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転ばぬ先の杖!カナダ航空に学ぶ、コロナ禍でも効果を出し続けた理由

Passenger airplane landing at dusk

2022年秋、未曽有の危機として新型コロナウイルスが猛威を奮った2020年から考えれば、コロナ禍も大分、落ち着きを見せており、徐々に、“With コロナ”の生活へとシフトしてきている。ビジネスの現場でも非常事態として位置づけられていた時期をどうにか乗り越え、徐々にコロナ禍以前の状態に戻りつつある中、ホッと一息ついている企業も多いことだろう。

コロナ禍の中での通勤…
しかし、ここで注意しなければならないのは、我々には「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という悪い性質があることだ。コロナ禍においても危機に対応すべくデジタル変革を進めた企業と、出社を継続した企業とに二分されているのではないだろうか。ここでは、「転ばぬ先の杖」としてレジリエンス強化に向けてバックオフィス改革に果敢に挑んだカナダ航空の取り組みを、「転んだ“後”の杖?!」として、ぜひ多くの企業に参考にしていただきたい。言うまでもないことであるが、この取り組みは、海外事例であることや航空業界であることをも越えた、バックオフィスにおける全ての企業共通の課題への挑戦であり、どの業界の方々にも示唆に富んだものであることを意識して、進めていきたい。

カナダ航空が取り組むESG

カナダ航空は、カナダ国内線、加米間のトランスボーダー、そしてカナダ発着の国際線といった、市場において最も大きな航空会社のひとつであり、定期旅客サービスプロバイダーである。2019年には、リージョナルパートナーであるカナダ航空エクスプレスと共に、6大陸、220近くのデスティネーションへ、5,100万人の旅客を運んでいる。また、世界でもっとも包括的な航空運輸ネットワーク、スターアライアンスの創立メンバー企業のひとつでもある。

一方で、カナダ航空はESGの観点でも、「E:環境」面への配慮として、ふたつの点にフォーカスしている。ひとつめは、“Leave Less”と銘打ち、オペレーションを通したエネルギー消費や炭素排出量を少なくすること、土地や水資源の無駄遣いや騒音を少なくすることへの注力、ふたつめは、”Do More”として、業界パートナーとのコラボレーションやコミュニティ、従業員、そして顧客との接点を増やすことへの注力である。また、「S:社会」面では、80年来のコミットメントとして、2012年には子供と若者の健康とウェルネス発展のためにカナダ航空財団を設立。2020年には、6年連続でカナダのベストダイバーシティエンプロイヤとして、また、8度目のモントリオールのトップエンプロイヤのひとつにも選ばれている、カナダの名だたる企業である。

可視性と効率性強化のための、調達購買プロセス自動化に向けた取り組み

カナダ航空のチャレンジ

まず注目すべきは、この調達購買プロセスの改革に、コロナ禍以前より着手していたことである。多くの企業において、コロナ禍に出社を余儀なくされている状況が多々見られていたことは、読者の記憶にも新しいところであろう。この一連のプロアクティブな改革への取り組みが、結果としてコロナ禍という未曽有の危機においてもしなやかに対応することを可能にしていたというところが、大きなポイントである。

カナダ航空では、「株主価値の創出」、「顧客体験と従業員エンゲージメントの向上」に関して、継続的に尽力しており、このミッションを果たすためにも、効率的で透明性の高い購買オペレーションが求められていた。既に間接材を取り扱う調達購買ファンクションは設置され、集約による一定の成果は出していたという点では、一般的な日本企業の状況よりも一歩も二歩も先を行っていたものの、購買チームメンバーが最大限のパフォーマンスを発揮できるような、シンプルで標準化されたプロセスの導入や、購買情報の一元化など、更なる高度化が課題となっていた。同時に、コスト削減と手続きミスを削減するプロセスの自動化やコンプライアンスの強化、更には従業員およびサプライヤ体験を向上させることも目指していた。その当時、既にインボイスシステムを次世代システムにリプレイスしていたものの、それだけでは不十分だったため、統合支出管理を可能にし、自動化の範囲を拡張できる調達購買プラットフォームを導入することが必要とされていた。もちろん、この時点でこれらのソリューションを導入することが、その後、コロナ禍にて引き起こされた航空業界の混乱に対しても効果があると考えていた者は、おそらく誰もいなかっただろう。

プロジェクトで何を成し遂げるのか、その目標とは?

