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Mid-Market部門  株式会社ビットキー  代表取締役  江尻 祐樹氏 (右)  SAPジャパン株式会社 代表取締役社長 鈴木 洋史(左)
Mid-Market部門 株式会社ビットキー 代表取締役 江尻 祐樹氏 (右)
SAPジャパン株式会社 代表取締役社長 鈴木 洋史(左)

 
テクノロジーの力であらゆるものを安全で便利に気持ちよく「つなげる」をミッションに、価値創造を図って事業を拡大してきた株式会社ビットキー(以下、ビットキー)。スマートロックや宅配ボックス、ロッカーなど、リアルな空間において機能するデバイスを独自または他社とのコラボレーションによって開発、提供しています。同社はそのビジネスモデル上、複雑化した業務プロセスを有しており、ビジネスが成長を遂げるなかで、膨大な処理量に直面しつつありました。こうしたなか、未来を見据えたERPプロジェクトの実行を決断。日本では今後伸張が期待されるパブリッククラウドERPである SAP S/4HANA Cloud, public edition(以下、S/4)を導入した同社において、プロジェクトはどのように進展し、どのような変化が起きているのでしょうか。


今後の成長において発生する課題を先読みし、業務プロセスの標準化から着手

ビットキーは、現在ではアプリやSaaS、プラットフォームの開発からデバイスの開発まで、横断的にデジタル技術を用いて事業を進めています。同社のビジネスを語る上で、ポイントとなる言葉は「つなげる」。ハードウェア、ソフトウェアを両方駆使してモノや人、データ、空間もつなげ、コラボレーションによって大きなエコシステムの共創に取り組んでいます。代表取締役の江尻祐樹氏は「あらゆるもの、多様なプレイヤーがつながるだけに、ビジネスモデルも業務プロセスも極めて複雑化しているのです」と話します。

「例えば売上についてはショットで立つケースもあれば、トランザクションの場合もある。売上だけでも経路がずいぶんと多様化しているわけです。当社には会計士が3人いますが、彼らによると当社の会計の処理量は約20社分あるらしい。これから5年、10年と経てば処理量は膨大になり、クラウド会計システムとExcelでの管理では立ちゆかないのは明らかでした。このままいけば、データの一貫性をどうやって確保するか、分散したデータをどう集約するか、といった課題に直面することが明白だったのです」(江尻氏)

同社では2021年に S/4の導入を決断します。設立4年目というかなり早い時期からSAPを導入して業務プロセスを確立させようとしたのは「今後の成長を見据えた未来への投資。後で変えるよりも、早いほうが簡単で効果が高い」(江尻氏)からでした。他社も含めて検討するなかで、SAPを選んだのはなぜでしょうか。江尻氏は次のように語ります。「“走りながら広げていく”という当社の考え方とマッチしたからです。パブリッククラウドの場合、まずは小さく始めて理解したうえで広げていくというやり方ができます。従来のSAPといえば、導入するのに多大なコストや時間、体制などのコミットが必要でしたが、パブリッククラウドならばその必要性は少ない。また、SAPとディスカッションを行うなかで、SAPがパブリッククラウドに対して開発リソースを今後、積極的に投下していくことを知ることができた。それならば、システムの成長が期待でき、将来にわたって使い続けていけるだろうと判断したのです。また、現在ならびに今後も弊社が急成長していくなか、現在時点のビジネスやプロセスにフィットするERP を入れても、のちに無駄な工数が生まれると判断しました。SAPで出来ない事は他の製品でも出来ないだろうという割り切りもありましたね。」また、同社で当時はカスタマーサクセス部門のマネージャーを勤めていた中瀬氏も次のように話します。「SAPが積極的な投資を行っていくというパブリッククラウドにおいては、現時点も然り将来に向けた標準機能およびその拡張が潤沢にあると思っている。そのメリットを自分達が有効活用していくことで間違いのないシステムの成長がありビジネスの成長が待っていると期待している」

S/4 HANA Public リリースアップデートサイクル
2021年当時のイメージスライド

 

