SAP Japan プレスルーム

経理部発グローバルロジスティクスカンパニーに向けた企業変革1stステージ

Cloud Adoption 部門 NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 常務執行役員 大槻 秀史氏(右) SAPジャパン株式会社 代表取締役社長 鈴木 洋史(左)
Cloud Adoption 部門 NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 常務執行役員 大槻 秀史氏(右) SAPジャパン株式会社 代表取締役社長 鈴木 洋史(左)

1937年(昭和12年)10月1日創立の日本通運株式会社(以下、日本通運)は、私たちの暮らしになくてはならない国内外輸送の担い手として成長してきました。そんな日本通運では、2019年に、中期経営計画「日通グループ経営計画2023~非連続な成長 “Dynamic Growth” ~」を策定し、創立100周年の2037年に向けて、売上高3.5~4兆円、そのうち50%を海外での売上高とする成長目標を掲げています。2022年にはガバナンス強化などを目的として、NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社(以下、NXホールディングス)を設立し、ホールディングス制へと移行。さらに、国際会計基準(IFRS)や連結納税制度の導入など、グローバルでのさらなる躍進を遂げる土台を着実に固めています。その背景には、経理部が主導するプロジェクト「プロジェクトITS(イッツ)」があります。SAP Japan Customer Award 2022で「Cloud Adoption部門」を受賞した同社に、「プロジェクトITS」が社内改革において果たす役割と狙いについてお聞きしました。


Fit to Standardを重視し経理システムをグローバルでSAP S/4HANAに統一

「グローバル市場で存在感を持つロジスティクスカンパニー」の目標を掲げた中期経営計画の実現に向けて、日本通運はいくつかの経理面での課題を抱えていました。会計基準が日本会計基準のままであること。グローバルベースで会計処理が統一されておらず、ガバナンスが不十分であること。さらに、経理システムもグループ内で統一されていないため、業務プロセスが様々で、国内外グループ会社の実態が可視化できていなかったことなどです。これらの課題を解決するため、2019年より始動したプロジェクトが「プロジェクトITS」です。「ITS」は、それぞれ「IFRS」「TAX」「SAP」の頭文字。本プロジェクトは、会計基準のIFRSへの移行、ホールディングスへの組織変更においても欠かせない連結納税制度の導入、そして、経理システムをSAP S/4HANAで統一し、日本国内だけでなくグローバルのグループ会社全体で経理業務プロセスを標準化することが実施事項です。これらを通して、グループ経理業務のグローバルスタンダードの構築を目指すと同時に、経理後方業務のシェアード・サービス化対象会社の拡大とグループ一体経営の実現、およびそれによる企業文化の変革までを視野に入れています。こうした一大改革のプロジェクトオーナーであるNXホールディングス常務執行役員で、当時は日本通運執行役員経理部長を務めていた大槻秀史氏は、経理システムにSAP S/4HANAを採用した理由についてこう振り返ります。

「決め手は、グローバルでの実績です。当時、海外子会社では、既にSAPの導入を展開していました。その中で、SAPのソリューションが、各国の言語対応だけでなく、法制度に最適化された経理システムであることを承知していました。SAPのソリューションはForbes Global 2000の企業のうち87%の企業で導入(2019年当時)され、グローバルベースで業務を標準化してきた実績があり、将来的な拡張性も十分です。これらの理由から、SAP S/4HANAを経理システムとして採用しました」

SAP S/4HANAの導入にあたって大槻氏が重視したのが「Fit to Standard」です。つまり、SAP S/4HANAを可能な限り標準利用し、そこに当てはまらない業務についてはSAPのシステムに要件定義(実現したいこと)や業務システム運用方法の変更で対応。どうしても必要な場合のみ個別開発を認めたのです。当然、反発も生まれます。従来、日本通運が使用していた経理システムは、運用開始から15年ほどが経っていました。その間にカスタマイズにカスタマイズが重ねられ、現状では「使い心地の良いシステム」(大槻氏)だったためです。そんな経理システムの改革を断行できたのは、グローバルにおけるSAPへの信頼感があったからこそだと大槻氏は強調します。

「度重なる改修によって、従来の経理システムは跡形もなくブラックボックス化していました。例えば、法改正があった場合に、システムのどの部分を改訂すれば良いのか非常にわかりづらかったのです。一方で、経理システムを『Fit to Standard』の考え方を前提としてSAP S/4HANAに移行することによって、法改正を含めた課題をSAP側が解決してくれるようになります。ERP業界でトップシェアを誇るSAPは、これまで世界中の一流企業からの開発要求を受けながら、機能の改善を続けてきた実績があります。つまり、ベストプラクティスの塊です。こうした信頼感があるからこそ、『Fit to Standard』を前提とした導入に踏み切ることができたのです」

綿密なリハーサルとBLACKLINEの活用でIFRS導入に向けて決算の早期化を実現

2022年度決算について、NXホールディングスはIFRSによる決算開示に移行し、「プロジェクトITS」の「I」をクリアします。その実現にあたり、大きな課題として立ちはだかったのが決算月の変更でした。当時、日本通運の決算期は、多くの国内上場企業と同様に3月でした。一方、海外子会社の決算月は12月です。グループ会社の決算期統一に向け、2021年度より日本通運の決算月を12月へ変更しますが、そこで発生するのが海外子会社の決算早期化です。

