※旧ブログサイトよりの転載ブログです。部分的にリンクが機能しない箇所があります。予めご了承くださいますようお願い致します。
イノベーションが企業競争力の源泉となっている現代では、財務指標に表れない価値こそが、変化の激しい時代における企業価値となっています。そういった非財務資本を反映した自社の価値を正しくマーケットに伝えるため、人的資本レポーティングが大きな注目を集めています。多くの企業が公開する統合報告書の規格である国際統合報告フレームワークのなかでも、人的資本は非財務資本の一つの重要な要素として位置付けられています。
そうした背景を受けて、人的資本に関連するガイドラインや提言が、日本を含め世界的に次々と発表されています。2018年には、人的資本レポーティングに関する初の国際規格であるISO30414が発表されました。従来の財務諸表では人事情報をコストの視点でしか見ていなかった点を是正して、人材資本への投資の見える化を図ることが目的です。
昨年には、人材版伊藤レポートが発表され、持続的な企業価値の向上を目的として、人的資本の最大化に向けた提言がなされました。その中では、CHROは人的資本データに基づいて、人材戦略を価値創造のストーリーとして投資家に発信する必要があると提言されています。
また、同じく昨年、米国証券取引委員会は、上場企業に対して人的資本に関するレポーティングを義務化しました。従業員数だけの開示では正しい投資の判断ができないという、マーケットからの要請に対応したものだと言えます。今後こういった流れが、日本を含めた世界中でさらに顕著になっていくことは間違いありません。
今企業に求められていることの本質は、これまでとは比較にならないほどのスピードで変化する中で、長期的に価値を生み出せる企業であることにほかなりません。そのためには、人材価値を最大化するためのタレントマネジメントプロセスを構築し、事実データに基づいてモニタリングし、継続的な改善をしていくことが必要です。
一方で、人的資本への投資やその成果に関する指標は、財務指標と比べてあいまいで、厳格な基準がありませんでした。そのような課題を解決するために、初の国際標準であるISO30414が開発されました。この規格によって、人的資本に関する透明性が高まり、リスクマネジメントや継続的なプロセス改善が行えるようになります。
ISO30414では、人材資本へどれだけの投資をしたかのInput、どのような活動をしているかのActivity、どのような成果が出ているかのOutcomeを示す指標は、11のレポーティングエリアと呼ばれるカテゴリに分けて規定されています。
例えば、コストのレポーティングエリアの中には、総額人件費、外注人件費などの指標が含まれており、その一つ一つに対して、どのように算出するかを定めた具体的な計算式が定義されています。
また、各指標は、組織内部でレポーティングするべきものか対外的に公開するべきものか、そして大企業での利用が推奨されるものか中小企業でも利用が推奨されるものか、という二つの視点で区分けされています。
特徴的な点としては、タレントマネジメント、エンゲージメントなどまで含めた非常に広範囲の領域に対するレポーティングが求められることと、人材開発コスト、リーダーシップトラストといった、これまであまり公開されてこなかった指標が外部公開指標として定義されていることが挙げられます。
継続的に価値を生み出すために、人材管理で何を重視すべきかという視点が表れていると言えます。
これらのレポーティングには、非常に多くの業務プロセスが関与し、かつ経年で比較することが求められています。そのため、効率的な実現のためには、紙やエクセルベースのプロセスを減らし、できるだけ多くのプロセスをデジタル化することが必要となってきます。
さらに、その情報を集めてレポーティングするために多くの人手を要していては正確性にも継続性にも課題が出てくるため、複数のプロセスからの情報を組み合わせて効率的なレポーティングができる仕組みが求められます。
SAPではこれからご紹介する複数のソリューションをご提供することで、人的資本レポーティングの仕組みを効率的に構築いただくサポートをしております。
一つ目は、2021年5月から無償提供を開始した「Human Capital Disclosure Template」です。こちらは、人事システムであるEmployee Centralで人事業務を行うことで蓄積される情報を使って、人的資本に関する情報を自動的に表示できる標準レポートです。
要員分析、採用、欠勤、賞与の4つのタブで構成されており、ダイバーシティなどに関する指標を、組織別、年齢層別など軸を切り替えて分析いただけるようになっています。
現時点では、コア人事管理に含まれる情報を元にしたレポーティングとなっていますが、今後、こういったテンプレートを、スキルと能力育成や後継者計画などのタレントマネジメント領域で拡張していくことを予定しています。
二つ目は、様々なアプリケーションの情報を連携してレポーティングするためのひな形である、ビジネスコンテンツです。ビジネスコンテンツとは、例えば、一人当たり売上のように会計と人事など複数アプリケーションの適切な項目からデータを抽出する機能、それらを計算して分析レポートとして使いやすいデータモデルに整理する機能、そして複数のKPIを様々な軸で自由に切り替えられる形式の分析レポートがセットになったものです。
例えば、会計・人事をまたぐKPIや複数年度にわたるKPIの変化を正確に蓄積したレポーティングを、複数システム間のデータ調査や分析用のデータモデルの設計などを一から始めるといった苦労なしに実装いただくことが可能です。
三つ目は機械学習の機能を埋め込んで、ユーザーに改善すべき領域や課題の背景を提示するレポーティングツールです。ここまでレポーティングの機能についてご紹介しましたが、冒頭でご紹介した様々なガイドラインの本来の目的は、データを活用して、人的資本を最大化できる仕組みを継続的に改善していくことです。レポーティングツールを使用することで、例えば、特定のKPIが高いまたは低い主要な要因を、レポートを見たその場でリストアップできるようになります。さらに、調べたい項目名や分析軸を入力することで、まだ誰も作っていないレポートを自動的に作成してくれるような機能も搭載されています。
ISO30414を参考に自社のレポートを作成される際に、今ご説明したような機能を盛り込んでいただくことで、単なる報告業務の一つではなく、人的資産の最大化をするためのプロセスとして、システム価値を最大活用していただけます。
本稿では、ISO30414をテーマに、人的資本のレポーティングとその有効活用についてITシステムの目線で見てまいりました。しかし、ISOを含む複数のレギュレーションやガイドラインが求める本当の目的は、企業として継続的な価値を生み出すために、人的資本への投資を適切に管理し、自社の人材価値、ひいては企業価値の最大化を目指すマネジメントシステムを構築することです。
SAPは、幅広い業務範囲をカバーする機能群、情報を効率的に見える化するための豊富なレポートテンプレート、レポートに組み込まれた機械学習機能、そして、ビジネスプロセスを容易に変更・追加できるシステム基盤によって、人的資本を最大化するプロセス全体をご支援致します。