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日本を代表する企業経営者の皆様を対象とした完全招待制のイベント「SAP Select Tokyo」が、今年も9月21日にThe Okura Tokyoで開催され、盛況を博しました。本ブログでは、基調講演に続いて開催された7つのラウンドテーブルの中から「不透明・不確実な時代に自社の変革を組織横断でリードする次世代リーダーの育成~COO養成塾」の模様をダイジェストでお伝えします。

2021年7月にスタートした「COO養成塾」は、各社CEOから直接派遣される次世代のリーダーの皆様に、3カ月にわたる6回のセッションを通じて、SAP自身の企業変革のケーススタディから学んでいただく場です。今回のラウンドテーブルでは、塾長の宮田伸一と事務局の村田聡一郎からCOO養成塾の概要をご紹介するとともに、COO養成塾を修了した3名のOBの皆様にもご登壇いただき、塾での学びをどのように自社の変革につなげているかをについてお聞かせいただきました。


◎登壇者

株式会社レゾナック
理事 CDO付き プリンシパル レゾナックウェイトランスフォーメーション
淺野 智之 氏

富士通株式会社
経理部長 益田 良夫 氏

株式会社ソミックマネジメントホールディングス
取締役 副社長 石川 彰吾 氏

SAPアジア太平洋地域 カスタマーサクセスパートナー統括責任者
宮田 伸一

SAPジャパン コーポレート・トランスフォーメーション ディレクター
村田 聡一郎


 

SAP自社の変革ストーリーをヒントに、次世代リーダーの学びの場を提供

2021年7月にスタートしたCOO養成塾は、すでに8期を重ね、40社から派遣された47名の修了生を輩出しています。企業のトップであるCEOから直接指名された次世代リーダーが3カ月間にわたる6回のセッションで学ぶ主な内容は、SAPがグローバルで実践している変革のケーススタディです。

ラウンドテーブルの冒頭では、ERPベンダーとして知られるSAPジャパンがこうした場を提供するに至った経緯について、塾長の宮田が次のように話しました。

「変革プロジェクトの本当の難しさは、ITの導入ではなく、伝統的な組織構造をいかにして変革していくかという点にあります。これまでSAPは、IT要件ではないこのテーマに正面から向き合ってきませんでした。一方、SAPの導入を検討されている日本企業のお客様をドイツの本社へお招きする中で、SAP自身の変革の取り組みについてご紹介させていただいたところ、思った以上に大きな反響がありました。そこで、私たちの変革ストーリーがお客様にとって何らかのヒントになるのであれば、組織の変革というテーマに絞って日本でも実施してみる価値があるのではないかと考えました」

COO養成塾 事務局 村田 聡一郎(写真左) COO養成塾 塾長 宮田 伸一(写真右)

 

COOの育成を通じた組織変革によって、新たな成長を実現したSAPのケーススタディ

SAPは2002年から2009年までの間、思ったように売上が伸びない停滞期を経験しました。その背景には、大企業病的な社内の硬直化や、急速なクラウド化の進展という市場環境の変化がありました。この停滞を脱するため、SAPは2010年にそれまでの経営戦略を大きく転換し、積極的なM&Aや売り切り型からクラウド型へのビジネスモデル変革などに着手しました。COOがリードする組織変革に着手したのも2010年以降で、これがCOO養成塾の参加者が学ぶ内容のベースとなっています。

次に迎えた転換点は2020年です。これは真のクラウドカンパニーへの移行に向けて大きな決断を下した時期です。ここでは、製品に関する投資、人材育成に関する投資、新たなマーケット開拓のための投資、ビジネスモデルを刷新するための投資など、さまざまな施策を開始しました。

宮田は変革の鍵を握るCOOの役割について、次のように説明します。

「私がお話をさせていただく日本企業の経営者の皆様は、変革の重要性は深く理解されています。しかし、皆様からは共通して『変革は重要だが、自分には時間がない』『変革をリードする人材が出てこない』『現場が強くて変革がうまく進まない』といった悩みが聞かれます。実は私達SAP自身も、以前は同様の悩みを抱えており、その解決の鍵として編み出したのがCOOとCOOネットワークという仕組みです。現場のリーダーであると同時に、組織全体のことも考える2つの十字架を背負ったCOOを各部門に配置することで、継続的な変革を支える仕組みとして定着させようと考えました」

 

「1/3ルール」から生まれる学びで、自社の課題を新たな視点で分析

COO養成塾への参加においては、派遣される次世代リーダーがCEOなどの企業トップから指名された人材であること以外、特別な決まりはありません。ただし、宮田によると参加者全員の基本的な心構えとして、1つだけお願いしていることがあるといいます。それが「1/3ルール」です。

