近年、「Amazon Go」などを代表とした AIを活用した”無人コンビニ”の開発は世界中で行われている。それらを後押ししているひとつの要因は「人手不足の問題」ではないだろうか。コンビニ先進国である日本でも、24時間営業問題などが社会的な関心を集めたことから経産省が「新たなコンビニのあり方検討会」を発足させ、2020年2月に報告書を発表するなど、コンビニのビジネスモデルの変革を促している。

この問題の救世主として”無人コンビニ”などデジタル技術による実験が積極的に取り組まれている。世の中的には、この取り組みも3種類のアプローチが存在するため、最初に紹介しておこう。

  1. レジ無し(ジャストウォークアウト):Amazon Go、Take Goなど

技術革新と普及度によりコストは下がるが、店内に大量のカメラやセンサーを設置する初期投資は大きい。1店舗当たりではかなりの投資が必要となるため、利益の出せるビジネスモデルが必要。また、企業内に技術革新を続けられる開発力も必要となるためテック企業とのパートナーシップも重要な要素となる。

  1. 無人店舗:BingoBox

コンビニの魅力は「新鮮で魅力的な商品が並んでいる」ことから、店側の効率性を追求しすぎると単なる自動販売機になりがちである。それに加え、RFIDも技術進化と普及度によりコストは下がっていくだろうが、低単価の商品を扱うだけにその負担はやはり大きい。

  1. セルフレジ:日本のスーパーマーケットなど

ある程度大規模な施設で、レジに長い列ができるようなスーパーマーケットなどではお客の不満は解消される一方で、利便性を売りとするコンビニなどの小規模店舗では「(店側の)省人化」施策でしかない。

いずれの方法も、デジタル技術革新を用いてさまざまな問題を解決することに変わらないが、”進化し続ける技術を企業側がどう利用していくのか?のジャーニー”がより重要になってくる。さまざまなアプローチが生まれ続けている世界において、スイスを拠点に周辺諸国に2,700もの小型販売店を展開するヴァロラ(Valora)のケースに出会った。

ヴァロラ社とは

彼らは、キオスク規模の小型店を11もの販売フォーマットでスイス、ドイツを中心にオーストリア、ルクセンブルク、オランダの都市中心部や駅、ショッピングセンターなどに 2,700以上も展開し、毎日50万人以上の彼らのサービスを利用している。

source : Valora Annual Report

24時間365日営業、豊富な品揃えと高品質なサービスレベルのコンビニ文化を持つ我々からすると目新しさはない。しかし、欧州では国毎に営業規定があり日本のようなサービスレベルを持つ企業が存在しない。さらに、デジタル化の進展は、ワークスタイルやライフスタイルに確実に影響を及ぼしており、好きな時間に軽食が取れるフードサービスの需要は確実に増加している。このような消費者ニーズの変化を背景に、彼らは単なる物販からフードサービスまでに事業を拡大し始めている。

今回の取り組みを紹介する前に、彼らがこのようなビジネス展開を図る背景を探ってみる。

スイスと言えば物価が高いのが有名で「スイスで買い物かご一つ分の商品に支払う額で、車のトランクいっぱいに買い物できる」などの声が上がるぐらい。隣国にはカルフール(フランス)やリドルアルディ(共にドイツ)などのメガリテーラーも存在するため、スイス国内の価格水準が続く限り隣国で買い物をする傾向は続くだろう。また、国内に目を向けてもミグロスコープの2強が市場の大半を占め、小型店舗やイートインなどのサービスも展開している状況である。お客が本気で買い物をする時には彼らは選択肢に入らないため、立地的な優位性を活かし”消費者の小腹ニーズ”に注目した

写真を見てもわかるように、彼らは都市中心部や駅、ショッピングセンターといった人の集まる好立地に出店できている。”好きな時間に美味しいモノで小腹を満たせれば、より長い時間買い物自体も楽しめる”わけなので、消費者のショッピング体験の中に自分たちの存在を明確に位置付け、他の企業との共存共栄を図ろうとしているのだ。

また、彼らは2025年までに全体の90%をフランチャイズ化しようとしている。従来から店舗オーナーになるための従業員教育に積極的だったが、”無人コンビニ”はオーナーの事業化に際する「店舗従業員の確保」と言うひとつのハードルを下げている。

つまり、彼らは長期ビジョンに基づいて“無人コンビニ”の可能性を評価していたのだ。加えて、彼らの取り組みは、顧客接点の強化だけに留まらず、上流のサプライチェーン、バックエンドプロセスを含むバリューチェーン全体の効率改善も同時に実行し、フランチャイズオーナーへの貢献も考えられていた。

このような背景からFood-venience(Food+Convenience)」というビジョンが定義され、(スイスで初めての)フル無人店舗(Full Autonomous Store)で、スイス最大駅であるチューリッヒ中央駅に設置された実験店舗(avex X)と数店の実店舗(avec box)が展開された。

(このオープニングの様子が彼らの持つコンセプトを含めがわかり易く表現されているので、こちら をご覧ください)

“In the avec X and avec box, convenience refers not only to the product range but the entire shopping experience, which can be done even more comfortably at your own pace and outside of normal opening hours”

「avec Xとavec boxでは、”利便性”を単なる品揃えだけでなく、(営業時間外でも)自分の好きな時間に自分のペースで快適に買い物を楽しめる事を目指します」

利用者は両方の店舗で使えるモバイルアプリが提供され、入店チェックインから商品選択、精算までをカスタマージャーニーが体験できるモノだ。

ただ、今回はコンセプトから実現化までを約半年で実施したこともあり、初期段階ではシンプルなユースケースが実装された(下図)。

この取り組みを通じた学びを以下のようにも表現している。

「自分の好きな時間に好きなタイミングで軽食を取りたい」というニーズへの対応は、「通常営業時間以外での新たな収入源と新たな利用客の獲得する」こと以外に、新たな消費者ニーズに積極的に取り組む企業姿勢も含め、ブランドの魅力を向上にもつながった。もちろん、そこでのショッピング体験はパーソナライズされ継続利用を促進するだけでなく、利用者からのフィードバックよりサービス内容も積極的に改善・拡張していく予定だという。また、次の段階では これらのサービスをパッケージ化し、外販も視野に入れている。

最後に

「店舗従業員の確保」と言う出店に際する制約条件を、デジタル技術を用いて”無人化”という発想でブレイクスルーさせた企業と思っていたが、彼らにとっては、単なる12番目の販売フォーマットを開発したことに過ぎなかった。つまり、「自身のビジョン実現のために、ボトルネックとなる事象を見定め、現時点でその解決方法を最適な手段を探り、実行に移す」という非常にシンプルなことをやっているだけだったのだ。

“無人店舗”などの取り組みが注目されがちだが、手段と目的を混合させない彼らの取り組みからは学ぶことは多いのではないだろうか。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ヴァロラ社のレビューを受けたものではありません。