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SAP S/4HANA 2021 新機能 第1回:生産・製造領域 -サプライチェーンの変動対応を強化-

※旧ブログサイトよりの転載ブログです。部分的にリンクが機能しない箇所があります。予めご了承くださいますようお願い致します。


SAP S/4HANA 2021の新機能について複数回にわたってお届けします。第1回は生産・製造領域における拡張から、特に継続的に強化を図っている需要と供給量の変動への対応、製造実行の柔軟性強化に焦点を当ててご紹介します。
顧客ニーズの多様化、需要変化のスピードと幅の増加、市場や供給・物流網のグローバル化などによってサプライチェーン全体の変動が激しくなり、多くの企業がその対応を重要な経営課題として挙げています。さらにここ数年は災害を含む突発的要因もあり、半導体や金属などの重要部材の供給不足や物流のひっ迫・分断、製造拠点の停止や生産能力の低下などが発生し、市場要求に合わせて製品・サービスを提供していくことの難易度が高くなっているのではないでしょうか。
このような背景からSAP S/4HANAではこれまでのSAP ERP時代には不足していたり、別ソリューションとの連携が必要だったサプライチェーン関連とエンジニアリングチェーン関連の機能を拡張してきました。例えば制約を考慮した生産計画・詳細スケジューリング機能(Production Planning & Detail Scheduling: PPDS)、需要主導型補充(Demand Driven Replenishment/Demand Driven MRP)、生産エンジニアリング(生産技術/工程設計管理)およびそれと連携した詳細作業を含む生産オペレーション管理(SAP S/4HANA Manufacturing for  Production Engineering & Operations: PEO)等の機能です。今回のブログではサプライチェーンの変動対応という観点からSAP S/4HANA 2021におけるこれら生産領域の重要な機能拡張を取り上げます。

1. 資材所要量計画(MRP)実行からの購買発注変更依頼の統合管理とサプライヤー連携(SAP Ariba連携)

サプライチェーン全体の需要変動に対応するためには自社だけでは限界があり、必要な部材を供給してくれるサプライヤーとの連携が重要です。そのためにSAP S/4HANA 2021では、生産管理、購買部門、サプライヤーを横断した情報連携と供給調整の実行、調整進捗の可視化を強化しました。

社内部門とサプライヤー横断の変更情報連携

ある製品が急速に注目を集めたり、逆に別製品にニーズが移り既存製品の販売数量が減少したりといった流行の変化、競合製品の動向、販促、季節や天気など様々な要因から製品や商品に対する需要が変動します。それに応じて供給する数量や時期を調整しなければなりません。生産管理部門が製品の供給に必要な構成品を手配するためにMRP(資材所要量計画)を実行した結果、サプライヤーに対する原材料や部材等の調達日程や数量の調整が必要な場合には、既存の購買発注に対する変更提案の警告が作成されて購買部門に通知されます(下図右1)。購買部門はこの情報を確認してサプライヤーに対する変更依頼として登録することができます(下図上部2)。変更依頼は即座にSAP AribaのAriba Networkを通じてサプライヤーに連携されます。サプライヤー側ではAriba Networkから変更が受け入れ可能なのか、不可なのか、あるいは日程や数量を調整すれば対応可能かの回答を行います。こうした幅のあるサプライヤーからの返答結果に対して、受け入れ可能な日付・数量のしきい値を設定しておくことで購買発注変更を自動適用し、サプライヤーとのやり取りと生産計画変更のスピードを上げる仕組みも用意しています。これらの一連の購買発注の調整に対する実行ステータス(新規/依頼済/回答済)やサプライヤーからの応答状況・結果は生産管理、調達部門共通の変更依頼アプリケーションによって共有されます(下図左3)。

変更依頼管理

発注数量・日付の変更の必要状況と変更依頼ステータスの管理をすべての関係者が同じ変更依頼情報を見て現状の確認や業務実行を行うことで、購買発注変更に関わる会社間・部署間の情報連携作業を効率化し、変更に対して確実かつ迅速に対応できます。

2. 需要主導型補充(Demand Driven MRP:DDMRP)の予測手持ち在庫管理

需要の変動に対応したうえで在庫を最適化する計画・補充実行の方法として需要主導型補充/Demand Driven MRP(DDMRP)があります。需要主導型補充の基本事項は以下のブログでご説明しています。
SAP S/4HANAおよびSAP IBPの需要主導型補充(DDMRP: Demand Driven MRP):納期対応とサプライチェーン全体の在庫最適化を実現

詳細は上述のブログで説明していますが、需要主導型補充では在庫レベルを赤、黄、緑の3つのゾーンに分けて管理し、赤ゾーンを安全在庫(安全在庫=リードタイムや数量の変動性)、黄ゾーン(平均日次使用量×標準リードタイム=安全在庫を考慮しない素の必要在庫量)の最大値を発注点、緑ゾーンの最大値を在庫最大値とするのが基本です(下図左の棒グラフ)。

