(本記事は、34日に本社で掲載されたものです) 

 ユーザーインターフェース (UI) のあり方は、今、大きな転換期を迎えています。コンシューマー向け AI の爆発的な普及により、ビジネスソフトウェアに求められる基準そのものが塗り替えられました。従業員は、プライベートで使い慣れているような直感的で対話型のインターフェースを、業務アプリケーションにも当然のように期待するようになっています。 

 こうした流れが「ターミナルのルネサンス」(ターミナル: コマンドラインのインターフェース)とも呼ぶべき状況を生み出しました。テキストを入力し、テキストで回答を得るという、原点ともいえる対話型操作への回帰が起きています。  

多くのアプリケーションにおいて、テキストは有効な手段です。ユーザーは特別なトレーニングを必要とせず、自然な言葉で自分の意図を伝えることができます。しかし、ビジネスで多用される構造化データの提示には不向きであり、また、リアルタイムに更新される仕組みがなければ、生成された静的な回答は、生成された瞬間から、有用性を失い始めます。  

構造化データは、フィルタリングや並べ替えを行ったり、グラフにまとめたりできてこそ、理解しやすくなります。だからこそ、グラフィカルユーザーインターフェース (GUI) は、データの提示や複雑なワークフローのナビゲーションにおいて優れた力を発揮してきたのです。しかし、GUI は開発コストが高いうえに仕様が固定されており、どうしても画一的なソリューションになりがちです。その結果、ユーザーが今まさに求めている、一人ひとりの状況に即した柔軟なエクスペリエンスを提供できずにいます。  

テキストは柔軟ですが限界があり、GUI は堅牢ですが柔軟性に欠けます。この両者の間に存在する、まだ満たされていないニーズこそが生成 UI であり、これからのビジネスソフトウェアにおける新たなフロンティアなのです。  

静的ダッシュボードから動的ワークスペースへ  

例えば、サプライチェーンの混乱に対応する調達マネージャーのケースを考えてみましょう。 彼女は 5つの異なるアプリケーションを操作して手作業でデータを照合するのではなく、ただこう問いかけます。「東南アジアでリスクが高いサプライヤーを特定し、代替案のシミュレーションを提示して」  

このリクエストを受けると、バックグラウンドで複数のエージェントが稼働し始めます。リアルタイムのデータの収集・分析に基づいたシミュレーションが即座に行われ、代替案ごとの影響が算出されます。さらに、実行を担うエージェントも即座に動けるよう待機しており、コマンド一つでアクションを起こせる体制が整います。  

ユーザーがこうした複雑なプロセスを意識する必要はありません。わずか数秒で、動的なインターフェースが姿を現します。汎用的なダッシュボードではなく、その瞬間のためだけに構築されたミッションコントロールです。インタラクティブなマップには影響を受ける地域が強調表示され、サプライチェーンのグラフはリアルタイムで更新されます。ユーザーがパラメーターを微調整すれば、リスクスコアも即座に変動します。さらに、発注の実行やサプライヤーへの通知を行う操作ボタンが組み込まれており、その場ですぐに意思決定と実行が可能です。コラボレーションも簡素化されます。同僚はそのまま動的な共有ワークスペースに参加できるため、報告用の資料作成や、状況説明のための会議も必要ありません。  

これこそが未来の姿です。ユーザーの意図がインターフェースを定義し、その決断が即座にアクションへと直結するビジネススイートです。この理想を実現するため、私たちは Joule および Joule Agents を、生成 UI というビジョンと融合させています。これは単なるオンデマンドのダッシュボードではありません。ユーザーごとの役割や状況、タスクに合わせて最適化されるインターフェースを通じて、ビジネスの円滑な指揮を可能にするものです。  これはいわば、焦点を手段から意図へとシフトさせる、エンタープライズ運用における「バイブコーディング」です。  

AI  UI を即座に生成し、ユーザーが即座に活用する。そのような時代がいよいよ始まろうとしています。生成 UI によって、ソフトウェアは従来の静的なスイートから、特定の課題に合わせて構築される、その場限りのミッションコントロールのような「バッチサイズ 1」、つまり一品生産のアプリケーションへと移行しつつあります。  

課題とSAPの回答  

インテントドリブン(意図主導型)なビジネススイートをエンタープライズ規模で実現するには、複雑な現実に正面から向き合う必要があります。私たちが生成 UI の構築に取り組んでいるのは、その可能性とリスクの両面を深く理解しているからであり、そのギャップを埋めるための独自の資産を SAP が備えているからです。  

正確性  

大規模言語モデル (LLM) は、もっともらしく聞こえるが誤った出力、いわゆる「ハルシネーション」を引き起こすことがあります。映画のあらすじを捏造するコンシューマー向けのチャットボットであれば許容されるかもしれませんが、サプライヤーの契約条件を誤って提示する調達システムは、深刻な実害を招きます。SAP の生成 UI アプローチは、基幹業務システムのデータを直接画面に反映し、その出所を明らかにすることで、この課題に対処します。リアルタイムで信頼できるデータに UI を立脚させること(グラウンディング)こそが、不正確さに対する SAP の第一の防御策です。  

信頼  

あらゆるインターフェースがその場で生成されるとしたら、ユーザーはどうやってそれが信頼できると判断すればよいのでしょうか。信頼は、一貫性と予測可能性の上に築かれるものです。SAPの生成 UI は、リストやダッシュボード、ワークフローにおいて、使い慣れた実績のある SAP Fiori® の設計規則に基づいて構築されています。表示される内容は個別に最適化されますが、構造には一貫性と馴染みがあるため、ユーザーは常に自信を持って判断し、調整を行うことができます。  

複雑性  

エンタープライズシステムは高度で、それぞれに独自性があります。それらは数十年にわたって構築され、膨大なドメイン知識とビジネスロジックが組み込まれています。SAP の生成 UI は、Joule が備える既存の統合・オーケストレーション機能を基盤としています。Joule はすでにシステム環境全体を連携させ、複雑なワークフローを実行するために複数のエージェントを調整する役割を担っています。生成 UI はこの土台を活用することで、ユーザーがシンプルなインターフェースを通じて深く統合されたプロセスを操作できるようにし、その裏側で Joule が複雑な調整作業をすべて処理します。  

なぜ、今なのか  

コンシューマー向け AI によって期待値が高まっている今、従業員がプライベートで体験しているテクノロジーと、職場で利用しているツールの差は広がる一方です。  

エンタープライズソフトウェアの未来は、旧来の画面にチャットボットを継ぎ足しただけのものではありません。それは、ユーザーの意図を中心にその場で立ち上がり、ライブデータに基づき、エージェントによって実行され、ユーザー自身によって制御される、特別に設計されたミッションコントロールなのです。  

私たちはこの変革により、仕事のあり方を一新します。 


ジョナサン・フォン・ルーデン (Jonathan von Rueden) は、SAP SE の最高 AI 責任者です。