2023年7月、SAPジャパンは調達購買のイノベーションにスポットを当てたイベント「SAP Spend Connect Forum」を東京で開催しました。本イベントでは、間接材調達購買のプラットフォーム「SAP Ariba」のユーザーであるダイキン工業とSAPジャパンによる事例対談が展開されました。ここでは、その対談のエッセンスをレポートします。対談に臨んだのはダイキン工業 総務部 間接材購買グループ長の川端 秀和氏と、SAPジャパン カスタマーアドバイザリー統括本部 バリューアドバイザリー部本部長の太田 智です。
調達購買の標準プラットフォームとして「SAP Ariba」を活用
ダイキン工業は、空調製品の大手メーカーとして年間3兆円以上を売上げ、海外での売上比率が約80%を超えるグローバルカンパニーです。同社では、2016年に決算業務の早期化を主眼に間接材調達購買業務の再設計に乗り出し、その取り組みを支えるシステムとして2018年に「SAP Ariba」を導入しました。のちの2019年には総務部内に間接材購買グループを設置し、2021年には間接材の購買業務を総務部に集約してビジネスプロセスアウトソーシングも始動させています。2022年には国内関係会社でのSAP Aribaの利用もスタートさせ、現在(2023年7月時点)は、関係会社の調達購買業務をSAP Aribaへと完全に移行させる取り組みを推進しています。
同社の総務部 間接材購買グループ長である川端 秀和氏によれば、ダイキン工業では決算の早期化という目標達成に向けて、まずはSAP Aribaによる間接材調達購買のシステム化を優先して進め、のちに業務の再構築を進めるというアプローチを採用したといいます。
また、間接材調達購買業務の再設計に当たっては、過去の業務プロセスを踏襲せず「ゼロから新たに設計する」という手法を採用し、「標準化」「共通化」「自動化」にこだわりながら業務の再設計を進めてきたと川端氏は明かします。そして今日では業務プロセスのサステナビリティを高めるという目的のもと、間接材調達購買を担う組織の強化と人材の開発にも力を注いでいます。
こうしたダイキン工業の取り組みを踏まえながら、SAPジャパン カスタマーアドバイザリー統括本部の太田 智が、川端氏との対談に臨みました。ここからは、対談の主な内容を一問一答の形式で紹介します。
改革のプランづくりに向けてSAPジャパンとのワークショップを展開
太田:ダイキン工業ではSAP Aribaをご活用いただきながら、間接材調達購買業務の改革に取り組まれています。そのプラン作りのために、SAPジャパンと「ワークショップ」を催すという施策を2022年から2023年にかけて打たれました。その目的はどこにあったのでしょうか。
川端氏(以下、敬称略):SAP Aribaのような業務システムを導入する場合、システム導入を完了させて運用を始めた段階で相応の達成感を抱きがちです。ただし、システムを入れただけでは、目指した改革の30%程度しか達成できてないのが現実です。つまり、業務改革の取り組みのほとんどは、システムを導入してから始まるものであるわけです。したがって、継続的な改革の努力が必要になりますし、改革を推進していくうえでは間接材調達購買を担うチーム(間接材購買グループ)全体の目線(ないしは視座)を上げていかなければなりません。それには何らかの改革のスキームを取り入れる必要があると判断し、SAPジャパンとのワークショップの開催に至りました。(写真:ダイキン工業株式会社 総務部 間接材購買グループ長 川端 秀和氏)
太田:そのワークショップにおいて、SAPジャパンにどのような働きを期待したのでしょうか。
川端:改革のプランを策定するに当たり、社内の人間だけですべての物事を決めようとすると目線が1個所に集中してしまったり、発想が硬直化したりしがちです。一方で、外部のコンサルタントに改革の施策を提案してもらおうとすると、どうしてもコンサルタントへの依頼心が強くなり、彼らの案を待ち受ける受け身の状態になります。そうなると、改革に自発的に取り組もうとする意識が醸成されにくくなります。そこで、外部の識者と協議しながら、改革のプランを練り、実行に移そうと考えました。その協議の相手として、当社の間接材調達購買業務を支えるシステムの提供元であるSAPジャパンが最適であると考えたということです。
経営と現場のニーズを「混ぜ合わせ」て「すり合わせる」
太田:実を言えば、川端さんからワークショップ開催のご依頼を受けた際、当社ではワークショップをどのように展開するべきかを決めかねていました。そこで、ワークショップの進め方として、貴社の経営計画から組織の目標・ゴール、課題、課題解決に向けた活動を特定していくという「トップダウン形式」と、現場の課題を洗い出し、解決策を考えていく「ボトムアップ形式」の2とおりをご提示したように記憶しております。結果として、そのどちらも選択いただけませんでしたね。(写真: SAPジャパン株式会社 カスタマーアドバイザリー統括本部 バリューアドバイザリー部 本部長 太田 智)
