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SAPジャパンによるイベント「Customer Success Day」は、SAP SuccessFactors をご利用いただいているお客様への感謝祭として、年に 1 回開催しています。今回のテーマは「変革と戦略で切り拓くこれからの人事」。株式会社アシックス 人事部 副部長 中島 有理氏を迎えたセッションでは、アシックスの人事戦略の取り組みを紹介。続いて、ユーザー企業である株式会社レゾナック・ホールディングスの萩森 耕平氏、小山 諒氏を交えたパネルディスカッションでは、人事変革を行う中でハードルとなったことや、今後の展望について議論しました。


◎ 登壇者

株式会社アシックス
人事部 副部長
中島 有理氏

株式会社レゾナック・ホールディングス
組織・人材開発部 部長
萩森 耕平氏

株式会社レゾナック・ホールディングス
組織・人材開発部組織・人材開発グループリーダー
兼 人事政策企画グループリーダー
小山 諒氏


3 つの事業ドメインでビジネスを拡大し、ブランド体験価値を高める

1949 年創業のアシックスは、各種スポーツ用品等の販売および製造を事業内容とした企業です。同社の創業哲学は、「健全な身体に健全な精神があれかし」という意味のラテン語 ” Anima Sana In Corpore Sano “ の頭文字をとった「ASICS」が社名となっており、「スポーツで培った知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」というビジョンが社名にも込められています。同社は日本をグローバル本社としており、連結する子会社の数は 57 、売上の 8 割が海外の売上となっています。

同社はこれまで、アスリート向けの「プロダクト」を中心にビジネスの展開を進めてきました。しかし、世界の変化や顧客の嗜好の変化といった世の中の流れを考え、「ファシリティとコミュニティ」、「アナリシスとダイアグノシス」というドメインを追加。これらの 3 つの事業ドメインでビジネスを拡大し、ブランド体験価値を高めていく考えです。

ドメインの移り変わりに合わせ、人事にもさまざまな戦略の変化が求められています。同社の中期経営計画 2026 では、Global Integrated Enterprise(GIE)への変革が方針として打ち出されました。GIE について、中島氏は次のように説明します。

「これまでは、日本がグローバル本社として海外の地域にある販売会社を統括するという位置づけでした。これからは、より全世界で有機的に連携するものにシフトしていきたいと考えています。GIE の究極的な状態は、グローバル全体で 1 つの会社、1 つの組織として機能している状態だと捉えています」(中島氏)

人的資本投資の強化については、従業員による Sound Mind, Sound Body の体現、グローバルでダイナミックな人財活用、Diversity, Equity and Inclusion の推進の 3 つを掲げています。中島氏は「人事のミッションは、全世界からグローバルで活躍できる人材を発掘・育成し、配置することです」と語りました。

GIE へシフトするため、人事システムと人事制度を統一

GIE という新たなグローバル体制にシフトしていくため、人事戦略もアップデートしています。現在は、2023 年までに培った基盤を使って、実際に人の育成や配置を実現していく実行フェーズに当たります。グローバルでタレントマネジメントを行うにあたり、2 つの困りごとがあったと中島氏は振り返ります。

「日本以外では、どんな人材がどこに所属しているのかを全く把握できていませんでした。さらに、海外に優秀な人材がいたとしても、タレントを測る共通の基準がない状態でした。基礎づくりとして、人事システムと人事制度の統一が急務だったのです」(中島氏)

同社では、人材の可視化の第一歩として、SAP SuccessFactors による人事システムの統一に取り組みました。目指す形としては、採用からオンボーディング、ラーニング、評価・報酬、サクセッションプランニングが 1 つのプラットフォームに全てカバーされているという状態です。中島氏は「SAP SuccessFactors は 2015 年から導入していましたが、活用については各地域に任せている状態でした。それを、本社が統率をとってグローバルで使える状態にまで持っていく必要がありました」と話します。

さらに、システムを整えるだけではタレントマネジメントには直接つながらないとし、活用に向けてのポイントを 2 つ挙げました。

1 つ目は、海外グループの人事に対し、システム統一やデータ整備のその先をしっかり共有することです。「システムやデータを整えようとすると、各地域で反発が起きることもあります。そのため、統一することで何を目指しているのか、グローバルタレントマネジメントを行うことでどのようなメリットがあるのかなど、将来的な構想も含めてしっかり示すことを大切にしてきました」(中島氏)

2 つ目は、SAP SuccessFactors の活用をプロセスに組み込むことです。中島氏は「プロセスに組み込むことで活用が一段階進みました。例えば、現在は海外で一定以上のポジションの採用を行う場合、本社の承認制をとっています。これを、SAP SuccessFactorsのRecruiting 機能で実施しています」と説明しました。

現在、同社では制度の統一に向けた Employee Journey を設計しています。具体的には、採用時にグローバル共通のコンピテンシーによる審査を実施し、その後タレントレビュー、海外でのタフアサインメントを経てサクセッサーになっていくという流れです。「日本で入社した人もアメリカで入社した人も、どこで入っても同じジャーニーを選んでもらいたいということを、時間をかけて説明していきました」(中島氏)

講演の最後に中島氏は「GIE を目指すにあたっては、手当たり次第全てを統一すれば良いのではなく、各段階において、目指すべき組織の形をじっくり対話しながら作り上げていくことが重要だと考えています」と締めくくりました。

中島氏の講演後は、株式会社レゾナック・ホールディングス 組織・人材開発部 部長 萩森 耕平氏、株式会社レゾナック・ホールディングス 組織・人材開発部組織・人材開発グループリーダー兼 人事政策企画グループリーダー 小山諒氏も登壇し、ディスカッションに移りました。

Q:人事変革を行うなかで、ハードルとなったことは何でしょうか?

