SAP Japan プレスルーム

人事業務でのAI活用、従業員はどう思っている? 前編

Shot of a group of unrecognizable university students standing together outside at campus

※本記事は2022年12月にリリースしたブログを新プラットフォームに再投稿しております。

SAPの人事領域のリサーチチームである” SAP SuccessFactors Growth & Insights Team”が行っている、Future of Workに関連する心理学と市場動向を踏まえて、将来の人事のあるべき姿を描きだす参考にしていただける様々な研究レポートについて、前編と後編に分けてご紹介します。


テクノロジーへの期待と不安

第一回はAI活用を検討している人事の方向けにAIなどに代表されるインテリジェントテクノロジー が従業員エクスペリエンスにどのようなインパクトを与えるのかについての調査結果をご紹介します。

ここで言うインテリジェントテクノロジー とは、学習や問題解決や意思決定などの人間のような活動を、人間の介入なしで実施するテクノロジー(AIやMLを含む)を指します。

インテリジェントテクノロジーの活用は、人事業務領域においても今後の企業成長に欠かせない要素です。その一方、他業務領域での活用との大きな違いは、従業員にとって自分自身がインテリジェントテクノロジーの対象となることで、自身のキャリア、成長、報酬などに直接的な影響を与えうる範囲を含むという点です。そのため、使い方やコミュニケーションを間違えれば、従業員エクスペリエンスや企業イメージに重大なダメージを与える可能性があります。

実際にこれまでに発表された様々な調査研究によると、組織にはインテリジェントテクノロジーを活用することが期待されており、人々はそれを活用したいという思いを持っている一方で、それにより自身に悪影響が及ぶという不安を抱えていることが分かります。(図1.参照)

(図1)

 

今回SAPは、地域および業界をまたいで、41人のHRリーダーへの構造化されたインタビューと、1,378名の様々な企業で働く方へのサーベイを実施しました。

以降のセクションでは、インテリジェントテクノロジーを活用することで、従業員エクスペリエンスを向上するために、企業がどのように必要な環境整備を行うべきかの検討の前提となるSAPの独自調査の結果をご紹介します。

人事領域でのインテリジェントテクノロジーへの期待

企業別のテクノロジー活用の成熟度の分布は、業務のデジタル化がまだ十分でなくインテリジェントテクノロジーの活用に消極的な“Non-Active”な企業が44%、デジタル化が既に進展していてインテリジェントテクノロジーの導入を次の優先事項だと認識している“Reactive”な企業が22%、そしてインテリジェントテクノロジーを積極的に活用し始めている“Proactive”な企業が34%という結果となりました。

こちらの分布では業界別の大きな差異は見られなかったものの、企業規模別では、”Proactive”な企業には規模の大きい企業が多く分布していることが認められました。(図2.参照)

(図2)

 

業務領域別の活用状況および優先度では、下図の示す通り、採用、学習、従業員エクスペリエンス、社内キャリア、分析の順となりました。(図3.参照)

(図3)

 

HRリーダーが、インテリジェントテクノロジー活用により改善を期待している点として、従来は、単純作業をAIに任せたり、データ分析を自動化したいという意見が多い傾向にありました。今回の調査ではそれらに加えて「従業員をより理解すること」「上司との対話を改善すること」「ひとりひとりに合わせた対応を可能にすること」などの従業員エクスペリエンスの向上、そしてスキル管理を通した人財価値の向上への期待が顕著に表れてきたのが特徴的と言えます。

一方で、HRリーダーが、インテリジェントテクノロジーを利用すべきではないと明確に考えている領域も判明しました。

一つ目は、センシティブな情報に関するセルフサービスです。
例えば、忌引きなどの連絡や長期的な病気療養に関する相談・手続きをチャットボットに処理させることがあってはなりません。

二つ目は、パフォーマンス管理(評価面談に限らず業績向上のための1on1やメンタリングを含む)や後継者計画などの複雑性が高く、対話が重要となる業務です。
この領域で客観的なデータを活用することは重要ですが、判断を行うことそして結果への責任はマネージャが負う必要があります。

最後は、従業員モニタリングです。
つまり、カメラなどだけでなく、PCのログを解析して従業員が物理的に何をしているかを監視することです。集約した情報として分析を行うことは問題ありませんが、個人を特定するレベルで活用することは避ける必要があります。