川端:そうでしたね。理由は、経営上のニーズと現場のニーズを「混ぜ合わせる」ことと「すり合わる」ことを重視したからです。
太田:それはどういうことでしょうか。
川端:トップダウンであるべきゴール・目標を定めて達成に向けて努力するのも大切ですし、現場の課題、悩みを吸い上げ、その解決を図るのも等しく大切です。事実、その両者を分けて考えるのでは、正しいゴール設定・目標設定はできません。大切なのは、経営として実現したいことと、現場が実現したいことを同じテーブルの上に乗せて「混ぜ合わせ」て「すり合わせ」、共通のゴール・目標を定めていくことなんです。
入念な準備でワークショップを成功に導く
太田:今回のワークショップでは「①ブレインストーミング(ワークショップ)」に始まり、のちに「②改善計画の策定(ワークショップ)」「③タスク実行(データ分析の実施)」「④データ分析の結果発表(ワークショップ)」「⑤改善計画の策定(ワークショップ)」「⑥フォローアップ(計画の実行とフォローアップ)」を行っていくという設計を採用しました。
図1:ダイキン工業とSAPジャパンが催したワークショップの設計イメージ
太田:結果として、今回のワークショップは貴社としても成功したと見ているとお聞きしました。その成功の要因はどこにあったのでしょうか。
川端:成功の要因として挙げられる一つは、各ワークショップにおける協議のゴールをどこに置くかについて、SAPジャパンと話し合い、それをもとにSAPジャパンに入念な準備をしていただいことが挙げられます。また、今回のワークショップを通じて88個のアイデアが出ましたが、SAPジャパンには、その整理も相当の手間をかけて行ってもらいました。そうした「混ぜ合わせ」と「すり合わせ」の支援がワークショップの成功につながったと言えます。
太田:ワークショップを催した実質的な効果、ベネフィットについては、どう評価していますか。
川端:繰り返すようですが、ワークショップを催した目的の1つは、さまざまな視点、アイデアを「混ぜ合わせ」て「すり合わせ」、課題解決のより優れた方法を見い出すことです。その意味で、SAPジャパンとの協議を重ねることで、自分たちの視点ではとらえられなかったモノが見えるようになり、その点で、狙いどおりの成果が得られたと考えています。また、間接材購買グループ全体で目的意識が共有できた点も非常に大きなベネフィットですし、SAPジャパンによる支援を通じて業務改革の目標・ゴールをどのように設定すれば良いかのノウハウ、スキルが獲得できたのも大きいと感じています。
太田:現在は、今回のワークショップで設定した改革の目標・ゴールに向けて作業を進めておられると考えます。その点を含めて今後の展望についてお聞かせください。
川端:ワークショップの開催中は改革に向けた意欲が高まるのですが、ワークショップを終えて通常業務に戻ると意欲が下がり、ワークショップで決めたことがなかなか前に進まなくなることが良くあります。ただし、SAPジャパンとは四半期ごとの定期会合の中で、今回のワークショップのフォローアップもしていただくことになっています。ですので、今回のワークショップで策定したプランが実行されずに終わるようなことはないと期待しています。ただ、今回のワークショップを通じて、さまざまなアイデアやインスピレーションをSAPジャパンからもらえたのですが、それをもとに実際の業務改善・改革を推進していくためのノウハウ、技術スキルが社内的にまだ足りていません。ですので、人員の技術力向上やスキルアップなど、人材の開発がこれからの大きなテーマの1つと言えます。さらに、今後とも、新しい気づきやアイデアを社外から得たいと考えています。ですので、他のSAP Aribaユーザーとの交流、コミュニケーションをこれまで以上に積極的に図っていきたいと願っています。
太田:そうしたお客さまのご要望に対応すべく、SAPジャパンでは現在、「カスタマーサクセス」を実現する施策の1つとして、お客さま同士の交流の場や勉強会をさまざまに展開しています。それはある意味で、川端さんおっしゃられる多様なノウハウやアイデアを「混ぜ合わせる」活動です。その活動には、川端さんにもすでにご協力いただいていますが、そうした活動を通じて、これからもカスタマーサクセスに力を尽くしていく考えです。川端さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。今後もよろしくお願いいたします。
川端:こちらこそ、よろしくお願いします。