第一回海運業界コミュニティが2025年7月30日に開催されました。SAPジャパンとしては初めての海運業界を対象としたイベントでした。

本コミュニティは、海運業界に特化して、業界横断での非競争領域における課題共有・解決を目指し設立されました。SAPジャパンとしても、海運業界が日本の貿易・国民生活を支える重要な産業であることを強く認識し、より業界固有の課題に寄り添った具体的なアクションを推進するための場と位置付けています。初回は業務効率化の観点でSSCやBPOをテーマに設定致しました。

このような背景もあり、総勢5社から18名の皆様にご参加頂きました。その内容を、振り返ってみたいと思います。

 

【基調講演①】「SAPのファイナンストランスフォーメーション実践事例」SAPジャパン 大倉

 

大倉がCFOの立場でSAP自身がどのようにグローバルでビジネスモデルを変革し、効率化と競争力を高めてきたかを、自身の経験を交えて語りました。

 

■ 変革の背景とグローバル標準化

かつてSAPは「売り切り型ライセンス+保守料」というシンプルなビジネスモデルで高収益を実現していましたが、2010年頃からクラウド型・サービス型への転換が不可避となり、M&Aを加速してきました。

2010年ごろは売上の9割がオンプレミス型でしたが、技術進化と顧客ニーズの変化で、クラウド型・サービス型への転換が必須となりました。そこでSAPはM&Aを急激に加速し、成長を続けてきました。しかし、買収した会社ごとにDNAもプロセスも違い、グローバルでの標準化・効率化が大きな経営課題となったのです。

■ オペレーション標準化とシェアードサービス

このような背景もあり、SAPはファイナンスやHR、ITなど、国をまたいで共通化できるプロセスを徹底的に標準化しました。また、シェアードサービスセンターをチェコ・マニラ・ブエノスアイレスに設置し、世界中の業務を集約しました。実際に日本でも経理担当者がリスキリングし、グローバル業務に従事する例が増えています。

SAPの目指すシェアードサービスセンターは単なる作業拠点ではなく、投資・人材育成の“グロースセンター”です。ですので、教育プログラムに投資し、ここからCFOになるロールモデルも生まれています。

■ データドリブン経営とAI活用

このオペレーションモデルをベースに、SAPは経営判断のためのデータ整備を徹底し、全レイヤーで同じ切り口・同じデータを使う文化を醸成しました。これにより、PL(損益計算書)予測では、従来のボトムアップ型から、機械学習によるトップダウン型へと大きく転換しています。例えば売上・人件費などの主要KPIは、機械学習モデルによる予測値をスタートラインに議論が行われ、精度も45%以上向上しています。また、AIの精度を高めるためにはインプットデータの品質が最重要であるので、世界中でデータ品質ルールを統一しています。

■ 生成AIの現場活用と今後の挑戦

現場レベルでのAI活用の促進のため、生成AIに関する社内ハッカソン(フィーナソン)を開催し、現場から業務改善アイデアを募り、実際にB2B見積もりプロセスや社内レポートの自動化などに展開しています。AIはまだ答えがない領域も多いですが、現場のアイデアとアジャイルな取り組みで価値を生み出していくことを重視する姿勢で取り組んでいます。

 

■ 質疑応答

経理領域でのAI活用例として、キャッシュコレクション(AR)の自動化、スリーウェイマッチング、経費のコンプライアンスチェック、契約書とシステムデータのバリデーションなどを紹介しました。また、AIエージェントについては、自分で考えて提案するところまで目標にしており、特にキャッシュコレクション(AR)の部分は、AIが入金遅延の理由を自動で分類し、次のアクションを提案する“AIディスピュートエージェント”を開発中ということを述べました。

 

【基調講演②】「海運業界スタートアップの挑戦」 ONE DEJIMA 遠山様

 

遠山様が社長のお立場でONE DEJIMAの設立経緯と挑戦されている内容について説明されました。

 

■ 長崎発グローバルBPO/KPOの挑戦と設立ストーリー

ONE DEJIMAの本社がある長崎は、江戸時代から唯一海外に開かれていた“出島”のある街で、400年にわたり世界と橋をかけてきた場所です。今も多様な人材が集まり、イノベーションが生まれる土壌があると感じています。

ONE DEJIMA設立当初は5人だった社員も、今では30人を超え、間接雇用も含めると35人規模に成長。社員の7割が長崎出身以外、外国人も積極的に採用。来年4月には新卒5人が入社予定で、そのうち3人は中国、1人は韓国、1人はインドネシア出身。多様な文化・バックグラウンドを持つ人材が刺激し合い、ぬるま湯にならない組織を目指しています。多様性を重視する理由は、グローバルBPO/KPOとして、単なる下請けではなく、業務設計・改善・イノベーションを生み出す存在になるためです。

■ 業務プロセスの標準化・デジタル化・AI活用

ONE DEJIMAはONEシンガポール本社の業務を長崎で受託し、定例業務のBPO以外にも判断や例外対応を伴う専門性を要する業務であるKPOとしての役割を担うことで、現場で経験を積みながらプロフェッショナルを育てていく予定です。

さらにAIやデジタル技術も積極的に導入し、地元ベンチャーと連携して“AIなんでも相談室”を設置し、履歴書スクリーニングや面接質問の自動提案など、現場でのAI活用事例も増えています。

