SAP Japan プレスルーム

人事部門が企業の “ドライバー” となるために。人事領域 × AI 活用の可能性

Young female tech or scientist loads sample with automatic pipette

現在、日本企業の多くが人事領域において課題に挙げている、従業員の自律的なキャリア育成。その課題解決の糸口として注目されているのが、AI 活用です。

本記事では、2024 年 3 月 13 日に NewsPicks主催で開催されたオンラインセミナー「『人事 × AI』の時代、到来。社員の主体性を高める、AI 活用の最前線」にて豪華なゲストが議論された、AI をはじめとするテクノロジー活用を通して実現する新たな文化の醸成、社員が主体的に成長できる環境づくり、真にビジネスに貢献できる人的資本経営について解説します。


◎ 登壇者

法政大学 キャリアデザイン学部 教授
一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事
株式会社キャリアナレッジ 代表取締役社長
田中 研之輔 氏

アステラス製薬株式会社
代表取締役副社長
人事・コンプライアンス担当
杉田 勝好 氏

SAP ジャパン株式会社
人事・人財ソリューション アドバイザリー本部 本部長
佐々見 直文


企業の拡大・成長に欠かせないのが、優秀な従業員の存在です。しかし日本の労働力人口は減少の一途をたどり、従来のような新卒中心の大量採用がまかり通らなくなるのは目に見えています。そのため多くの日本企業は、今いる従業員のポテンシャルを引き出そうと、さまざまな施策に取り組んでいる状況です。

変化の大きな時代に、企業が取り組むべき「プロティアン・キャリア」の必要性とは

法政大学の教授であり、35 社の企業顧問・取締役として従業員のキャリア開発に取り組む田中氏は、セミナーの冒頭で「DX だけでなく、CX(Career Transformation)にも取り組むべきです」と進言しました。

それに続け、今の企業に求められている従業員のキャリア形成について次のように説明します。

「組織は従業員の求める場を提供する“地面”のようなものですので、キャリアの成否は従業員自身が決める『プロティアン・キャリア』(図1.参照)を形成していくべきだと考えます。そして企業は、従業員が主体的にキャリア・オーナーシップを持てるような働き方を支援する必要があるのです」

(図1)

一方で、キャリア・オーナーシップを持つことは容易ではないと付け加えます。

「従業員自らがやりたい仕事に取り組んだり、自分の働く目的やビジョンを明確にしたりと、いくつかの過程を経る必要があります。そのなかで、自身のキャリアにおける課題やそこから来るキャリア戦略、そしてキャリアの資本となるものを明確にする際などに、AI が活用できるのです」(田中氏)

「人事 × AI」を活用した社員のエンゲージ方法とは? 競合他社と戦うアステラスのいち早いAI 活用と従業員の行動変容

アステラス製薬の杉田氏は、同社のAI 活用の取り組み姿勢をあげ、その背景とあわせて次のように述べます。「アステラス製薬は 2021〜2025 年度の『経営計画 2021』のなかで、組織健全性目標(OHG)を新たに設定し、イノベーションの促進や人材の活躍などにより、意欲的な目標の実現を目指す企業文化の醸成と、実行力を格段に上げていくことにコミットしています」(図2.参照)

(図2)

「この OHG を実現するため、私たちはさまざまな場面で積極的に AI の活用を試みています。その一例が、会議の cost-benefit 分析です。社内会議にかかる時間的・人的コストを『この会議にはいくらコストがかかりました』と AI で表示するようにし、無駄な会議が自然になくなるような仕組みを検討しています。従業員の働きやすい職場環境を増やし、浮いた時間をイノベーション創出に充てられるようにすることが目的です」

OHG が浸透したことで、さまざまな変革を実施した結果、従業員の行動変容が起きたと杉田氏は続けます。

「例えば、『 OASIS(One-Astellas Idea Developers)』は、従業員が自発的に発案した創薬プロジェクトで、人事部門は一切関与していません。DX をビジネスに活用するためのアイデアオーディション『デジタルイノベーションコンテスト』も同様で、こちらはすでに金賞を受賞したアイデアがパイロットテストを実施中です」(図3.参照)

(図3)

さらに、杉田氏は同社が AI を活用することにしたきっかけについて「そもそも私たちがいち早く AI を活用した理由は、世界のメガファーマよりも小規模であり、同じような施策を講じていては競合他社に勝てないと考えたことがきっかけでした。また、人事部門がビジネスに貢献して利益率を上げていくためには、AI が算出したデータを元に施策を進めるなど、AI を活用した業務効率化が不可欠であると考えたことも背景にありました」と言及します。

アステラス製薬の取り組みを聞いて、田中氏は次のように続けました。

「ディフェンシブになりがちな人事部門こそグロースユニットとなり、AI を伴走させて社内改革を担うべきです。さらに、キャリアのブレーキは組織のブレーキになり得るからこそ、人事施策はチャレンジングにアジャイルで取り組むべきでしょう」

