AI を取り入れ急速に進化。 SAP が推進するクラウド ERP、 ビジネステクノロジープラットフォーム、 プロセス変革の現在とこれから

フィーチャー

「現場を変える、会社を変える、未来が変わる。~ Future-Proof Your Business ~」をテーマに、9 月 22 日に The Okura Tokyo で開催された  SAP ジャパンの年次カンファレンス「 SAP NOW Japan 」。最新のソリューションについて解説し、多くの注目を集めた「バリュートラック」のセッションから、多くの企業が検討しているクラウド ERP の利用を加速させる SAP の方針と支援内容に加え、最新の SAP アプリケーションとそれを支えるプラットフォームの現在そして将来像について紐解きます。


AI を搭載して進化するクラウド ERP

2023 年の SAP の戦略では、ビジネスの俊敏性、サプライチェーン、サステナビリティの 3 つにフォーカスした変革を進める中で、クラウドシフトを重要なテーマとして位置づけています。もはやクラウドのメリットは、サーバーがどこに設置されているかという問題だけではありません。システムを「作る」から「使う」にシフトすることで、事業戦略に近いところにリソースを集中する、ビジネス環境の変化に対する柔軟性や俊敏性を高める、エンドツーエンドで有機的にビジネスプロセス全体を繋げて、競争優位性を発揮したりするといったことが可能です。

SAP は以前から SAP S/4HANA でクラウド版とオンプレミス版の ERP を展開し、両者に共通の機能を提供してきました。しかし、今後はクラウドシフトを加速するため、2つの製品の開発を切り離し、クラウド版でのみ新機能を提供する方針を打ち出しています。すなわち、オンプレミス版の ERP には生成 AI といった新機能は組み込まれなくなります。ただし、オンプレミス版の保守は 2040 年まで実施するため継続利用は可能です。

このような方針を打ち出した理由は、オンプレミス版の利用環境の多様性を考慮した開発には多くの時間を要しますが、クラウドでは環境が標準化されており、新機能をスピーディに開発できるためです。また、クラウド版であれば ERP の本体をカスタマイズせず、コア機能をクリーンに保ちやすいため、バージョンアップにかかる期間とコストを大幅に削減し、常に最新機能を活用できるシステム環境を維持できます。

なおクラウド ERP は、シングルコンテナ環境で提供される「 private edition 」と、マルチコンテナ環境で提供される「 public edition 」の 2 種類となります。例えば public edition であれば、半年に 1 回程のペースで新機能がリリースされ、段階的に機能が向上していきます。一方、オンプレミスの場合、一度導入すると少なくとも 5 年間、長くなれば 10 年間以上同じバージョンを使用することになり、新機能を取り込むのはかなり困難です。仮に同じ機能で ERP の利用を開始しても、5年後に両者はまったく異なる機能を搭載していることになるでしょう。

また、ERP の導入に関して、アジア太平洋地域では平均プロジェクト期間が 3.5 カ月というデータもあり、国内平均の 14 カ月間と比べると大きな違いが見られます。一概に比較するのは難しいものの、仮にビジネス展開のスピードと ERP の導入がリンクしているとすれば、日本の企業がグローバル環境で有利な状況にあるとは言い難いのが現状です。グローバル競争に打ち勝つためにも、クラウドで ERP のスピーディな導入と機能アップを図り、ビジネスのスピードアップにつなげていく必要があるのではないでしょうか。

SAP アプリケーションの基盤となる SAP BTP

SAP が提唱するインテリジェントサステナブルエンタープライズでは、組織全体の各ビジネスプロセスをシームレスに連携し、持続性と効率化を担保しながら、最新技術により、最適化、自動化、高度化、効率化を目指しています。しかし、そのような世界観を目指す上で課題となるのが、企業システムにおける柔軟性や俊敏性の欠如であり、DX(デジタルトランスフォーメーション)の大きなハードルになっています。

例えば長い間、各事業部門で業務の個別最適化を実施していると、事業部間をまたがる新しい技術要素を組み入れようとしても全体に対する影響度を把握できず、局所的な改善や自動化に留まってしまったり、検討や導入に大きな時間とコストが発生してしまったりします。

そのような課題を解消するため、SAP ではイノベーションプラットフォーム SAP Business Technology Platform(SAP BTP)を提供しています。SAP BTP は、開発・運用支援のアドバンスドサービスとして、アプリケーションの開発と自動化、データとアナリティクス、統合、AI  といった機能をトータルで提供。例えば倉庫管理における検品業務、人事の入社手続き業務、コーポレートの受注処理、CSR などの定期的なレポート処理など BtoB における具体的なシナリオを実現するサービスをはじめ、SAP の導入プロジェクトにおける導入、移行、テスト、運用といった各フェーズにおける支援サービスなど、90 以上の機能サービス群を提供しています。また、SAP BTP にて提供されるサービスの導入支援を受けられるSAP サービスパートナーはグローバルで 1,840 社におよび、日本国内でも約 1,000 名のコンサルタントが SAP BTP の認定資格を取得しています。