■ 2025年度ゴール

2025年度のONE DEJIMAのゴールは、「地方発グローバルKPO」としての基盤を確立し、多様性と専門性を活かした組織づくりを進めることでした。
「自分たちの仕事の中にAIを入れて、どんどん楽になっていく。単なるアウトソーシングではなく、専門性を求められるサービスへと業務範囲を拡大していく」ことが、2025年度の具体的な目標でした。
また、関連会社の会計業務や経営助言など、ONE以外の顧客にもサービスを提供できる体制づくりも進めています。

■ 2030年に向けた挑戦

2030年に向けて、ONE DEJIMAは300人規模の組織を目指し、ONE 以外の顧客・業界にもサービスを展開するという大きなビジョンを掲げています。
そのために必要なのは、単なる人員拡大ではなく、「中間層(戦略と現場をつなぐ層)」の育成・強化です。「アウトソーシング業務の高度化・差別化が今後の成長の鍵。単なるBPOではなく、専門性・付加価値の高いサービスを拡大していきたい」と語り、
地元長崎への貢献も大切にしており、県外・海外からの人材流入による地域経済への波及効果や、産学連携による人材育成にも力を入れています。

また、AIやデジタル技術の活用をさらに進め、業務の標準化・可視化・自動化を推進。
「2030年には、ONE以外の顧客にもサービスを提供し、地方発グローバルの新しいモデルを確立したい」と、地方から世界へ挑戦する姿勢を強調しました。

■ まとめ

ONE DEJIMAは単なる下請けに甘んじるのではなく、独自の価値を持つ専門家集団として、地域と世界に貢献することを目指しています。そのためには、多様性を求め、日本人だけで固まらないようにし、独自の人事評価制度を導入することに言及しました。また、課題解決力やコアバリューの体現を重視し、将来的にはONEへの依存から脱却し、独立できる組織を目指して組織文化や人材育成を行うことを強調しました。

■ 質疑応答

「BPO・KPOの中間層が薄いのが業界課題であり、コミュニケーションコストや標準化の難しさもあるが、現場で経験を積みながらプロフェッショナルを育てていくことを述べました。また、AI等のテクノロジーについて、導入に初期投資が必要だが、生産性向上・コスト削減につながるので、今後もテクノロジーを活用して現場主導で新しい価値を生み出したいと言及しました。さらにONE DEJIMAについて、多様な人材・文化を活かし、地元・グローバル双方に貢献する組織を目指していることを強調しました。

 

【ワークショップ詳細】

■ テーマと進行

ワークショップは、参加者が4つのグループに分かれ、以下の3つのテーマについてディスカッション・発表を行いました。

  1. 優先的に取り組むべき経営課題は何か
  2. その課題に対応するためのコア業務とノンコア業務は何か
  3. それぞれの業務を実現・最適化するためのアクションは何か

 

■ グループディスカッションの発表

各グループでは、以下のステップで議論が進められました:

  1. 現状の業務課題の洗い出し
    • 業務が属人化している
    • データが分散しており、経営判断に時間がかかる
    • 人材不足と育成の難しさ
    • サステナビリティ対応が後手に回っている
  2.  業務の分類(コア/ノンコア)
    • ノンコア業務(SSCに移管可能):
      • 経理処理(請求・支払・月次決算)
      • 人事管理(勤怠・給与・入退社手続き)
      • 調達・購買の定型業務
      • レポート作成・データ集計
    • コア業務(企業が担うべき付加価値領域):
      • 経営判断に直結するデータ分析
      • 船舶運航戦略の立案
      • サステナビリティ対応(燃料転換、排出量管理)
      • 人材育成・組織文化の醸成
      • 顧客との関係構築・サービス設計
  1. SSC導入後のアクションアイデア
    • 業務の標準化とデジタル化を前提に、AIによる予測・意思決定支援を導入
    • タレントマネジメントシステムの構築による人材の可視化と最適配置
    • サステナビリティKPIの設定とモニタリング体制の整備
    • 組織横断でのデータ活用文化の醸成
    • 顧客接点の強化とサービスの差別化

■ 発表・参加者の声

  • 「SSCで業務を集約することで、現場は“考える時間”を取り戻せる」
  • 「人材育成はコア業務。教育投資を止めたら企業の未来はない」
  • 「サステナビリティは経営課題。環境対応はCSRではなく競争力」
  • 「AIは業務効率化だけでなく、経営判断の質を高める武器になる」
  • 「SSC導入は“業務の棚卸し”のチャンス。何を残すかが企業の個性」
  • 「顧客との接点は絶対に手放してはいけない。そこに企業価値が宿る」
  • 「データは“資産”であり、活用できなければ“負債”になる」
  • 「SSC導入後は、データを活かす人材と文化が鍵になる」


まとめ

今回のコミュニティにご参加頂いた方々は、業界共通の課題とその解決策を多様な立場から議論し、今後の連携・実践に向けたヒントが多数共有されていました。このコミュニティについて、海運業界特有の課題に対して業界横断での知見共有が有効であり、実際のプロジェクトの進捗や成果を共有して、ベストプラクティスを構築していくことへの期待の言及もありました。

今後もSAPジャパンはコミュニティを通じてSAP社内に有するデジタルに関する知見や事例を提供し、日本の海運業界の経営課題の解決に貢献していきたいと思います。