人事領域でのインテリジェントテクノロジー活用に対する従業員の反応

一般的なインテリジェントテクノロジーの活用に対するポジティブさを問う質問に対して、従業員の80%は「ポジティブ」または「とてもポジティブ」と回答し、有効活用することのメリットを認識しています。特に、全社的な効率性の向上のため、従業員がもっと柔軟な働き方ができるような活用を期待しています。

一方で、インテリジェントテクノロジーに対してどのような感情を抱いているかという質問(各感情に対してのYes/No回答)では、下記の図のように、ポジティブな感情だけではなく、「動揺している」26%、「怖い」25%という感情も無視できない規模で見受けられます。(図4.参照)

(図4)

サーベイでは、さらに人事領域に絞った22のユースケースについて、ネットプロモータースコア(NPS)による調査を行い、プロモータ(推奨者)とデトラクタ(非推奨者)の回答者属性を分析しました。

下図のように人事領域でのユースケースを前提とした場合、まだ、プロモータよりもデトラクタが多く、ネガティブなイメージを持っている従業員も多数いるという結果が浮き彫りとなりました。新しいテクノロジーにはこういった不安はつきものなので、従業員の不安を解消しながら、段階的にテクノロジーの活用を進めて行くことが必要です。(図5.参照)

(図5)

 

ここで、プロモータとデトラクタにどのような属性の従業員が多いのか、それぞれのペルソナを見ていきましょう。
プロモータは勤続年数では3-6年の中堅社員、所属ではITやカスタマーサービス、職務形態ではマネージャやデスクワークの従業員という結果となっています。(図6.参照)

トライアルや段階導入を行う際に、こういった属性を参考に初期の対象グループを検討することで、社内での成功事例を作りやすくなることが考えられます。次章では、どのようなユースケースであれば、従業員がより受け入れやすいのかを見ていきます。

(図6)

HRリーダーと従業員の考え:一致点と相違点

では、実際に従業員はどういった人事関連業務にインテリジェントテクノロジーを使われたくないと思っているのでしょうか?
下記はNPS調査の結果とコメントで強い表現が使われていたユースケースを抽出した結果です。(図7.参照)

(図7)

こうした結果をもとに、テクノロジーの活用領域を見極めながら、展開を検討していくことが求められます。ただし、テクノロジーの利用が進むにつれ、従業員の受け止め方も変わってきますので、定期的に自社の従業員が自社のテクノロジー活用をどのようにとらえているのかを把握しながら進めて行くことが肝要です。

HRリーダーと従業員双方がインテリジェントテクノロジーを利用すべきと考えているのは、以下の3点でした。

従業員はこれらの支援を受けることが、自身のパフォーマンスの向上や就業エクスペリエンスの向上に最も寄与すると考えています。

逆に、HRリーダーと従業員双方がインテリジェントテクノロジーを利用すべきではないと考えているは、以下の3点でした。

これらは、HRリーダーがインテリジェントテクノロジーを利用すべきではないと明確に指摘していたもので、サーベイでも従業員から最もネガティブに評価されたユースケースでした。

また、HRリーダーと従業員で意見が合わなかった領域もあります。それは下記の二つです。

人事にとって、採用の自動化やキャリアパス提示はテクノロジー活用の優先度が高い領域ですが、従業員はこれらのユースケースにはあまりポジティブな反応を示していないことが分かりました。実際に、多くの求職者は、採用プロセスにAIによる評価があるとわかっている場合は応募したくないと答えています。

まとめ

SAPのリサーチチームによる調査結果をもとに、人事領域へのインテリジェントテクノロジーの活用を、人事部門そして従業員、それぞれがどのようにとらえているのか?そしてどの領域で活用したいと思っているか?そして、どこにギャップがあるのかを見てまいりました。

後編では、今回の結果を踏まえて、人事領域でインテリジェントテクノロジーを有効に活用し、かつ従業員エクスペリエンスの向上につなげるためのベストプラクティスについてご紹介してまいります。

1.従業員に受け入れられやすくするための3つの方針

2.従業員が求める5つの施策

3.従業員が求める公正さとは?

4.インテリジェントテクノロジー導入成功の3つの先行指標

5.まとめ

をお届けいたします。

最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
後編も是非お読み頂けると幸いです。

モバイルバージョンを終了