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成長を加速させるトゥルーベルのIT戦略

China --- Supermarket shelves --- Image by © AStock/Corbis

多くの商社・卸企業は市場での競争優位を得るために事業を多角化している。これは、企業の成長・進化に合わせて全社オペレーションの根幹を支えるIT基盤もスケールできないと、全体効率を維持し続けるのが難しいとも言える。新たな市場への展開やその市場毎に新たな付加価値を提供すれば、さらにその複雑性は増えるため、ビジネスの成長に伴って IT基盤も複雑性が増し、柔軟性が欠ける状態を生み出されやすい業界と言える。

この様なビジネス背景を持つ「Truebell Marketing and Trading LLC(以下、トゥルーベル )」が、SAP S /4HANA® Cloudを用いた変革ストーリーが今回紹介する内容だ。

トゥルーベル社とは?

中東諸国で、日本ブランドのマヨネーズや醤油、カップ麺、乳酸菌飲料などの品が流通している事に驚いた方もいるのではないだろうか?その流通に一役かっているのが トゥルーベル社です。

トゥルーベル社は、1984年にUAE(アラブ首長国連邦)で食品関連の専門商社として設立し、その後、食品・飲料を中心にビジネスを拡大しながら、顧客ニーズを事業に取り込みホスピタリティ、消耗品、小売などのビジネス領域を拡大している。今では、GCC(Gulf Cooperation Council:湾岸協力会議)諸国と北アフリカを中心に20か国にビジネスを展開し、8,500種類の商材を取り扱う商社として業界内の優良サプライヤーのひとつとしてのその地位を確立してる。

中東の企業を紹介するケースが少ないため、UAEを含むGCC諸国の状況を簡単にふれておこう。

「産油国」であることは皆が知る事実だが、この石油収益は、GDPおよびひとり当たりの所得増以外にもインフラ整備や教育や医療サービスの普及に大きく貢献をしている。特に、医療サービスの普及は乳児死亡率の低下や出生時平均余命も伸び、各国の人口は急激に増加している。

国連の統計によると、GCCの人口は1975年の1,015万人から2005年には3,444万人と約3倍に増加し、2050年には更に倍増すると予測されている。

GDPこそはGCC合計で日本の約30%程度だが、ひとり当たりGDP(ドル)を見ると、日本が40,105ドルなのに対し、UAEで41,476ドル、クウェートで31,911ドル、カタールに至っては 67,818ドルとなっている。

Source: 「世界経済のネタ帳」から引用

この結果からも、飲料や化粧品、生活用品といった分野でグローバルブランドが流通し、欧米的な生活スタイルを嗜好する人も増えてきており、トゥルーベル社もこの機会に乗じて確実にビジネスを拡大してきた。


Source : YouTube Truebell Corporate Video HDより引用

トゥルーベル社の強み

”世界中に品質を提供する(Distributing quality around the globe)”を目標に掲げ、中東および北アフリカ地域の小売・食品サービスの顧客に、イタリアのオリーブオイルからインドの紅茶に至るまで、あらゆる種類の食品と飲料を揃え30年以上に渡り輸出入、倉庫・物流機能以外にも卸売、代理店機能なども担ってきた。

その結果、現在の事業内容は多様だ。

Source : Truebell 社ホームページ

一見関係なさそうに見えるこれらの事業を、「顧客ニーズに寄り添った結果でしかない」と彼らは言う。

当たり前のことのように思えるが、彼らの事業成長を考えると、このサイクルを確実に実行しているのだろう。(自身でも言っていることだが)経験に裏付けされた専門家集団によりカスタマーサービスが実現できていることが大きなポイントだろう。注目すべきは、(このサイクル実現により)人材も確実に開発できていることではないだろうか。これらは、社名の由来にもなっている、RESPECTUNDERSTANDINGが、従業員ひとりひとりに浸透し、日々の行動に反映されているからかも知れない。このように、従業員ひとりひとりが基本理念を着実に実行した結果が、次の成長に支え、市場での競争優位になっているのだろう。

source : Truebell 社ホームページ

トゥルーベル社の課題

順調に成長を続けるトゥルーベル社ですが、IT基盤の課題が深刻化していた。

このビジネスを支える基幹システム(SAP以外のERPパッケージ)は、固有のビジネス要件を満たすために大きくカスタマイズされ、複雑性が増していた。加えて、急速なビジネスボリュームも拡大する中、システム自体のパフォーマンスも低下しており、一部のレポートでは完了までに4時間も掛かる状態だった。また、意思決定に必要となるデータが複数の情報ソースに散在していたことで生産性を大きく低下させる原因になっていたのだ。

