気候変動への対策が喫緊の差し迫った課題であることにもはや異論はないでしょう。その中でも、CO2を中心とした温室効果ガス(Greenhouse Gas, GHG)の排出を削減する動きを、さらに加速させる必要があります。では、SAPソリューションは、CO2の排出削減に向けてどのような貢献ができるのでしょう。まずは、今年のSAPPHIRE NOW Reimaginedで発表された新しい製品(SAP Analitics Cloud Content)であるSAP Product Carbon Footprint Analyticsのコンセプトデモをご覧頂きたいと思います。

SAP Product Carbon Footprint Analytics コンセプトデモ(画像をクリック)

Climate21_Demo

デモでは、化学業界から2つの架空の企業が登場します。ひとつはバリューチェーンの上流で高機能ポリマー原料を供給するChemieLabs社であり(※デモの中で社名への言及はありませんでしたが)、もうひとつはChemieLabs社から原料を購入し、包装材等を製造・販売するPolyPack社です。デモは、将来に向けたビジョンを示しているものですが、それが提示する示唆について、以下、2つの観点から少し掘り下げて考えていきたい思います。

  1. CO2排出量の管理と可視化 − “Green Line”の重要性
  2. CO2削減に向けて求められる新しいマインドセット

1. CO2排出量の管理と可視化 − “Green Line”の重要性

これまでも自社が排出するCO2の量や、販売する製品に含まれるCO2の量を、算出・可視化するための様々な取り組みがなされてきていると思います(もちろん削減の取り組みも)。例えば、GHGプロトコル(cf. 環境省の温室効果ガス(GHG)プロトコル)等に基づいて温室効果ガスの排出量を算定・報告する企業も多くあります。また、 製品やサービスのライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment, LCA)を通して、環境負荷の少ない製品・サービスを、世の中に普及させようという取り組みを推進する企業もあります。

そして今後、これらいわゆる「非財務」のデータを管理・開示することが企業活動を評価・継続する上で重要な役割を占めることになるでしょう。トリプル・ボトムライン(Triple Bottom Line)という考え方があります。これまで、企業は自社の財務諸表、すなわち、貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)といった財務データを中心に企業活動を報告してきました。「ボトムライン」とは損益計算書の一番下段(=ボトム)に表記される企業の最終的な損益を示す言葉です。そして、単一のボトムライン、つまり、①経済的な視点(Economic)からの企業活動の報告のみではなく、これからは、②社会的な視点(Social)や、③環境の視点(Environmental)にも配慮した報告が求められるでしょう。今後、企業活動の開示・報告がどのようにあるべきか、例えば、Value Balancing Alliance(VBA)などのコンソーシアムが検討を進めており、SAPもBASFやBosch、また、日本からは三菱ケミカルホールディングスなどとともに、検討をリードしています(関連プレスリリース)。

VBAが検討を進める将来の情報開示(The future of disclosure)

VBA_The Future of Disclosure

“トップライン”(売上高)や“ボトムライン”(最終損益)のみならず、“グリーンライン”、すなわち、環境にどれだけ配慮した企業活動がなされているのか、よりタイムリーかつ必要な粒度での開示が求められます。冒頭のデモでは「CO2 排出を減らすためには生産を可能な限りドイツで行う必要がある」との判断でしたが、もちろん米国のプラントからのCO2排出量を少なくしていく取り組みが求められるのはいうまでもありません。また、それらの企業活動を適切な数値データとともに、取り組みの進捗度合いも含め開示・報告していくことも求められるでしょう。SAP Product Carbon Footprint Analyticsは、それをより効率的に行うために「デジタル化」の文脈から貢献することができます。

2. CO2削減に向けて求められる新しいマインドセット

繰り返しとなりますが、冒頭のデモは、将来に向けたビジョンを示しているものです。そして、CO2削減が喫緊の課題であることは自明だとして、その解決のためには、これまでにそれぞれの企業が行動していたときとは違った、新しいマインドセットも必要と思われます。すなわち、デモの中で示したような企業間コラボレーション、あるいは、コミュニケーションが実際に可能でしょうか、という問題提起です。CO2削減に向けては、これまではどちらかというと、自社内に閉じた活動が主だったものと考えます。

具体的には、バリューチェーンの下流の企業が、上流の供給側へCO2削減に向けて一緒に取り組みたいと支援を訴えることがデモのはじめに示されています。また、CO2を削減するために上流の企業が下流の企業に価格への上乗せについて打診していくことが示されています。一方で、その上流の企業はそれまでの7%近いマージンを、6%程度にすること、すなわち、自社が痛みを伴ってでもそうしようとすることが、(言外にではありますが)示されています。あくまでもビジョンを示すデモであり、それらは数ある論点のうちのほんの一部分と思います(実現性や妥当性の観点も含め)。ただ、このような、これまでには想定されなかったような観点で企業間のコミュニケーションとコラボレーションを実現していかないことには、この喫緊の差し迫った課題に対処できないかも知れません。今回のデモは、そういった議論の呼び水としての位置付けも多分にあります。

今後、それらの議論を活性化させるとともに、SAP Product Carbon Footprint Analyticsを、企業間のコミュニケーションとコラボレーションのための基礎材料を管理・提供するプラットフォームとして位置付けていきたいとも考えています。それぞれの企業には、より能動的・積極的な、あるいは「利他的」なマインドセットが求められると思います。そしてそれらは、場合によっては、“グリーンライン”の中で開示・報告がなされることになるのかもしれません。


今年のSAPPHIRE NOW Reimaginedで、SAPは気候変動対策としてのClimate 21プログラムを発表しました。当ブログでは、その最初の一歩としてのSAP Product Carbon Footprint Analyticsのコンセプトデモが提示する示唆について話を展開してきました。

私たち人類が直面する課題に対し、SAPは皆様とともに取り組みを進めていきたいと考えています。ぜひ、Climate 21のコミュニティーに参加して下さい。