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2021年10月13日、SAP S/4HANAオンプレミス版の最新リリースであるSAP S/4HANA 2021がリリースされました。こちらに盛り込まれた会計領域の新機能についてお伝えしていきます。
今、あるべき会計基盤とは?
昨今の目まぐるしく変化する情勢、その中でもよりビジネスを革新させていく企業にとっては、企業の屋台骨となる「会計基盤」を盤石に保つ必要があります。
では、求められる機能はいったいどのようなものでしょうか。以下の3点が重要な要素となると考えております。
- バリューチェーン全体の視野を持ち、全社で整合性のとれた事業計画および運営ができること
- 徹底的な自動化を促進しプロセスの効率化を目指すこと
- 社内外のポリシーやガイドライン・法規制、コンプライアンスを確実に遵守していくこと
これらに加えて、サステナビリティへの取り組みも重要視されてきており、今後はトップライン(売上)、ボトムライン(最終損益)だけではなく、グリーンライン(環境に関する開示)の視点も求められてきます。財務情報に加えて非財務情報を含めた計画やモニタリング、変化対応時の素早い意思決定とアクションを包括的に行う必要があり、ファイナンスおよびリスク関連部門は「ミッションコントロールセンター」としての役割を担うことになるでしょう。
SAP S/4HANAの会計システムは、日々企業内で発生するありとあらゆる業務取引をもとに、A Single Financial Truth ー つまり信頼できるただ一つの会計情報が、リアルタイムに記録されるという特長を持ちます。このため、今、まさに企業内で発生したデータをそのまま分析や着地見込・将来予測に活用することができます。
それらは最新、かつ包括的なユーザーエクスペリエンスを通して遂行され、たとえ複数の仕組みが裏では存在していても、ユーザーはそれを意識することなく自身のロールに即したユーザーインターフェースでスムーズにタスクを遂行することができます。
このような仕組みを使いながら、経理財務部門は企業におけるミッションコントロールセンターとしての役割を担い、企業経営を支え、業績の拡大に貢献していくことができるのです。
SAP S/4HANA 会計領域における進化
では最新リリースにおいて、肝心の機能はどのように強化されているのでしょうか?冒頭、3点のポイント(①事業計画/運営、②プロセス効率化、③コンプライアンス)について触れましたが、そちらを軸に整理をしていきます。
財務計画・管理会計領域
- まず、SAP Analytics Cloud for Planning による統合財務計画の機能が強化されています。計画テンプレート(ビジネスコンテンツ)が拡張し、SAP S/4HANA for Group Reportingとの統合や、SAP Integrated Business Planningの需要計画数量の統合、SAP SuccessFactors要員計画の統合等、カバーできる業務とプロセスが広がり、よりエンドツーエンドでの統合計画を実現できるようになりました。また、シミュレーションコックピットという機能により、シミュレーション機能が強化されています。こちらは、後日別ブログにて詳細を紹介します。ー①
- そして、SAP S/4HANA内の配分機能を統合するコンセプトを持ちSAP S/4HANA 1809から実装されたユニバーサルアロケーションのシナリオが拡充されています。原価センタの会社間配分、マージン分析(従来のCO-PA収益性分析)の間接費配分・付替等に対応し、より広範な要件に対応することができるようになりました。ー②
- 将来の拡張性としてユニバーサルパラレル会計という機能拡張の方向性を発表しています。これは、財務会計の複数元帳アプローチでの複数会計基準と同様、管理会計や品目元帳、固定資産でも複数会計基準を考慮した評価を自動的に行えるようにする仕組みです。既に、SaaS型のSAP S/4HANA Cloudではこれに基づく機能拡張が開始されており、SAP S/4HANA 2021では今後の開発方向性として発表とどめられていますが、当リリース以降対応機能を順次拡張していく方針となります。ー③
一般会計・決算領域
- 複数システムが混在するグループ企業の会計情報や業務を集約するCentral Financeにおいても拡張が行われています。例えば、以下のような機能が新しく盛り込まれています。―②
- WBS要素を対象としたセントラル予算管理:セントラルシステム側でWBS要素の予算チェックが可能
- SAP Fioriベースでの情報連携機能の強化:SAP Fiori仕訳管理アプリを通し、ソースシステム/セントラルシステム間の関連仕訳情報を確認可能