人事変革を行う中でハードルとなったことについて、萩森氏は「会社の統合に合わせて変革を進めたことで、システムも一気に入れ替えることになりました。これを短期間でやり切ることは本当に大変でしたが、うまく乗り切れたのは、トップからの明確なコミットメントがあったからです。統合を通じて、どのような会社にしていきたいかというビジョンがはっきりしていました。もし、そのビジョンがなく、ニーズを聞きながらアプローチを取っていたら、想定以上に時間がかかっていたと思います」と振り返りました。

萩森氏の発言について、小山氏は「会社統合にあたり、出身会社や元々の役職を問わず新会社の変革をリードするのに適した人材を経営チームに登用しました。その結果、トップのやりたいことにコミットする人材でリーダー陣が構成できたことも大きかったと思います」と補足しました。

一方アシックスでは、レゾナックに比べると時間をかけて人事変革を進めてきました。直面した困難について中島氏は「弊社は各地域でのポリシーや最適なタレント育成のプログラムができあがっていたため、グローバルで統合する構想を掲げた時には反発がありました。現地の報酬の仕組みに影響するところや本社から見た子会社のグレード、子会社の中で考えるグレードの不一致などの課題がありました。プロジェクトは非常に難しいものとなりましたが、段階を踏んで、必要最低限のところから進めていきました」と説明しました。

Q:SAP SuccessFactors 活用のコツは何でしょうか?

次に、SAP SuccessFactors を選定して良かったことについてたずねました。萩森氏は「おそらく他社の製品でも、当社が希望することを実現できるシステムはあると思いますが、SAP はとにかくサポートが素晴らしいです。システム導入にあたり、SAP のチームの皆さんに伴走していただけたのが本当にありがたかったです。特に SAP 自身のジャーニーを細かく教えていただいたのは大変参考になりました」と語りました。

中島氏は「グローバルスタンダードなシステムであるというところが SAP SuccessFactors のメリットです。各国の HR 側でも活用のアイデアを模索し、それをグローバルでも活かせるところが魅力です」と話します。

両者とも SAP SuccessFactors の活用のために、導入支援プログラムである SAP Preferred Success を利用しています。その活用について萩森氏からは「カスタマーサクセスエキスパートに、図々しくいろいろお願いしてみること」という言葉が飛び出しました。「『こんなことまで頼んでいいのかな』と思うことでも、問い合わせしてみたら快く対応してもらうことができました。やはり、『図々しさ』はキーワードとして皆さんにもお伝えしたいと思います」

中島氏もその言葉に頷きながら、「ふわっとしている漠然とした構想であっても、まずは聞いてみることが大切です。どの機能を使えば実現できるのかがわからない状況でも、SAP の皆さんに相談をしたら、その道筋を明確にしてくれます。それがわかってからは、わからないことがあったらとりあえず聞いてみようという形で活用させていただいています」と答えました。

Q:AI やデータを活用した今後の展望について教えてください。

今後の AI やデータ活用の展望について、小山氏は「社内では ChatGPT を契約してあり、誰もが使える状態になっています。また、従業員がキャリアで悩んでいるときにチャットで相談できるようなシステムを簡単に作れないか検討しています」と回答しました。

中島氏は「ChatGPT のアシックスバージョンを社員に提供しています。簡単な翻訳や会議のアジェンダを作るなど、日常的に使っている社員も増えている状況です。また人事でも、例えば従業員からの問い合わせに対して、AI やチャットボットを使って自動化できないかなどアイデアを出し合っています」と話します。

Q:SAP SuccessFactors の導入やモジュールの利用促進にあたって、国内外のグループ会社や子会社、国内の各事業部門からの反発はありましたか。反発があった場合は、どのようにコミュニケーションをとって納得していただけましたか?

これに対し、小山氏は「弊社ではモジュールを一気に導入したのですが、グローバル展開をしている速度はそれぞれ異なります。MBO のグローバル展開にはかなり抵抗があったため、現地の人事やそのハブになる人を巻き込んで丁寧に説明をして進めていきました。モジュールによって必要性を判断して、緩急をつけ取り組むことが重要だと思います。絶対に必要なものに重点を置くことが 1 つの答えだと考えます」と回答しました。

続いて中島氏は「全てのモジュールを全リージョンで完全に使いこなし、活用しているわけではありません。モジュールごとに強みと弱みが存在します。MBO とコンピテンシーについては、共通のフォームを使用しているため、各社の納得度が高く、従業員もその基準で処遇が決定されるため、使用する必然性があります。これらは最も利用されています。一方で、従業員が自ら情報を入力するシステムについては、今後さらに推進していく必要があると考えています」と答えました。

最後に、SAP のシステムの活用をさらに早め、展開を広げていくためのアドバイスとして、小山氏は「やはりトップのコミットというのは非常に重要だと思っています。人事発信だとしても必ずトップの強い後ろ盾を得てから進めれば、目的からブレることなく進められます」と語りました。

中島氏もそれに同意し、「経営層と一緒に目的をしっかりと把握した状態で進めるということが重要です。また、海外の HR メンバーときちんと対話を重ね、同じ方向を向くということをこまめに行うことで、着実に進めていけると思います」と述べました。

 

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