今回取り上げるのは米オーランド市です。
新型コロナウィルス感染拡大への対応のために、迅速に行政サービスのオンライン化へ対応するだけでなく、これをきっかけにデジタルトランスフォーメーションを推進しました。完璧を目指さずに、あるものを使って迅速に対応しつつ、利用者の声を反映し改善していく、そのような取り組みには、自治体に限らず企業においても学べる点がいくつもあります。
米オーランド市について
米オーランド市はフロリダ州オレンジ郡のひとつの市です。人口は約20万人(東京都のひとつの区と同じような規模。渋谷区22万人、文京区22万人、荒川区21万人)。
広さは261.5㎢(千葉県千葉市とほぼ同じ大きさ)。ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートで有名で温暖な気候から有数の観光・保養都市です。
成功要因① 新型コロナウィルス前からできていたこと
行政が提供しているサービスのオンライン化を進めるにあたり、最初に行ったことは全体像の把握です。調査を通じて全部で300のサービスがあることがわかりました。その内容は、公営のプールの利用予約や、街路樹や交通の問題への対応、各種の手続きや支払いなど様々でした。それぞれのサービスの内容を確認し、オンライン化を開始。当時オンライン化されたサービスはそのうち20でした。
成功要因② 新型コロナウィルス 感染危機!余儀なくされたオンライン化はスピード重視
新型コロナウィルスにより行政サービスのオンライン化の必要性が急激に高まりました。市のイノベーション部長 Matt Broffman氏は危機に際して「使えるものを使う」方針を立て、オンライン化を一気に進めます。危機が迫っている状況では、それしかなかったのだろうと容易に想像できます。
たとえば、移動の制限が生じる中で現地調査が必要な行政サービスには、Microsoft Teamsのビデオ通話の機能とスマートフォンを使い、調査対象の地域の近くにいる職員や契約職員がビデオ中継を行い、行政の担当者は役所や自宅からそのビデオ中継を見ながら必要な調査を行います。
たとえば、電子署名への対応には、すでに持っていたAdobe PDFのライセンスで利用できるAdobe Signを活用して対応します。
このような形で迅速にオンライン化を進め、いまではほぼ全ての市民向け行政サービスがオンライン化されるに至りました。
重要なことは、完璧を求めることではなく、成すべきことを成すことである。
私たちは新型コロナウィルスの危機を通じて俊敏性を得た。オーランド市 イノベーション部長 Matt Broffman氏
成功要因③ 継続改善の源は市民の声
これだけ多くの行政サービスをオンライン化することは行政側にとっても市民にとっても初めての試みです。市民の信頼を得られるサービスとなっているのかを把握し、継続的に改善していくことが重要と考えました。
オーランド市は市民の声を把握するためにQualtricsソリューションを利用し、サービスの提供都度、市民に対してサーベイを行っています。
全般的に現在の行政サービスは市民に受け入れられており、5点満点中の4.3点を獲得しています。しかし、ある時期に特定の分野では、2.0点まで下がることがありました。このような急激な低下が起きた際には即座に原因分析を行いました。たとえば、市からの連絡Eメールがスパム扱いされることでやり取りが途切れてしまう、という問題が起きていたことが、迅速に突き止めることができました。また、他の例では公園予約サービスの利用者満足度が低いことを発見しサービスを使いやすくすることで満足度を45%向上させたこともあります。
オーランド市のサーベイにはひとつ工夫がしてあります。それは、各サービスの満足度を把握するだけでなく、毎回、市民のオーランド市に対する信頼についても聞いている点です。これにより、市に対する信頼感と各種のサービスの品質の相関が分かり、どのサービスを重点的に改善すべきかがわかるようになっています。
継続的なサーベイは問題を早期に発見する効果だけでなく、常に市民の声に耳を傾け、市民を中心に考えていることを示すことにもつながる。<
オーランド市 デジタルプロダクトマネージャー Vicky Bellissimo氏
成功要因④ 運営する職員の声にも耳を傾けて
新型コロナウィルスは市民の生活だけでなく、市で働く職員の職場環境も大きく変化させました。リモートで在宅勤務をする人、現地に行く必要がある人、それぞれの人がそれぞれの事情をかかえる中で職務を継続しています。
そのような中、働いている人が元気か、どのような助けが必要か、についても同様にサーベイで耳を傾け、職員向けサービスの改善につなげています。
また、職員の満足度と、市民の信頼・満足度の関係性について分析を始めています。
成功要因⑤ 新型コロナウィルス対応にフォーカス
行政サービスのオンライン化を進めながら、市民への新型コロナウィルス対策の支援も行っていく必要があります。ここでも「使えるものは使う」の考えにもとづき、すでに利用してたQualtricsソリューションを活用しました。具体的には3つのオンラインサービスです。
- 新型コロナウィルスの罹患リスク自己診断サービス
- 罹患リスクが高い際の検査の予約サービス
- 本人の許諾を得た上で接触者追跡サービス
市民はWeb上でアンケートに答える形で罹患リスクを把握でき、必要に応じて検査の予約ができ、許諾に応じて接触者追跡のための情報提供を行うことができます。
取組みからの学び
オーランド市は結果として、新型コロナウィルス感染拡大の対策を通じて行政サービスのオンライン化やデジタルトランスフォーメーションを一気に進めるに至りました。早期に対策を進めることができた理由はここまであげた5つの成功要因です。
たしかに、ディズニーリゾートがあり観光地であることでの税収の豊さや、住民のITリテラシーの高さが素地にあったことは想像に難くありません。だからこその住民の期待値の高さもあったはずです。オーランド市が置かれている状況に応じて、過去に倣わず目指すべき未来を描いて、普段から改革に取り組んだ結果が成功につながったのではないでしょうか。それはどこの自治体でも企業でも当てはまることです。
重要なことは、完璧を求めることではなく、成すべきことを成すことである。今回の新型コロナウィルスは結果としては機会としても捉えられる。とかく動きの遅くなりやすい役所が一気に変革を進める契機となった。
オーランド市 イノベーション部長 Matt Broffman氏
誰にとっても大変な状況かとは思いますが、みなさまも危機の経験を無駄にしないで前に向かっていただくことを願います。
※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、City of Orlando のレビューを受けたものではありません。