「日本通運が3月決算であったときは、12月の海外子会社の決算後、約3カ月かけて国内の決算パッケージに整える時間的余裕がありました。しかし、決算月を12月に変更すると、海外子会社の決算を2カ月以上早期化する必要が発生します。2021年度の決算より決算月を12月で統一しましたが、早期化に対応するため、その前年の2020年度から四半期ごとの決算のリハーサルを各国で行いました。具体的には、リハーサル決算の数値と、確定後の決算を比較して発生したズレを洗い出し、原因の追求と解消を繰り返したのです。その結果、2021年度の決算期変更に対応できました」

決算の早期化にあたり、日本通運はSAPのソリューションと親和性が高い決算プロセス支援プラットフォームBLACKLINEを導入しました。
「BLACKLINEが主に担っている役割が『タスク管理』と『勘定照合』です。タスク管理とは属人化しがちな決算業務を可視化して標準化し、進捗状況を把握できるようにする機能です。決算業務の工程を可視化することで、優先的に取り組む作業がわかり、リソースを最適化できます。同時に、専門的で属人化しがちな決算業務の標準化も期待しています。また、勘定照合では、金融機関の預金と残高を自動マッチングすることで、目視による作業を大幅に軽減。決算の短期化につながりました。現在、BLACKLINEの導入はファーストステップの段階ですが、活用範囲の拡大を狙っています」(大槻氏)

「プロジェクトITS」の「T」にあたる連結納税制度の導入も既に実現しています。日本通運には、各支店が管理する「作業子会社」と呼ばれる資本金1,000万円程度の子会社が百数十社あり、従来は各社が独自で納税する仕組みをとっていました。「プロジェクトITS」の開始後、税務関連のシステムや税効果会計のシステムを各社に導入し、そのデータを日本通運が取りまとめることで、2021年度からの連結納税を実現しました。今後、その経理システムをSAP S/4HANAへと統一していきます。「SAP S/4HANAを通じ、クラウドで経理システムを結ぶことによって、税務に必要なデータの自動集約が可能になりますので、税務作業を大幅に省力化できるはずです」と大槻氏は期待を寄せます。

SAP S/4HANAによる経理システム統一でサステナビリティ推進や企業文化の変革を期待

「プロジェクトITS」は、コロナ禍にも係わらず、当初のスケジュール通りに進捗し、IFRSおよび連結納税制度への移行を完了しました。そして、2023年度、最終ステップである日本通運をはじめとしたNXグループ全社へのSAP S/4HANAの導入を完了させます。ゴールは間近のようですが、「ここからが『プロジェクトITS』の新たなるスタート」と大槻氏は身を引き締めます。SAP S/4HANAによって統一した経理データ基盤の活用は、これから始まるためです。一例として、大槻氏は「サステナビリティ経営の推進」を挙げました。

「サステナビリティ経営の進度を測る数値は、財務とは直結しない非財務数値です。従来の経理システムでは非財務数値を集計する仕組みを持っていないため、経理がそこに寄与する割合は非常に低いものでした。しかし、SAP S/4HANAの導入によって状況は変わります。なぜなら、SAP S/4 HANAは単純な経理システムではなく、ERPであるためです。経営の中で日々、クラウドを通じて上がってくる数値を経理データとあわせて一体的に管理できます。それらの数値と財務数値を組み合わせることで、経理の点からも達成目標や改善点などを洗い出し、サステナビリティ経営の実現を大きく前進させることができるはずです」

業務の効率化についても、SAP S/4HANAが大きく寄与します。日本通運では、2017年度にシェアード・サービス・センター(SSC)を立ち上げました。支店に分散していた経理業務を本社に集約し、経理業務の効率化を図る施策です。2020年からは、SAP S/4HANAと親和性の高いクラウド型経費精算プラットフォームSAP Concurを導入し、リモートでの経費管理・決裁による業務の効率化を推し進めています。
「現在、SSCは、日本通運のみで運用されています。しかし、NXグループ各社の経理システムがSAP S/4HANAで統一されれば、グループ全体でSSCを展開することが可能となります。それに加えて、経理だけでなく人事や総務など全体のコーポレート業務を大幅に効率化できるでしょう。実は、『プロジェクトITS』とSSCの設置、展開は、別のプロジェクトとして動いていました。それにも関わらず、SSCをNXグループ全社で導入できる見込みが立ったのはSAP S/4HANA導入の大きな副次的効果といえます」(大槻氏)

「プロジェクトITS」は、グローバル市場でNXグループがさらなる躍進を遂げるために経理部が主導したプロジェクトです。しかし、大槻氏が見据えるのは、NXグループの企業文化の変革です。

「現在、NXグループでは、49か国に733拠点があり、7万2000人以上が働いています。これだけの規模になると、言葉で説明するだけでは人を動かせません。何かを変える、実現するためには根本的な仕組みを変える必要がありますが、SAP S/4HANAによる会計システムの統一は、まさにグローバルベースにおいて仕事の仕方、業務プロセスを変えることが可能となります。グループ各社の会計仕訳が見えるようになり、その結果、業務プロセスを追えるようになります。さらに、多数ある各子会社から上がった数値を、まるで一社の数値のように扱えるのです。それにより、経営サイドはより正確な情報を元にした、説得力のある経営プランを立てることが可能になります。経理部発信で会社や仕事の在り方を変え、グローバル市場で存在感を放つロジスティクスカンパニーへと変貌し続けることが『プロジェクトITS』が目指す姿です」

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