SAP BTP は今後、業務プロセス管理のトランスフォーメーションスイート「 SAP Signavio 」との連携をキーに、ノーコードでワークフロープロセスやタスクを自動化する「 SAP Build Proses Automation 」、オンプレミスとクラウドベースのプロセス、サービス、アプリケーション、イベント、データをすばやく統合することが可能な iPaaS(Integration Platform-as-a-Service ) 「 SAP Integration Suite 」を相互連動させ、エンドツーエンドでビジネスプロセスの自動化・効率化を支援するプラットフォームとして機能を高めていくロードマップが示されています。

さらに、戦略的パートナーシップにより各企業と連携しながら、生成 AI をさまざまなアプリケーションへと組み込む方針です。例えば、SAP Analytics Cloud に生成 AI を組み込んで、自然言語によるチャットベースで問いかけると、求めるデータがチャートやテーブルで自動的に出力されたり、SAP S/4HANA Cloud の中に入っている最新のデータに対しても、同様の操作を実行できたりするようになります。SAP BTP の必要性は、今後ますます高まるでしょう。

継続的な業務プロセス管理を SAP Signavio で実現

昨今の不確実性が高まるビジネス環境では、突発的な変化などに対して柔軟かつ迅速に対応できなければ、企業の競争力低下につながりかねません。どのような状況においても、ビジネスの俊敏性や柔軟性を高めるために、As-Is の業務プロセスを継続的かつ適切に管理していることが重要となります。

しかし、As-Is の業務プロセスは部門単位やシステムの導入プロジェクト単位ごとに管理され、現場では改善が繰り返されるものの情報が更新されていないことがほとんどです。そのような状況を改め、共有化できるデジタルツールを用いて業務プロセスを机上で可視化/分析を行い、To-Be プロセスへと改善するサイクルの確立が不可欠です。

例えば  ERP をクラウドに移行する場合、移行自体は目的ではなくトランスフォーメーションを実現する手段であり、導入とプロセス管理基盤の構築を同期させることが重要となります。トランスフォーメーションの過程では業務プロセスの変革・組み換えが発生するため、業務プロセスを適切かつ継続的に管理し、その変化をコントロール下に置くことで、単なるシステム移行に終わらないトランスフォーメーションの価値を発揮できます。そこで有効なのが、業務プロセス管理のトランスフォーメーションスイートとして、エンドツーエンドの業務の透明性を向上し、継続的改善を支援する  SAP Signavio の活用です。

SAP Signavio は、企業の資産ともいえるプロセス情報を一元的に管理してトランスフォーメーションのために蓄積・活用するためのツールとして、継続的なプロセス改善を実現するための可視化をはじめ、分析、設計、自動化などを実現します。

主なソリューション3つを解説すると、まず SAP Signavio Process Insights は SAP システムをハイレベルで効率的に監視・分析するための機能を、SAP Signavio Process Intelligence はプロセスマイニングによる詳細な分析を実現するための機能を提供します。そして、SAP Signavio Process Manager は効率的で高度なプロセス設計環境を実現します。3 つの機能を連携することで、例えば Process Insights で取得した ERP や SAP S/4HANA のプロセスデータを、SAP Signavio Process Intelligence に取り込んでさらに分析し、分析結果に基づいて、事前定義済みのテンプレートを活用して、SAP Signavio Process Manager 上で適切なプロセスモデル図を生成するなど、ビジネスプロセス全体の可視化から組織横断でのプロセス変革を支援することが可能です。

現在、業務プロセス標準化の推進や変化対応力の強化に向けて、改めてビジネスプロセスマネジメント( BPM )への注目が高まっています。SAP Signavio ソリューションを組み合わせて活用し、各現場がプロセスを俯瞰できるようにすることで、業務プロセス全般において最適化が促進されます。

ここまで、SAP のクラウドシフト方針について、「クラウド ERP 」、「ビジネステクノロジープラットフォーム」、「プロセス変革」という3つの側面から解説しました。SAP は今後も、バリューチェーン全体でエンドツーエンドに業務プロセスが連携し、持続性/継続性を担保しながら、全体最適での自動化/高度化/効率化が進むビジネス環境の実現に向けて支援を行っていきます。