需要主導型補充 各ゾーンとアラート

SAP S/4HANA 2021ではこの従来の黄ゾーンや赤ゾーンに加えて、赤ゾーンの任意の割合で在庫閾値を追加設定することができます。さらに現時点までの情報だけではなく将来の入出庫につながる予定要素を加味した予測手持ち在庫を管理します予測手持ち在庫が時系列でどう変化していくかを監視し、その数量が安全在庫や前述の閾値を下回る日付、欠品が発生する日付に対してアラートを発生させます(上図右の棒グラフおよび下図実際の画面)。
従来の緑、黄、赤ゾーンだけで管理するよりも、生産管理担当や発注担当者が需要や供給の急な変動や緊急の問題を早く把握して対処できるようにすることが目的です。

予測手持ち在庫アラート

予測手持ち在庫とゾーンの今後の推移

この仕組みによって、将来の予測在庫が安全在庫や閾値を下回り、さらには欠品を起こすような緊急性の高い問題の発生を早い時期にとらえて対応を促します。計画担当者は急な需要・供給変動にも補充を早める調整を行うなどの迅速な対応を検討することが可能になり、在庫の最適化と欠品の防止、納期遵守をより高度に実現します。

3.需要主導型補充の手配優先度を詳細計画スケジューリングへ連携

3つ目に取り上げる機能拡張は需要主導型補充と詳細計画(Detailed Scheduling:DS)の製造スケジューリング連携の強化です。需要主導型補充を活用することで、適切な在庫配置と需要の変動に合わせた在庫レベルの最適化につながる計画を立てることができますが、そのための補充計画を確実に実行するためには限りある生産リソースに対して最適に補充のための作業を割り当てる必要があります。
新機能では需要主導型補充で生成した手配に対して優先度を設定し、緊急性の高いオーダーから順に製造する日程計画を立案できます。特に生産能力が限定されているボトルネックリソースに対して、欠品が発生する可能性の高い品目の製造指図から優先的に割り当てていくことで欠品リスクを回避します。需要の変動を捉えて在庫基準を最適に保つ需要ベースの在庫補充計画からリソース制約を考慮した製造スケジューリングを連携することで在庫コストと納期遵守の最適化を実現します。

需要主導型補充では個別の受注や顧客の優先度等ではなく、実需に基づきながら如何に欠品を避け最適な在庫レベルを保つかという原則に従って製造オーダーの優先度を管理します。具体的には「手持ち在庫ステータス」または「必要な期日に対するリードタイムの余裕度」を使用して優先度を決定します。「手持ち在庫ステータス」とは、安全在庫に対して予測手持ち在庫がどのくらいあるかの割合です(=予測手持ち在庫÷安全在庫)。その割合が低いという事は今後の想定される受注に対して在庫が足りなくなるリスクが高いということなので、優先度が高く設定されます。
需要主導型補充の設定で在庫対象(バッファ対象)とされている品目はこの「在庫手持ちステータス」で優先度を決めます(下図左の半製品1)。
在庫対象でない品目の場合(下図右の半製品2)は、後工程の在庫品目(上位品目。下図右の製品2)の手持ち在庫ステータスを引き継ぎます。

予測手持ち在庫ステータスによる優先度

ボトルネックリソースで製造する品目もその下流の品目もどちらも在庫対象品でない場合には、リードタイムに対する余裕時間から優先度を決めます。リードタイムに余裕がない、つまりすぐに作らないと間に合わない品目の優先度が高くなります。

余裕時間に基づく優先度

詳細計画のスケジューリング機能ではこの優先度に基づいて、ボトルネックリソースに対する作業手配の順序割当を行います。需要主導型補充の需要変動に合わせた供給と在庫の最適化計画を確実に実現します。

4. SAP S/4HANA Manufacturing for Production Engineering & Operations(PEO)における指図分割

顧客要求の変化に対応するためには設計から製造現場までを一気通貫して管理、連携することが必要です。SAP S/4HANA Manufacturing for Production Engineering & Operations(PEO)はそのためのソリューションです。PEOのソリューション全体像や活用例はリンクのブログに記載しています。
設計~製造現場情報の一気通貫化。Production Engineering & Operation (PEO)について | SAPジャパン ブログ (sapjp.com)

川崎重工業がSAP S/4HANA PEO本稼働によりデジタル変革を加速 | SAPジャパン ブログ (sapjp.com)

SAP S/4HANA 2021では、このProduction Engineering & Operationsに対しても機能拡張を行っています。特に重要な機能拡張として、製造現場が状況の変化や突発的な事象に対しても可能な限り製造を進められるように指図分割の機能を追加しました。作業を指定して指図分割をすることでより柔軟な指図運用が行え、例えば「品質検査を通らなかった数量を別指図にする」とか「ボトルネック・材料不足があり、出来た分だけリリースする」というような製造現場のニーズに対応できます。

ここまでSAP S/4HANA 2021の機能拡張からサプライチェーンの変動や製造現場の柔軟な作業ニーズに対応する新機能を取り上げてご紹介しました。SAP S/4HANAは以前のSAP ERPの単なる置き換えではなく、最新の環境変化に迅速に対応できるように業務的にもテクノロジー的にも新しい要素をコア機能に取り込み拡張し続けています。SAP S/4HANA 2021新機能ブログでは次回以降もサプライチェーン領域や会計領域の重要な機能拡張をお伝えします。今後のビジネス・テクノロジー基盤検討の一助となると幸いです。

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