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これまでの過去十数年を振り返っても、企業を取り巻く環境の変化、それに伴う基幹システムへの変更要求は数多くあったのではないでしょうか。グローバル化や企業内組織統廃合、内部統制強化に加えて国際会計基準適用。最近では国内企業においてもM&Aが活発化しており、買収した海外の会社が古いSAP ERPシステムを利用しているというケースも少なくなく、こうした経営環境の変化を自社のITプラットフォームへ適用する必要がある場面が今後も発生すると想定されます。また、SAPなどのITベンダーが提供するインメモリ、クラウドなどのIT技術、サービスのデジタル化の進展が急速に進む中、システムへの対応に今現在も取り組まれている情報システム担当者も多く、SAPより提供している次世代ERPであるSAP S/4HANAへの移行プロジェクトも年々増えています。
一方、昨今のデジタルトランスフォーメーションにおける機械学習、AI、RPAなどの高度なテクノロジーのビジネスへの適用や活用が多くの企業で盛んに行われています。しかしながら、大半の企業は自身の持つデータを十分には活用することができておりません。また、数多くのデータサイエンスに関わるPoC(Proof of Concept:概念実証)が失敗に終わっている現状があります。原因として年々大規模化し複雑化しサイロ化するランドスケープ、無秩序なデータ発生、ガバナンスレベルの低下およびデータ品質の悪化等のデータマネジメントに起因する原因があげられます。このような状況を打破するために、企業には効果的に自身が保持する様々なデータからバリューを最大限引き出すためのビジネスとITの両側面でのデータマネジメントとそのデータストラテジーがますます重要になってきております。また、最近でも頻繁に発生する企業買収、統合、事業売却などドラスティックに変化する経営環境にITとしてどのように対応し、既存のデータ資産をどうマネジメントするかという点も見過ごせないポイントとなっています。
このようなシステムのトランスフォーメーション要件に対して、SAPは「データ管理」や「データ移行」の領域にフォーカスしたData Management and Landscape Transformation(DMLT)サービスを提供しています。本記事では、そのサービス内容の概要をご紹介します。
SAP Data Management and Landscape Transformationサービスが提供する3つのサービスポートフォリオ
SAP Data Management and Landscape Transformationサービスが提供するサービスポートフォリオは、下図の3つの「データ移行サービス」「データマネジメントサービス」「システムランドスケープオプティマイゼーション(SLO)サービス」で構成されます。
図1: SAP Data Management and Landscape Transformationサービスポートフォリオ
データ移行サービス – Transition into the Intelligent Enterprise
企業のインテリジェントエンタープライズ化を実現するソリューションへの移行をSAP独自技術による「選択データ移行(Selective Data Transition)」アプローチにより強力にご支援します。お客様の既存基幹システムのSAP S/4HANAへの移行支援を中心として、さらにSAP CRMサービスのSAP S/4HANAへの取り込み(リプラットフォーム)やSAP BW/4HANAへの移行、あるいはオンプレミスSAP HCMからSAP SuccessFactorsへの移行などインテリジェントスイートを構成するシステムの最適な移行オプションを検討支援します。
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データマネジメントサービス – Data Management
データドリブン経営などに代表されるビジネスにおけるデータマネジメント、データ活用を進めるにあたり、いかに効率よく必要なデータを蓄積し分析・加工可能な高品質なデータを準備できるかという点が重要ポイントの一つであり、Big DataやIoT、AI、機械学習など高度なテクノロジー領域で活用するための基礎となります。これらのデータ管理を効率的に行うためのSAPソリューション選定、アプローチ・アーキテクチャ検討や、その技術移転・導入作業を支援します。一方、昨今より多くの企業が取り組まれているGDPR等のデータ保護・機密保持やマスタデータ管理、データボリューム管理等に関するSAPソリューションの検討・導入支援を実施します。
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システムランドスケープオプティマイゼーションサービス – System Landscape Optimization for the Intelligent Enterprise
M&A、組織再編成、法規制対応や業務からの要請によるコード体系の変換対応、あるいは、複数のシステムランドスケープのシステム統合やシステム分離を支援します。
