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民営化された Osaka Metro が SAP S/4HANA で経理基幹システムを刷新し、業務フローの見直しによってアドオンを 80 %削減

abstract motion-blurred view from the front of a train in Tokio, Japan

「最高なビジネスの実現 ~Bring out the best in your business~」をテーマに、7 月 31 日にグランドプリンスホテル新高輪 国際館パーミルで開催された SAP ジャパンの年次カンファレンス「SAP NOW Japan」。「経理基幹システムを 1 年で全面刷新 ~プロジェクト責任者主導で業務フローを見直し、アドオンも 80 %削減~」と題した大阪市高速電気軌道株式会社(以下、Osaka Metro)の事例セッションでは、執行役員(経理、調達担当)を務める多田昌功氏が登壇し、同社が SAP S/4HANA Cloud Private Edition をベースとした新たな経理基幹システムの構築プロジェクトにおいて、標準機能を最大限に活用しながら RFP の段階で想定していたアドオンを 80 %削減した成果などについて講演しました。

 

(登壇者)

大阪市高速電気軌道株式会社(Osaka Metro)

執行役員(経理、調達担当)

多田 昌功 氏

 

民営化後の事業を支える経理基幹システムのあるべき姿

1933 年に開業した大阪市営地下鉄が民営化され、2018 年 4 月から事業をスタートした Osaka Metro。民営化を機に新たな会計システムとして SAP ERP(ECC6.0)を導入した同社ですが、当時は民間企業の会計システムの導入経験者がいない中、ベンダー任せで要件定義を実施した結果、さまざまな課題が指摘されるようになっていました。執行役員(経理、調達担当)の多田昌功氏は次のように振り返ります。

「SAP ERP を導入した当時は、テンプレートを活用すれば問題のないシステムを構築できるという思い込みがありました。そのため、インプットの面では各種マスター体系が整備されていないために入力担当者に負荷がかかり、予算も SAP ERP に登録されていないことからシステムで予実管理ができない。またデータ活用やアウトプットの面でも、科目マスターなどのコード体系の検討が不十分なためシステムから必要なデータを取り出すことができず、レポート機能も不完全でほとんど利用されていませんでした」(多田氏)

こうした状況を受けて、商社の経理部門を経て 2021 年に Osaka Metro に入社した多田氏は、すべての部門を対象に約 1 年の時間をかけてヒアリングを実施し、各部門がどのようにシステムを利用しているか、どこに不満があるかを調査しました。

その結果、現行の SAP ERP が単なる入力装置の用途でしか利用されておらず、WBS コードなどの情報が活用されていない、導入時の要件定義の段階でコード体系が整理されていない、システムに計画額や見通し額が登録されておらず予実管理ができないといった課題が顕在化しました。また、業務に必要な計数は各部署が Excel などで管理しており、こうした非効率かつ属人的な業務も改善課題でした。

そこで、経理部門全体で本来必要なコード体系やデータベース構造について仮説を立て、経理基幹システムのあるべき姿を整理していくことにしました。

「この作業によって Osaka Metro が必要とするシステムのイメージが見えてきたことから、その後は SAP に SAP S/4HANA のデモを依頼し、約 8 カ月かけて 13 回の勉強会を実施しました。勉強会では標準機能で当社の業務をどこまでカバーできるかなどを確認し、その後はコード体系、データベースの構造、出力データのイメージなど、システムの全体像を具体的に記載した RFP を作成しました」(多田氏)

SAP S/4HANA Cloud を採用し、1 年で短期導入

システムの全体像が確定した後、新たな経理基幹システムのベースとなる ERP 製品の検討を開始した Osaka Metro は、最終的に SAP S/4HANA Cloud Private Edition を採用し、導入パートナーとして RFP 作成前の勉強会も実施してくれた SAP に支援を要請しました。新たな経理基幹システムの愛称は社内公募で「Compass(コンパス)」に決定し、モジュールは財務会計(FI)、管理会計(CO)、固定資産(FI-AA)、購買・在庫管理(MM)、工事管理(PS)を採用。これらのモジュールは、インターフェース基盤を介して各種フロントシステム(運輸収入金システム、人事給与システム)と連携させるほか、Excel のアップロードツールも内製で開発することとしました。

 

「新たな経理基幹システムで何を実現するかについては、1. 経営層、管理者、実務者が必要なデータを即時に把握できるシステム、2. コード体系を見直して多面的な分析ができるシステム、3. 業務フローの見直し、システム活用による効率化の実現、4. アドオンを削減して保守・運用費用をスリム化、の 4 つを掲げてプロジェクトをスタートしました」(多田氏)

 

SAP S/4HANA Cloud をベースとする新たな経理基幹システムの導入プロジェクトは、202 3年 4 月にキックオフ。要件定義、設計、開発、テスト、ユーザー教育、移行リハーサルなどを経て、2024 年 3 月末に本番移行を実施し、プロジェクト開始から 1 年後の 2024 年 4 月から本稼働を開始しました。プロジェクトには総勢で 113 名の関係者が参画し、まさに SAP と一体となってプロジェクトに取り組みました。