従業員のキャリア形成を AI で支援する「 SAP SuccessFactors タレント・インテリジェンス・ハブ」の活用で実現できることとは

2 社の話を受けて、SAP の佐々見は、従業員の自律的なキャリア形成を支援するためのツールとして開発された、AI やオープンデータを駆使したプラットフォーム「SAP SuccessFactors タレント・インテリジェンス・ハブ」について解説しました。
「このプラットフォームは、従業員のスキルや資格などの情報を管理する「属性ライブラリー」や、従業員自身が属性を確認・更新できる「成長ポートフォリオ」、外部のスキルデータベースを参照し、その人が取得すべきスキルなどをサジェストする「スキルオントロジー」という 3 つの要素を兼ね備えています」(図4.参照)

(図4)

さらに、デモンストレーションを行いながら「この AI をフルに活用したプラットフォームを通じて、従業員が、自分の持つ複数のスキルの関係性を発見したり、マッチする公募や研修、メンター、職種などのレコメンドを受けたりすることができます。つまり、自分がどういったキャリア資本を積み上げていけるのかを把握することができるのです」と説明しました。(図5.参照)

(図5)

※デモ動画をご覧になられたい方は、YouTube をご覧ください。

デモンストレーションを受けた杉田氏は「本来、従業員の持つスキルの可視化は非常に難しい部分があります。しかし最終的にキャリア形成の責任は本人にあるからこそ、完璧な AI を待っていたらキャリアを積み上げ損ねてしまう可能性もあります」と発言し、今の段階から AI 活用によってスキルを可視化していく必要性を示唆しました。

そして田中氏も「キャリア自律は、従業員に『自分でやってください』とお願いするのは非常に難しいことです。だからこそ、AI によってパーソナライズし、その上で人事担当者が伴走していく方法をとるのが良いのではないかと思います」と付け加えます。

AI に対する信頼性などの弱点をカバーし、人事部門で AI 活用が浸透するための取り組みとは

人事部門に限らず、「AI が示唆したことを鵜呑みにしても良いのか」といった懸念がよく挙げられます。この問いに対して SAPの佐々見は、同社が過去に実施したアンケート調査をもとに解説しました。

「約 2 年前、世界中の企業に勤める従業員約 1,400 名に対し、人事領域での AI 活用について調査を行いました。全体の 8 割ほどはポジティブな回答だったものの、『評価の部分は AI に判断されたくない』など、AI を活用したい業務と、したくない業務があるということがわかりました」

こういった従業員の感情面への対応に加え、倫理的に AI 活用が正しいのかの判断は、人事業務に限らず企業にとって非常に重要です。SAP は AI 倫理ポリシーを確保するためのグローバルレベルでのガバナンス体制を整えています。AI 活用機能を提供する際は倫理委員会にかけて許可を得る必要があり、判断の基準となるガイドラインは外部の専門家を含むアドバイザリーチームが定期的にアップデートしています。そうすることで、ユーザー企業が世界基準に照らして、安心してご利用いただける AI の機能を提供しているといいます。(図6.参照)

(図6)

また、AI 活用の落とし穴を避け従業員が安全に AI を活用できるよう、不適切な表現やバイアスを排除する「セーフティ スキャン」の仕組みも整えました。この仕組みにより、「管理職が個人情報を間違えて、パブリックな AI 基盤に送付してしまった」などのミスを未然に防いでいるといいます。(図7.参照)

(図7)

セーフティ スキャンの仕組みを見た田中氏は、次のように感想を述べ、これから AI 活用を検討している企業に向けてメッセージを語りました。「 SAP のように、第三者が AI に関するチェックを引き受けてくれると、それぞれの企業が AI を活用しやすくなります。まずは AI を実際に導入してみて、成功事例が出たタイミングが転機になるのではないでしょうか。人事部門こそチェンジリーダーになることが重要です。AI を恐れることなく、良きグロースパートナーとして併走させてみる方法が良いのではないかと考えます」

また杉田氏も「日本企業では人事部門がブレーキになりやすい一面を持っていますが、海外企業ではアクセルとしての役割を担っている側面もあります。人事部門が意識してアクセルを踏み、前向きな施策を行っていくことと、そのためにもビジネス理解を深めていくことが重要だと思います。人事部門は、従業員の成長やビジネスの成功のための“ドライバー”としての役割を担っています。AI は自分が『正しい』と思ったことを証明するための武器であると考え、ぜひ活用してチャレンジしていってほしいです」とコメントしました。

セミナーの総括として、最後に佐々見は「 AI は学習するデータがあってこそのツールであるため、早期に使い始めて必要なデータを蓄積していくことが重要です。海外企業がどんどん活用しているからこそ、日本企業もそのプラクティスを活かして積極的に取り込み、自社の成長につなげていくと良いのではないでしょうか」と、人事部門を起点とした AI 活用への前向きなメッセージを述べ、締めくくりました。

 

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