このような状況では自社の成長戦略を支えることができないと考え、SAP S/4HANA® Cloud、プライベートエディション、SAP HANA® Enterprise Cloudの導入を決断した。

この採用に当たり、CIOであるVijay Jain氏は以下の様に語っている。

「ITは成長戦略において重要な役割を果たしますが、私たちはIT企業ではありません。この技術的な問題を処理するために大規模な専門家チームを築く必要はないので、プライベートクラウドに移行することが私たちにとって前進でした」

Vijay Jain, Group Head of IT, Truebell Marketing and Trading LLC

「Truebell」は、わずか6ヶ月で、最初の展開先であるグループ会社のいくつかの部門で利用を開始しました。その後、他部門やグループ企業にも展開予定ですが、システム稼働後のユーザーからフィードバックも非常に良好です。

数時間掛かっていたレポートがわずか10分に

単一の情報ソースから有益なインサイトを得る(Gaining deeper insights with a single source of truth)

SAPFiori®のよるユーザーエクスペリエンス(UX)の改善

この好例として、食品を扱う倉庫・在庫担当から改善報告が挙がっている。

”より簡単に製品の保管期間を管理できることで、収益性と食品安全基準の遵守という重要な要因管理を大幅に効率化できました”

 

トゥルーベル社のIT戦略

これらの取り組みは、初期段階に過ぎません。次のステップとして、未導入拠点への展開を進めている。

「アジア市場への展開として、インドで新たなベンチャービジネスを開始しています」

Vijay Jain, Group Head of IT, Truebell Marketing and Trading LLC

今後、このIT基盤を活用し各拠点やグループ企業との連携を更に改善させていく予定で、専門家集団の更なる強化するための、”ビジネスインテリジェンス”や”CRMや人材管理”などの導入も予定している。

「これらはSAPで得られた迅速かつ容易なスケーラビリティです。この強力なビジネス基盤を活用しビジネスへの貢献度を強化していきたい」

Vijay Jain, Group Head of IT, Truebell Marketing and Trading LLC

まとめ

この取り組みを通じて伝えたかったのは、「ビジネス戦略とIT戦略の融合」という点。

多くの企業では、既存のビジネスを維持しながら、川上・川下企業の変化や競合環境による改善・進化を繰り返すために、どうしても例外化してしまう。その対応を繰り返すと当然仕組み自体も複雑化することになる。この事態を放置すれば、自身の生産性が低下し、マージン確保が困難になる。それよりも、常に進化が求められる世界観の中で、市場における新たな付加価値を創出できないビジネスインパクトの方が高いだろう。

以下は、2004年のマッキンゼーのレポートだが、”生産性改善は、ビジネス・ITを融合させた方が効果的である”事を示している。「業務プロセス改善は散々実施してきた」と言う企業も、課題の洗い出しで終わっていたり、仕組み化(標準化や集約化など)までは実施していなかったりするのでは無いだろうか。

Source: Key performance improvements i.e. Lean Manufacturing, Performance Mgmt., Six Sigma. Source: “When It Lifts Productivity”, The McKinsey Quarterly, 2004 Number 4

当たり前の話に聞こえるかも知れないが、ビジネス成長を更に加速させるために定期的にIT戦略自体をも見直し、実行できている企業は多くない。個別ニーズを追求していた彼らが「クラウド型ERP」を選択したのも、”従来のような時間の使い方をしていてはビジネスの進化スピードについていけない”という危機感からだった。

どうしてもITシステムの検討が絡むと、既存ビジネスを担保することが優先されがちだが、今回の例のように、複雑性を持ったままでは、既存ビジネスすら担保できないのが実態。そのためには、ビジネス/IT双方の戦略を融合させるしかない。

進化し続けるビジネス側も明らかに以前とはプライオリティが異なるはずだし、「働き方改革」など従来プロセスなどの変革に着手する企業も多いので、IoTやAIなどIT技術の進化と捉えるのではなく、ビジネス自体の変化(プロセスやワークスタイルなど)に着目し、「問題の棚卸し」を協働でし始めるなど、お互いのありたい姿とバリアを会話することが重要ではないだろうか。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、トゥルーベル社のレビューを受けたものではありません。

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