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“HXM”という言葉をご存じでしょうか。DX、CX、EX、UXなど“X”のつく単語を見る機会が増えてきましたが、HXMはHuman eXperience Management(ヒューマン・エクスペリエンス・マネジメント)の略称になります。前述したいくつかの単語も、DXの“X”はTransformation(トランスフォーメーション・変革)ですが、CX、EX、UXの“X”はeXperience(エクスペリエンス)の“X”ということもあり、世の中ではさまざまな場面でエクスペリエンス(=体験価値)が重視されてきているという傾向があります。
人事領域ではHXMという考え方がトレンドになりつつあるのですが、「で、HXMってどんなことなの?」という話になると、「とりあえず従業員エンゲージメント調査をやればよい」、「とにかく従業員が気持ちよく働ける環境を作っていけばいい」という、従業員に寄り添うことに偏った解釈がなされることもあるようです。もちろん従業員に寄り添うことは良いことではあるのですが、本稿ではHXMを、“会社・人事が実現したいこと”と“従業員一人ひとりの想い”をつなぐ人材マネジメントの新しい考え方として紹介します。
第1回(本稿)では“従業員一人ひとりの想い”としての従業員エクスペリエンスについて、第2回では“会社・人事が実現したいこと”としてのタレントマネジメントについて紹介します。
従業員エクスペリエンスの重要性認識の高まり
ここ数年、従業員エクスペリエンスの重要性の認識が高まっています。サステナビリティや非財務指標重視の点から従業員エンゲージメントスコアを重点KPIとして公表しはじめる会社が増えてきたことからも、従業員エクスペリエンスや従業員エンゲージメントに関する取り組みが注目されています。
特に取り組みが増えていることとして従業員エンゲージメント調査があります。従業員エンゲージメントの定義はさまざまありますが、簡単に説明すると、会社の成長のためにも自身の成長のためにも前向きに働こうという気持ちです。働きがい、モチベーション、満足度などの言葉を使って調査をしている会社もあります。エンゲージメントとこれらの言葉の定義は異なるのですが、「満足度=会社のことはどうでもよくて個人がただ働き方に満足していること」という解釈で調査している会社はないと思いますので、本稿ではこれらの調査をまとめて従業員エンゲージメント調査と扱っています。
日本企業における従業員エンゲージメント調査ですが、これまでにうかがってきた多くの事例からまとめると、ここ数年は以下のような取り組まれ方が多い印象です。
- 調査結果から、自社の従業員エンゲージメントがどの程度かを知る
- 国内のみでなく、グローバルで調査を行う
- 調査の位置づけを、人事部門による参考情報収集目的の取り組みから、経営が気にするべき重要な施策に引き上げる(従業員エンゲージメントスコアを経営指標に取り入れる、調査結果を経営会議で取り扱うなど)
- 隔年から毎年の実施に切り替える。さらに、頻度の高いパルス調査を取り入れる検討をはじめる
- 経年での比較、人材属性別の集計、キードライバ(指標に強い影響を与える因子)の分析などを行い、自社の状況や課題などを把握する
- 参加企業全体平均や好業績企業平均のベンチマークと比較してよろこんだりがっかりしたりする
- 各自の“読み”を披露しあう(「●●事業は●●さんのところだしやっぱりこうだよね。」「最も低いのは予想どおり●●ですね。去年もそうだったし。」など)
- 各組織長へ結果のフィードバックを行い、改善アクションプランを考えさせる(だけ)
あえて良い取り組みとは言えない例も含めました。取り組まれているすべての会社がこのような状態ではないとは思いますが、耳が痛い方もいるのではないでしょうか。
従業員エンゲージメント向上のサイクルづくり
