SAP Japan プレスルーム

第1回 組織人事DXラウンドテーブルfor Railway Industry開催報告(後編)

鉄道業界に関する組織人事ラウンドテーブルが、2023年11月17日にSAPエクスペリエンスセンターにて開催されました。

今回は後半部分の講演&ワークショップのテーマ2と3について振り返ってみたいと思います。

前編はこちら

○第二部 講演&ワークショップ 

2) テーマ2:人材のDX戦略に関する議論

SAPジャパンの人事戦略とDXアドバイザーの南より、人材のDX戦略について講演致しました。

① 日本のDXの現状

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発刊する「DX白書2023」によると、この1年間でDX化に取り組み始めた企業は15%増加しています。ただ、アメリカでは90%以上の企業がその効果は感じているにも関わらず、日本では59%に留まっています。その背景は、日本ではまだ取り組み始めて間もない企業が多く、具体的な成果がデータのデジタル化や生産性向上の観点など部にとどまっており、新サービスの開発やビジネスモデルの変革という本来のDXの大きな目的を果たすところまで行きついていないため、と想定されます。

中でも、鉄道を含む運輸事業は相当遅れており、DXに向けた活動をしている企業は20%にも満たないのが現状です。

➁ 人材のDX化の現状

DX人材について、アメリカでは70%以上の企業で充足していると回答している一方で、日本では10%程度です。そもそも日本の企業の半数が、DX人材像の定義さえ完了していない現状です。

また、DX人材の職種について、日本ではあらゆるタイプが不足しているにも関わらず、DX化を社内人材で進めようとしている企業が多い(外部委託や社外人材の活用を検討している企業は約20%)のに対し、DX化先進国であるアメリカでは、「特定技術の企業や個人との契約」が「社内の人材育成」と共に最も多くの企業で検討されているDX専門性の獲得方法となっています。このように、日本企業ではDX人材が総じて不足しているにもかかわらず、社外リソースの活用の検討が限定的で社内リソース主体のDX化を進めようとしているのですが、一方でDX人材の育成については、日本では会社主体の育成プログラムを整備している企業の割合が低く、会社の支援は限定的で社員の自主性に依存している現状です。

またDX人材のキャリアと言う観点での調査によると、下図のようにジョブ型中心のアメリカでも、90%以上の企業がDX人材のキャリアに関する取り組みを行なっている一方で、日本の1/3 以上の企業が特に何もしていないことがわかります。このままでは、日本の企業では自社で育成したDX人材が社内でキャリアパスを見いだせず、社外へ流出してしまう恐れがあります。

③ DX人材育成に必要な取り組み

これまで挙げたように、日本がアメリカのようなDX先進国に比してDX化が相当遅れている中でこれらの活動を加速させるには、その活動の主体となるDX人材を早期に育成し、人の面で社内をDX化することが肝要です。DX人材を育成して全社的なDXを実現するには、下図の通り「組織」「制度」「運用」の各々で施策を実施することが必要です。まずは、「組織」に関して効率的かつ効果的なDX化を推進できる組織構造と役割分担を定義する必要があります。「DX推進部」のような横串機能がドライバーになることはありますが、最も大事なことは鉄道業界において主管部と言われる既存機能が、それぞれの機能の中で必要なDX化に関する役割と責任を定義し、それを遂行できる組織体制に組み直すことが重要です。その上で「制度」に関して必要なルールを構築し、そして「運用」に関して継続的な活動を推進するための仕掛けを整備する、といった進め方になります。

上記の施策を進めるにあたって、社内の各部所毎にDXレベルや業務遂行のレベルには凸凹があるのが実態です。そのため、まずはその凸凹を標準化した上で最適に配置することが必要です。そこで、下記の通りに「DX人材の育成(個人のDX)」「全社DX人材ポートフォーリオによる計画策定と管理(組織のDX)」「ジョブマッチングをベースとした最適配置の実現(個人と組織の連携)」という3つのフェーズに分けて段階的に推進することが現実的と想定されます。

・梅フェーズ:DX人材の育成(個人のDX)

まずは、企業がDX人材タイプに必要な能力を定義して可視化します。各社員はそれに基づき自分のDX人材タイプと自身の能力のギャップを認識して、システムを活用し自ら習得します。その修得の進捗を可視化して、企業も把握することで人材の探索を特定が可能になります。

「全社DX人材ポートフォリオによる計画策定と管理(組織のDX)」

次に、各部門で求められるDXスキルなどの能力を人材ポートフォリオとして質と量で定義してシステムなどで可視化します。その上で、現状とのギャップを埋めるために採用・教育・異動により供給します。これを実施するには、前述の可視化された個人のDX能力に基づく人材の運用が重要です。

「ジョブマッチングをベースとした最適配置の実現(個人と組織の連携)」

そして、組織のDXに基づく運用を推進する中で、評価やスキルアセスメントの結果がデータとして蓄積されます。以降は、それに基づき各ポジションや職種に求められる要件定義が明確になり、各社員の資質にマッチした提案がシステムにより自動的にすることが可能になります。この結果、社員のキャリア志向をベースにポジションの機会提供が実現出来ますので、社員の動機付けやリテンション向上が期待できます。

 