「1/3ルールとは、まず6回の各セッションを担当する講師、またテーマそのものから学びを得る。次に積極的な会話を通じて、他の参加者、仲間から学ぶ。そして最後に一番大事な点として、自分自身からも学ぶということです。この3つを意識しながら取り組んでいただくことで、自社の現状をこれまでとは違う視点で分析し、変革を阻害する要因などを掘り下げていくことができます」

同様に村田も、COO養成塾の特徴について次のように話しました。

「6回のセッションでは、実はITに関する技術的な話は出てきません。SAPが取り組んだ変革についてお話します。自社のことですし、少人数のクローズドな場なので、成功例も失敗例も赤裸々にお話しています。「塾」と名前がついてはいますが、私達は「SAPの取り組みが良いのでお勧めします」とは思っていません。SAPのケースが役に立つと思ったらお持ち帰りください、役に立たないと思ったら無視してください、その取捨選択は受講者のみなさんにお願いします、というスタンスの塾です」

 

各部門に配置されたCOOのネットワークが、組織を横断したオペレーション変革を推進

COO養成塾のプログラムは、「全体像」「カネ」「ヒト」「モノ」「志 リーダーシップ」「まとめ」をテーマとした全6回のセッション(隔週土曜日、9時~17時)で構成されています。このプログラムの中から、宮田は1回目の「全体像」のエッセンスを紹介しました。

SAPでは、各部門長は主に組織を代表する対外的な役割を担うのに対し、部門長の配下で主に組織内部の変革を担当するCOOが置かれています。COOたちは全社戦略の実現に向けて、部門内でのプロセスやカルチャー、オペレーションを整備していきます。

また、各部門のCOOはCOOネットワークを通じて、全体最適という視点に立って部門を横断したオペレーションの設計・運用・改善にも責任を持ちます。部門長はともすると自分のミッションを重視するあまり個別最適に陥りがちですが、COOは各部門のミッションの実現と全体最適という2つの責任を負って個別最適を防止し、変革を支えるキーパーソンになっています。

 

グローバル全体でみると、CEOの配下にいるグローバルCOOの直下に変革プロジェクト管理・推進本部(トランスフォーメーションオフィス)が設けられ、全社の戦略に基づく変革のデザインを担います。

さらに、COOは全体最適を推進するための共通インフラ(プロセス、データ、ヒト、システム、データ活用)の構築と改善も行っていきます。

こうして、1.本社のトランスフォーメーションオフィス、2.各部門に配置されたCOOのネットワーク、3.全体最適を推進するための共通インフラの3つが有機的に連携することによって成果が導き出されます。これがSAPで常設化されている変革を推進するための仕組みです。

SAPでは常時、10くらいの変革プログラムが走っていますが、1つの部門だけで完結するプログラムは存在しません。例えば、「新規事業」というプログラムに対して新規事業部門を設置するのではなく、製品開発、営業、経営管理の各部門が一緒になって取り組みます。こうした変革プログラムのすべてで、COOネットワークが大きな役割を発揮します。

 

事業と組織能力を区別することで、人間の新たな能力を引き出す仕組み

SAPが部門長とCOOをペアで配置するという現在の体制は、「事業」とそれを支える「組織能力の向上」を分けて考え、それぞれ別の人間に責任を持たせる、という考え方に基づいています。

1人の部門長が部門マネジメントのすべての責任を負う体制が一般的ですが、そうすると部門長の意識はどうしても目の前にある「事業」のほうに引っ張られ、事業を支える「組織能力の向上」は後回しになりがちです。2010年以前のSAPもそうでした。

しかしSAPは組織能力の向上こそが事業の成長と変革に資すると考え、部門長とCOOという別の責任者を立てることで、その両立を目指しています。さらに事業はお客様やマーケットの特性に合わせた縦割りを維持する一方、組織能力の向上という点では全社を標準化し横串を通すという、タテヨコのハイブリッド組織としています。しかし、タテとヨコがバラバラな方向に進んでは元も子もないので、各部門長とCOOをセットで配置し、密接に連携させることで、成果を確実にしています。

業務プロセス、システム、データ、ヒトのマインドセットなどに落とし込んだ組織能力を、事業を支えるゲタとして提供する(ゲタを履かせる)ことができれば、事業側はその分の余力をもって事業に専念することができます。

 

COO養成塾 OBクロストーク-自社の変革に向けた学びとは?

