンプライアンス)」「持続可能な調達」の4項目で、今まで企業が独自に定量化することが難しかった領域に関する評価を提供しています。
EcoVaids日本代表の若月様にお話を伺ったところ、「700名以上のCSR専門アナリストによる客観的かつ精緻化された独自の評価方法が特徴的です。ただし、このスコアの平均値は決して高くなく、フェアな視点で評点出来ているのが我々の強みです」と話してくださいました。依頼元に迎合せず、あくまでも客観性を維持した評価であることが信頼性につながっているのだと思われます。
SAP AribaとEcoVadisは、上記で示した4点のうち、②調達プロセスの確立と③取引先評価管理の2つの点をご支援します。
サステナブル調達を可能にする調達プロセスの確立
多くの日本企業において、調達部門の日々の業務はほとんど定型化・可視化されておらず、個々の社員がそれぞれに活動しているのが一般的です。したがって、まずこれらの属人化したプロセスを定型化し、次にその定型化されたプロセスの中にサステナブル調達の観点でのチェックを具備することで、企業としてサステナブル調達を促進することが可能になります。
SAP® Ariba® Sourcingでは、商材ごとや案件金額ごとに標準テンプレートを作成し利用することで、貴社の調達ポリシーにあわせて調達業務のプロセスを定型化します。さらに、SAP® Ariba® Supplier Riskを通じてEcoVadisの評価点を確認することで、サステナブル調達の観点でのチェックも加えることができます。グローバル消費財・食品メーカーの多くがすでにこうしたチェックを取り入れており、EcoVadisで一定以上の評価点を取得していることを入札の必須要件としている企業も多くあります。
取引先の評価管理と(必要に応じた)改善指示
こちらも、SAP Ariba Supplier RiskとEcoVadisの組み合わせで実現できます。このSupplier Riskは、世界各国で発生しているサプライヤリスク情報を60万以上のデータソースから自動的に収集・通知する機能があり、自社の取引先がなんらかのリスクに巻き込まれていないかを確認することができます。また、EcoVadisともシステム連携されており、Supplier Riskから評価を依頼した取引先の評価点をEcoVadisに見に行くことができます。
まとめ
これまで日本ではあまり焦点があたらず、世界的に見ても遅れているサステナブル調達ですが、昨今の状況を加味すると、今後の企業経営を推進する中では非常に重要な要素になりえます。これは、調達部門やCSR部門の課題だけではなく、会社全体でしっかりと認識して取り組むべき課題であり、企業にとって優先順位高く取り組むべきテーマだと考えられます。
参照:
BlackRock’s Message: Contribute to Society, or Risk Losing Our Support
From <https://www.nytimes.com/2018/01/15/business/dealbook/blackrock-laurence-fink-letter.html>