Customer Success Day Kansai レポート

グローバル企業の人事は地域ごとの特性に応じた対応が求められます。クラウド型の人事管理システムである SAP SuccessFactors の導入や運用においても、さまざまな課題が生じることでしょう。SAP Customer Success Day Kansai では、こうした課題に取り組む企業がその実例を共有しました。本記事では、参天製薬株式会社の Global HRIS Manager である落合 伸大 氏とシスメックス株式会社の人事本部 人事部 課長である本庄 大介 氏が両社の取り組み内容やノウハウ、将来展望について語りました。

〇登壇者

参天製薬 落合さん

 

 

参天製薬株式会社
Global HRIS Manager, Human Resources
落合 伸大 氏

シメックス 本庄さん

 

 

シメックス株式会社
人事本部 人事部 課長
本庄 大介 氏 


グローバル HR 変革に挑む、参天製薬とシスメックスの取り組み

参天製薬は「天機に参与する」という中国古典由来の企業理念と、「Happiness with Vision」というワールドビジョンを掲げ、眼科領域に特化したスペシャリティファーマとして事業を展開しています。 2023 年度の売上 3,020 億円のうち約 42 %が海外市場からのもので、グローバルでの社員数は約 3,700 名(国内約 1,700 名)となっています。
SAP SuccessFactors は 2015 年頃の EMEA 地域を皮切りに段階的にグローバル展開し、現在は全従業員を対象にシングルインスタンスで運用しています。日本拠点には 3 名のグローバル HRIS メンバーが所属し、各リージョンの専任メンバーや HR・IT チームと連携しています。 人事戦略の基盤として人事ソリューション SAP SuccessFactors Employee Central以下 Employee Central )を採用し、データドリブン HR の推進を可能にする基盤を整備しました。また、評価、報酬、後継者管理などのモジュールを通じて、人事プロセスや制度をグローバルで標準化し、複数のリージョンにまたがる組織やレポートラインを統一したプラットフォームで管理できるようになっています。リージョンごとにシステムを導入・運用する必要がなくなり、コスト削減にも寄与しました。現在は人事業務をグローバルで一貫して運用できるインフラがほぼ整った状況で、データの精度向上とさらなるデータ活用の促進に注力しています」(落合氏)

(図1)参天製薬の SAP SuccessFactors 導入/拡大の軌跡

導入

シスメックスは血液検査機器や診断薬の製造を手がけ、「より良いヘルスケアジャーニーを、ともに。」というスローガンのもと、病気の予防や健康診断など、人々の健康をサポートしています。日本、EMEA 、アメリカ、アジア太平洋、中国などで事業を展開し、グローバルで約 11,000 人の社員が在籍。 2021 年 2 月に SAP SuccessFactors の利用を開始し、Employee Central で全従業員のデータを管理していますが、日本・ヨーロッパの共通インスタンスと、アメリカ・シンガポールの独自インスタンスを連携させるハイブリッド運用を行っています。人事部門は「エンプロイージャーニー」の考え方を重視し、従業員一人ひとりの人生に寄り添う取り組みを進めています。現在、SAP SuccessFactors を活用した取り組みとして、まずグローバルで統一されたシステムを早急に実現することを目指しています。ジョブ型雇用を導入した中で、特に重要なポジション管理を強化し、さらに蓄積されたデータを可視化することで人材ポートフォリオの拡充を行いたいと考えています。加えて、SAP の AI アシスタント「Joule」の活用を検討し、人事部門だけでなく従業員全体の業務効率化を図ることを目指しています」(本庄氏) 

(図2)シスメックスの SAP SuccessFactors 導入の目的

導入目的

地域特性を踏まえ、人事データの統合と精度向上につとめる

グローバルで人事情報を集約する際には、運用ルールの徹底や各国の法律、文化に対応する必要があります。これらの課題を解決するため、2 社は独自の取り組みを行っています。シスメックスでは「グローバル」と「国内」の視点に分けてこの課題に取り組んでいます。グローバルの視点では、全ての地域で統一されたシステムが使用されておらず、各国の法律や文化の違いが大きな課題となっています。例えば、ヨーロッパでは GDPR(EU 一般データ保護規則)があり、アメリカでは性別や年齢データの表示が制限されています。シンガポールでは個人情報保護の観点から社外に情報が漏れてしまうことがないよう従業員の名前を伏せるケースもあるため、データの集約や統一されたシステムの構築が依然として課題です。また、タレントマネジメントの概念や運用方法が国ごとに異なるため、その統合も重要なテーマとなっています。国内の視点では、人事データの双方向のやりとりを重視しており、2024 年度から『キャリア申告SAP SuccessFactors 上で導入しました。この仕組みにより、従業員が自分のキャリア情報を自由に記入・更新できる環境を整えています」(本庄氏)