「短期導入に向けて、設計開発フェーズではプロジェクト責任者を交えた進捗会議を毎週開催し、検討課題に対する方針を即座に打ち出して手戻りをなくしました。不明点は財務会計、工事管理、インターフェースなどの各機能領域のリーダーに説明を求め、進捗会議は結論を共有する場としました。後半のシステムテストとリハーサルは並行して行い、不具合には即座に対応したほか、最終局面では稼働前と稼働後に対応すべきことを切り分けて優先順位を明確にしました」(多田氏)

 

業務フローの見直しでアドオンを 80 %削減

導入の過程では、アドオンの削減に向けて標準機能を活用することを前提に業務フローを見直し、カスタマイズは標準機能の範囲内で対応しました。プロジェクト責任者は業務内容を理解してアドオンの必要性を判断し、アドオン判定会議の前に各機能領域のリーダーに説明を求めました。

「アドオンの要望でよくあるのが、“みんな”使っているという意見です。そこで判定会議では『ほんまに“みんな”使っているの?』と問いかけました。すると使っているのは特定の部門だったり、他の機能で代替できたりするものがほとんどでした。もう 1 つは、今まで必要だったからこれからも必要という誤解です。これについても『それがあると“いいこと”あるの?』と問いかけ、なくても困らないものは廃止しました。結果として、RFP の段階で想定していたアドオンを 80 %削減することができました」(多田氏)

一例として、償却資産税の申告は専用のパッケージソフトで実現し、データ連携は Excel VBA を活用したアップロード方式で内製しました。帳票作成システムを使用して数十種類作成していた各種帳票も SAP S/4HANA の標準機能で対応し、帳票作成システム自体を廃止して工数を削減しています。

 

正しい業務理解、SAP の標準機能、データ活用の重要性

プロジェクトの過程で留意した点として、多田氏は以下の 7 点を挙げました。

  1. ヒアリングはシステム利用者の業務内容を理解するスタンスで対応し、何のための業務か、どのような役割かを理解する
  2. データに関する現在の業務を棚卸しして、不足しているデータ、利用されていないデータを洗い出す。
  3. 業務フローの見直しに合わせて、社内規程も見直す。その際、社内規程に記載されているルールで形骸化しているものは廃止する。
  4. 電子決裁の仕組みも刷新したが、現時点でのメリットを踏まえて SAP S/4HANA との連携は見送り。
  5. SAP S/4HANA の標準機能を理解する中でオプション機能も確認し、使いこなせそうにないものは対象外とする。
  6. アドオン判定では、業務量を基準に機能の必要性を判断。
  7. 各機能領域のリーダー育成に向けて自らが考えて判断するように指導し、将来のシステム構築に備える。

 

1 年という短期間での新たな経理基幹システムの本稼働は、まさにこうした施策があって実現したものですが、プロジェクトの期間中はさまざまな苦労があったといいます。

1 つは、関連部門からのプロジェクトメンバーの選抜です。人選は事前にプロジェクト側からシステムに関心のある若手の候補者を挙げて関連部門と調整しました。経理部門以外のメンバーの時間の確保が難しかったこともあり、メンバーの残業が増加したことは課題でした。

さらに、経営サイドや現場から新システムへの具体的な要望が寄せられなかったり、経理基幹システムは経理部が利用するものという思い込みがあったりと、プロジェクトの重要性を社内に周知する点においても苦労があったといいます。

 

「使ってなんぼ」で成長基盤のあるべき姿を模索

新たな経理基幹システムの本稼働から約 4 カ月が経った 2024 年 7 月末時点での成果を振り返り、多田氏は次のように話します。

「プロジェクトがキックオフした当初は、本当に 1 年で稼働できるかどうか不安でした。オンスケジュールのポイントはデータ移行にあると考えた私は、本番移行を円滑に行うべく移行リハーサルを 2.5 回実施し、移行リハーサルのデータは本番データに限りなく近い形に加工して、手順を確認しながら課題をつぶしていきました。こうしたことがスケジュールの短縮にもつながり、本稼働から約 4 カ月が経った現在も業務は大きなトラブルもなく円滑に行えています」(多田氏)

次のステップとして、Osaka Metro では経営管理の精度向上を新たな課題として掲げています。そのポイントは、経理部が最新データを使って作成したレポートをもとにしていた経営幹部の意思決定を、これからは経営幹部が SAP S/4HANA のデータに直接アクセスして行えるかどうかにあるとしています。そのため、部課長クラスへの研修プログラムの提供や BI ツールとの連携を検討しているといいます。

このほか、アドオンの可否については負荷軽減の効果などを踏まえて判断するほか、子会社へのシステム展開、新規事業で Compass と連携するフロントシステム構築の必要性などの検討を進めていく方針です。

最後に多田氏は「どのようなシステムでも、関西弁でいうところの『使ってなんぼ』、標準語なら『使ってこそ価値がある』が一番肝心です。このことを忘れずに、今後も民営化後の Osaka Metro の成長基盤のあるべき姿を模索していきたいと思います」と語り、講演を締めくくりました。

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