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グラミン日本は生活困窮者の就労支援への課題にSAP Fieldglassを選択

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グラミン日本 理事長/CEO 百野公裕 氏(右)とSAPジャパン 会長執行役員 内田士郎(左)

グラミン日本 理事長/CEO 百野公裕 氏(右)と
SAPジャパン 会長執行役員 内田士郎(左)

※撮影は感染対策を講じたうえで行いました

 

SAP® Japan Customer Award 2020「Japan Society」部門を受賞した、マイクロファイナンス※機関の一般社団法人グラミン日本(以下、グラミン日本)。貧困や生活困窮の状態にある方々に低利・無担保で少額の融資を行い、起業や就労による自立を多面的に支援しています。グラミン日本は2021年2月4日、SAPジャパンと連携協定を締結。4月からSAP Fieldglassを活用したソーシャル・リクルーティング・プラットフォームの運用を開始し、NPO団体や自治体などから寄せられる就労希望者の情報と、企業などからの求人情報を一元管理し、ジョブマッチングの加速や情報の蓄積などによる就労支援の拡大を目指します。

※貧困層や生活困窮者に向けた小口の融資などの金融サービスの総称


日本の生活困窮者の実態から見えてきた「日本の特異点」

1983年にムハマド・ユヌス博士がバングラデシュで設立した「グラミン銀行」。金融体系から外れた貧困者に対し、低利・無担保で少額の融資を提供することで起業や就労を促し、貧困脱却を支援しています。
特徴は、5人1組のグループをつくり、それに対しグループ融資を行うこと。毎週センターミーティングを開き、連帯責任のスキームの下、借りたお金を返済する仕組みをつくりました。それによって自立を支援し、互助と信頼関係に基づいた社会的資本形成を目標に定めたのです。当初は誰もが実現不可能と考えましたが、グラミン銀行の試みは成功。ほとんど貸倒れのない実績を上げています。この功績により、2006年にユヌス博士とグラミン銀行はノーベル平和賞を受賞しました。現在では、アジア、アフリカ、南米、北米の40ヵ国、155の協力組織と連携し、貧困をなくす支援を行っています。
グラミン銀行の日本版であるグラミン日本は2018年9月に設立され、「貧困のない、誰もが活き活きと生きられる社会へ」をミッションに掲げ、さまざまな支援を行っています。

グラミン日本が行う支援の流れ
画像引用: 一般社団法人グラミン日本『STORY BOOK 未来への先行投資』より抜粋

 

先進国である日本では、どのような貧困問題が存在するのか。グラミン日本の理事長CEOの百野公裕氏は、日本の貧困率は危機的な状況にあるといいます。

「日本の相対的貧困率は15.6%(※1)で、実は世界でトップクラスです。OECD(経済協力開発機構)加盟国の中では、イスラエル、アメリカ、エストニアに次いで第4位です」

相対的貧困率とは、所得が貧困線(可処分所得の中央値の半分)以下の人の割合のこと。日本の貧困線は、2015年の時点で年収122万円(※2)とされています。相対的貧困率15.6%とは、約2000万人もの人が、年収122万円以下で暮らしているということです。

「日本の場合は特に、一人親の貧困率が極めて高くなっています。特に母子家庭の貧困率は5割(※3)」を超えており、深刻です。今や日本の子どもの7人に1人(※4)は、貧困状態にあります」

日本は国民皆保険であり、生活保護制度もあります。こうしたセーフティネットがありながら、なぜ貧困率が高いのでしょうか。

「シングルマザーは、育児のため労働可能な時間に制限があり、正規雇用されづらい。低賃金でありながら雇用も安定しません。しかも生活保護による貧困の捕捉率が、日本は18%しかないんです。つまり約8割が貧困を把握するための網から漏れている(※5)。ドイツ65%、フランス92%と比べても、絶対的、相対的に低い。何年か前から、『生活保護を受けるのは悪だ』と責める風潮があります。そういうこともあり、申請できるのにしない人が多いのです。自治体の多くが積極的に補足しようとしません。結果、未来の日本を担うべき子どもにしわ寄せがいっているのです」

 

就労・求人情報の蓄積とマッチング加速にSAP Fieldglassを導入

百野氏は、コロナ禍で女性の貧困が深刻化しているといいます。実際、2019年10月と2020年同月の女性の自殺者数を比較すると、約89%(※6)も増えています。

「特に深刻なのが20代と40代・50代女性で、昨年の同じ時期に比べていずれも2倍以上(※7)自殺者が増えていることです。その背景には、就職難や貯蓄不足から来る不安、DVの悩みなどがあるようです。例えば、子どもの休校措置に対応するために仕事を休むことを余儀なくされ、収入が減少したと答えたシングルマザーは7割にのぼりました(※8)。女性をとりまく労働・生活環境の悪さがコロナ禍で浮き彫りになったといえます。自助ではどうにもなりません。なんとかしてこの社会問題に早く手を打たなければ、事態はさらに深刻になる」

近年、急速に深刻化する困窮の問題に対し、早急に効果的な対策を求められていました。そこで、SAPジャパンは就労・求人情報の蓄積とマッチング加速のためのソーシャル・リクルーティング・プラットフォームの構築を提案。グラミン日本はSAPジャパンとの協業を決めました。プラットフォームの構築には、企業などの組織・団体が外部人材の獲得や調達プロセスを一元的にデジタル管理し、外部人材活用の最適化を支援するSAP Fieldglassを採用しています。

