デジタル技術を活用した鉄道設備保全業務のこれからの姿 〜第二回鉄道設備保全ラウンドテーブル開催報告〜

フィーチャー

鉄道人事ラウンドテーブルが2024年10月24日にSAPエクスペリエンスセンターにて開催されました。SAPジャパンとしては昨年に引き続き2回目の鉄道業界の人事領域を対象としたイベントでした。

鉄道業界は少子高齢化による人材不足や熟練技術者の退職が進む中、新技術への対応、コスト削減、安全対策の強化といった経営課題に直面しています。それに対して、近年のデジタル化や自動運転技術の進展により、従来の知識や技能だけでなく、デジタル技術に関する新たなスキルも不可欠になっています。そのため、次世代の若手・中堅層の育成を通じて技術やノウハウを継承し、持続的な成長を目指す人材育成戦略が重要となっています。

このような背景もあり、鉄道事業者を中心に総勢6社から17名の皆様にご参加頂きました。その内容を、振り返ってみたいと思います。

 

「テーマ1:人材育成戦略に関する議論」

<基調講演1: 小田急電鉄株式会社の人財育成戦略>

小田急電鉄株式会社の草薙まりさんが「価値創造型人財の育成に向けた取り組み」について講演しました。小田急電鉄はサステナビリティ経営の推進のマテリアリティの1つとして、「価値創造型人財の育成」を掲げて、社員が自分らしく働ける企業風土の醸成と持続可能な経営を実現するための人財育成を目指しています。この様な価値創造型人財の仕事を通じて、多様かつ持続的に価値の総和が積み上がることで、経営ビジョンの実現につながることを意図しています。

 

 

 

そういった価値創造型人財を生み出すための行動原理を定義付けしました。これをありたい姿として、実現するための人財育成戦略を人事部、経営戦略部、IR室と協業して検討しました。

 

 

人財戦略の概要は、このありたい姿を実現するために、人的資本の強化に向けて定めた3つの重点課題を推進することです。ありたい姿As-isと現状To-beのギャップは、サーベイを通じた従業員エンゲージメントの測定や労働生産性の算出を通じて定量評価する予定です。

 

重点課題の詳細は次の通りです。まず「人財の確保・定着」のためには、オンボーディング施策の充実があります。新入社員がスムーズに会社生活や業務に適応できるよう、研修や独身寮でのフォロー体制、帰省交通費支援などが提供されています。また、キャリア採用やカムバック採用、若年層を中心とした処遇改善、両立支援など、多様な人財の確保と定着を図るための施策も実施されています。

さらに、「“個”の多様性の発揮」のために、事業アイデア公募制度「climbers」やプロジェクト人財公募制度など、社員の価値創造行動を加速させる取り組みがあります。これらの制度は、社員が自らのアイデアを提案し、実現する機会を提供するものであり、社員のモチベーション向上と企業のイノベーション促進に寄与しています。また、従業員のスキルアップを目的に体系的な人財育成が行われているほか、自律的キャリア形成に寄与する資格取得支援制度も提供されています。

また、「基盤の充実」のために、未来創造会議やキャリア・ライフ対話、1on1、コーチング研修、価値創造型人財ワークショップなどが実施されています。これらの施策は、社内コミュニケーションを強化するもので、価値創造の基盤づくりに貢献します。

小田急電鉄の人的資本のかかる取り組みは、外部からも高く評価されています。例えば、人的資本経営品質2023 シルバーや第12回日本HRチャレンジ大賞などの受賞実績があり、これらの評価が同社の人財育成戦略の成功を裏付けていると言えます。

 

こういった価値創造は、新しいものや目に見えやすいものだけではなく、経営の土台としている鉄道事業の安全・安定輸送を提供することそのものも対象です。すべての社員が、自身が地域に価値を提供している『貢献感』を持てることを目指しています。

この講演に対して、聴講者からは、社員の受け止め方に対する質問や管理職層を対象としているSMV (Sharing My Value)の定着度、この取り組みの振り返りについて質問がありました。

 

<ディスカッション>

参加者はこの講演をインプットに、下記の議論を行いました。
①貴社の人材育成戦略や中長期的な方向性は何ですか?
また、実現に向けてどのような施策をやろうとして(または、やって)いますか?
②人材育成戦略や中長期的な方向性の実現に向けた課題や障壁には何がありますか?

 

「テーマ2:人材育成のDX化に関する議論」

<基調講演2: 株式会社商船三井の人財育成のDX化>

株式会社商船三井の与田亮哉さんが「人財育成のDX化に関する取り組み」について講演しました。商船三井は従来の海運業からグローバルな社会インフラ企業へと飛躍する中で、HCビジョンを掲げて、多様な人財の活躍を促進し、共走・共創を通じて未来を共に創り、働き甲斐を高めることを基本原則とし、経営計画の実現に向けた具体的なアクションとその進捗を管理するKPIを定義して進めています。また、その推進のために、「人事部」の横にグループ全体の人財政策を統括する「Human Capital Strategy Division」を設立しています。

 

 

具体的なアクションとして、まずグローバルタレントマネジメントシステムSAP SuccessFactorsの導入が挙げられました。このシステムは、グループ全体の「グローバル人財データベース」を構築し、人財の見える化と適所適材への配置を実現するものです。これにより、人財情報や組織情報に加えてポジション情報に関するデータベースを整備し、人財情報の検索や幹部の後継者の候補の見える化を権限別に実現しています。

また、MOL Group Key Positions(MGKP)の制定やオンライン学習ツール“Udemy”のグループ全体での導入、公募制についても行われています。

さらに、エンゲージメント向上に向けた取り組みとして、グループ全体でのエンゲージメントサーベイの実施を通じて組織の現状を把握し、その結果をもとに施策を実施しています。これにより、会社と従業員との関係性を把握し、エンゲージメント向上のためのサイクルを確立しています。

 

 

これらの取り組みに対する感想として、グループ全体でのタレントマネジメントや人財育成の難しさや、キャリアに対する従業員の考え方の違い、エンゲージメントに対する受け止め方の違いといった課題に触れた一方で、まずはどんな形であれデータドリブンなアプローチに取り組むことや、最新のテクノロジーやトレンドに触れることの重要性についても述べました。

この講演に対して、聴講者からは、グループ全体への導入の背景、取り組みの推進力、グループ全体のコミュニケーション、「Human Capital Strategy Division」の設立の背景、技術系人財確保の取り組みについて質問がありました。

 

<ディスカッション>

参加者はこの講演をインプットに、下記の議論を行いました。
・貴社の人材育成のDX化に関する中長期的な方向性は何ですか?また、人材育成のどの領域をDX化しようとして(または、やって)いますか?

 

 

○まとめ

今回のラウンドテーブルにご参加頂いた方々は、ラウンドテーブルの進め方に慣れられたのか、ディスカッションの内容が深く、またネットワーキングでもこれまで以上に積極的に動かれ、多くの成果を得られていました。

今後もSAPジャパンは鉄道業界の組織や人事の高度化に貢献すべく、来年もラウンドテーブルを行う予定ですので、もし興味を持っていただいた方はぜひご参加ください!皆様とお会いし、一緒に議論できることを、本ラウンドテーブル事務局一同、心待ちにしております。