プロジェクト開始にあたり、カナダ航空では、次の3つを目標として掲げていた。

アーキテクチャ

前述に掲げたプロジェクト目標を達成するために、選択したプラットフォームが以下の図の通り、Aribaソリューションである。“Buyer”であるカナダ航空と”Supplier”である取引先とをビジネスネットワークとして繋ぐ”Ariba Network”。業務プロセスに沿ってアップストリームとなる、調達先候補の選定から契約締結。そして、ダウンストリームとなる、発注申請から納品検収、請求支払。これらを一気通貫、End to End(以下、E2E)のプロセスと支出の可視化を実現するAribaソリューションで構成される。

Air Canada Ariba Solutions Architecture

稼働タイミング

プロジェクトとして開始されたのは、ちょうど北米でも戦略的調達(Strategic Sourcing)という言葉が定着し、多くの企業が積極的に調達購買ファンクションを設置、プラットフォームも成熟しつつあった2010年代半ばである。

E2Eの調達購買業務に沿った形でそれぞれのコンポーネントごとに導入、タイミングを少しずつずらして稼働させている。もちろん、プロジェクト開始前に全体像を描いた上でのロードマップではあるが、このように、デジタル化の恩恵を受ける優先順位の高い領域から徐々に稼働させていくことで、導入時やシステム移行後の運用上のリスクを軽減、必要とされるリソースの平準化をしながら効果を出していくことは可能である。読者もお気付きだと思うが、結果的ではあるものの、2020年3月、新型コロナウイルスの蔓延する前のタイミングで、すべてのコンポーネントを稼働させている。

Air Canada Go-Live Timeline

プロセスの詳細と目標に対する効果

今回の取り組みによって、どのようにプロセスが変わり、プロジェクト目標に対してどのように貢献したのかを見ていこう。

“SAP Ariba ソリューションのおかげで、支出の全体像を見ることができ、プロセスの自動化やコンプライアンス強化、そして組織のデジタルトランスフォーメーションが進んでいます。

~カナダ航空 CoE 戦略的購買部門 ディレクター カラリン・アモイ (Coralyn Ah-Moy)~”

カナダ航空の取り組みに見られる我々へのメッセージ

繰り返しになるが、新型コロナウイルス蔓延とは関係のない時期で開始していた調達購買プロセスの改革が、プロジェクトとして掲げていた目標を達成するだけでなく、未曽有の危機であるコロナ禍においてもレジリアントに対応できる結果になった。現在、コロナ禍以前の状態に戻りつつあるとは言うものの、危機的状況というのは、感染症によるものだけではない。そのことを踏まえれば、また次にどんな危機が起こったとしてもビジネスを継続的に維持していくことが求められることは言うまでもないことだろう。変革とは歩みを止めないことである。カナダ航空にとっても今回の取り組みはあくまでも変革のスタート地点であり、今後ともSAP Aribaソリューションを活用したカナダ航空の変革ジャーニーは継続し、常に折々の環境変化に最適な形で対処していくことになるだろう。

2022年の今、なぜ2020年のカナダ航空の取り組みが受賞となったのかを、ぜひ想像してみていただきたい。やはり本来は、「転ばぬ先の杖」があるべき姿なのだ。しかし、過ぎてしまった時間は取り戻せない。「あの痛みからの教訓を生かしてほしい」。それがカナダ航空と審査員からのメッセージのように思えてならない。

もし、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」として、ホッとしている読者がいるとすれば、ぜひ今一度カナダ航空の取り組みを参考に、次なる危機が来たとしても悠然と構えていられる環境を手に入れるための準備を始めようではないか。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、カナダ航空のレビューを受けたものではありません。

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