SAP Japan プレスルーム

SAPサステナビリティ経営実践事例

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※旧ブログサイトよりの転載ブログです。部分的にリンクが機能しない箇所があります。予めご了承くださいますようお願い致します。


パーパスをオペレーションに落とし込み、非財務指標を事業管理へ織込む

SAP社サステナビリティ経営 ~10年の軌跡~

SAPは2010年以降イノベーションとM&Aを梃に製品売り切り型のビジネスからサービス型ビジネスに事業構造を変革することにより停滞から脱し、成長軌道に戻すことに成功しました。この変革の土台となったのが同社のパーパス(企業の存在意義)を起点にしたサステナビリティ経営になります。同社は2009年にサステナビリティを長期的戦略ゴールと定め、自ら実践者としての経験を蓄積しつつ(Exemplar)、イノベーションを織り込んだ製品・サービスの提供を通してお客様のサステナブル経営を支援しています(Enabler)。

2012年より統合報告書での開示を始め、2014年からは非財務指標の財務的なインパクトや相関関係も開示し、投資家やステークホルダーとのエンゲージメントを深めています。

サステナビリティ経営におけるCFOの役割

SAPのサステナビリティのエグゼクティブスポンサーはグループCFO LUKAが担っています。LUKAは「サステナビリティ戦略に基づいてコーポレートチームがポリシーやプログラムをリードするだけでは不十分、事業戦略そのものがサステナブルにならなければならない」と考え以下3つの施策を実践しています。

  1. 環境・社会へのインパクト・価値創出をすべての事業・機能組織の戦略目的と施策に
    織り込み、非財務指標を重要事業管理指標として組み込む
  2. サステナビリティ評議会に各事業・機能シニアリーダーを参画させ、各組織の戦略
    目的・施策および結果が全社サステナビリティ優先度に合致するようナビゲートする
    と同時にサステナビリティ業績に説明責任を持たせる
  3. 統合報告書の進化と企業の枠を超えた社会・環境価値測定・開示への貢献
    (バリューバランスアライアンス=VBAを共同設立)

社会・環境を適切に事業運営に織り込むことが健全な経済効果に繋がるという信念のもと、実践とステークホルダーとのエンゲージメントを積み重ねた結果、SAPのESG投資家比率は4割に達しようとしています。


サステナビリティ経営をオペレーションに落とし込む

サステナビリティ経営と旗を揚げても経営者が財務数値だけ見ていたら社員はついてきません。掛け声だけで終わらせないためには経営戦略からオペレーションへの落とし込みが重要になります。

まず、経営戦略への非財務数値織込みという観点でSAP統合報告書をご紹介いたします。今年度計画・実績のみならず、翌年度見通し、5年後の目標と長い目線で共通の戦略目標を掲げています。そして、戦略目標達成度を測る ”ものさし”として「成長性」「収益性」といった財務指標と同列に「カスタマーロイヤリティ」「エンプロイーエンゲージメント」「カーボンインパクト」といった非財務指標を並べています。

財務と並列で非財務の戦略目標/指標をステークホルダーにコミットしていることが伺えます。

また、経営戦略の舵取りを行うエグゼクティブボードメンバーの業績連動型報酬に非財務指標を明確に組込み、統合報告書で開示しています。財務指標80%、サステナビリティ(非財務)指標20%で構成されており、サステナビリティ指標の内訳は顧客ネットプロモータースコア、従業員エンゲージメント指数、正味温室ガス排出量と戦略目標の非財務指標と同じ構成になっています。

戦略目標をオペレーションへ落し込み、ナビゲーションする実践例として分かり易いのが地域別最優秀会社の評価基準になります。「成長性(予算達成率等)」「お客様の成功(顧客ロイヤルティ等)」「品質(案件の健全性等)」「人材育成(従業員エンゲージメント等)」などの16の財務・非財務指標の合計スコアで評価しており、売上・利益だけ良くても評価されない仕組みとなっています。また、事業拠点責任者や各事業シニアリーダーの目標設定には財務指標のみならず「顧客ロイヤルティ」「従業員エンゲージメント」「リーダーシップトラストインデックス」などの非財務指標が割り当てられており、四半期・月次のビジネスレビューにおいても非財務指標を織り込んだ意思決定が行われています。

実際、ある事業拠点責任者は「同国事業が好調な背景には2019年から2020年までに従業員エンゲージメントが10ポイント上がり、リーダシップトラストが16ポイント上がっていることがある。非財務指標が財務指標に影響を及ぼしていることは間違いない」と語っています。

一方で、こうした非財務指標を一人一人の社員評価までは落し込むことまではしていません。個人レベルではパーパスから各人の自主性を引き出すための場づくりや仕掛け作りに注力しています。

投資家とのコミュニケーション ~統合報告で非財務指標と営業利益の関係を開示~

SAPは2014年から2018年まで主要な非財務指標として「従業員エンゲージメント指数(*1)」、「ビジネス・ヘルス・カルチャー指数(*2)」「従業員定着率」「温室効果ガス排出量」を開示すると同時に、実際のデータを利用した独自の試算をもとに財務的なインパクトを紐づけて公開しました。

