SAP Japan プレスルーム

SAP NOW The 夜会 – SAP ジャパンとユーザーの代表が本音で語り合う日本の DX の未来

「現場を変える、会社を変える、未来が変わる。~ Future-Proof Your Business~」をテーマに、9 月 22 日に The Okura Tokyo で開催された SAP ジャパンの年次カンファレンス「 SAP NOW Japan 」。当日のプログラムの最後となる「 SAP NOW The 夜会:SAP とユーザーで変える日本企業の未来」と題したセッションでは、トラスコ中山株式会社 取締役の数見篤氏、伊藤忠商事株式会社 准執行役員の浦上善一郎氏が登壇し、SAP が提供するクラウドサービスを最前線でリードする堀川、高柳と本音をぶつけ合うトークが展開されました。本稿では、SAP ジャパンとユーザー企業の代表が、それぞれの立場で日本における DX  のあるべき姿を語り合ったセッションの模様をお伝えします。


◎ 登壇者
トラスコ中山株式会社
取締役 経営管理本部 本部長 兼 デジタル戦略本部 本部長
名古屋大学 客員准教授
数見 篤 氏

伊藤忠商事株式会社
准執行役員 IT・デジタル戦略部長 浦上 善一郎 氏

SAP ジャパン株式会社
常務執行役員 クラウドサクセスサービス事業本部長 堀川 嘉朗

SAP ジャパン株式会社
クラウドサクセスサービス事業部 エンタープライスカスタマーサクセス本部
エンタープライスカスタマーサクセスパートナー 高柳 徹也

SAP ジャパンとユーザーのエンゲージメントの課題

国内の SAP ユーザーなど約 570 社が加盟するジャパン SAP ユーザーグループ( JSUG )の会長を務める数見氏、同じく JSUG 総合商社部会の部会長を務める浦上氏は、日本の SAP ユーザーの本音を最もよく知る立場にあります。この二人をお迎えしたセッションの冒頭では、まず高柳から JSUG が 2021 年に実施したアンケート調査の結果が紹介されました( JSUG 会員 108 社からの有効回答)。

アンケートに寄せられた回答の中でも、JSUG 会員の SAP ジャパンに対する本音が最も示されているのが「 SAP ジャパンとユーザーのエンゲージメント」という項目です。多くのユーザーから出されたのは「十分なコミュニケーションがなく、必要な情報が不足している」「販売のみに注力し、販売後の支援がない」「顧客を理解し、寄り添う姿勢がない」といった辛辣な意見です。

また「 SAP ジャパンの顧客のビシネスへの貢献」という項目においても、「顧客のビジネス、プロジェクトゴールを理解した上での、顧客視点の提案、支援がない」「 SAP ジャパン内での情報連携や担当者間の引継ぎが不十分」といった厳しい意見が寄せられました。

こうしたユーザーからの評価に対しては、SAP ジャパンからも「 SAP ジャパン内の情報連携の強化」「顧客のライフサイクル全体への支援強化」「顧客のビジネスのさらなる理解」といった解決策の提案がなされています。しかし、このアンケート結果を見るかぎり、SAP ジャパンとユーザーの間には、依然として解決しなければならない多くの課題があることがわかります。

売り切り型のビジネスモデルと変革の理念のギャップ

こうした状況を受けて、まず浦上氏は 20 年以上にわたる SAP 運用の経験を踏まえて次のように話しました。

「伊藤忠商事では、1996 年に北米で SAP を導入したのを皮切りに、日本の総本社においても 2000 年にメインフレームから SAP への切り替えを行い、その後は 2002 年から北米以外の現地法人向けに SAP を導入展開し、現在は 22 カ国 44 拠点で利用しています。この当初から私は、発生主義の考え方に基づいて会計データがリアルタイムに経営情報に反映される SAP の設計思想や、パラメータを使った導入のしやすさは高く評価していました。つまり、製品自体は素晴らしいものだということです。しかし、SAP ジャパンの営業のスタンスとしては顧客の視点で導入を考える姿勢がなく、ライセンスを販売したらそれで終わりの『売り切り型』という印象でした」

