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人事領域におけるグローバルガバナンスの現状と打ち手 ~第3回 要員人件費の適正化に向けた勘所~

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1. はじめに

五回に分けてグローバル人事ガバナンス(本社が直接的または間接的に海外現地法人へ指示を出し、その結果を本社で集約している施策)に関して記述する本シリーズの第三回目となる本稿では、「要員人件費の適正化」をテーマに、その課題と要因、および短期と中長期の具体的な打ち手を紹介する。

 

2. グローバル企業を悩ませる現地法人の人件費

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が2018年に実施した「日本企業のグローバル戦略に関する研究」では、東証一部・二部に上場している企業を対象に実施したアンケートで、
「人件費の高騰が負担である」
が、現地法人の経営課題のトップであり、半数以上の企業が本課題に頭を悩ましておられることが分かった。(図1参照)

図1:現地法人の経営課題
日本企業のグローバル戦略に関する研究(独立行政法人労働政策研究・研修機構、2018年)を元に筆者作成
これらの課題はグローバル全体の視点で見ると、以下の2つのケースに分かれる。

本稿では、①のケースをテーマに記述する。

 

3. 事業成長の鈍化と要員人件費に関する意識の変化

日系企業の海外事業展開は、多くのホワイトスペースが現地に存在したため、長らく右肩上がりの成長を続けてきた。

一方、日系企業を中心としたグローバル企業から事業ノウハウを吸収してきた現地企業の存在感は、アジア通貨危機の影響が薄れ出した2000年代後半から増大し、それに反比例するように2010年代には製造業や流通、デベロッパーを中心に現法事業の成長スピードが鈍化し始めた。

現在、特にコストにシビアな自動車メーカーや流通を中心に、コスト削減を目的とした要員人件費の適正化が強化されているが、日本で実現しているような強力な要員人件費管理を現地で実現しているケースはまだ見当たらない。

 

4. 現地における要員人件費管理の難しさ

要員人件費の適正管理は、一般的に以下の4つのステップで進める。

筆者がこれまで見てきた現法各社では、1から4の各ステップで課題を抱えており、あるべき姿まで程遠いケースが多かった。

以下に各ステップで見られる課題の一例を挙げる。

このように現地人材や現地人事を中心に、根深い課題感が多く存在しており、これらを解決するためには時間を要する。そのため、短期的に成果を出すための施策と時間をかけて実施する施策(現地人材のマインドセットチェンジ)の双方を車の両輪のように実行することが肝要と言える。

 

5. 短期と中長期の打ち手

上記の課題を解決し、総労務費を適切にコントロールして現地法人のバリューを高めるためには、短期的に仕組みを構築してステップ1と2を実現する打ち手と、中長期的に実施する意識変革や働き方改革の仕掛けを構築してステップ3と4をやり切る打ち手の2種類がある。これらは車の両輪のように、どちらかが欠けても本来の目的は達成しづらい。

以下に、各打ち手の一例を記載する。

短期の打ち手:要員人件費管理スキームの設計

これに関しては、部分的に既に現地法人で実施されているケースが散見される。
各部門が事業計画をベースに作成する要員計画を期初に集め、事前に情報を取得して中長期的な増減に備えるとともに、現状の要員情報を月次で集めて進捗を管理するものである。これは「ボトムアップベースの要員管理」と言われ、部門別、職種別の細かい情報や計画が明確になるとともに各事業との連携がリアルタイムに取れるメリットもあり、現地法人で実施されているケースが見られる。
一方で、積み上げ式の計画策定になるため、予算、特に中長期的な予算を守るという観点では、機能しづらいというデメリットがある。

故に、この「ボトムアップベースの要員管理」と並行して「トップダウンベースの要員管理」も併せて行い、ボトムアップベースの計画が全社予算や中長期的な財務計画に沿っているかどうかをチェックすることが肝要である。

しかし、これらを表計算ソフトや手作業で実施することは、相当な工数と計算ミスを生む可能性を秘めている。故に、作業の正確性や効率性の向上に向け、ITシステムの活用を強くお勧めしたい。以下に掲載するのは、弊社製品であるSAP SuccessFactorsの要員分析・要員計画に関する画面である。部門担当者や経営者/予算管理者が操作し、入力されたデータや計画がダッシュボードにリアルタイムで反映される。また、シミュレーション機能を使って要員数や人件費単価を変えることで総労務費へのインパクトを瞬時に把握し、要員計画や労務費計画の精度を高めることが可能となる。如何に必要な情報が集約されているか、検討するにあたって使い勝手が良いか、を感じていただけはればと思う。

図2:要員分析・計画の画面の一部
参考:図2はSAP SuccessFactorsのデモ画面

 

中長期の打ち手:現地人材の意識改革

上述の短期の打ち手だけでは継続的な活動が無く、社員の理解が必要な人件費単価の低減や人員削減が実行できずに、総労務費の低減にまで行きつかない。総労務費を適正にすべく人件費単価や要員数を低減することは、現地人材にとっては痛みの伴う施策となり、これらを自分事として取り組める現地人事は極めて限定的となる。また人事は理解していても、理解が追い付いていない他の社員(上級管理職を含む)や労働組合がブレーキをかけていることも多い。

故に、上級管理職からワーカーまで、全ての現地人材を対象とした意識改革(チェンジマネジメント)が必須となる。
一般的にチェンジマネジメントはC(Change)、T(Train)、C(Communicate)で構成され、これらを変革の対象となるグループに展開する。本ケースだとChange(変革の定義)は、会社の存在意義や会社と社員(または労働組合)の目指す姿・役割などといった根源的な一般論から、自社のビジネスモデル、経営状況に関する将来展望やリスクといった自社に関する情報まで定義することが、最初に取り組むべきタスクとなる。

これらの定義を、各職層に合った内容と伝え方で教え(Train)、継続的に伝え続ける(Communicate)ためのパスや仕組みを整備し、実行することが本チェンジマネジメントで実施すべき内容である。

大事なポイントは、こういった活動を複数年、場合によっては10年以上かけて継続して実施しなければ効果は発現しない、ということである。日本を顧みた時、社員や労働組合が「人件費が高まりすぎると会社の存続が危ういので、定昇やベア、賞与については市場と業績の双方を鑑みなければならない」という至極当たり前の話を理解するまでに、相当な時間を費やしてきた。トヨタ自動車を例に出すと、1950年の労働争議で会社と労働組合が大いに戦い、その反省を基に10年以上かけて労使間で議論を進め、1962年の労使宣言に至った。このケースを見ても、12年かかっている。
また、フランスやアメリカの一部の業界のように、こういった内容の理解(労使協調)は人事の成熟度に関係なく遅々として進まず、先進国でも人件費の適正化に向けた活動が停滞している。そのため、国や地域、また会社や人事の成熟度に関係なく、継続的に活動することをお勧めする。

 

6. 終わりに

今回は要員人件費の適正化に関する課題や要因、短期と中長期的な打ち手を記述した。しかし、ここで記述した内容は、非常に多くある課題や要因、打ち手の一部でしかなく、また各社の状況によっても大きく異なる。もし海外現法の要員人件費の適正化について課題や悩みをお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひSAPにご一報いただきたい。単に人事システムを売るだけでなく、各企業が持つ人事課題を共に解決し、志向されている人材や人事の姿を実現するのをご一緒することが、弊社SAPの役割であると認識している。

次回は現地法人の人事オペレーションのテーマに関し、課題と解決に向けた勘所を記述する。

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