3) テーマ3:人事業務のDX戦略に関する議論

西日本旅客鉄道株式会社デジタルソリューション本部DX人材開発室長の高本様よりOffice365導入を契機とした従業員体験の再構築についてお話しいただきました。

① JR西日本のデジタル戦略

JR西日本では、グループデジタル戦略のめざす「デジタル技術がグループ、外部をつなぎ新しい価値を生み出すことで、人々がつながり、笑顔が生まれる、安全で豊かな社会」を実現するために、デジタル戦略の軸として「顧客体験の再構築」「鉄道システムの再構築」「従業員体験の再構築」という3つの再構築を進めています。

その中で、「従業員体験の再構築」について働き方改革を進めてきました。

➁ 従業員体験の再構築1.0

まずは従業員体験の再構築1.0として、「戦略」「人・体制」「環境」「変革の見える化」についてお話しします。

<戦略>

端的に述べると、弊社における戦略とは、デジタルによって作業系の時間を縮小し、やりがいや価値の創出に充当する時間を生み出すことでした。その最初の一歩として、グループ全体で知識や経験、人脈を共有するためにツールの統一のためOffice365を導入しました。そして、その効果を最大化するために、下記のような「3つの業務変革テーマ」と「4つの行動指針」を定めました。

これらを実行するにあたり、鍵となる経営層に対して、まずはOffice365導入前に経営層勉強会を実施しました。そこで下記の「5つのチームルール」を提示しました。経営層に、ツールが入る前から、身近なことから仕事の仕方を変えていただき、まずは小さな変化を生み出し、そこから徐々に創意工夫を広げていきました。

これにより、経営層が積極的にスケジュールの公開やチャットによるやり取りなどが一気に進みました。

<人・体制、環境>

戦略を実行するための体制として、各職場に「エバンジェリスト」=伝道者を配置しました。その役割は、office365の導入を契機とした各職場における業務変革の推進であり、そのためのoffice365普及活動、ユーザーサポート、個別の業務プロセス変革です。この活動をサポートするために、支社事務局や本社各部室が業務変革プロジェクトに参画し、また支社長や部長がスポンサーとして陣頭指揮を取りました。

その後は下記のようにプロジェクトは拡大し、環境整備も進んでいます。

<変革の見える化>

この風土改革の成果を数値で確認するために、通常の利用者へのアンケートで集約に加えて、「Office365のログデータ」、物理的な印刷枚数、メールの発信数を集約し、それらをまとめて部室ごとに評価することとしました。この結果をTeams上で全社に公開し、経営層の会議においても報告し、各職場の現在地が否応なく見えるようにしました。

実際にアンケートでは、Office365導入前の2021年から比較しますと、変革した、変わったという実感は倍以上になっています。また、現場社員のコメントには駅長や係長とのチャットでのコミュニケーションによって「繋がった」という感触が多い、といったような反応もありました。

この従業員体験の再構築1.0の振り返りが下記の通りです。

③ 従業員体験の再構築2.0

こういった取り組みを進めて手応えがある一方で、一部からは「デジタル偏重で現場への感度が悪くなった」「鉄道会社はいざという時に備えて出社基本であるべき」というような、デジタルシフトを疑問視する声がありました。そこで、従業員体験の再構築2.0として従業員に正しく弊社のデジタル化を理解してもらうための活動を進めています。

我々の考え方として、行きすぎたデジタルシフトが目指すもではありません。しかしながら、伝統の鉄道業においても、デジタルにより仕事の品質を高めることが可能で、かつこれまでやってこなかった取り組みに挑戦することも可能と考えています。これらをそれぞれ下記の通り「守り抜きたい大切な文化」そして「成長させたい文化」として両面を高めていきたいと考えております。

このありたい姿としては、下記の通り、組織のタテとヨコの関係をデジタルでさらに高め、一方で組織を超えた個人としてデジタルの力を借りて誰かの役に立つ、そうすることで働き者が生き生きと、モチベーション高く仕事に打ち込むことができるようにしたいと考えています。

実際に昨年度の台風において、Teams上で点検・復旧の情報共有がなされ、山陽新幹線の運航に関わる広範な職場が一つになり、チームで難局を乗り切ったという事例がありました。デジタル上で互いにたたえあい、賞賛し、そして喜びを共有することができた好事例だと思います。また、アプリの内製開発のTeamsのコミュニティでは、社員が内製したアプリに対する賞賛のコメントがされています。まさに組織を越えて数多くの仲間に称賛された事例です。

このように、リアルのコミュニケーション力とデジタルコミュニケーション、組織の力と一人ひとりのつながり、チームワークと個性・キャラクター、これらをすべて、どちらかではなく、どちらも高めていく。これがJR西日本の従業員体験再構築です。

 

○まとめ

今回のラウンドテーブルにご参加頂いた方々は、人事だけでない幅広いテーマに関するディスカッションを熱心に取り組んでおられました。そのお姿を見て、労働集約産業である鉄道業界において、人事がいかに重要な経営課題かということを改めて認識しました。

今後もSAPジャパンは、今回のようなラウンドテーブルを通じて構築された鉄道業界のネットワークと、SAP社内に有する幅広い業界での人事に関する知見を活かして、日本の鉄道業界における人事の高度化に貢献していきます。

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