ラウンドテーブルの後半では、COO養成塾を修了した3名のOBの皆様にご登壇いただき、所属企業から派遣された経緯や3カ月間にわたる学びの成果についてお話しいただきました。

COO養成塾の参加者の皆様は、すべての方が所属企業のトップからの指名を受けて派遣された次世代リーダーです。これまで8期を重ねてきたプログラムを修了したOBの皆様は、すでに各企業の変革リーダーとして、COO養成塾での学びを事業の現場に還元し、さまざまな成果を生み出しています。

(写真右から)株式会社ソミックマネジメントホールディングス 石川彰吾氏 富士通株式会社 益田良夫氏 株式会社レゾナック 淺野智之氏 SAPジャパン 村田聡一郎

 

異業種の方と同じ悩みを共有する、 1/3 ルールの中での議論が大きな刺激

株式会社レゾナック 淺野 智之 氏

昭和電工株式会社と昭和電工マテリアルズ株式会社(旧日立化成株式会社)の統合によって、2023年1月に誕生した株式会社レゾナックから派遣された淺野氏は、COO養成塾への参加が決まった当初を「当時はコロナ禍による半導体不足で需要に追いつくことで頭がいっぱいで、なぜ私なのですか?というのが正直な気持ちでした。ITのことはよくわからないですし、初回のセッションの朝も気が乗らないかったですね」と振り返ります。

しかし、こうした同氏にとって1/3ルールの中で行われる活発な議論は大きな刺激になりました。

「スーパーマーケットを展開する小売企業から参加されている方もいて、まったくの異業種の方とお話ができるとは思ってもいませんでした。いろいろな方との議論を通じて、どのようなビジネスでもお客様がいて、仕入れを行って、売るという基本は変わりませんので、多くの悩みが共通していることがわかりました。1/3ルールの中で話していると、参加者の皆さんと初めて会った気がしないというのも大きな発見で、とても勉強になりました」

また同氏は、5回目の課外セッションである「福島フィールドスタディ」で復興に取り組むリアルな現場を知ったことで、レジリエンスの重要性をあらためて認識するとともに、自らが日々の仕事で困難な課題にチャレンジする上での勇気ももらったと話してくれました。

 

組織を変える、人を変える上の「オネスティ」の大切さ

富士通株式会社 益田 良夫 氏

富士通では現在、2020年7月にスタートした全社DXプロジェクト『フジトラ』を推し進めています。それとも関連して、益田氏はCOO養成塾への参加に際しては、SAPの関係者とも意見交換を行ったといいます。

「経理畑一筋の私が最終的に参加を決めたのは、COOのネットワークによって組織能力を高めること、あるいは五位一体(組織・人・プロセス・データ・IT)の変革といった考え方が、私が進めているFP&A(Financial Planning & Analysis)の統合とも重なるものだったからです」

COO養成塾での学びの1つとして同氏が挙げるのが、富士通全体の事業ポートフォリオをプロダクト中心からサービス中心へと変えていく上で有効な、バリュードライバーツリーによる価値連鎖の手法です。これにより、ポートフォリオのどこを強化しなければならないのかが明確になったといいます。

もう1つ、同氏が学んだキーワードが「オネスティ」です。

「たとえ最新のSAPを導入したとしても、人が変わらなければ変革は進みません。どのような変革においても、その目的をすべての人しっかりと伝えていくオネスティ(誠実さ)は何よりも重要です」

また、同氏は1/3ルールの中でも自らの経験を積極的に伝えていくこと心がけたといいます。

「今日の場で話したOBの皆さんも、会った瞬間から友人のようなものです。これが明確な目的を持って変革に取り組んでいる人の違いだと思います。これもCOO塾で3カ月間にわたって課題に向き合った成果です」

 

最大の学びは「北極星」の重要性「ソミックソサエティ」の創造に向けた変革を推進

株式会社ソミックマネジメントホールディングス 石川 彰吾 氏

静岡県浜松市で自動車部品の製造などを手がける株式会社ソミックマネジメントホールディングスの石川氏は、COO養成塾への参加のきっかけを次のように振り返りました。

「会社の変革については、これまでいろいろなことを考えてきたこともあり、COO養成塾も私自身の希望で参加しました。SAPの方からは『では、社長のOKをもらってください』と言われ、社長に『私が社長と一緒に会社を変革したい』と進言して、参加が決まりました」

石川氏がCOO養成塾に参加したときの年齢は43歳で、参加者の中では比較的若い世代です(これまでの全参加者の平均年齢は50歳)。こうした同氏にとってCOO養成塾の最大の学びは、「北極星」を示すことの大切さを知ったことだといいます。

「ソミックという社名は、創造(SO-zo)、未来(MI-rai)、挑戦(C-hosen)の頭文字を組み合わせて生まれたものです。現在は、新規事業開発を通じて社会課題に取り組む“ソミックソサエティ”とでもいうべき風土づくりを北極星として、オペレーション、プロセスの組織変革を進めています」

またCOO養成塾の1/3ルールについて、同氏は次のように話します。

「1/3ルールの本質は、自分と向き合うこと、自分に素直になることです。今日初めて会ったOBと素直な気持ちで話せるのも、1/3ルールを経験しているからです。これもCOO養成塾の大きな学びだと思います」

COO養成塾は現在、9期目がスタートしており、同時に2024年1月からの10期目の参加者の募集が行われています。ご興味をお持ちの方は、ぜひ事務局までお問い合わせください。COO養成塾は、真の変革を目指すすべての次世代リーダーの皆様を歓迎します。

 

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