>

コロナ渦での企業の取り組み記事が多くなったころ、何げなく目に止まったのが、建設資材メーカーのベルックス(VELUX)社だった。と言うのも、今までも建設業のデジタルトランスフォーメションを取り上げてきたが、彼らのデジタルツイン構想を実現するには、サプライヤーを始めとするバリューチェーン上の企業のデジタル成熟度も必要だと感じていたからだ。そこで、建設資材サプライヤー(選ばれる側)である彼らの取り組みを通じて、協働できるパートナーのキーワードを探ってみようと思う。

ベルックス(VELUX)社とは

ベルックス社は、「未使用の屋根裏部屋を日光と新鮮な空気で満たされた明るい空間に変える」というシンプルなアイディアで始まった、北欧デンマーク生まれの天窓(トップライト)専門メーカーで、約40か国以上で製造・販売を行うグローバル企業だ。

彼らを知ったのはひとつの記事で、コロナ渦で機能しなくなったサプライチェーンをすばやく回復させたことが語られていたのだが、その内容はコロナに関係なく「環境変化にすばやく対応する能力」が語られていた。さらに、彼らの取り組みを調べてみると、サステナビリティ(Sustainability)収益性(Profitability)イノベーション(Innovation)の3つが絶妙なバランスで機能し合っていた。これらはコロナ後の企業にも求められる能力とも思い、共有することにした。

過去にも責任を負う彼らのサステナビリティ戦略

Source: サステナビリティ戦略(Lifetime Cabon Neutral)

このグラフは、時間軸(横軸)が設立からの時間軸で表現されている。彼らは、取り組みを初めてから先の将来をどうするか?の視点ではなく、「過去の全てのCO2排出量に責任を負った上で、将来にも責任を負う」と言ってる。

この目標を達成するために、世界自然保護基金(WWF)と共同で過去のCO2排出量全体をも把握し、気象科学に基づき事業、バリューチェーンからのCO2排出量を算出した上で、その実行をコミットしている。彼らがサプライチェーン上のロスを最小化することに積極的なのは、このコミットを社員全員で実現しようとする姿勢なのだろう。

しかし、彼らのほとんどの製品が木材を主な材料としているとはいえ、イチ企業がここまで自主的に実行する必要があるのか?と正直思ったが、その認識は大きな誤りだった。

「全ての行動を通じてポジティブな模範を示す(we aim to set a positive example through our behaviour)」という行動指針が、彼らのビジネスに深く浸透しており、従業員にしてみたら当たり前の行動だったのだ。

  • 一緒に働く人達にどのような敬意を持つべきか
  • 自分達の活動をどのように社会に還元するのか
  • 希少な天然資源にどのように責任を持つのか

以上のように、彼らの改善活動のベースには、(自分たち価値観を表現する)5つのステートメントがあった。ビジネス環境の変化による要求などの外部環境変化さらに高い業務レベルへの移行への要求などの内部環境変化が生じた際に、「自分たちが何を何からやるべきか?」の方向性を定める「羅針盤」なるものが存在していた。

Source:VELUX Values

コロナ渦でのサプライチェーンチャレンジ

彼らのようなメーカー企業の多くは、生産や販売、在庫などサプライチェーン全体を最適化させるために、Sales and Operations Planning(以下、S&OP)が用いられる。ただ、それは拠点や工場、物流などのリソースが正常に稼働することが前提となるため、コロナのような異常時は(想定外なわけですから)、過去の傾向から予測するが機能しなくなる。

このことは彼らにも当てはまり、ロックダウンからほんの数週間でフォーキャスト機能は使いものにならなくなった。また、国毎の政策によりビジネス活動は制限されたため、国境を跨いで形成されていたサプライチェーンは、生産能力や物流能力などが多くの制約を受けることになった。各国対応の先行きが見えない中、従来よりも頻度をあげてそれらのリスクを見極めながら需要に対応せざるを得なかったと言う。そんな状況の中、彼らはサプライチェーン計画・予測の頻度を月次から週次にすばやく移行したのだった。

Source: Learn how VELUX used SAP Integrated Business Planning to navigate the COVID-19 disruption

ロックダウンにより、当初は全体的に需要が激減すると誰もが考えていたのだが、地域によって数週間で当初需要に回復する市場が出てきた。ただ、それらの傾向には地域差があり、 供給能力にも制約が掛かる中では 計画・予測頻度を変え、市場需要の変化に柔軟に対応せざるを得なかったようだ。

そんな苦悩が続く中、「在宅需要」という嬉しい誤算もあった。多くの人が在宅勤務にシフトする中、未使用の屋根裏部屋を日光と新鮮な空気で満たされた明るい空間に変えようとする人が続出したのだ。このコンセプトは、ベルックス社の起業コンセプトそのもので、彼らのノウハウを含め顧客ニーズと合致したのだった。

いずれにしても、今回のような想定外においても、サプライチェーンを止めない(止まらせない)ことこそが自分たちがすべきことだと、従業員ひとりひとりが認識していたからこそ、新たな需要も取り込めたのだろう。このように(企業としての)価値観が従業員に浸透し、自発的な改善を促せていることも大きなポイントだったのではないだろうか?(今回のストーリーはこちらから視聴可能です)

高いレベルを目指し続けるためのチャレンジ

前述のような自発的な行動の裏側には、企業全体で「イノベーションカルチャー」を醸成する取り組みがあった。”Healthy buildings focus(人々がより健康になる建物へ)”を目指す彼らは、製品自体のイノベーションも必要だと考えていた。そこで、スタートアップなどからも革新的な開発アイディアや検討アプローチを取り込むべく、デンマーク発のアクセラレータープログラム「Urbantech」 も他企業2社と設立し、将来都市作りに必要な技術ベースのソリューション開発も加速させていた。

驚かされたのは、彼らは新たなアイディアの出し方やそのアプローチをスタートアップ企業などの外部から積極的に学ぼうとしていることだった。冒頭の行動指針もそうだったが、ここで取り上げた「企業がチャレンジし続ける姿勢」も含め、ベルックス社は従業員に浸透させるのが本当に上手だ。(取り上げた内容はこちらで分かりやすく表現されています)

まとめ

ベルックス社の取り組みは、サステナビリティ:Sustainability収益性:Profitabilityイノベーション:Innovation)の視点から見てみた。また、この3軸はお互いに作用し合うようだ。例えば、自発的な改善活動は、新たなコラボレーションによりさらに効果的ソリューションを見出し(楕円①)、(CO2排出量削減の)高い目標は、各組織の意識を変革しバリューチェーン全体での改善ロスを最小化するために自発的に改善する環境を作り出す(楕円②)など。

これらの視点は、個別の取り組みを「やっている/やっていない」の論点で決してなく、それぞれのテーマを融合させながら、自発的に継続させるかが大きなポイントだった。このことは、簡単ではないことは重々理解しているが、ベルックス社のように既に実行できている企業が出てきているだけに、私たちももっと積極的に学ぶ姿勢を形に変えていきたいものだ。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ベルックス社のレビューを受けたものではありません。