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SAPリサーチブログ Vol.2 人事業務でのAI活用、従業員はどう思っている? 後編

シリーズ序文

こちらのブログシリーズでは、SAPの人事領域のリサーチチームである” SAP SuccessFactors Growth & Insights Team”が行っている、Future of Workに関連する心理学と市場動向を踏まえて、将来の人事のあるべき姿を描きだす参考にしていただける様々な研究レポートについてご紹介してまいります。

前回のふりかえり

前回のブログでは、SAPのリサーチチームによる調査結果をもとに、人事領域へのインテリジェントテクノロジーの活用を、人事部門そして従業員、それぞれがどのように捉えているのか?そしてどの領域で活用したいと思っているか?そして、どこにギャップがあるのかを見てまいりました。

その結果を踏まえて、人事領域でインテリジェントテクノロジーを有効に活用し、かつ従業員エクスペリエンスの向上につなげるためのベストプラクティスについてご紹介してまいります。

従業員に受け入れられやすくするための3つの方針

先行している企業は、従業員がインテリジェントテクノロジーを安心して受け入れ、活用してもらうためにどのような取り組みをしているのでしょう。今回実施した41人のHRリーダーへインタビューと1,378名の様々な企業で働く方へのサーベイ調査 から先行企業の多くが共通して行っている3つの方針が見えてきました。

一つ目は「オープンコミュニケーション」です。テクノロジーがどんな仕組みで、どのようなデータが、なにに活用されるのか、そしてそれがどのように従業員のメリットに繋がるのかを、人事やDX部門が従業員にわかりやすい形で、丁寧に説明を行うことが重要です。

これが欠けてしまうと、肝心のデータ入力、活用において従業員からの協力が得られず、本来のテクノロジーの価値を引き出すことができません。そのため、一部の従業員に早期の段階でPoCに参加してもらい、価値を理解してもらうということもよく行われています。

二つ目の、「ユーザーエクスペリエンス」は、テクノロジーではなく「ヒト」を中心にしてプロセスを導入・改善し続けていくという方針です。従業員が簡単にアクセスでき、利用でき、価値を享受できる仕組みを提供するためのプロセスを、テクノロジーを道具として実現するという大方針をプロジェクトオーナーからメンバーまで浸透させることが重要です。

新しいスキル・トレーニングの提案、チャットボットによる質問対応など、データの提供者となる従業員が自分の仕事力やキャリアの向上のために積極的に使いたいと思う仕組みを提供すれば、蓄積されるデータの量も種類も増え、人事部門や管理職だけが使うシステムとは比べ物にならない価値を生み出すことが期待できます。

三つ目は「チェンジマネジメント」です。先行導入している企業は、テクノロジーの導入プロジェクト自体はそれほど難しくない、最も難しいのは、従業員にテクノロジーを使ってもらうことだと答えています。そのため、システム導入後のチェンジマネジメントに力を入れています。

正式な業務プロセスの一部を新しいテクノロジーで置き換え、業務マニュアルを更新し、従業員向けの勉強会、定期的なコミュニケーションを行うだけでなく、対象従業員・対象業務の規模によっては、オンデマンド研修を用意したり、QAサポート窓口を用意したり、定期的に利用率や質問対応状況のモニタリングを行い、改善施策を講じる体制をあらかじめ検討されています。

従業員が求める5つの施策

一方で従業員の意見はどうでしょう。今回のサーベイでは、「どういう条件なら、インテリジェントテクノロジーを受け入れやすくなりますか?下記の中(表1)から該当するものを選択してください。」という複数選択可能な質問を行いました。

表1

 
その結果を、全従業員とインテリジェントテクノロジーにネガティブな印象を持っているデトラクタ(非推奨者)の二つのグループで集計しました。(図1)

図1

 
全従業員のグループのニーズには、自分のどんなデータが使用されるのか、データを自分で確認できるか、また集められたくないデータを除外できるかなど、データに関する情報提供や運用施策が多く含まれているという特徴が見られました。つまり、インテリジェントテクノロジーを従業員自身が使いこなすための情報提供や、活用の主導権を与えるための施策の重要性が高いと言えます。

一方で、デトラクタのグループでは、テクノロジーの公正性を組織として担保するための施策がトップ5位のうちの3つを占める結果となりました。つまりデトラクタのグループには、仕組みや利点に関しての情報提供は同様に必要な一方、「テクノロジーによって自分には理不尽に思える判断を組織から押し付けられるのではないか?」という不安をまずは払拭することが重要であると言えます。そのためには、初期段階の活用シナリオを慎重に選定し、例えば、「新しいスキルの習得」や「能力開発の機会提供」などのシナリオで、自身では気づかなかった可能性・機会を発掘するためのツールとしての利用を開始し、有効性を理解してもらうことが必要です。