SAP Data Management and Landscape Transformation専任開発部門から提供されるツールによるSAPシステムのデータベーステーブルへの直接書込・変換技術を利用して、システム内の整合性を保ちながらデータ操作を実施し過去データも含めたデータ変換・データ移行によりお客様のビジネス要件に対応します。会社コード分離・統合、勘定コード表・品目コード・通貨変換、システム統合・分離など100を超えるソリューションを提供しています。
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各サービスポートフォリオにおけるサービスはお客様のニーズやプロジェクト計画にあわせて個別で提供可能ですが、それぞれが独立したサービスではなく「データ管理」や「データ移行」という観点で密接に関係しており、お客様の要件に応じて組み合わたサービス提供、あるいは、長期的なロードマップの検討からご支援いたします。例えば、SAP S/4HANAへのデータ移行を実施後に、継続的なマスタデータ品質向上のためのマスタデータ管理ソリューションを導入する等、データ領域全般の支援を提供します。
以下、それぞれのサービスポートフォリオについて少し詳細に触れます。
データ移行サービス – SAP S/4HANAへの移行を支援する「アドバイザリーサービス」と「選択データ移行(Selective Data Transition)」
最近数々のセミナーや個別のお問い合わせでSAP S/4HANAへの移行に関する相談を受けることが非常に多くなりました。一口に移行と言っても、お客様毎に既存システムの業務アプリケーションの利用状況やデータ移行に求められる要件は様々であり「新規導入」か「システムコンバージョン」か、という両極端の移行アプローチで議論することで非常に難しい判断を伴うことが多いのではないでしょうか。
SAP Data Management and Landscape TransformationサービスはSAP S/4HANAへの移行について、「新規導入」「システムコンバージョン」に加えて第三のオプション「選択データ移行(Selective Data Transition)」アプローチを提供しており、お客様固有のS/4HANA移行要件の実現を支援します。
SAP ERPを既にご利用されているお客様も、SAP S/4HANAを初めて導入されるお客様も、「新規導入」アプローチにて従来のシステム、業務プロセスをゼロから構築する、あるいは、ベストプラクティスベースで構築する導入アプローチが可能ですが、その一方で既存システムからのデータ移行が必要です。
また、「システムコンバージョン」アプローチにより、既存のSAP ERPのIT資産を最大限活用、かつ、業務データを継承するSAP S/4HANA化が可能となります。しかし、新システム化に伴うコード体系の見直しやビジネスプロセス変更の要件については、トランザクションデータが存在する事により設定変更に制約があります。
SAP Data Management and Landscape Transformationサービスが提供する移行サービス「選択データ移行」は、事前に準備した移行先S/4HANAシステムに対して既存SAP ERPから必要なビジネスデータを選択、データ移行を行うことで「新規導入」と「システムコンバージョン」アプローチのメリットとなる部分を残し、デメリットを解消する移行アプローチとなります。例えば、新規導入でS/4HANAを構築したシステムに対して既存SAP ERPシステムから過去データも含めたデータ移行を行うケース、一部のSAPアプリケーションや組織、年度などでデータを選択的に移行するケースなどが可能です。下図は移行要件とソリューション・期待効果の一例となります。
図2: 選択データ移行による様々な移行要件へのソリューションと期待効果
このようにお客様毎の新システムへの移行要件は様々であり、個別要件に合わせたきめ細やかな要求に答えるため、SAP Data Management and Landscape Transformationサービスでは「データ移行」に関して実際のデータ移行作業のご支援だけでなく、アドバイザリーサービス(移行方式検討支援サービス)を提供しています。お客様の移行要件・移行方針を確認するとともに、既存システムのデータ分析による実態把握に基づき移行オプションの比較検討を支援します。
データマネジメントサービス
昨今のデジタルトランスフォーメーションにおけるAI・機械学習などの高度なテクノロジーをビジネスに効果的に活かすには、企業は自身の持つ様々なデータからバリューを最大限引き出すためのビジネスとITの両側面でのデータマネジメントが重要になってきております。しかしながら複雑化するシステムランドスープ、サイロ化したシステム、データ品質の悪化などのためにうまくデータ活用が進まない企業が多いという現実があります。そういった企業に対してSAP Data Management and Landscape Transformationサービスは、その2つ目のポートフォリオとして、データマネジメントサービスを提供します。SAP Data Management and Landscape Transformationサービスは、お客様のビジネスストラテジーに紐づくデータマネジメントに関する取り組み(データ品質、マスタデータ管理、データ統合&インテリジェンス、データ保護&機密保持、あるいは、データボリュームマネジメントなど)を推進し、SAPソリューションを活用したアドバイザリサービスやSAPソリューション実装などデータマネジメント全般の包括的なコンサルティングサービスを提供します(サービス構成要素は下図の通り)。