SNS で日常や仕事を投稿することが一般的になるなか従業員同士の相互理解と助け合う環境を作るための土台として、本庄氏は人事情報を SAP SuccessFactors 上に積極的に記録してほしいと考えていると話します。ただし、データの信頼性や正確性の確保は依然として課題であり、現在はデータ収集を進めながら運用体制の改善を図っている段階であると続けました。一方、参天製薬では、グローバル規模で人事業務プロセスを SAP SuccessFactors で統一的に運用する仕組みを構築しています。データの入力プロセスもこのシステムの利用を前提に設計されており、業務全体を効率化するための取り組みを進めてきました。この設計には多くの調整が必要で、パートナー企業の協力を得ながら改善を重ね、現在の形に至っています」(落合氏)

現在では、SAP SuccessFactors を基盤に、得られたデータを他のシステムと連携させるだけでなく、人事業務全体や社外向けの統計値報告にも活用しています。そのため、データをタイムリーかつ正確に入力することが非常に重要であり、入力ミスが業務に及ぼす影響やリスクについて人事部門間で常に共有しています。また、問題が発生した際には迅速に対応できる体制を整備し、運用の改善を継続しています。導入初期には、データ入力の重要性に対する理解が不足し、遅れやミスが発生することもありましたが、影響や責任を具体的に共有・解決していくなかで、従業員の意識が向上しました。しかし入力ミスを完全に防ぐことは難しいため、人事部門が定期的にデータチェックを行い、精度向上に取り組んでいます。

データ活用がグローバル人事の未来を拓く

グローバルで人事データを活用するには、その取り扱いも重要です。参天製薬では、シングルデータベースを用い、人事以外のシステムや ESG 評価機関に信頼性の高いデータおよび数値を一元的に提供しています。

また、SAP SuccessFactors の「ストーリーレポート」を導入し、データを視覚化して人事担当者が最新の状況を把握しやすい仕組みを整えました。これにより、効率的な運用と高度なデータ活用が可能になっています。シスメックスでは、Employee Central のデータをロボットで抽出し、Power BI を活用して可視化・共有しています。今後はストーリーレポートの導入を進めさらなる可視化を目指しており、現在の重点課題は、従業員自身が入力した情報をどのように可視化するかにあります。人事データには数値化できるデータと感情的なデータが含まれるため、人の自律的な特性をデータとして捉え、活用する方法を模索しています。また、グローバルでの人事管理では、各地域のリクエストへの対応が欠かせません。シスメックスでは、ヨーロッパからのリクエストが特に多く、機能の使い方や変更承認に関する依頼が頻繁に寄せられています。日本で最終承認を行い、ヨーロッパとは 2 週間に 1 回ディスカッションを実施して調整。その一方で、アメリカやシンガポールではデータ連携が中心でリクエストは少ないものの、今後のシステム統一を目指し、グローバルミーティングの再開を計画しています。ヨーロッパとの継続的な連携を軸に、グローバルな調整を進めているところです

参天製薬では、Employee Central に関するリージョンからのリクエストを、グローバルで対応すべきかローカルで処理すべきかを判断しています。グローバル対応が必要な場合は、グローバル人事部門で要件を定義し、2 週間に 1 回の会議でリージョンごとの影響や意見を確認した上でチェンジリクエストとしてまとめています。タレントやリワードなどの分野では、COE(センター・オブ・エクセレンス)が要件を調整し、グローバルプロセスとして進めています。この体制を構築するにあたり、各リージョンとの信頼関係を築くのに時間を要しました。リージョン間の衝突を避けるため、パートナー企業が第三者の視点で調整役を担い、ビジネスと人事の目標を共有しながら進めたことが成功の鍵となりました」(落合氏)

今後の展望について落合氏は、参天製薬として引き続きデータ品質の向上に注力し、それをより効果的かつ効率的に維持していく予定です。同時に、データの最大活用にも注力します。AI 機能の拡充も可能性を積極的に探りながら取り組みを進め、最終的にはビジネスにより高い付加価値をもたらしてくれると期待しています」と話しました。本庄氏は、シスメックスは従業員ファーストの考え方をさらに重視していきます。従業員一人ひとりが主人公であり、人事部やシステムはそのサポートをするために存在すると考えているからです。従業員が出社後に SAP SuccessFactors を開き、自分のスキルを更新したり、会社の状況を確認したり、同僚のスキルを見ながら話をするなど、日常的に活用されるシステムを目指しています。そして、従業員と経営の双方が情報活用し、より良い職場環境と企業成長を実現していきたいと考えています」と語りました

 

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