同様に数見氏も、SAP のプロジェクトに携わるようになった当初の印象を次のように振り返ります。

「トラスコ中山では、2006 年から SAP を利用しています。私が SAP と会話をするようになったのは、情報システム部に異動した 2017 年からですが、創立から 50 年足らずで売り上げが 3 兆円、しかも停滞期を経験しながらも、変革をくり返しながら現在まで成長を続けてきた SAP の理念、企業風土は素晴らしいと感じていました。しかし、日本の営業の方が話すことといえば、『新しいサービスを導入しませんか?』『バージョンアップしませんか?』といったことばかりで、『一緒に変革に取り組みましょう』と言ってくれる方は誰もいませんでした。このギャップには『何か変だな』と感じたのが正直なところです」

(写真左から)SAP ジャパン 高柳、トラスコ中山 数見氏、伊藤忠商事 浦上氏、SAP ジャパン 堀川

急速なクラウド化がもたらした伴走型モデルへの移行

浦上氏、数見氏の率直な意見に対して、堀川は SAP のその後の変化について次のように説明しました。

「私は 2013 年に SAP ジャパンに入社して以来、一貫してサービス部門の仕事を担当していますが、当時は縦割り型の組織で営業部門が非常に強く、『ライセンスを売った後は、何か問題が起きてもサービス部門で対応してください』といった考え方でした。当時のビジネスモデルは、完全にオンプレミスのソフトウエアの売り切り型だったということです。しかし、SAP もこの 10 年でかなり変わってきています。SAP S/4HANA が登場し、さらに 2010 年ごろからはクラウドでお客様のシステムをお預かりするようになったことで、SAP もお客様がどのように ERP をお使いになるのかを理解しなければならなくなりました。まだ十分ではありませんが、この 10 年の変化によって、私自身、かなりお客様に近づいてきたという自負があります」

JSUG 会長として、日頃から多くのユーザーの意見に耳を傾ける
トラスコ中山の数見氏

堀川の話を受けて、高柳からは数見氏に次のような質問が投げかけられました。

「トラスコ中山では、人を大切にする、チームも大切にする組織文化が根付いています。また、貴社のプロジェクトの進め方、関係者の巻き込み方は、他社にはないものだと聞いています。SAP の売り切り型のビジネスモデルやお客様との寄り添い方については、どのようにお考えでしたか?」

これに対して数見氏は、課題は SAP だけではなくユーザー側にもあるとして、次のように話しました。

「今回の SAP NOW のテーマは『現場を変える、会社を変える、未来が変わる』ですが、SAP を入れたら会社がすぐに変わるということではなく、ユーザー自身も変える意志をしっかりと持たなければいけないという課題があります。その中で SAP ジャパンも売り切り型ではなく、伴走型に変わってもらわないといけません。

SAP には premium engagements というサービスがあって、それを利用すればこれまでも伴走してくれることはあったわけですが、ユーザー企業が求めているのは、お金を払えばやってくれるということではなくて、お互いの役割を越えたフラットな関係性を持ちたいということです。それを SAP ばかりに要求するのではなく、むしろユーザー自身がそうしていく必要があります。今回の SAP NOW で多くのユーザーのお話を聞いていると、そう考えているのはトラスコ中山だけではないことがよくわかります」

JSUG 総合商社部会の部会長を務める伊藤忠商事の浦上氏

DX プロジェクトを成功に導く 3 つのポイント

浦上氏も、自身が経験したプロジェクトを例に挙げて、次のように話します。

「伊藤忠商事は、国内の総合商社として初めてSAP S/4HANA を採用し、2018 年に稼働させています。このプロジェクトは、伊藤忠商事、SAP、導入パートナーがワンチームになったフラットな体制で取り組むことで成果を生み出しました。新しい技術なのでリスクがあることも理解していましたが、SAP の premium engagements にも助けられて、ワンチームの意義を実感することができました。私たちと SAP、導入パートナーとの関係性が変わる潮目となったのが、このプロジェクトです。