図3: データマネジメントサービスで提供するサービスカテゴリ
各カテゴリ別の詳細は以下の通りです。
データ品質:
企業がソースシステムやデータの種類に関わらず企業内で横断的に正しい洞察を得るためには、データ品質の改善、そのルール作り・仕組みづくりおよびそのデータ品質を維持する仕組みが不可欠です。SAP Data Management and Landscape Transformationサービスはそういった企業に対してSAP Information StewardやSAP Data Servicesといったソリューションを用いて、データ品質のアセスメント、データ品質改善、モニタリング、重複データの排除のためのソリューション実装およびアーキテクチャ検討支援を通じて、企業の情報資産としてのデータの品質改善を支援します。
マスタデータ管理:
様々な組織、事業、プロセスから発生する構造・非構造データを関連付け、統一的なビューを企業全体で共有し意思決定に役立てるためには、マスタデータ管理について企業がそのビジネスプロセスの中にマスタデータガバナンスプロセスやルールを組み込むことで企業全体に統制を掛ける取り組みが非常に重要となります。SAP Data Management and Landscape Transformationサービスは、SAP Master Data Governance(MDG)を活用し、企業のマスタデータガバナンスプロセスの構築を支援し、アーキテクチャ検討支援を行います。また、企業の合併、買収、組織変更を起因とした他システムからマスタデータ統合(名寄せ)・クレンジングの取り組みについても、上記のソリューションを使い実装支援やアーキテクチャ検討支援を行います。SAP MDGでは企業が持つグローバルマスタデータリポジトリの適切な管理・運用をサポートするために「セントラルガバナンス(集中管理)」、「データ統合」そして「データ品質管理」のマスタデータ管理ソリューションに必要な3つの機能をOne Packageとして製品提供しています。
データ統合&インテリジェンス:
企業の大小を問わず企業全体のシステムランドスケープにおいてデータフォーマットが構造・非構造やソースシステムがSAP・非SAPに関係なく、整理・統合されたデータの必要性は高くなっております。また、昨今のBig Dataの活用や「データ爆発時代」においても容易にDeploymentが可能で、スケールアウトが可能な連携基盤やアーキテクチャーが求められてきています。SAP Data Management and Landscape Transformationサービスは、SAP Data IntelligenceやSAP Data Services、SAP Landscape Transformation Replication Server(SLT)などを活用し、異機種、構造・非構造データを有機的に統合し、データウェアハウスや他システムに連携することでビジネスに対して信頼のおける統合データ活用という観点で支援します。また、Big DataやIoTセンサ・SNSデータなどの非構造化データへのAI・機械学習の高度なアナリティックスの適用でビジネスプロセス再構築(例えば人手で行っている作業の自動化)に取り組む企業にはSAP Data Intelligenceを活用し機械学習プロセス構築の自動化・高速化を支援します。
データ保護&機密保持:
企業にとってのデータ保護や機密保持の重要性は改めて言及するまでもなく引き続き極めて高いと言えます。企業はGDPRに代表される各国の法規制に準拠しなければならず、その影響範囲はシステム全体に及びます。SAP Data Management and Landscape Transformationサービスは、例えばData Scramblingの技術を活用し、企業のランドスケープに例えば個人情報を保護もしくは削除するルールを定義し、実装する支援を行い、企業のコンプライアンス対応の効率化・シンプル化を支援、あるいは、SAP Information Lifecycle Managementを活用し、法的要件に沿ったデータのRetention Managementを支援します。
データボリュームマネジメント:
昨今、企業はビジネスデータのライフサイクルマネジメント、つまり「生成から廃棄」までの全体としての情報管理が求められています。また、企業はランドスケープ全体のデータボリュームマネジメントを各国の法規制に遵守した形で効率的になるべくコストを掛けずに行いたいというニーズもあります。SAP Data Management and Landscape Transformationサービスは、SAP Information Lifecycle Managementを活用し、企業のデータ保持に関する要件に対してエキスパートの視点からグローバルでのデータ保持管理のコンセプトのアドバイザリサービスを実施し、データオーナシップにまつわるコスト低減に資することで、企業が行うデータアーカイビング、システム廃止といったデータボリュームマネジメント作業の効率化に寄与します。