従業員エンゲージメントはまず知ることが重要ですが、その先には改善することや、エンゲージメントの高い従業員が会社の業績に好影響を与える目的があるはずです。そのためには改善のためのアクションまでつなげる必要がありますが、そのアクションは現場組織長に結果を開示して各自で考えてもらうだけでなく、会社・人事の考え方や施策と連動していることが重要です。組織のサイロ化が課題であれば組織を越えた働き方が推奨される場や制度をつくることに取り組んでもよいでしょう。オンデマンド型のEラーニングコンテンツを大量に提供しているはずなのに学びの機会が少ないという反応がある場合は、研修コンテンツの提供のしかたやコンテンツそのものに課題があるかもしれません。
「当社では調査結果をマネージャに公開し、彼らが結果を受け止めて自発的に改善するように促しています。人事はそれだけしか行っていませんが、実際マネージャたちはみな自発的に改善に取り組んでおり、結果としてスコアが向上しているのですよ。」
という、うまく運用されているお話を聞くこともあります。このような事例では、従業員エンゲージメント調査に関しては、人事は調査結果を組織長に公開しているだけかもしれませんが、その裏側には、組織長が自組織の活性化に取り組むことを支える、または動機付けとなる人事の方針や制度が当たり前のように存在していることが多いです。一方、このような環境が整っていない状況では、組織長に調査結果や改善のヒント集を開示しても「ふむふむ」で終わってしまう可能性があります。
また、施策や改善活動の効果をみていくことも重要であり、定期的に短いサイクルで実施するパルス調査を行うことも効果的です。パルス調査では、回答の負担をかけないように重点領域に絞りこむことが推奨されていますが、それだけでなく人事施策や改善活動などに関するフィードバックを求めることで、会社・人事の考えが有効に機能しているかの確認をすることができます。
従業員一人ひとりの想い
ここまでは従業員エンゲージメント調査のことを紹介しました。当該調査は主に会社や組織のような集団のある時点の状態を把握するために実施されるものですが、従業員エクスペリエンスという意味では、集団としてだけでなく、一人ひとりにとっての体験価値を考える必要があります。さらに、同一人物であっても入社から退職まで常に一貫した考えや想いをもっているわけでなく、会社の状況、個人の状況、外部環境などによりさまざまな変化があります。会社が各個人の状態やその変化を常に把握しておくことは難しいですが、例えば、人事イベント(入社、昇格、勤務地変更、退職など)や、会社が把握できる個人イベント(身上変更など)のタイミングでフィードバックを求めてみるというだけでも、一人ひとりの気持ちの変化を把握することができます。かつては個人別の状況把握は負荷がかかりすぎて現実的に難しいということもありましたが、最近ではテクノロジーの進化により、個人別の状態に合わせて自動的にフィードバックを求めることもできるようになっています。
以上のとおり、従業員エクスペリエンス向上の取り組みは、独立した施策として定期的に調査と結果確認を繰り返すだけでなく、調査と人事施策・人事イベントを連動させて改善のサイクルをつくることが重要です。ただし、この取り組みは従業員エンゲージメントスコアが高くなればよい、従業員ががんばろうという気持ちになればよいというものではなく、その結果として組織・個人のパフォーマンスにも貢献していなければいけません。ですので、従業員の気持ちに寄り添うと同時に、会社の考えを浸透させることや組織・個人のパフォーマンス向上のための施策を合わせて進めていく必要があります。
これらの施策は人的資源管理やタレントマネジメントの考え方にもとづいて進められることが多いのですが、「人的なんとか管理とかタレマネとか、これから取り組もうなんて古いですよ。これからはとにかく従業員に寄り添いまくる。それが従業員エクスペリエンスという新しい考え方なのです。」という声もあります。従業員エクスペリエンスの考え方からみると、会社・人事主導の人材マネジメントが対極の否定すべきものに見えるのかもしれません。
会社・人事主導の人材マネジメントの考え方はもう古いものなのでしょうか。第2回では、人材マネジメントのトレンドの変遷にふれながら、HXMの考え方における“会社・人事が実現したいこと”としてのタレントマネジメントについて紹介します。
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