- サードパーティーソリューション連携における対応シナリオの拡張:支払時源泉徴収税シナリオ、ソースシステムからの税務申告用関連データ取込、見越データのための購買発注情報の取込
- 見越繰延管理においては、購買発注データを連携し、見越/繰延転記につながる元データの作成が可能です。前リリースまででできていた見越情報だけではなく繰延情報として活用できるようになり、より自動化を促進するものとなっています。ー②
- 収益認識に関する機能でも拡張が行われています。まず、従来からあるSAP Revenue Accounting and Reportingに関しては、ユニバーサルジャーナルへの直接転記によるシンプル化や、収益認識に関する開示用レポートが追加され、より幅広い要件への対応ができるようになりました。また、SaaS版のSAP S/4HANA Cloudではすでに利用可能だったイベントベース収益認識機能(受注やプロジェクトの充足の進捗に応じてリアルタイムに収益と原価の認識を行う機能)が、SAP S/4HANA 2021から利用可能になりました。ー②③
- 多くの拡張が加えられたのが、SAP S/4HANAに統合された連結機能であるSAP S/4HANA for Group Reportingです。ここでは、先に述べた計画ソリューションとの統合強化、対応シナリオの拡張(棚卸資産未実現損益消去のサポート)、複数通貨連結のほか、内部取引照合業務における機械学習エンジン対応が挙げられ、より連結決算業務を効率化することができるようになりました。こちらも、後日別ブログにて詳細を紹介します。ー①②③
- また、電子請求書から申告業務まで、各国の報告要件に対応するSAP Document and Reporting Compliance というソリューションが誕生しました。これは、従来バージョンで存在した、法定レポート作成機能であるAdvanced Compliance Reportingと、電子申告を行うSAP Document Complianceが統合したもので、日々発生する電子請求から年次報告が必要な要件まで、エンドツーエンドで各国の法定レポート要件に対応することができます。なお、日本では電子インボイス要件に関し、こちらの製品を利用しソリューションをご案内させて頂く予定です。ー③
資金管理・不動産管理領域
前述以外のプロセスでも機能拡張が行われています。
- 資金管理領域では、銀行報告書からの口座残高の取込機能が強化されています。帳簿残高ベースの銀行残管理に加え、銀行報告書ベースでの銀行残管理をできるようになり、より確実性の高い資金ポジションの把握や、帳簿残高と金融機関の口座残高の照合がし易くなりました。ー②
- 不動産管理においては、従来の不動産管理コアモジュール(SAP S/4HANA contract, lease and real estate management)と、不動産情報をクラウド上で管理するSAP Cloud for Real Estateの統合を深めた、SAP Intelligent Real Estate というソリューションが導入され、より広範囲での不動産プロセスをカバーすることができるようになっています。両ソリューション間でのマスタが統合され、単一のユーザーインターフェースから両機能にアクセス、効率的な不動産管理業務を実現します。ー②
まとめ
以上のポイントを、冒頭で触れた昨今の会計基盤に求められる3要素とマッピングすると、このようになります。各領域で3点のポイントを意識した拡張が行われていることがお分かりいただけるかと思います。
もちろん、本ブログでご紹介した新機能は、SAP S/4HANA 2021で行われた拡張の一部となり、ここで述べた機能以外にも数々の拡張機能があります。例えば、ユーザーエクスペリエンスの拡張(既存Fioriアプリの拡張や、新規Fioriアプリのリリース等)も様々な領域で行われましたが、最新のリリースはFiori Apps Libraryにてご確認いただけますし、最新のSAP Analytics Cloudコンテンツはこちらのページから参照いただくことが可能です。その他様々なアップデートにつきましても、What’s New Viewerを参照していただくことができます。
また、既に英語でリリースされている下記のブログやYoutube動画もぜひお楽しみください。
SAP Communityブログ:SAP S/4HANA 2021 – Finance Overview
概要ビデオ:SAP S/4HANA 2021 – Finance and Risk Highlights
次回以降、財務計画と連結・内部取引照合の拡張機能について、より詳しくお伝えしていきます。ご期待ください!