データストラテジー・ガバナンス・アーキテクチャー:
上記で説明したカテゴリはあくまで個々のデータマネジメントに関するトピックに過ぎません。企業にはデータマネジメント領域においてこれまでの企業M&Aや組織変更といったビジネス環境の変化やITコスト削減の要請へのオンデマンドな対応ではなく、企業のビジョン、ミッション、ストラテジーやビジネス課題にアラインしたデータマネジメントにおける長期的なロードマップやChange Management(変更管理)、全社横断的なアーキテクチャデザインが不可欠です。SAP Data Management and Landscape Transformationサービスは、データに関係する様々なビジネス課題解決のために各種SAPデータマネジメントソリューションのロードマップ作成やご提案を行います。また、企業の既存のデータ資産の有効活用のために、データ配置やデータガバナンス組織・プロセス・ルール作成のアドバイザリサービスを実施します。
システムランドスケープオプティマイゼーションサービス
SAP Data Management and Landscape Transformationサービスの3つ目のポートフォリオであるシステムランドスケープオプティマイゼーションサービスで提供する代表的なソリューションは以下の通りです。会社コード統合、勘定コード表・品目コード・通貨変換、システム統合・分離など100を超える様々なビジネス要件に対応します。
図4: システムランドスケープサービスで提供するソリューション(一部)
データ移行やデータ変更要件への対応は、 一般的に「残高移行方式」と呼ばれる移行に必要なマスタデータ、トランザクションデータを事前準備しSAP標準アップロード機能にて対応するケース、あるいは、データ投入・更新を行うSAPアプリケーション処理を一括実行する移行ツールの追加開発により対応することが多いと言えます。この方式では通常、データ移行処理が大量データとなる場合、ビジネスダウンタイムの確保が難しくなることがあり、さらに、手作業による移行品質低下や追加開発に伴うプロジェクトコスト増加が懸念されます。一方、残高移行方式により過去の業務トランザクションデータへの対応が限定的となり、過去履歴の参照要件を満たせない可能性があります。
システムランドスケープオプティマイゼーションサービスは、SAPシステムのデータベーステーブルへの直接書込・変換技術※を利用し、SAPシステム内の整合性を保ちながらデータ操作によりデータ変換・データ移行を支援します。データベーステーブルへの直接アクセスによるデータ移行・データ変換処理の高速パフォーマンスを実現するだけでなく、ツールベースの移行・変換作業による高い移行品質の提供、及び、過去データも含めた移行・変換処理により業務ユーザへのインパクトを極小化します。
※SAPが製品ベンダーとして提供している特別な技術であり、システムの整合性を損なうリスクが大きいためお客様やパートナー様には利用を避けていただくことを強く推奨しています。
サンプルシナリオとして会社コード統合シナリオを見ていきます。SAPシステム上で会社コード:1000と2000が定義されており、本稼働運用している状況を前提とします(下図、左)。この2つの会社コードをデータ変換することにより法人格としての会社コード:1000へ統合します(同右)。会社コード統合を実現する場合、その会社コードと関連する組織構造(プラントなど)の割当を調整するだけではなく、関連組織に紐づくビジネスデータ(マスタデータ(仕入先マスタ、得意先マスタ、勘定コード表など)、トランザクションデータ(会計伝票、受注伝票、購買伝票など))を統合後の会社コードへの移行が必要です。システムランドスケープオプティマイゼーションサービスによる会社コード統合シナリオを利用することで、SAPシステム上の会社コードと関連する組織構造、マスタ・トランザクションデータ、カスタマイズ設定を一括でデータ変換、過去データも含めた会社コード統合を実施し、あたかも統合後の会社コードのみで本稼働運用していたかのようなデータ調整を行います。
図5: システムランドスケープオプティマイゼーションサービスによる会社コード統合
最後に
SAPが提供するData Management and Landscape Transformationサービスの概要をご理解いただけましたでしょうか。
様々な企業を取り巻く環境変化へのシステム対応に対してお客様資産であるSAPシステムの設定や業務データを有効活用するため、あるいは、お客様固有の要件に柔軟に対応するため、SAP独自の方法論に基づいたデータ移行、データ変換、あるいは、データマネジメントといった「データ」にフォーカスしたコンサルティングサービスを25年以上提供しています。
本記事の内容に関して、ご質問やご不明な点がございましたらSAPまでお気軽にご相談ください
また、以下のSAPサポートポータル内のリンクでもData Management and Landscape Transformationサービス概要や事例紹介を公開しております。ご参照いただければ幸いです。
Data Management and Landscape Transformation