「スモールスタート」と「学習効果」、そして「Self Implementation」でプロジェクトを推進

S/4の導入においては、中瀬氏をリーダーに業務部門やシステム部門のメンバーをアサインして進めていきました。プロジェクト推進体制のポイントは「スモールスタート」と「学習効果」、「Self Implementation」にありました。
「S/4のことを十分に理解しているわけではないのに、最初からリソースを大量投下するのは賢明ではない。そこで、中瀬を中心とした少数の人員でプロジェクトを動かし、比較的シンプルなビジネスモデルをS/4で表現することから始めました。そうしてS/4を動かしながら学習を積み上げ、現場でPDCAサイクルを回せることを目指したのです。当社の事業とS/4、その両方を理解したうえで“何が表現できるのか”、“内部リソースと外部リソースの適切な役割分担は何か”などについても学習していきました」(江尻氏)
プロジェクトリーダーの中瀬氏は「一般的に大企業などでERPが導入される際はRFPに基づき進められますが、弊社の場合、ビジネスの成長が速く、今後の変化も見据えて現状のプロセス変更にも積極的に取り組む前提で臨みました。そのため、決めなければいけないことが多く、大変でしたね。決めるためには業務に対する理解を深めないといけない。各拠点に出張し、現場のメンバーとディスカッションを重ねていきました。販売管理領域では、例えば『すべての受注を正しく捉える』という当たり前のことでも当社の場合は多角的な販売方法を採り、多様な製品が存在するため、それが一筋縄ではいかない。実現する業務プロセスとシステム運用の決定にとても時間を要しました」(中瀬氏)

業務プロセスを理解/整理した上で、S/4の標準にどう適応するかは決め事だと中瀬氏は話します。決まっていない事を決めていくというこの難しいタスクを、同社は“Self Implementation”、つまり自社リソース導入で挑んでいます。
「決まっていない事を決めていくのは覚悟が必要です。自分たちで決めていくことでそれをしっかり自分事にする事がとても大切だと思っている。分かりやすい正解がない検討事項への意思決定を他人に任せてしまうと、プロジェクトは死んでしまいます。外部リソースの支援も頂いてはきましたが、自分たちで決めていく、という事にはこだわりを持って進めてきました。」(中瀬氏)

S/4で何ができるか、現場が主体的に考え始めた

同社ではSAPとして提唱しているFit to Standard(F2S)というグローバルレベルのメソッドに沿って導入プロジェクトを進めています。ただ江尻氏としては「SAPの決め手は“F2S”ではない。」とし、「そもそもSAPは表現力がとても高い。そこの知見がスタンダードになっている物を使うことで誤った構築を避け、結果的にシステム構築や学習にかかる時間・コストを抑えることが期待できる」と評価します。 しかしながら「S/4の標準はなぜこういう考え方なのだろう」(中瀬氏)と困惑するケースもあり、SAPの外国人エンジニアと直接ディスカッションして解決に協力してもらう事も少なくはなかったといいます。ただ、そうすることで、「それまで見い出せていなかったやり方に気づくことができた」(中瀬氏)といいます。2022年夏頃からS/4の稼働を本格化させる中で、現場においてポジティブな変化が出始めています。

「受注の管理方法や新しいビジネスモデルなどをS/4でどうやって表現すべきか、現場も主体的に考えるようになってきました。例えば品目マスタひとつとっても、どうやって維持、発展させていくかという意識が現場で強くなっているのを感じます。さらにそこから一歩踏み込んで、ビジネスの数値だけでなく、会計的にスムーズかつ適切な表現ができるような情報連携にまで、意識が向くようになっています。S/4の導入によってビジネスサイドの全社目線が良い意味で発達する期待感があります」(中瀬氏)

S/4の活用はこれからが本番。システムの継続的成長に期待する

今回のプロジェクトは同社においてSAP活用の第一歩となりました。これまでシンプルなビジネスモデルを中心にS/4で表現してきましたが、今後は複雑化したビジネスモデルもS/4で表現することになります。実際に標準で対応できないケースが出てきており、「S/4でどう表現するのか突き詰めて考えていく必要があります。当社の場合、今後の成長も見据え、顕在化していない課題も含めてシステムを構築していかなければなりません。SAPと情報共有を進めながら、対応していきます」と中瀬氏は話します。
パブリッククラウドはテクノロジーの進化なども踏まえたアップデートなどを通じて、自動的に成長していくものです。それだけにシステムの成長に、両氏は大きな期待を寄せています。江尻氏はSAPに対し、「新しいビジネスモデルへの表現力の向上も期待したい」と話してくれました。これから現場での主体的な活用や事業領域と会計領域のスムーズなデータ連携などが進めば、リアルタイムなデータドリブン経営が実現できるでしょう。
「全社的にSAPを使えるタイミングになれば、さまざまな切り口からデータを活用できるようになります。データ活用のレベルをもう一段上げられると思います」(江尻氏)
日本政府によって、クラウド・バイ・デフォルト原則の方針が示されており、パブリッククラウドは徐々に浸透していますが、国内ではまだデファクトスタンダードと言い難い状況です。そんななかで、同社は“走りながら広げていく”ことやシステムの成長などにメリットを感じ、パブリッククラウドの導入を決断し、未来へ向けて歩み始めました。SAPはRISE with SAP S/4HANA Cloudを通じて、同社の成長を支えていきます。

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