(本記事は、6月13日本社で掲載されたものです)
24 の欧州サッカー代表チームは、次の欧州選手権に臨む前に徹底的に準備を行います。各チームは、トレーニングや練習試合だけでなく、対戦相手を分析し、戦術やゲームプランについて議論しています。ドイツのコーチングチームは、スポーツマネージメントソリューション SAP Sports One から得られるテクノロジー主導のサポートを活用しています。
欧州選手権に照準を合わせる
ドイツ A 代表アシスタントコーチのベンジャミン・グリュック (Benjamin Glück) 氏は次のように述べています。「SAP Sports One のおかげで、次の対戦相手に関する戦術的な洞察や重要な情報を効率的に選手と共有することができます。また、タブレットからソフトウェアにアクセスできるので、キックオフ直前やハーフタイム中に更衣室にいる選手たちに最新情報を伝えることもできます」
「SAP のスポーツマネージメントスイートは、データを収集・分析し、そのデータから得られたインサイトを選手と共有するための中心的プラットフォームであり、サッカー代表チームにとって非常に重要です。SAP Sports One のビデオ機能やビジュアライゼーション機能は、対戦相手やそのキープレーヤーに関する情報を説明するのに役立っています。これらの機能によって、より簡単かつ明確に戦術を伝えたり、特定の試合の準備に備えたりできるのです」とグリュック氏は説明します。
ドイツチームは、PK シナリオの準備にも、分析から得られるインサイトを活用しています。SAP Penalty Insights では、ゴールキーパーは PK を取る可能性のある選手のプレイを研究することができます。例えば、PK を取る可能性のある選手がゴールのどのエリアを狙うことが多いか、プレッシャーがかかるとどのような変化が起こるのかなどです。逆に、PK 側は、対戦チームのゴールキーパーの戦術を研究することができます。
ドイツサッカー連盟(DFB:Deutscher Fußball-Bund)所属のコーチとアナリストは、SAP Sports One 内で生成されるデータだけでなく、サードパーティソースのデータや分析も活用しています。SAP ソリューションは、あらゆるデータを統合・分析できる中心的プラットフォームとして機能します。
あらゆる選手のための SAP アプリ
ドイツ代表の選手たちは、各自のスマートフォンにインストールした SAP Sports One メッセージングアプリ「SAP Team One」を使って、コーチやアナリストと緊密に連絡を取り合っています。特に、対戦相手の分析、注釈付きクリップ、ビデオなど、試合準備のための情報を伝えるために、このモバイルアプリが使用されています。
選手たちはまた、モバイルアプリを使って自身に関する情報も共有します。例えば、直前のトレーニングや試合がどれほどきつかったか、何時間寝られたか、さらに全体的な体調などを問うアンケートに答えることができます。これらの回答は、RPE(自覚的運動強度)値を生成するために使用されます。このようにして各選手の全般的な健康状態を把握することで、コーチは各選手の状況に応じて運動の強度を管理することができます。DFB や各選手の所属クラブは、オーバートレーニングや怪我を防ぐために、この RPE 値を監視しています。SAP Analytics Cloud では、SAP Sports One のデータを利用して、ドイツ代表チームが参加したトレーニングコース、トーナメント、または各試合の後に各所属クラブに転送される選手ごとのレポートを作成できます。
DFB と SAP 間で確立されたパートナーシップ
DFB は、世界的に有名な組織で、25,000 以上のクラブに約 700 万人の会員を擁する世界最大の国内スポーツ連盟です。ドイツが優勝した 2014 年のブラジル・ワールドカップで、ドイツ代表チームはすでに SAP Match Insights を使用していました。これは、現在 SAP Sports One に含まれているソリューションのプロトタイプになっています。DFB が初めて試合分析のために大量のデータを評価したときに利用したのが、このプロトタイプになります。
現在、選手および「チームを支えるチーム」を含め、1,000 人以上の DFB ユーザーが SAP Sports One を利用しています。SAP Sports One のシニアバイスプレジデント兼開発責任者であるファディ・ナウム (Fadi Naoum) は次のように述べています。「DFB のために開発したプロトタイプを標準製品にすることを SAP が決定した事は、ドイツ代表チームとのコラボレーションが成功したからです。今では 19 カ国のクラブや協会が SAP Sports One を使っています。さらに、SAP Penalty Insights や SAP Challenger Insights の開発といった共同プロジェクトは続いています。これらのソフトウェアは、今後の試合に備えるチームを支えるモバイルアプリです。この共同イノベーションパートナーシップの地平線上には、AI の力を活用して SAP Sports One の機能をさらに効率化する計画があります。
未来を切り開く
ドイツサッカー連盟 (DFB) は、男子/女子サッカードイツ代表 A チームに加え、12 のジュニアチームと U21 チームを運営しています。DFB のスカウティング・試合分析・診断責任者であるクリストファー・クレメンス (Christofer Clemens) 氏は次のように述べています。「私たちの課題は、才能豊かな若い選手たちを注意深く観察し、彼らの潜在能力を最大限に発揮させることです。私たちのコーチングチームは、毎シーズン平均 1,500 試合を観戦し、その過程で多くの才能ある選手を発掘しています。これらの選手を見極めるために、コーチングチームは膨大な量のスカウティングレポートを作成し、私たちはそれを SAP Sports One で管理しています。このような定性的な分析は非常に重要なのですが、今のところ、その情報をもとに選手の成長を判断したり、選手間の比較を行ったりする作業に、非常に時間がかかります。今後、膨大なデータを分析するという複雑な作業を AI がよりシンプルにしてくれることを私たちは期待しています」。現在 DFB は、スカウティングレポートと並行して、一般公開されているデータソースや試合統計も組み込んで選手プロファイルを作成する計画を立てています。
「DFB が AI に大きな可能性を見出しているもう 1 つの分野は、国際試合前の対戦相手の分析です」と、DFB スカウティング・試合分析・診断チームのメンバーで、SAP Sports One ソリューションの管理プロジェクトリーダーを務めるマルティン・フォーゲルバイン (Martin Vogelbein) 氏は説明します。同氏によると、SAP Sports One はすでに、DFB が国際試合の準備にも活用していますが、さらに一歩進んで、対戦相手の過去の試合から得た知見を AI を使って自動的に分析できるようにする計画も進行中です。
「SAP の AI コパイロット Joule が、試合レポートの統合という点で大きなメリットをもたらしてくれることを期待しています。そうなれば、試合アナリストがこなさなければならない手作業を最小限に抑えることができ、さらに、試合準備の際に発生する一連の重要な質問への回答を得るのにかかる時間を短縮することができます」とフォーゲルバイン氏は続けます。例えば、試合のフェーズごとの相手チームのプレイパターンは?相手チームの長所は?短所は?それに対して自分のチームが取り得る選択肢は?このような問いに短時間で答える必要があります。「試合前に使用できる情報(特に定性データ)は、すでに膨大な量が手に入るようになっています。SAP Sports One のコンポーネントである SAP Challenger Insights を使えば、それらの情報から得られるインサイトを可視化し、チームと話し合うことができます。しかし将来的には、AI を活用した分析によって、選手の重要な背景情報をより簡単に準備できるようになると考えています」。
これまでの成果に非常に満足しているクレメンス、フォーゲルバイン両氏は、「我々は、スカウティングや試合分析に関連する情報への AI ベース評価について、SAP とのコラボレーションに大きな可能性を感じています。SAP が DFB に提供してくれているプロトタイプはとても期待できるものであり、本番で使用できることを楽しみにしています」と語っています。
トップ画像提供:トーマス・ベッカー