この結果から見えてきた一つ目のベストプラクティスは、従業員に詳細な情報を共有するという点です。従業員のためのテクノロジー活用であるという大前提のもと、その利点、仕組み、そして人による介入を含む運用方法に関して十分な情報提供を行うことが、従業員が安心して、積極的にテクノロジーを活用するために必要不可欠だと言えるでしょう。

従業員が求める公正さとは?

前章で、デトラクタが特に懸念していたのは、「自分は公正に扱われているのか?」ということでした。では、従業員が求める公正性とはなんでしょうか?

従業員はあらゆるユースケースにおいて、三つの公正性を求めています。

公正な手順によって判断されるという点は、デジタルに処理を行うテクノロジーなので一度作ってしまえば公正な手順と思われがちですが、そうとは限りません。ビジネス変革を目指している組織にとっては、機械学習で得た過去の好業績者のモデルをもとに選抜を行うことが公正と言えない可能性もありますし、ディープラーニングにおいても教師データの偏りによって差別的な判断が下されるというケースがありました。判断結果(分布)が公正であることとテクノロジーの有用性を確認しながら、改善のフィードバックを絶えず回していくことが公正性の担保のためには必要です。

三つ目の人としての尊厳と敬意をもって公正に扱われることは、今回のサーベイで最も重要だと評価されました。例えばもし、「あなたの職歴、評価、現有スキルから判断して、来年から○○の職務に就いてください」と言われると誰でも組織のいち資源(リソース)としてモノのように扱われていると感じるのではないでしょうか。本当はスキルアップのために就きたい別の職務があったり、今までとは違ったチャレンジがしたかったり、システムには登録されていない強みがあったりするかもしれません。テクノロジーを活用しながらも、そういった感情をくみ取り、対話を通じて最終結論にたどり着くプロセスを構築し改善しつづけて行くことで、従業員は人として公正に扱われていると感じることができます。

二つ目のベストプラクティスは、テクノロジーに頼り切ることなく、公正性を担保するための努力を絶え間なく続ける仕組みを作ること、そしてそれを明示することと言えるでしょう。

インテリジェントテクノロジー導入成功の三つの先行指標

前述のとおり、従業員が積極的に使いたいと思う仕組みであることが導入成功の要因です。そのためには、従業員がインテリジェントテクノロジーに対して、信頼し、安心して、肯定的な感情を持つことが大切です。それに大きなインパクトを与えている三つの組織文化的要素がサーベイを通して明らかになりました。(図2)

図2

 
実際に、今回のサーベイデータの分析では、上記の三つの要素で従業員がインテリジェントテクノロジーに対して「否定的」「推進的」「受動的」のいずれになるかを68%の精度で予測することができました。

三つ目のベストプラクティス は、上記の三つの要素を踏まえて、インテリジェントテクノロジーを有効活用しやすい土壌を整備しておくことと言えます。普段からイノベーション創出のために、トライ&エラーを行う文化があれば、テクノロジーの人事での活用においても積極性を生みやすくなります。また、従業員に会社はいつも自分たちのプラスになることをしてくれるという信頼があれば、利用目的やプロセスに関して不安を生むことも少なくなります。そして、普段から他の業務の中でテクノロジーを活用していれば、安心して活用することができます。

まとめ

今回のブログでは、SAPのリサーチチームによる調査結果をもとに、人事領域でインテリジェントテクノロジーを有効に活用し、かつ従業員エクスペリエンスの向上につなげるために参考にしていただける視点をご紹介してまいりました。

インテリジェントテクノロジーを活用する際に、人事業務の効率化や高度化を図ると同時に従業員のエクスペリエンスを高めていき、テクノロジーの価値を最大限引き出していただくための参考となる情報がご提供できていれば幸いです。

次回のブログでは、多様な従業員のスキルを活かして、柔軟かつ迅速に変革を行っていくための組織形態として注目されているダイナミックチームについて取り上げたいと思います。米国を中心に世界的に実践が増えているダイナミックチームに関してのサーベイを通して、有効活用のポイントをご紹介いたします。

最後までお読みいただき誠にありがとうございました。次回も是非お読み頂けると幸いです。

 
 

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