「今までのジョブマッチングの問題は、企業の求める人材に見合った人を引き合わせるだけで、そのあとのフォローがなかったことです。働く当事者の声も拾えず、せっかく就職しても続かない、ということが多々ありました。また、求人に対して機械的に人を割り振っているので、入ったらブラック企業だった、というケースも見受けられました。SAP Fieldglassを活用したプラットフォームは、利用者と企業双方にとって、Win-Winになるマッチングの切り札になると考えています」

このソーシャル・リクルーティング・プラットフォームの特徴は、以下の3点にあります。

  1. スキル
    求職者のデジタルスキルをアップさせる仕組み
  2. チーム
    5人1組のチームで互いに支え合う。また、障がい者のデジタル関連のスキルに特化した就労移行支援組織「アーネストキャリア」、一般社団法人「日本シングルマザー支援協会」などとタッグを組み、就職後の支援も行っていく
  3. ジョブマッチング
    企業(雇用元)からのフィードバックを受け、必要とされている人材のアップデートを行っていく

ソーシャル・リクルーティング・プラットフォームの仕組み

ソーシャル・リクルーティング・プラットフォームを貧困対策の起爆剤に

ソーシャル・リクルーティング・プラットフォームの構築により、グラミン日本はどのようなことを目指しているのでしょうか。

「日本社会全体でいうと、デジタル化が非常に遅れています。OECDの比較では、就業者1人当たりの労働生産性は36か国中21位(※9)です。就業者1人当たりの労働生産性上昇率は35位(2018年)。マイナス成長は日本を含めて4カ国しかありません。そんな中、日本のIT人材需給ギャップは、2030年見込みで最大約79万人(※10)だと言われています」

そのような中に起こったのが、新型コロナウイルスの流行。貧困家庭はさらに追い込まれる状況になっています。しかし、百野氏はピンチをチャンスに変えるべきだといいます。

「シングルマザーにとっては、逆にチャンスだと考えています。リモートワークが当たり前になり、子育てをしながらでも働きやすくなったからです。特に新型コロナウイルスの流行によってデジタル化が加速し、デジタル技術のある人間が求められています。つまりシングルマザーであっても、デジタルスキルを身につければ、就労・定着に繋がっていくということです。そのスキル習得に、グラミンが貢献したいと考えています。具体的なデジタルスキル習得後の働き方は、コールセンター担当者、デジタルツールを活用するお客様対応、デジタルコンサルタント、デジタル広報担当者、デジタル教育の先生などを想定しています。
ソーシャル・リクルーティング・プラットフォームによって、企業の需要も見える化され、企業にとってもどんな人材が在籍しているのか、把握できる。支援団体、就労希望者、企業もプラットフォームで繋がりますので、就職後の継続的なフォローアップなど、きめ細やかな対応が可能になります。このプラットフォームは、今後の貧困対策の起爆剤だと考えています」

「支援を必要としている人」に届く運用が鍵となる

今後も日本ならではの貧困に目を向けなければならない、と百野氏は語ります。

「例えばアメリカの貧困は、移民や難民などに集中しています。移民コミュニティにアプローチすれば、困っている人を見つけることが比較的容易です。しかし、日本ではそうはいきません。貧困が隠れてしまっていて、支援をまったく受けられていない人もいます。放っておいたら次の世代にも連鎖し、日本そのものが弱っていきます」

グラミン日本は、SAPジャパンとともに構築したソーシャル・リクルーティング・プラットフォームを通じて、企業そのものにも変化を起こすことにも期待しています。

「これからの時代は、『雇用してやる』といったスタンスでは通用しません。個々人の特性を捉え、一緒に成長していく必要があります。それが本当のインクルージョンであり、真のダイバーシティでしょう」

当事者もまた、変わらなければ貧困を抜け出せません。

「日本人の特徴として、自分のスキルに無自覚で、アピールもうまくありません。例えば子育ての経験者なら、『複数のタスクをこなしてきた』とアピールすることもできるのです。元からもっている力を可視化し、その上に新たなデジタルスキルを乗せていくことで、自分を活かす場所も広がっていきます」

そのためにも、百野氏は多くの当事者が、グラミン日本のプラットフォームの存在を知り、利用してもらうことが必要だと考えています。

「貧困状態にある方々に、どう伝えていくか。どんな言葉なら、みなさんの心に刺さるのか。グラミン日本のPRの仕方も課題だと考えています」

デジタル上でプラットフォームを整えても、「支援を必要としている人」が利用しないことには始まりません。今後の運用は、どのようにして認知度を高め、そして必要性を実感してもらうかが鍵となります。SAPジャパンは、これからもグラミン日本の貧困問題の解決に向けた挑戦を応援して参ります。

 

出典元リンク
※1,2 厚生労働省|平成28年度国民生活基礎調査の概況
※3,4 独立行政法人労働政策研究・研修機構|「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2018(第5回子育て世帯全国調査)」(2019年発表)
※5 生活保護問題対策全国会議より、各国で想定される上限値にて算出
※6,7 厚生労働省省自殺対策推進室|警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等(令和3年1月22日)
※8 NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ|ひとり親家庭への新型コロナウィルス(COVID-19)の影響に関する調査(2020年7月11日)
※9 OECD “Compendium of Productivity Indicators” (2019)
※10 経済産業省|「IT人材需給に関する調査」調査報告書(2019年3月)

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