例えば2015年度の統合報告では以下のような社員の働き甲斐による財務インパクトを報告しています。

・「社会貢献投資」などにより「会社への愛着心(=従業員エンゲージメント指数(*1))」が1ポイント改善されると55億円~65億円の営業利益増加効果

・「管理職の社内登用」などにより「社員定着率」が1ポイント改善されると60億円~75億円の営業利益増加効果

・「女性管理職登用」などにより「ビジネス・ヘルス・カルチャー指数(*2)」が1ポイント改善されると100億円~115億円の営業利益増加効果

*1: 従業員エンゲージメント指数
(従業員のSAPに対するコミットメント、自尊心、ロイヤルティー等に基づく指数)

*2: ビジネス・ヘルス・カルチャー指数
(企業文化や従業員の健全性に関する指数。従業員の環境変化に対する受容性、リーダーシップ、ストレスレベル、ライフ・バランスの印象等に基づき算出)

 

また、財務・非財務ファクターの相互作用について各ファクターを「経済指標」「社会指標」「環境指標」の3つに類型化し、相互作用を分析・考慮することで非財務ファクターを含む統合的な経営戦略の構築に役立てています。これらの洞察は、投資家やシニアリーダーなどステークホルダー間で非財務指標は財務上の成功に重要な役割を果たし、事業戦略を成功させるために不可欠なものであるという認識を確立する上で大きな役割を果たしています。

そして2019年、SAPは財務指標と非財務指標を結び付ける長年の経験を活かし、企業の枠組みを超えて人・社会・環境に与える影響を金額換算し、企業間で比較分析できるようにする企業価値算出手法の確立に寄与するためバリューバランシングアライアンス(VBA)をBASF社、ボッシュ社、ノバルティス社ほか欧米韓8社で共同設立しました。

SAPは、理論だけでなく実務的に有用であり、導入しやすい方法論開発に寄与すべくパイロットプロジェクトに参加し、自社生データに基づいた成果を統合報告書で開示しています。


デジタルテクノロジーの役割:財務指標・非財務指標を繋いで統合経営を推進

非財務と財務指標を繋いでサステナブル経営を実践する上でデジタルテクノロジーは重要な役割を果たします。特に「可視性」「速さ」「正確性」を高めるために不可欠といえます。

非財務指標を織り込んだ活動結果を分かりやすく「可視化」するという観点ではSAP社統合報告Webページにある財務・非財務指標開示が参考になります。SAP Analytics Cloud(*3)を活用して視覚的に分かりやすいグラフィカルな形で非財務指標をオンデマンドかつ多様な切り口で分析できるよう工夫されています。

*3: SAP Analytics Cloud:
セルフサービスBI、予算計画、予測分析を1つのツールで行うことができるSaaS製品

Interactive Chart Generator | SAP Integrated Report 2020

また、全社員が下記サステナビリティダッシュボードを閲覧でき、社外ステークホルダーにコミットした環境、社会、人に関連する戦略目的達成状況を国・事業の詳細な粒度で適宜把握できるようになっています。

「速さ」は特に循環型経済課題で大きな役割を果たします。例えば、デジタルサプライチェーンを活用で市場変動に合わせた需給調整による無駄を未然に防ぐと同時に余剰・副産物の予測データを活用して二次利用、三次利用をスピーディーに促すことが期待できます。

そして「正確性」については業務システムへのサステナリティ軸の組み込み、財務と非財務データを統合管理できる基盤整備が鍵となり、非財務数値の監査という観点でも今後ますます重要なテーマになります。

 

お客様のサステナビリティ経営をご支援するEnablerとしての実践事例

お客様のサステナビリティ経営を支援するEnablerとしての取組みで注力しているのが、S/4HANAのデータモデルにサステナビリティ属性を持たせてヒト・モノ・カネに加えてサステナビリティ関連情報を補足・管理するコンセプトのソリューション群であり、今後順次リリースされる予定です。
SAP Solutions for Sustainabilityの詳細はこちら

一方、足元で利用可能で注目されているソリューションとしては以下のようなものがあります。

◆SAP PCFA(Product Carbon Footprint Analytics)
最新のCO2排出量を必要な視点で関係者に共有・可視化し、改善に向けた判断を促すことで企業全体のCO2排出抑制の実現を支援

◆ 気候変動への対策 – SAPソリューションが貢献できること
化学業界を例にしたPCFAコンセプトデモ/ブログも、Green Lineの重要性、CO2削減に向けた新しいマインドセットという観点で参考になります。

◆サステイナブル調達による企業価値の向上
SAP ARIBA (Supplies Risk + Sourcing) & EcoVadis
調達ポリシーにあわせて調達業務のプロセスを定型化とSAP Ariba Supplier Risk+ EcoVadis評価によるサステナブル調達の持続的チェック・モニタリングを支援

Qualtrics EmployeeXM
Qualtrics EmployeeXM により従業員の気持ちの把握と洞察を得ることで、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)イニシアチブを加速化

業界により濃淡はあるものの、サステナリティ経営は5年後、10年後市場でプレイヤーとして勝ち残るためのエントリーチケットと語る経営者は少なくありません。デジタルトランスフォーメーションのありた姿とロードマップ描く際には、サステナビリティを経営戦略から事業オペレーションを落し込み、非財務・財務データを繋ぐ仕組みをどのように作るかという視点が重要になると同時に事業そのものをサステナブルにする鍵になると思われます。

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