前回のブログではIntelligent Enterpriseの目指す姿と期待できる価値について概説した。今回のブログではIntelligent Enterpriseの中身について紐解く。

SAPが提唱するIntelligent Enterprise実現のための基幹業務システムは、3つの層 (①Business Network、②Applications、③Technology)から成り、②Applications部分はさらに4つの部分(1⃣Intelligent Suite、2⃣Industry Cloud、3⃣Experience Management、4⃣Sustainability)から成る。

6コンポーネント

 
まずは6個の構成要素の中身を見ていく。詳細は各画像をクリックいただきたい。

IntelligentSuiteとIndustryCloud

 

XMとSustainability

 

BusinessNetworkとBTP

 
それでは3つの層に対してSAPがどのようなアプローチをとっているのか解説していく。長くなるので今回はアプリケーション層についての解説を行い、次回ブログでプラットフォーム層とビジネスネットワーク層の解説を行う。

連携された業務アプリケーション

買収したクラウドサービスは本来バラバラであり連携は難しい

SAPは様々な部門で使えるクラウドサービスを提供している。人事部門へSAP SuccessFactors、購買部門へSAP Ariba、顧客接点部門へSAP Customer Experience、外部人材管理のSAP Fieldglass、旅費経費精算のSAP Concur。これらは別々のクラウドサービスとして生まれ、画面もデータの形もセキュリティ基準なども全部バラバラであった。

SAPから一式で買うのだから連携して当然だろう。とお客様から指摘をいただくことがあるが、中の人としては当然のこととは思えない。それにはとても大きな開発投資が新たに必要になる。SAPは、個々の機能開発のスピードを落とし、この連携性を担保することに開発投資を行うことにした。

下の7つの観点で品質を揃える。連携の基盤としては後ほど紹介するBusiness Technology Platformを利用する。2020年末には8割の連携機能の開発が終わった。SAPから一式で買うのだから当然のように連携している姿となった。

7つの品質基準

 

企業を改善する余地は各部門の中には残っていない

システムの連携性というものは、企業にとって意味あるものだろうか。
企業の中の改善を見ていくと、各部門の中での改善はほぼ一巡している。絞り切った雑巾からもう水は出ない。残っているとすると新しい技術を使った自動化の分野程度だ。
一方で部門を跨ぐ業務横断的なテーマはどうだろう。サプライチェーンを改善する、設計から製造・販売・流通・利用といったプロダクトライフサイクルを改善する、多様な働き方をする人々の入社から退社までを改善する、調達先の探索から支払いまでの業務を改善する。これら、多くの部門を横断するようなテーマは多くの企業で改善の余地が残っていることが多い。

組織化され各部門毎のKPIが設定されると、コストを削減したい経理部門、個性的な物を作りたい設計部門、確実に納期を守りたい生産部門など、各部門のKPIが相矛盾することも出てくる。組織間の調整は困難なことが多い。また同時に、部門を横断する全体最適の姿を描ける人材も少ない。そんな中、機能別組織を事業別組織に再編するのも一手だが、事業別組織はシナジー面と冗長性での課題も目立つ。

このような部門横断的なプロジェクトを推進する際に、連携された基幹業務システムは役に立つ。それは、どのような業務の連携の仕方が効率的か、どのようなKPI設定が適切かのひな形が提供されるからである。
特に日本は、社内であってもお客様が志向が強く個別対応の志向も強い。過剰サービスをいったん標準レベルに落とす際にもひな形は役立つ。これまで改善を繰り返し煮詰めた過剰サービスの質を落とすことは難しく、言い訳が必要だ。SAPは道具であり手段。業務改革をする際の「言い訳」であり、新しい業務の「定着化」ツールである。

業種業態の違いにより業務の姿は変わる。1社では作り切れない深みを出す

業種業態によって、業務プロセスの姿が違うことは言うまでもない。これまでSAPは25業種向けの業種特化機能を自社で開発してきた。それはなぜかと言うと製品品質を担保するためだった。

上述のSAPのクラウドサービスの連携を進める中で、7つの階層での一貫品質(Suite Quality)を定めることができた。この7つの一貫品質基準を満たせば、SAPだけでなく顧客企業やパートナー企業にも同品質のものを作ってもらうことができる。
他社に作ってもらうことや、他社と一緒に作ることで、より深みのある機能をより早く提供することができる。これをIndustry Cloudと呼び、SAPの一貫品質基準で提供される。

次回のブログ3回目においてプラットフォーム層とビジネスネットワーク層を解説する。