伊藤忠商事のビジネスでは、常に消費者の視点で考える『マーケットイン』の発想を大切にしています。売り切り型の時代の SAP にはこうした発想がありませんでしたが、SAP Fiori をリリースして UI の改善に取り組むなど、SAP にもマーケットインの考え方が浸透して、確実に変わってきていると思います」

SAP ソリューションの変遷を熟知する浦上氏からのこうした評価に対して、高柳からは「同じプロジェクトにもう 1 回取り組むとしたら、SAP との付き合い方やプロジェクトの動かし方など、SAP の導入を考えているユーザーの皆様に向けてアドバイスがあればお願いします」というリクエストが出されました。

ここで浦上氏が挙げたのが、次の 3 つのポイントです。

「SAP が提唱する Fit to Standard が広く知られるようになって、日本企業も変わってきたと感じています。これからは DX の時代ですので、すべてのシステムをゼロから作り込んでいくと、それはかえって足かせになります。業務の現場からはいろいろな意見が出ますが、ポイントは現場の要求がビジネスの競争領域なのか、非競争領域なのかです。これまで日本企業は使い勝手を優先して、非競争領域の機能開発に多くの時間とコストを費やしてきました。しかし、これからは非競争領域の機能はすべて SAP の標準機能で置き換えるくらいの割り切りが必要です。

その他のポイントとしては、プロジェクトは IT 部門と業務部門が両輪になって進めること、そして意思決定のプロセスを明確にしておくことも重要です。この 3 つのポイントをしっかり守っていけば、どのような DX プロジェクトでも頓挫することはないはずです」

ユーザーが目指す「北極星」を理解し、DX を支援

数見氏は、ソリューションやプロジェクトの枠を越えて、SAP とユーザーが互いの信頼関係を深めていく上では、さらに重要な点があると指摘します。

「プロジェクトの体制などはもちろん重要ですが、SAP には単にシステムのことだけではなく、ユーザーがどんな会社になりたいと考えているのか、どういう戦略で何を目指しているのかという『北極星』をきちんと理解してもらいたいです。そして、私たちユーザーも SAP の製品だけではなくて、その理念を理解することで、お互いの信頼関係はさらに深まります。これによって、自らの競争領域をどのように強化していくのか、サステナビリティやレジリエンスといったことも含めて、市場環境が激変する未来に備えることができると思います」

この数見氏の意見を受けて、堀川は SAP のクラウドサクセスサービスの最新ロードマップを次のように紹介しました。

「SAP は昨年、グローバルでクラウドサクセスサービスの組織を立ち上げました。この組織のミッションは、お客様のビジネスゴールを見据えて、SAP の製品・サービスから最大限の成果を生み出すために、中長期的なスパンでお客様と伴走していくことです。そのためには、お客様がなりたい姿、『北極星』を理解して歩んでいくことが大前提となります。SAP がこの 10 年で大きく変わった点は、まさにここにあります。

そして、『北極星』を下支えする 5 つの要素として、『組織』『プロセス/ルール』『』『データ』『システム( IT )』があります。この 5 つの要素が五位一体となって、世界中のお客様に Fit To Standard に基づくベストプラクティスを提供します。ただし、ERP はあくまでも手段です。一番重要なことはお客様が目指す『北極星』を理解しながら、DX を支援していくことです。これがクラウドサクセスサービスのメンバーの最大の使命だと思っています」

最後に数見氏は、次のように話してセッションを締めくくりました。

「変えなければいけないという課題認識は全員に共通しています。繰り返しになりますが、SAP を入れればすぐに会社が変わるということはありません。ユーザー側が Fit To Standard の意味をよく理解して、変える意志をしっかり持つ必要があることを再認識しなければなりません。『売り切り型の SAP から伴走型の SAP へ』というスローガンはすごく綺麗ですが、多くのユーザーが懐疑的に感じていることも事実です。ユーザー自身が変える意志を持ちながら、SAP の皆さんにもユーザーの視点で伴走してもらう。どんな小さなことからでも構いませんので、この行動を一緒に積み上げながら真の DX を進めていくその先に、ビジネスの成長と豊かな社会の実現があるのではないでしょうか」

 

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